規制が作り出した新たなマーケット

バランスシートの制約から、通常のレポ以外の方法による取引が増えてきた。GSがTRSを、JPMがSponsored repoを使うことにより、バーゼル上の資本制約をクリアしているという記事がFTで紹介されている。これによって年末の資金逼迫解消にも一役買うのではないかという報道されている。Sponsored repoやG-SIBスコアについては以前もこのブログで紹介したが、確かにこれによってバランスシートの拡大を抑えながら取引を継続することは可能になる。

TRSの方は、おそらくヘッジファンド等から国債を購入し、それをMMF等に資金の出し手に売却するとともに、そのパフォーマンスやファンディングコストをTRSの形でやり取りすることにより、経済的にはレポと全く同じ目的を達成するというものだろう。

Sponsored repoは、ヘッジファンド、MMF双方がFICCに置き換わるため、ネッティングが可能になり、バランスシートの拡大を防げる。

おそらく来年以降はこうした形の取引が主流になり、従来型のレポ取引は縮小していくことになるだろう。

Sponsored repoは確かにCCPが取引相手となるため、リスクも少なくなるが、TRSの方は技術的に形が変わっただけなので、規制上の扱いがこうも違うというのは不思議な気もするが、これも規制が作り出した新たなマーケットということなのだろう。

為替スワップの取引量が拡大している

英国中銀が先週出したレポートで中小銀行やヘッジファンドが為替スワップに依存したドル調達を増やしていると指摘している。どこかで聞いたような話だが、ドル調達をFX Swapで行うのは何も日本に限った話ではないらしい。ロンドンで取引されている為替スワップのうち約2/3が一週間といった短期の取引になっているとのことだ。

先般紹介したBISの指摘と同じで、より多くの市場参加者が為替スワップによるドル調達を増やしている。FTの記事では、Currency Swapと書かれているが、ここで伸びているのはスポット取引とフォワード取引を組み合わせたFX Swapである。Currency Swapというとどうしても普通の通貨スワップを想像してしまう。

商品ごとに見ると、49%が為替スワップ、30%がスポット取引となっており、通貨別ではEURUSDが34%、GBPUSDが16%を占めている。JPYUSDは3年前の14%からシェアを落として12%となっている。

Brexitの混乱の最中に、ロンドンが為替取引のメイン市場としてプレゼンスを上げているのが興味深い。過去3年の間に一日の取引量が5割増しになっている。

為替取引が増えた理由としては、クロスボーダーのレンディングが増えたこと、取引の電子化がその要因として挙げられている。

ここまで短期の為替取引が増えてくると、ドル調達について各当局が不安視し始めるのも無理はない。米国レポ市場における混乱もこの不安に拍車をかけている。とは言え、リーマン破たん時ですら3ヶ月のフォワード為替を取ることに何ら支障はなかったので、(当然b/oは上昇しコストは上がるだろうが)ドル調達ができないほどに短期のフォワード為替市場が崩壊するとは考えにくい。ただし、ストレステストのシナリオにドル調達のリスクを加味する様になると、何等かの資金手当てをするニーズが今後は強くなっていくのかもしれない。

社債価格は暴落するか

米国のハイイールド債価格が急激に下がるとMoody’sが木曜に警告を発している。2019年の価格上昇によって、企業業績がそれほど好転しない中、リスクに応じた価格が適正価格を超えたという主張だ。確かに、ここまで価格が上昇し信用スプレッドがタイトになってくると、一たび信用不安が起きたときには激しい価格の下落が起きる可能性は高い。あらゆる信用リスクモデルからしても、現在の価格は正当化できないほどに上昇している。

ただ、こうしたモデルの問題はそれがいつ起きるかを予想できないということにある。あらゆる金融商品の価格は、ある程度需要と供給によって決まり、例え価格が不当に高かったとしても需要があればその価格が下落することはない。そして社債保有者が不安に駆られると理論価格を超えて価格が下落する。

現在のように金融緩和でじゃぶじゃぶになった資金の行き場がなくなっているときは、どうしてもこういったマーケットに資金が流れ込んでしまう。その意味からすると、今しばらくはこのままの状態が続く可能性も高いものと思われる。

