DLTはデリバティブ市場を効率化できるか

デジタル資産をデリバティブの世界で利用しようという試みが活発になってきた。ISDAからもDigital Assets and Derivatives: Where Next?というレポートが出されており、今後のデリバティブ取引への活用における課題や展望について触れられている。

興味深いのは、決済頻度を上げ、ポートフォリオコンプレッションを行うと、カウンターパーティーエクスポージャーとXVAが40-45%減るとされている点である。英文では、以下のように書かれている。faster settlement frequency and portfolio compression can reduce counterparty exposure, and the associated valuation adjustment that is factored into the price of an over-the-counter (OTC) derivatives contract to account for risks and costs beyond the pure market value (ie, x-value adjustment, or XVA) by approximately 40–45%, even when underlying
market risk remains unchanged.

まずはリアルタイム決済が可能になれば、エクスポージャーを抱える時間が少なくなり、常にエクスポージャーをゼロの状態に復元できるというのが根拠なのだろう。従来のインフラでは約10日間滞留していたエクスポージャーを1日程度に削減できるとしている。Disputeの解消、Minimum Transfer Amount、オペレーションやカストディアンなどの確認作業、マージンコールを計算した時点から最終決済確認までのタイムラグ等がなくなるからとされている。

とはいえ、すべてをリアルタイムで決済してしまうと、ある程度まとめてから決済することによるネッティングのメリットが失われてしまう。この変化によって流動性リスクが必ずしも増大しないとされているが、ここのところはもう少し考えてみたい。為替やレポなどの即時取引のニーズがあるものは別として、担保決済などは、Valuation Timingで評価して一日数回担保を動かすので十分な気もしてしまう。

また、実務的には、確かにDisputeや各種猶予期間などは影響があるのだが、これ以外にも潜在的デフォルトの通知を送り、最終的にデフォルト通知を送ってポジションをクローズするまでに時間がかかることが多いので、単にDLTを活用したリアルタイム決済が可能になっただけではすべての問題は解決しない。レポートでも指摘されているように、Disputeの解決を含む運用的なタイムラグをどこまで減らせるかが重要になる。

Disputeの解決に関してはCDMを使った取引の共通認識が重要とのことだが、さらに進めて、誰もが信用できるデリバティブの価値評価が透明性高く行えることが不可欠になる。ここまでが確立されないと、決済短縮化だけ行っても、特にXVAの削減などは不可能である。

おそらくデフォルト時にポジションをクローズアウトするのは、いかにスマートコントラクトで事前に取り決めをしていても、その時の市場環境によっては大きな困難を伴うと思う。

したがって、レポート上では、既存の伝統的な清算ルート(レポ市場やオークション)を活用して現金化できる、国債やMMFをトークン化したものを優先して検討すべきとしており、最初から暗号資産(BTC/ETH等)を担保にすることは推奨していない。

Disputeやクローズアウトについては、CDMなどによって、デフォルトなどのライフサイクル・イベントをあらかじめプログラム化できるように標準化しておくことで、Dispute(紛争)を減らし、執行までのタイムラグを最小限に抑えることを目指している。

今後さらに検討しなければならないことは多いものと思われるが、確かにDLTの応用によって既存のプロセスを効率化することは可能かと思われる。レポートでも主張しているように、技術面だけでなく、契約、法律、規制、運用面で一体となった業務フローの見直しが必要になってくるのだろう。

国債のトークン化はどこが先行するか

7/13に英国政府が進めるホールセール金融市場のトークン化についての1次報告書が公表された。トークン化資産の発行のみならず、取引、担保利用、決済まで、広範囲にわたる内容となっている。デジタル国債であるDIGITを来年第一四半期までに試験発行することも目標としており、かなりのスピード感で物事が進んでいる印象を受ける。単なる国債発行のみならず、DIGITのレポ取引も視野に入っている。

プラットフォームの提供業者にはHSBCが選定されているが、複数のプロジェクトが乱立するのを防ぐため、ロンドン証取のDSD(Digital Securities Depository)との相互接続が可能になっており、最終的にロンドン証取において上場する見込みとなっている。政府が直接ブロックチェーン上で国債を発行するというのは、先進国では最も踏み込んだ形で、国家主導で進められている点が興味深い。

他にも様々な実証実験が行われているが、いずれも概念設計の段階で、参加者の雰囲気としても、何かやっていないと遅れているとみなされるのでとりあえずやってみているというものが多い。しかし、今回のレポートの内容を見る限り、英国のデジタル国債プロジェクトは、単なる実証実験から、本番稼働へとフェーズが移行した感がある。英国中銀と規制当局であるFCAが運営してきたデジタル証券サンドボックス(DSS)の画期的な成果と言えよう。ほかにもスイスでは、中銀のデジタルマネーと連動した公的債券の決済インフラが既に本番稼働しており、実績という意味では最も進んでいると言える。

