成長する中国金融市場

中国のSwap Connectについての市中協議が始まっており、パブリックコメントの締め切りは来週3/4となっている。Bond Connectのスワップ版だが、これが始まると中国オンショアのCNY IRSマーケットへのアクセスが海外に解放されることになる。

中国には様々なライセンスがあるが、既にCIBM Direct、Bond Connect、AFIIなどに参加している投資家はSwap Connectも問題なく使えるものと思われる。契約書としては、中国版のマスター契約であるNAFMIが認められるのは間違いないが、ISDAが使えるのかどうかは、正式にアナウンスがない。しかし、さすがにISDAを排除することはないものと思われ、もしNAFMIに限るということになれば、中国の市場開放が一歩後退とみなされるリスクもあろう。

清算集中の話も進んでおり、中国のCCPである上海クリアリングハウスと香港のHong Kong Exchangeも使えると報じられている。おそらく相互接続などでInteroperabilityを達成しているのではないだろうか。HKのCCPが使えるのであれば、既になじみのあるフローなので手間が省ける。

各種統計をみていると、人民元やCNY IRSのシェアが急速に高まっており、グローバル金融市場における中国の存在がますます大きくなりつつある。Swap Connectの使い勝手が良ければ、一つの大きな市場となるのは間違いなく、アジアでビジネスをする以上は無視することはできない。ここ1、2年は特に中国サイドもグローバルスタンダードに合わせるべく様々な改革を行っている。その影響力の大きさを考えると、取引ができる環境だけでも整えて置いた方が良いのだろう。

決済期間短縮がシステム投資を拡大させる

ここ数年で決済期間の短縮がかなり進み、米国では株式と社債の決済期間のT+1化に向けて準備が進められている。日本でも2018年から国債の決済期間がT+1になり、GCレポのT+0化も検討されている。米国でT+1化の話が進み始めたのは、2020年のGameStop株騒動によるものだが、急速な株価変動によって生じた証拠金が払えなくなり、一時的に取引が停止された。これは決済期間である2日間の証拠金をカバーする必要があったためであるが、これが1日に短縮されればリスクが低下し証拠金が少なくなるという理由によるものである。

実は米国の決済期間は、大昔はT+1だったが、取引量の増大に対応するため、一時はT+5まで長期化していた。すべてを手作業で処理していたためオペレーションが追いつかず、決済期間が長期化していたのだが、テクノロジーの進歩によって昨今はこれを究極まで短縮するという試みがなされている。日本ではT+3から徐々に短縮化が図られているが、リスク削減というよりは、グローバルスタンダードに併せようという側面が大きいように思う。テクノロジーの進歩によって自動化と省力化が進む海外と異なり、ITコストより人件費が安いからか、手作業で必死に短縮化を目指しているような印象もある。顧客の要望に合わせたカスタマイズをするため、そもそも自動化が困難な事務プロセスが多いことも障害になっている。

海外の事務フローは、STPガイダンス等もあって、自動化とSTP化が当局主導で進めれており、ここに特殊なカスタマイズされたプロセスを組み込むのは不可能になっている。株式と社債のT+1化に向けて更なるIT投資が増えており、人海戦術で対応しようというところは少ない。メインフレームコンピューターによる一日一回のバッチプロセスを行っているところは少なくなり、1時間ごとのバッチに移行したり、ほぼリアルタイムでのデータ更新が主流になりつつある。車の設計変更を、周期的なものから随時変更にしたテスラのような変革が金融業界にも起きている。

数多くのFintech企業が生まれ、こうしたPost Tradeのプロセスを支援するサービスを拡大させている。移行時期については来年の5月か9月で議論されているが、いずれにしてもあと1年ちょっとでT+1化が実現されることは間違いない。期限まであまり時間がないことから、業界ではかなりの混乱がみられるが、もう後戻りはできないことは理解されているので、世界的に更なるIT投資が加速することになるだろう。

日本でも海外並みにIT予算を増やせるのだろうか。ある程度までは手作業でついていけるかもしれないが、最近の技術進歩を考えると、T+1の次はT+0、リアルタイムへとシフトすることも考えられる。日本でもこうした流れに併せてシステム投資を拡大しないと世界から取り残されてしまう。

