モデルベンチマーキングが資本計算に変革をもたらす

先週公表されたISDAの資本モデルに関するペーパーが興味深い。これまでは、各銀行が独自に作成したモデルをベースにリスク管理が行われてきた。内部モデルを許容している場合は、この独自モデルの結果によって資本賦課をするため、リスクを低く見積もるモデルを使えば資本コストを下げられるというモラルハザードの問題がつきまとう。こうした独自モデルは信用できないということで、標準法での計算を義務付けたり、アウトプットフロアが設けられてきた。

そもそもモデルが共通であれば、こうしたフロアなどは必要なく、共通の土俵で資本賦課が可能になる。最も簡単な解決法は当初証拠金の計算に使われているISDA SIMMのような標準モデルである。しかし、すべてのリスクとなると共通のモデルを準備するのは難しいため、今回ISDAが提唱しているのは、各社のモデルの出力結果を取りまとめて比較するというモデルのベンチマーキングである。

仮定のポートフォリオに対して各行でEEPEやEPEなどを計算し、それを比較すれば、業界の標準的な計算結果が明らかになり、そこから極端に乖離しているところも明らかとなる。こうした結果を当局が確認することによって、各行の独自モデルが概ね似たような計算をしていることが明らかになれば、ある程度独自モデルに基づいた結果によって資本賦課をするということが正当化される。

今回はUSD、EUR、GBP金利スワップ(1、5、10年)、ドル円為替フォワード(1、5、10年)、インフレーションスワップ(USD、EUR、GBPの1、5、10年)の仮想ポートフォリオに基づいた、大手10行の計算結果をもとに分析している。データフォーマットはCRIFで統一され、モデルとしては誰でもアクセス可能なオープンソースのORE(Open Source Risk Engine)が使われている。

EEPEやEPEは、大手であれば同じような結果になると思ったのだが、思ったより大きなばらつきがみられる。おそらく10行のうち6行はヒストリカルシミュレーションベースのEPE計算を行っており、残りの4行がMarket Impliedの計算を行っているように見える。そして、ヒストリカルデータを使っている銀行の方がEPEが大きく出ている。CVAの計算は通常Market Impliedだと思われるため、6行はCVAとCCR用のPFE計算に異なる計算を行っているということなのだろう。ヒストリカルデータを使っている銀行のうち1行はかなり他社と異なる結果となっているため、データエラーがあったのか、さもなくばモデルの見直しが求められそうだ。あるいは為替取引のブレが大きかったので、PFE計算のベースカレンシーが異なっていたのかもしれない。

このようなベンチマーキングが行われるようになると、業界標準的なモデルの考え方が統一され、各行の計算に統一性が生まれることになる。そうすれば、銀行が恣意的にモデルを操作してリスクを低めに見積もるのではないかという当局の懸念もある程度払しょくされることになる。これにより、内部モデル方式+標準法+アウトプットフロアという既存の枠組みが、ベンチマーク標準的モデルへと一本化することが可能になる。ベンチマーキングは行わないものの、米国が目指すERBAもある意味似たような方向性を模索していると言っても良いかもしれない。

いずれにしても、CRIF、CDMなどによってデータの標準化を推し進め、モデルの標準化が進むのは、金融業界にとっても望ましいことだろう。ただし、グローバルスタンダードへの対応が不可欠になっていくのだろう。

クリアリングの最終形

為替取引を行う際に、ヘッジファンドなどが、大手銀行の与信を利用して、複数の金融機関と有利な条件で取引できるFXPBがある。銀行としては、重要顧客のビジネスを囲い込み、担保資産も全て集中させるというメリットがある一方、想定外の市場変動が起きた時に巨額の損失を発生する可能性がある。なおかつ為替という取引の性質上、リスクに見合った収益性があるかという問題もある。