一方米国では、財務省には慎重姿勢がみられるものの、民間レベルではかなりの動きがみられる。特にBlackRockのBUIDLは、預かり資産が36億ドルを超える規模に成長しており、トークン化国債の市場規模は急速に拡大している。しかし、あくまでも政府がデジタル国債の発行を行わないという点で英国とは若干異なるスタンスを取っている。今月には米財務省と英財務省の共同タスクフォースが、トークン化された金融商品を両国間で動かせるようにするための協調プランを発表している。

日本でも今年中の商用化に向けて、Progmatが立ち上げた日本国債のトークン化プロジェクトが進んでいる。日銀ネットとどこまで同期させるかという点が非常に興味深い。日銀ネットが優れているがゆえに、最終的な記帳は日銀ネットというのが、ある意味ネックになっているような気もする。しかし、他国がここまで急速に動いていることを考えると、日本でもある程度規制や法制度に踏み込んだ改革が行われるのではないだろうか。

年金ファンドのリスク管理

年金基金のサイズは圧倒的に米国が大きいが、近年オーストラリアの年金資産の増加が著しい。人口が世界50位程度にもかかわらず、既に世界4位のサイズを誇り、2030年には2位になるという予測もある。オーストラリアでは雇用主が従業員の給与の一定割合を強制的に年金口座に積み立てるため、強制的に資金が集まってくるという性質がある。

このサイズの急増を受けて規制当局がリスク管理の強化を求めるようになってきている。SPS220という規制がメインだが、取締役会の最終責任(ガバナンス)、リスク許容度の明文化、独立したリスク管理部門の設置などは、国際規格に従ったものとなっている。

投資リスクだけでなく、サイバーセキュリティ、BCP、気候変動、ガバナンスの不祥事といった「非財務リスク」の管理体制が求められているのも金融機関向け規制と同じである。単に資金が足りているかだけでなく、それを管理する社内体制やガバナンスが機能しているかを厳しく問うものが多くなっている。

一方日本の場合は、積立不足に重視するほか、実務のプロセスを細かく規制しており、どのような基準で委託先を選んだか、投資のリスクや時価算出根拠をどう確認したかといった、運用の現場におけるプロセスチェックや財政検証に重きを置いている。

一方海外は、独立したリスク管理専任の最高責任者や部門を置く、取締役の責任などガバナンス重視の傾向がある。これは海外が、金融規制を担う当局が管轄しているのに対し、日本は厚生労働省が所管しているという点に起因しているのかもしれない。

市場変動によるデリバティブ取引のマージンコールの金額を見積もって、流動性不足に備えるとか、ストレステストを行うべきといった、細かなリスク管理は、やはり金融機関向け規制の方が親和性があるのだろう。もちろん、日本では低金利が続き、デリバティブ取引の活用が海外ほど行われてこなかったため、こうしたリスク管理を重視する必要性がなかったという事情もある。

しかし、金利上昇が始まり、海外資産やリスク資産への投資が増加していく中では、為替リスクや金利リスクにも注意が必要になってくるだろう。G20の店頭デリバティブ規制は、年金ファンドもカバーしており、英国LDIショックなどの例もあるため、海外の規制はますます高度化している。日本もそろそろこうしたリスクを気にする必要性が出てくるのではないだろうか。

英国がレポの最低ヘアカット導入へ動き出した

英国中銀が、これまで段階的に英国債レポの改革議論を進めてきていたなか、今週7月2日にヘッジファンドのレバレッジ規制を目的として、最低ヘアカットを導入するかもしれないという報道が出ている。

金融危機以降、金融システムの安定化を目指し、資本要件を大幅に引き上げてきた。英国中銀としては、これによって銀行がこの分野を縮小し、シタデルやミレニアムといった投資家がそのギャップを埋めるために参入してきたと結論づけていた。昨年、英国国債レポ市場における借入の33%をヘッジファンドが占める可能性があると報じられたこともあり、ヘッジファンドなどのNBFIに対するレバレッジ抑制の議論が盛り上がっていた。

昨年9月には、英国中銀が「Giltレポ市場の強靭化に関するディスカッション・ペーパー」を公表し、中央清算の拡大や、非中央清算レポ取引への最低ヘアカット規制の導入案を提起した。

市場慣行として、立場の強い一部のヘッジファンドが0%ヘアカットを求めることも多く、これが高レバレッジを助長しているというのが英国中銀の認識のようだ。確かにヘッジファンドは、複数の銀行と取引可能で、銀行としても、取引頻度の多いこうしたヘッジファンドは上顧客である。ヘアカット引き下げ競争が起きているというのは、誰もが認識するところだろう。ただし、2年10年のようなカーブ取引で一方の取引のヘアカットをゼロとすることも多い。スワップや現物とセットでみるとリスク中立だったり、プライムブローカーが別途担保を抑えているケースもあるため、単純に各取引につけられているヘアカットを見ても全体像はつかめない。

仮に2%や5%の最低ヘアカットが義務付けられれば、レバレッジが実質的に制限されるため、今年4月に公表された業界からのフィードバックでは、資金調達コストの上昇が国債市場の流動性に悪影響を与えるとして、最低ヘアカットの導入に反対する意見が多数を占めた。