Optimization取引の清算集中規制免除

TriOptimaやQuantileのコンプレッションやOptimizationは、完全にBAU(Business as usual)のプロセスとして定着したが、欧州議会は、このOptimizationによって生まれた取引の清算集中規制免除を認めない方向になりそうだと報じられている。英国はこれを免除する方向で、欧州当局のESMAも免除を主張し続けているので、未だに意見が分かれているようだ。

コンプレッションは、当初はCCPで清算された取引間、あるいは相対取引間で行われていたが、昨今ではこの両者を組み合わせて最適化を図る動きが加速してきた。こうした際に清算集中規制免除がないと、完全な最適化が達成できない。

例えば、金利が下がると損失が出るスワップションポートフォリオがあった場合、固定受け金利スワップを加えれば、ポートフォリオ全体の金利リスクが減るため、資本コストや担保コストを削減できる。しかし、金利スワップには清算集中規制がかかるため、金利スワップがCCP、スワップションが相対となり、こうした削減が行えない。スワップションの売りと買いを組み合わせて金利スワップと同等の効果を持つ取引を行って最適化することは可能だが、効率は落ちる。

他にもDaycountやPaymentにイレギュラーな条件が入っていてクリアリングができない金利スワップなども、スワップションを使ってOptimizationをしなければならない。しかし、地銀のように顧客の要望によって行われた特殊なローンヘッジのため、CCPで清算できない金利スワップを行った場合、Optimization効率を高めるためだけに、これまで取引したこともないスワップションを新規で入れるのには抵抗があるだろう。

欧州議会の懸念は、この免除を認めてしまうと、銀行がCCPの取引を相対に移すインセンティブが生まれてしまうということらしい。現場の感覚からすると、こんなことを考える市場関係者は皆無だろう。現状の規制の下では、CCPで清算した方が資本コストが大幅に削減できる。コンプライアンスも10年前とは比べ物にならないくらいに厳しくなっている。規制逃れの疑いがかけられるリスクを冒してまで、わざわざ資本コストが高くなる相対取引に取引を移そうというインセンティブがどこにあるのか全くわからない。もしかしたら、こうした免除が英国のCCPであるLCHの利便性を向上させてしまうから、欧州が嫌がっているのかもしれない。こうした覇権争いは金融にとっては百害あって一利なしである。

今後は、米国でOptimization取引の清算集中免除が認められるかが重要である。コンプレッションでこれを認められている以上、Optimizationにも免除される可能性が高いと思われる。英国が免除に舵を切り、これに米国が続けば全体の流れが変わるだろう。

内部モデルの終焉

過去30年くらいの間、銀行は自らのリスク管理の高度化を目指して内部モデルを改善してきたのだが、残念ながら内部モデルにコストをかけるのを諦める銀行が増えてきた。規制強化によって、内部モデルは銀行が自由にパラメータを変えられる恣意的なものだという懸念が高まったことにより、リスクを一律の簡便法で評価する標準方式へとシフトしている。

バーゼルIIで内部モデル方式が認められてから、日本の金融機関でも内部モデルに対しては相当のリソースを投入してきた。より先進的な手法を活用するためにモデルを担当する人員を増やし、システム開発も進めてきた。単に規制だからという理由を超えて、内部モデルを高度化してリスク管理能力を高めようという動きは、少なくともプラスの影響を銀行経営に与えており、金融リスク管理の高度化に資するものだったと思っている。

米国当局は、信用リスクの資本賦課の計算に内部モデルの利用を認めない方向に動くだろうと言われている。自らのリスク管理の高度化のため、内部モデルを維持するところもあるだろうが、当局が推奨しないモデルを使い続けて良いのかという意見も当然出てくる。何よりも、内部モデルの維持のためにかかるコストが大きいので、本当の理由はコスト削減ということなのだろう。

内部モデルのパラメータを集めるために蓄積してきたデータに連続性がなくなってしまうのも大きな損失だ。PD、LGD、EADといったデータは、信用損失を推計するためには極めて重要なデータだった。大昔ではあるが、クレジットリスクモデルを担当してキャリアを築いた身としては極めて残念なことである。

現場でも、取引可否をめぐっては、標準法で計算される資本コストをベースに議論が進んでいる。リスクを表す指標としてではなく、単にかかる資本を示すものという理解になってしまっている。人員も減らされ、システム投資にかけられる費用も毎年減ってきている。