それよりも心配なのは、中国、南米等のドル建て債券ではないだろうか。ハイイールド債の発行額はこの5年で倍増したが、その多くは中国企業によるものだ。今年に至っては半分くらいが中国のものとなっている。アジアのハイイールド債は未だ7%を超える利回りを出しており、資金流入が継続している。来年は欧米のファンドがアジアのハイイールド債への投資を増やすという声もよく聞かれる。

当局や格付機関からの警告にも拘らず、しばらくは社債市場のバブルは継続するような気もする。

規制により金融機関の意思決定が遅くなってきている

FEDが行ったアンケート調査の結果、多くの大手銀行がレポ金利高騰の理由として規制による制約を上げているという報道が出ている。同時に3/5の銀行は、9月の金利上昇は技術的なもので、一時的な要因によるものと回答している。

そして、個人的にはこれが最も重要だと思うが、ほとんどの銀行が、例え金利が高騰したとしても、すぐに行動に移せないと答えている。多くの銀行がこうした金利上昇の機会を捉えるには最低1日必要であり、3/4の銀行は1週間程度必要としている。

規制でバランスシートを減らさなければならないというニーズは確かにあるが、それでも10%にもなればさすがに少しくらい資金供給をしても良いと思っていたのだが、銀行上層部からバランスシートを減らせという号令がかかっているときに、社内の承認を取るのに時間がかかってしまうということなのだろう。

銀行はすべてにおいて社内のプロセスに時間がかかるようになっており、例え収益機会があったとしてもすぐに行動に移せない。ひたすらあらゆる部門の承認を取る必要があり、またそうした承認権限は一部の上昇部に集中しているため、直ちに動けなくなっているものと思われる。

もしかしたら規制の最大の悪l影響は、金融機関の意思決定能力を削いでしまったということなのかもしれない。自動化、電子化の流れの中で、マーケットは急速に変化しており、素早い対応が求められるようになっているものの、金融規制により、チェック項目が増えた上、罰金やレピュテーションリスクを恐れて、身動きが取れなくなっている。ここまでくると、金融機関ではなく機動的に動ける新規参入組の方が今後の金融の高度化を担う中心勢力になっていくのかもしれない。

マイナス金利政策の副作用

スウェーデンの中央銀行がマイナス金利政策の脱却を目指し、政策金利を5年ぶりにマイナスからゼロにまで上げた。マイナス金利が恒常化すると経済活動に影響を及ぼし副作用が出るという趣旨のことを述べている。マイナス金利政策をいかにして終わらすかについて頭を悩ませている他国にとって試金石となるだろう。ほかの国でも何となく副作用を気にする声が高まっているように思う。マイナス金利政策は全体としては失敗という論調が一般的になっていく可能性もある。

ただ、スウェーデンの場合はマイナス金利政策からの脱却は目指すものの資産買入は継続する予定だ。金融緩和は継続して金利引き下げ効果は狙うものの、金利をマイナスにするのは良くないということなのだろうか。

金利をマイナスにして通貨安にすればその国の企業にとってはプラスの効果があるとされてきたが、おそらくその効果がスウェーデンでは現れていないという点が大きいのかもしれない。

確かに日本でも、金融緩和で膨らんだ現金を、低金利から外債やプラス金利の社債等に振り向ける企業は多く、これが円安圧力となっているものと思われる。以前はリスクオフになると、この資金が日本に還流する為急速な円高になるということが起きていたが、最近はこうした動きが緩んできたように思う。ユーロ等円以外のキャリー通貨が現れたことも一因かもしれないが、やはりいくら安全とは言ってもマイナス金利の資産に資金を振り向けるということがなくなっているのかもしれない。日銀決定会合ではひとまず金融政策の現状維持が確認されたが、今後の動向に注目したい。

CCPの参加者デフォルトに対する保険

米国のCCPのICEが参加者デフォルト時の保険導入を決めた。以前からこのような蓋然性の低いリスクに対しては保険が最適と思っていたのだが、これがさらに進めば、金融市場全体の安定に資するものと思われる。この保険は、デフォルトウォーターフォール上、CCPの負担部分である所謂SITG(Skin in the game)と非デフォルト参加者の精算基金の間に位置する。メンバーデフォルト時に直ちに保険会社から支払いが行われるわけではなさそうなので、とりあえずは非デフォルトメンバーが資金を一時的に負担するものの、その後保険で払い戻されるという仕組みのようだ。