日本でも個人にFXサービスを提供するオンラインブローカーがPBに取引を集中させることがあるが、これもリスクリワードの観点から誰でも提供できるサービスではない。これを解決するために、一部外資系では、CSAの条件を極限まで厳格化し、ほぼリアルタイムでマージンコールを行い、担保不足に陥ったら強制終了させるというモデルが存在していた。確かに担保をリアルタイムで徴求し、担保不足になったら強制アンワインドすれば、理論上は、カウンターパーティーリスクは極限まで抑えられる。

しかし、ブッキングや担保送金の事務ミスなどのオペレーショナルリスクもあり、このリスク管理を担当する身としては、全くワークしないと思った記憶がある。夜中に起きた為替変動により、強制終了を告げるメールが来て、一瞬で判断を迫られたことがあったが、単なる送金ミスなのか、夜中の2時にわかるはずもない。確かに法律上は強制終了をさせる権利はあるものの、それを行使することによって起きるインパクトは計り知れない。

しかし、現在のテクノロジーをもってすれば、これはすべて解消できる可能性がある。特に米国では、昨年12月にクリアリングブローカーを介さない直接清算モデルに対するパブコメ募集が行われた。同時にビットコインやステーブルコインを担保としてい受け入れることをCFTCが実質的に承認し、その後も着々と検討を進めている。

当局サイドが前向きになっているのであれば、冒頭に紹介したリアルタイムマージンシステムが構築可能である。現在では一定の条件に基づいて行動を起こすスマートコントラクトが実現しており、ポジションの自動清算も容易になっている。そして、デジタル資産の決済が24/7で行える土壌が整備されつつある現在では、為替変動があれば24時間、休日でも担保を決済させることが可能になっている。

そもそもクリアリングブローカーは、顧客のリスクを保証し、清算基金を拠出するという役割があったのだが、顧客の担保が自動拠出が可能になり、担保不足時に強制終了ができるのであればブローカーは不必要となる。そもそも当初証拠金(IM)も、2週間などのクローズアウト期間に損失が拡大するリスクをカバーするものなので、担保の即時拠出が可能になればMPORは0となり、IMは必要なくなる。そして、カウンターパーティーリスクに起因する清算基金も理論的には不要になる。

また、発生しうる最大限のリスクを常にIMとして取っておくというコンセプトは以前から存在していたが、とりあえずこの担保をフルに取っておいて、後はスマートコントラクトによる自動マージンや自動清算を行えば、現代版FXPBのビジネスが完成する。

これを実現させるのが、スマートコントラクトによるリアルタイムマージン、リアルタイム自動清算、24/7の担保決済である。極端な話、24/7決済が可能であればデジタル資産を担保に使う必要もない。

既にKalshiEX、Polymarket US、Nadex、Gemini Titan、ForecastExなどはクリアリングブローカーを介さない自己清算型のモデルの提供を始めている。この点米国はやはり進んでいて、法整備とともに新たな新興企業が金融においても続々参入している。

いずれもトークン化担保と結びついた文脈で語られることが多いが、実はトークン化しなくても即時決済が可能であれば、自己清算モデルは実現可能である。どうしてもデジタルとかトークン化というと注目を集めやすいのだが、実はトークン化資産の担保化を進める以前に、FXPBや自己清算型のクリアリングモデルの構築は可能なのではないだろうかと思っている。

もちろん、こうした自己清算型モデルは、すべての資産に適用するとうよりは、株式や国債などの現物資産、為替などのレバレッジの低い資産により適しており、高レバレッジの商品に関しては既存のブローカーを介する方式の方が望ましいかもしれない。

どうも最近は、AIとかデジタル資産、ステーブルコインなどの新しい用語を使えば資金が付きやすい傾向があり、ビジネスの実態から離れてしまっているような気がしてならない。規制当局、中央銀行、大手銀行もこうした流れに取り残されないよう、様々なInitiativeを立ち上げているが、もう少し既存のビジネスに結び付けた議論が出てくることが、ひいては新しい分野の発展にもつながるように思う。