ストレステストやCCARなどもあるので、これまで蓄積した知識がすべて失われるものではないが、クレジットリスク管理の進化が止まってしまわないようにしなければならない。以前であれば、高度なリスク管理能力を持つことによって、業界の地位を高めることもできたが、リスク管理モデルが、単に当局に言われたことを最低限満たすものに成り下がってしまうと、当然コストをかけてリスク管理を高度化しようというインセンティブが失われてしまう。

金融危機を経験して、当局サイドが銀行の内部モデルに対する不信感を持ってしまったことは致し方ないが、信用できないから一律に簡便法で縛ってしまうことが、本当に金融の健全性向上に資するのかを考えなければならない。高度なリスク管理能力を持たない中小銀行が、標準法によって先進行と同じ土俵で勝負できるようになったというコメントも聞かれたが、これはLevel Playing Fieldと言えるのだろうか。高度なリスク管理能力を持っているからこそ、取引量を拡大できるのであって、リスク管理能力を持たない銀行が、標準法へのシフトによって、高度なリスク管理を行う先進行から取引シェアを奪えるようになったというのは、本当に規制が目指す方向なのだろうか。

金融におけるテクノロジー変化

MicrosoftがBingのプレゼンテーションを行ったが、久しぶりに時代の変化を感じさせるものだった。これならデフォルトブラウザーを変えようかと思ったくらいだ。

ここまでのことができるのであれば、金融にももっと変革が起きて良いだろう。最近ではAMM(Automated market-making)が話題になっているが、マーケットメークを人手を介さずに自動に行うということは、MicrosoftのYutubeをみると極めて自然のことのように思えてしまう。これができると、証券会社やブローカーなどの仲介は必要なくなり、機械が自動的に売り手と買い手を結び付ける。そしてブロックチェーン上でDVP決済が行われるので、オペレーションの手間もかからない。決済からクリアリング、取引報告までが一気通貫で可能になる。

特に為替取引においてこの技術が最も利用しやすいと思われるが、そうすると為替の取引コストはほぼゼロに近づいていくだろう。現在日本の銀行でドルを円に換えると約1%程度取られてしまうこともあるが、これがゼロになれば、個人の利便性と銀行の収益性に影響が出るだろう。海外旅行などのために空港で両替をするというのも過去の産物になるかもしれない。

政府サイドでもデジタル通貨を研究する国が多くなっており、米国もシンガポールと共同調査を行っている。日本の話があまり出てこないのが淋しい限りである。そもそもWeb上の情報をもとに情報処理を行うということは、英語が標準言語になっているということである。日本語が母国語のネットユーザーは全体の3%を下回り、Web上の情報量としても3.6%しか占めていない。シンガポールやアジア各国では英語を問題なく使いこなす若手が多いため、ますますこの分野における日本との差が広がっている。

アルゴ取引やカスタマーサポートなど、海外では急速な変化が起きており、日本の金融が少し心配になってきた。銀行のIT予算も海外では急速に膨らんでおり、人を減らしてITにリソースを振り向けている。日本でも一部スタートアップで先進的な試みをするところが増えてきているので、何とか世界の流れに遅れないようにしたいものである。

レポマーケットの重要性

FRBが米国におけるレポビジネスに関連してBNP ParibasにのResolution Planを却下したことが報じられていたが、OFRのデータをみると米国債レポ市場におけるフランス系のシェアが落ちているように見える。FDICのウェブサイト上では、The shortcoming is related to the continuity in resolution of the bank’s securities repurchase agreement activity for their US operations.とぃう書かれている。米国におけるレポ取引に関する破綻・再建計画の継続性に疑義が示されている。米国のレポをフランスからBookしているのが問題視されているのだろうか。

米国のレバレッジ比率規制であるSLRが施行されてからは、米銀がレポを出しにくくなり、その分をフランス系、カナダ系、日系銀行が補ってきた。米銀は期末時点だけでなく、平均的に残高を減らしていないとSLRが低下してしまうが、欧州では期末時点を使えば良いこともあり、レバレッジ比率を低下させることなく、期末以外にポジションを積み上げることが可能だった。これをバーゼルが”粉飾”と表現したことで風向きが変わってきたが、今回はそれ以外にも何か動きがあったのかもしれない。