$600mmを超えるような清算基金のうち$25mmだけが保険で保証されるということなので、それほど大きな変更ではないが、世界のCCPにデフォルトウォーターフォールの在り方に一石を投じる仕組みだと思う。特に今回の保険の優れたところは、非デフォルトメンバーの精算基金が費消される前に保険が効くという点である。

CCPの参加者たるディーラーは、Contingent Fundingに対して資本を積む必要あるため、いくらあり得ないようなシナリオだったとしても、日々ファンディングコストや資本コストを負担している。この負担が保険によって軽減できるのであれば、クリアリングにポジションをシフトさせるインセンティブが生まれ、よりカウンターパーティーリスクや資本コストを削減できることになる。

保険会社にとっても、蓋然性の低さからして地震保険や台風の保険などよりはよっぽど理にかなったビジネスのように思える。まだまだ世界的に広がるにはハードルは高いと思われるが、ついにCCPの参加者破綻保険が実現したことは喜ばしい限りであり、今後も似たような発展が続くことが望まれる。

Brexit後のデリバティブ市場

かねてからの予想通り、EUがLCHなどのCCPに対するアクセスをBrexit後1年間延長することになりそうだ。3月で免除期限が来るはずだったが、1月31日に離脱となると2021年1月末まではデリバティブ市場に混乱は生じない模様だ。
同時に先週木曜には、EUからは、1月からESMAなどの規制当局により強力権限を与えるとのアナウンスも出ている。EU域内にラストリゾートとしてクリアリング業務を移管する可能性にも触れている。

CCP以外にもCompressionベンダーや周辺業務を行う会社もロンドンに数多く存在しており、以前不透明感は残るが、ひとまず当局はデリバティブ市場におけるクリアリングハウスの重要性には理解を示しているようだ。

しかしここまでCCPがデリバティブ市場の中心的インフラになってくると、CCPに対する規制はこれからも厳しくなるだろうし、どこまで営利企業であり続けられるかという疑問も出てくる。ある程度競争原理を働かせるべきということで複数CCPが存在している訳だが、その理由は利益水準を競うものではなく、リスク管理、安定性等において競い合うようになっている。

顧客獲得競争という意味では、極力手数料を下げ、所要担保額も下げれば、参加者を増やすこともできるかもしれないが、現状そのようなことをすれば当局から目を付けられるだけでなく、大手の参加者から批判の声が上がる。完全な資本主義とは異なる微妙なバランスのインセンティブシステムが出来上がっているように思う。もしかしたら銀行も同じ方向に進んでいるのかもしれない。

米国レポレート急騰に関するBISの分析

9月の米国レポレートの急騰の原因については、法人税支払い、当日の巨額決済、LCR等の規制、オペレーショナルエラー等様々な理由が挙げられているが、今月公表されたBISのQuarterly Reportでは一連の説明を試みている。主に以下のような分析だが、概ねマーケットの実感とも一致する。一部規制のインパクトにも触れているのが興味深い。

  • 米国レポ市場の資金の出し手は米銀大手4行に集中している。
  • これら4大銀の流動性は米国債に偏ってきており、資金提供能力が悪化している。
  • 同時にヘッジファンド等のレバレッジプレーヤーからの資金需要が旺盛になっている。
  • FRBの大規模資産購入によって銀行は準備預金を増やしていたが、2017年10月以降の買入縮小に伴い、現金から米国債に資金を大幅にシフトさせた。4大銀の国債保有は銀行が保有する国債全体の50%を超え、上位25行でカウントすると90%に至った。
  • FEDのバランスシート拡大がマネーマーケットの機能不全を招いた。以前のような短期市場を取引する経験のあるトレーダーがいなくなり、マーケットメーカーが少なくなり、これにLCR等の規制が加わり銀行が資金を融通するよりもためておくインセンティブが生まれた。
  • スポンサードレポによってMMFがHedge Fund等に資金を流すフローが生まれたが、9月からリミットの関係もあるのかMMFが資金提供を渋り始めた。