プライベートクレジットの危機が銀行規制緩和を後押し

プライベートクレジット市場の変調がリーマンショック直前に似ているという指摘が、頻繁に聞かれるようになってきた。確かに、ファンドの解約制限などの事態は、かつての「パリバ・ショック」を想起させる。現在の市場環境は間違いなく火種の一つではあるが、証券化市場に比べればプライベートクレジットの市場規模は5分の1程度であり、当時ほどの過度なレバレッジもかかっていない。そのため、金融システム全体を揺るがすような危機にまで発展する可能性は低いようにも思える。何よりも、今回は銀行部門の健全性が高く、直接的な痛みが少ないという点が決定的だ。

そもそも、プライベートクレジット市場への資金集中は、皮肉にも「規制強化の産物」と言える。リーマンショック以降、銀行に対する規制は継続的に強化され、マーケットメイク(市場流動性供給)機能への制約から流動性の低下を招いた。その結果、融資においても銀行の代替としてノンバンクやシャドーバンキングの占める割合が上昇した。当局もシャドーバンキングへの監視を強めようとしているが、銀行ほどコントロールは効きにくい。そうであれば、銀行規制を適正化し、本来の融資機能を呼び戻すのが最も現実的な解決策となる。

その意味で、直近の米国バーゼルIII最終化案の修正は、この考え方に沿ったものと解釈できる。今回のERBA(拡張リスクベース方式)による企業融資のリスクウェイト(RW)引き下げにより、大手銀行が追加で提供可能となる融資枠は4,410億ドルに達すると試算されている。

具体的には、投資適格(IG)企業向け融資のRWが従来の100%から65%へ引き下げられる。これにより企業融資のRWA(リスクアセット)が3,600億ドル減少し、理論上4,410億ドルの融資余力が生まれる計算だ。このRW変更の対象は、当初案では上場企業に限定されていたが、最終的には「非上場でもIG相当であれば適用可能」と緩和された。ERBA適用行のエクスポージャーの約53%がIG向けとされる中、この引き下げが与えるインパクトは極めて大きい。

また、地方銀行(中堅銀行)に対しても、企業融資のRWが100%から95%へ引き下げられ、約2,260億ドルの追加融資余地が創出される。

さらに、このRW引き下げが非上場企業にも適用されるようになったことで、ファンド向け融資も恩恵を受ける。IGファンドに対して65%のRWが適用可能になれば、従来の「非上場プレミアム(高い資本コスト)」がなくなり、銀行による貸し出しが容易になる。また、ファンドへの出資についても、資産特定が困難な場合に1250%へと跳ね上がるとされていたRWが現行の600%に据え置かれるなど、随所に緩和が見られる。

こうした一連の修正により、銀行はプライベートクレジット市場においてノンバンクに対し強力な競争力を取り戻すことになるだろう。いわば、米国のバーゼルIII緩和は、プライベートクレジット市場の不調を逆手に取る形で「大義名分」を得た格好だ。事実、米国では「規制強化が市民の生活(住宅ローンや中小企業融資)を脅かす」といった趣旨のテレビCMが流れるほどの激しいロビー活動も展開された。

以前議論した「SFT(証券金融取引)とデリバティブ取引のクロスプロダクト・ネッティング」のような市場機能維持に資する緩和と併せれば、米銀の収益向上余力は格段に高まったと言える。今後は自社株買いや配当増額を背景に、米銀の収益性向上と株価上昇が続く可能性は高い。

今後の焦点は、米国のこうした動きに他国がどう呼応するかだ。米国案がこのまま実現すれば、相対的に厳格な規制を残す欧州系銀行が不利になる場面も出てくるだろう。一方、日本は国際規制に対して忠実であり、米国のようなドラスティックなルール変更は期待しにくい。とはいえ、詳細な明文化はせずとも、日々の監督によって「匙加減」を調整する独自の柔軟性があるようにも思える。それはそれで、極めて現実的かつ賢明な対応なのかもしれない。