当然レポでレバレッジをかけすぎるのは良くないが、債券を担保に短期調達をすること自体に問題がある訳ではない。国債の流動性向上にも資する。一方、日本国債の利回り拡大に賭けるヘッジファンドが、国債先物をショートする以外に国債を空売りするケースもある。レポで国債を借りてきて、金利が上がれば収益が上がる取引だ。カレント銘柄に関しては日銀の保有比率が100%を超えてしまったが、日銀が貸したJGBがこうしたファンドに流れ、最終的に回りまわって日銀に戻ってくることもある。そうすると日銀の保有比率が100%を超える。

海外では、国債や社債を保有しているファンドがそれらの債券をレポに出して収益上乗せを図ることも多いが、日本ではあまりこのような動きは見られない。ニーズがないので国債以外のレポはほぼ皆無で、社債レポ市場は全く育っていない。仕組み的にはカストディアンや信託銀行を使えば、今でも不可能ではないと思うのだが、いかんせんレポをやりたいという投資家が少ない。

社債ファンドが増えてくれば、海外のようにレポのニーズが出てくるかもしれないが、やはり金利が上がらないからか、日本では株式ファンドばかりである。米国では金利上昇に伴い株式から債券へのシフトもいくらかみられるようになってきたが、日本でこうした債権投資が活発に行われたのは、バブル期のリッコー、リッチョ―、ワリコーなどが最後ではないだろうか。

今回金利が若干動くようになって、日本が世界から注目を集め始めた。日本でトレーダーを雇いたい、日本で拠点を設けたいという話も少しずつではあるが、話題になりつつある。やはり市場が盛り上がってくれば、それなりに経済規模が大きい日本に対する関心というのはあるはずだ。金利を低位安定させたいというニーズは理解できるが、やはり、マーケットが動かないと海外からの関心が盛り上がらず、流動性も向上しないのだろう。

FX Smart Clearingサービス元年

昨年1月のSA-CCR導入は、FXマーケットにかなりの影響を与えた。特に米銀の一部がプライシングを大きく変えたことにより、ヘッジコストが変動した。ここから為替取引に対する資本コストを気にする動きが拡大し、クリアリングを検討する動きも出てきた。このような中、LCHのFX Smart Clearingが注目を集めている。

これは、第三者のコンプレッションベンダーがデータを集め、LCHでクリアすべき為替フォワード、為替スワップを選び出し、マージンコストを増加させることなく資本コストを削減しようというものである。昨年7月にもテストランが行われたが、今回は平均50%の資本コスト削減が可能という結果だった。想定元本$460mmの削減、資本コストも$230mmの削減となっている。2023年はこうした最適化の元年ということになるだろう。

当然為替フォワードと為替スワップはIM規制の対象ではないため、当初証拠金を削減するというのは不可能なのだが、証拠金コストと資本コストのバランスを最適化することは可能である。

また、STMが利用できるというのも大きなメリットである。STMは、Settle to Marketの略で、担保授受を取引の決済のように扱い、30年スワップを日々決済する1日スワップと解釈することを可能にする(厳密には1日までは短縮できず1年のようなフロアが設けられる)。一部の為替取引をクリアすることにより、カウンターパーティーリスクを減らすことも可能になる。NDFと組み合わせて当初証拠金を減らすことすら可能かもしれない。LCHにおけるDeliverable取引とNon Deliverable取引のネッティングは2月から可能になる予定である。

CCPにおける取引と相対取引、FX Spot、Foward、Option、NDFなどの複数商品、SwapAgentとの接続など、ポートフォリオ最適化は単なる想定元本削減から、次の段階に入り始めた。当初日本の参加者は多くないのだろうが、こうしたリソース削減にも注意を払っていった方が良いだろう。

市場価格の統制は可能か

欧州ガスデリバティブにおいて、CCPで取引されないOTC取引のシェアが、1年前の15%から1月第二週に25%へ上がったと報じられている。価格上限が設けられたことが影響しているという報道が多いが、増え続けるCCPの証拠金を敬遠する動きもあるのだろう。実際に上限が入るのは2/15からなのだが、どの程度のシフトが起きるかに注目が集まる。

ICEでは、EUの規制の及ばない英国において2/20からTTF先物の取引を始めることをアナウンスしているが、上限のあるEUの先物と、上限のない英国の先物が分かれることになる。EUも負けじとOTF(欧州版のSEFのようなもの)で上限のない先物の取引をはじめるので、マーケットが混とんとしてきた。そもそもここまで流動性が下がっている中、市場を分断させるのは通常望ましくないのだが、今後どの程度の流動性ショックが起きるかに注目が集まる。