金持ちの銀行を利する規制緩和を闇雲に批判するのではなく、こうした客観的な分析に基づく規制改革が進むことに期待したい。

欧州のCVA Exemptionは継続されるか

先週4日にEBAからバーゼル3が銀行に与える影響についての分析が公表された。2022年1月の施行により、全般的には23.6%の所要資本増加ということだが、これは既存のCVA Exemptionが継続するという前提の下での結果となっている。この免除がなくなった場合の試算結果が本文の32ページに記載されているが、G-SIBの銀行にとっては、CVA RWAが622%跳ね上がるという試算になっている。全般的に規模の大きな銀行ほど増加が大きく、小規模な銀行の場合は102%増となっている。

銀行全体では免除がなければ578%増となるところが、免除が続けば140%にまで下がるというので、これは非常に大きな違いだ。

したがって、このExemptionを継続すべくロビー活動が続けられている訳だが、今回のEBAの論調では、国際的なCVAの慣行に合わせるためにもExemptionを徐々に外していきたいという意向が読み取れる。これまでは、エンドユーザーに対するスワップのプライスが悪くなるという論点から、慎重に検討が続けられてきたのだが、さすがにEUだけが免除され続けるというのは難しくなってきているように思う。おそらく時間をかけて徐々にExemptionをなくすという方向で話が進んでいくのではないかと思われるが、そうなると欧州銀行のROEに対しては、かなりのインパクトが出てくるのではないだろうか。今後も欧州系のリスク削減がどこまで進むのかが注目される。

参加者破綻時のCCPのSITGの増加が求められた

EUから先週水曜日にCCPの参加者破綻時の損失負担についての新ルールが公表された。まだ正式決定という訳ではなく議会承認等が必要だが、今後のCCPの破たん処理の在り方に一石を投じるものになるだろう。先般のJPモルガンやBlackRockが提案していたペーパーの通り、参加者の清算基金等に手を付ける前に、まずはCCPに負担をさせ、CCPのSkin in the Gameを増やすという方向性だ。

これによってCCPの拠出額は資本の50%にまで倍増する。実際にCCPのルールが変更されるまでにはまだ数年かかるだろうが、今後のCCPの参加者破綻処理の在り方に大きな影響を与える可能性がある。

ユーロがキャリー取引通貨に

ドイツ銀行のアナリストがユーロが円同様のキャリー取引の通貨の仲間入りをしたというレポートを出している。低金利の円で資金を調達し、高金利通貨で運用するというキャリートレードは、主に円が主要通貨であったが、最近はユーロでキャリートレードをする資金の流れが出来てきている。欧州銀行が非居住者向けに出すローンも金融危機以降最高水準に達したとのことだ。

ユーロ圏の過去12ヶ月の国際収支黒字分455bnユーロのうち2/3はこうした資金の流れによるものとのことだ。これがユーロ安、為替のボラティリティ低下の一因になっている。一方で、こうした通貨はリスクオフになった時に急激な資金還流を招き、通貨高になりやすくなる。

通常は徐々に通貨安が進むが何か起きると一気に通貨高になるというのは円でよくみられる事象だが、これがユーロにも発生することになるのだろうか。こうなると円にとっても何らかの影響が出てくるのかもしれない。キャリー通貨が分散すると、以前あったような急激な円高が少なくなるのだろうか。

年末にドルは逼迫するか

STWF(Short term wholesale funding)への依存度を米G-Sibが高めているとの報道があった。

このうち30日以内に満期となる短期のファンディングについて、以下の中でFirst Tierの割合が高まっている。

First Tier :レベル1のHQLA(米国債や流出の可能性の低い預金)
Second Tier:レベル2A HQLA(MBS等)
Third Tier:Level 2B HQLA(社債、地方債等)
Other:その他HQLAではない資産に裏付けされたファンディング

当局から危険とみなされる資産を避け、HQLAが増えてきているものと思われるが、そうは言ってもG-Sib資本チャージに関係するSTWFスコアを改善させるためには、30日以内に満期を迎えるような短期のレポを減らすインセンティブは残る。

FRBが十分な流動性を供給しているので年末に大きな問題が生じるとは考えにくいが、銀行が積極的にバランスシートを提供するかというと、これも難しいだろう。こうした規制が変わるには年末の市場混乱といったEvidenceが必要なのかもしれない。