このような反対の声は強いものの、今回の報道を見ると、英国中銀としては、やはり何らかのレバレッジ抑制策は不可欠と考えているようだ。ただし、米国のように清算集中を義務付けるような方向ではなく、相対取引のままIMを導入した証拠金規制と同じような方向性を目指しているのかもしれない。

今後は、7月中にヘッジファンドのレバレッジポジション制限に関するさらなる詳細情報を提供する見込みとなっており、その後各当局と連携し、来年早い段階で最終提案を取りまとめるようだ。日本にはこうした規制は入らないだろうが、グローバルバンクの中にはヘッジファンドの日本国債レポについても同様のヘアカットを要求するところが出てくる可能性があり、日本市場への影響も出てくるかもしれない。

来週からSIMMの新バージョン適用開始

SIMM® version 2.8+2512が公表され、来週7月11日から適用となる。2025年12月までのデータが使われているので+2512がついているが、イラン情勢を受けた市場変動がまだ含まれていない。市場環境が目まぐるしく変わることを考えると、半年ごとの更新に変更したのは正解だったが、それでもこうしたラグが発生する。昨年は特に金利についてはそれほど大きな動きもなかったので、金利のリスクウェイト(RW)には変更はない。インフレや通貨ベーシスのRWも51と21で据え置きとなっている。

ただし、ポジション集中によるペナルティがかかる閾値については、以下のような変更があった。いずれもペナルティがかかりにくくなる方向なので、IMが減る方向に働く。

低ボラティリティ(JPY): 230 → 370 (USD mm/bp)
標準(USD, EUR, GBP): 210 → 220 (USD mm/bp)
標準(その他): 100 → 110 (USD mm/bp)
高ボラティリティ: 51 → 71 (USD mm/bp)

リスククラス間の相関は金利とFXで10%が15%に上がるなど若干の変更がある。

今回注目なのは為替に関する変更だ。以下のようにボラティリティが高い通貨が関係するとリスクウェイトが格段に上がる形になっている。ドル円などRegular/Regularでも7.1から7.4へとRWが上がっている。為替関連に関してはIMが増える方向になりそうだ。RUB(ロシア)とVES(ベネズエラ)がHighからRegularに変更されているのが興味深いが、ほとんどリスクがないだろうからあまりインパクトはなさそうだ。新たにISK(アイスランド)がHighに認定されている。一方Vegaリスクについては0.34から0.33と緩和されている。

v2.8+2506v2.8+2512
Regular / Regular7.17.4
High / Regular18.031.7
Regular / High18.031.7
High / High30.631.7

クレジットについては、金融セクターのRWが327から271に減っているのがプラスに働くが、ハイテクが326から423に上がっている。株式は微調整程度の変更にとどまっている。

一方大きく低下したのがコモディティだ。欧州電力などは64から29へと大幅に低下、石炭、天然ガス等も軒並み低下している。

総じて日本の市場参加者にとっては、コモディティ取引を大規模に行っていない限り大きな変動はなさそうだ。特に金利に変更がないのが大きい。為替取引を大きく行っているところは若干の影響が出るかもしれないが、為替のフォワード取引がSIMMの対象外であることから、影響はそれほど大きくないだろう。TARF、RDC、PRDCなどのExoticな取引やFX Optionが多いところを除くと、SIMMの増加は限定的なのではないかと思われる。あとは次回のVersionで金利のRWがどう変化するかに注目したい。

為替の清算取引がQ1に急増

Clarusブログによると、今年Q1にCCPで清算された為替取引は前年同期比45%増と大きく伸びている。特にFX Optionが70%増と伸びが著しい。

清算集中規制やマージン規制がかからないFX Forwardも49%増となっている。FX Forwardは、普通に相対で取引をしていればIM(当初証拠金)を出す必要もなく、CCPで清算しなければならない理由もない。日本では、別に清算する必要もないものをなぜクリアするのかというよく聞かれるが、海外では資本コストに対する意識が急速に高まっている。これは欧米に限った話ではなく、アジアの銀行も資本コスト削減のために、CCPへの移行を始めている。HKDやCNHはHKExで清算されているが、当局サイドも清算取引への誘導を進めているように見える。

海外では、NDFはマージン規制対象なので、既にIMを拠出しているため、クリアリングに移したいというニーズは昔からあった。おそらく日本ではNDFの清算は極めて少ないだろうが、現状グローバルなNDF取引の約3分の1がCCPで清算されている。

急速にクリアリング比率が上がっているFX Optionも日本円のオプションがユーロに次ぐ清算量になっている。日本の参加者がクリアリングしないにもかかわらず、第二位の通貨となっているのが興味深い。クリアリング比率は11%とのことである。

この急速な上昇は今年の1月~3月に起きているが、おそらく中東情勢の緊迫化を受けて、ボラティリティが高まり、リスク回避のためのヘッジ取引を増やしたことが主因だろう。だが、同時にクリアリング取引も大きく増えているのが興味深い。市場変動が激しくなると、ストレス損失が増えるため、相対取引よりは清算取引を重視したグローバルバンクが多そうだ。

長期のトレンドを見ると、海外においては、今後は為替取引についても清算取引が増えていくのだろう。