トレーダーとしてはOTCで上限無しの取引をした場合、それを上限有りの商品でヘッジするのはあり得ない。当然社内のリスク管理上もそんなTailリスクは取りたくないだろう。そうすると当然上限有りマーケットと上限なしマーケットの二つが分断される。上限がある方が価格変動が抑えられるので、当初証拠金が少なくなる可能性もある。そうするとファンディングコストや資本コストが異なるので、プライシングにも差が出てくる。CCPの参加者にデフォルトが発生した場合、上限有りのポジションを取っても良いという参加者が少なくなり、オークションの成功可能性が低くなることも考えられる。

当局サイドも3/1まで市場の動向を注視し、評価を下すことになっているが、市場の動きが上限撤廃を促すような形になるかもしれない。日銀のYCCのように50bpで上限をつけていたら海外投資家がそれにチャレンジをし始めたというのと構図は同じであるが、JGBとは流動性が格段に異なる。ただし、国債のカレントと先物やスワップ金利が乖離したのと同じことが起きてもおかしくない。上限撤廃を目論んで投機筋が動き出さないとも限らない。こうなるとリスク管理者としてはなかなかこのリスクを持ちたくなくなるため、流動性が枯渇していく。最終的には、上限撤廃を余儀なくされるのではないだろうか。

AIが金融を変える

ESMAからEUの証券市場のおけるAIの活用についてのレポートが出ている。取引執行やポストトレード処理の最適化に人工知能が使われることが多くなり、大量執行時のマーケットインパクトやフェイルが減少しているとのことだ。AIがどのような局面で使われるかを詳述しているので、日本でも参考になるだろう。

やはりメインは取引執行時のマーケットインパクトの低減だが、これは取引コストの減少につながるので、マージンの低下に悩む金融機関やブローカーにとっては非常に重要である。投資家目線では、取引前に価格がどのように動くかというシグナルを分析し、投資機会を特定する局面でも使えると書かれている。

こうなると信頼性の高いデータをどこまで蓄積するかが重要になる。金融機関や取引所には膨大なデータが眠っているはずなのだが、使い勝手の良い形でそれが蓄積されているとはいいがたい。こうしたデータ分析に関しては小売り業界、IT業界の方が進んでおり、最近では金融機関とテクノロジー企業の連携も目立つ。SDRなどはかなり幅広く分析されているが、リアルタイムレポーティングなどは米系のデータが中心になるため、若干偏ったサンプルになる。特に日本のデータが最も得られにくい。当初はETPのデータなども参照していたが、ETP業者ごとに分かれているのと、該当取引があまりにも少ないため、これを利用しているところは少ないと思われる。

ChatGPTのような対話型のAIは実は金融機関内ではかなり前から存在しており、「次の日銀会合はいつですか」とか、「Amazonの直近の決算は?」などと聞けば、AIが自動で返信してくれるツールは5年くらい前から存在していた。これが今ではかなり高度化して、かなりの質問に答えてくれるようになってきた。ChatGPTが米国の有名大の期末試験で使われまくっていることが問題になっているが、学校側では、提出物がAIで書かれたかどうかを判別するAIを使っていたりする。ここまでくれば、ほとんどの顧客対応はAIで可能になってくる。

米国の銀行に電話したら、声のトーンから個人認証ができてしまうのにも驚いた。当初適当な内容を1分くらいしゃべって登録しただけなのだが、完ぺきな精度で本人確認ができるらしい。この技術が既に完成されているのであればオレオレ詐欺なども防げるのかもしれない。

他にも過去の販売実績を参考に、営業職員のPCに自動的に「そろそろこの商品をこの顧客に勧めてはいかがでしょう」なんてメッセージが出る。そのうち自動的にAIが電話やメールを送るようになるだろう。こうしたことを既に行っている銀行もおそらくあるだろう。

そんな中、米ドルを日本の銀行間で国内送金しようとしたら、ネットではできず郵送のみの対応と言われてびっくりした。日本の金融処理も在宅勤務が増えて改善してきたが、更なる進歩が期待される。

「カウンターパーティーリスクマネジメント」全面改訂

日本にCVAを初めて紹介した「カウンターパーティーリスクマネジメント」の第三版が出版された。第二版から9年が経過しているため全面改訂となっており、最新の動向も随所に含まれている。実務家の書く書籍はそう多くないので、金融の最前線の雰囲気を伺い知ることのできる貴重な本である。