トークン化は金融を変えるか

DTCCがトークン化された米国債を使った日中レポを計画していたが、そろそろ予定していた10月が近づいてきた。既に実証実験は成功しているので、当局の承認さえ取れれば実現可能だろう。

資産サイドは、DTCCの子会社であるDTCに保管されている米国債を別勘定でロックし、そのデジタルツインをブロックチェーンのCanton Network上でミント(新しくトークンを生成)する方式だ。現金の方は、JPMコインのようなCanton上で使えるデジタル預金を使うことによって、すべてブロックチェーン上でAtomic決済(ブロックチェーン上で証券と現金の決済を一体化)するという方式だ。

他にもステーブルコインやCBDC(中央銀行デジタル通貨)を使う方法もあるが、おそらく現時点ではトークン化預金が最も簡単だろう。日本でも、Canton、国産ステーブルコインやトークン化預金を組み合わせた日中JGBレポの議論が進んでいるので、米国の先行事例は興味深い。

しかし、こうした技術自体は既にかなりのところまで進んでおり、テクノロジーだけを見れば今すぐにでも実現はできそうだが、実際に取引を行うとなると様々な問題が生じる。個人的には、米国外でステーブルコインを使うという方法はあまり現実的ではなく、法域をまたがると解決しなければならない問題が多数発生するため、CBDCも現実的でないように思えてしまう。

米国では、来年6/30から米国債レポの清算集中義務化が始まる(現物は本年末)が、今のところトークン化国債を使ったレポは義務化の対象という発表は聞かれない。米国では議論が進んでいるのだろうが、そもそもトークン化レポを規制資本上どのように扱うか、当局報告をどのように行うかといった点が明確に広く公表されていない。

例えば、9/30の朝取引して夕方には満期を迎えるようなイントラデイのレポは、その日の取引報告に記録されなくても良いのではないかという意見が多く聞かれる。そうするとレバレッジ比率や四半期決済等には反映されない。逆に報告すべきということになれば、9/30に既存ポジションと反対のヘッジポジションを日中でブックすれば、リスクを消すこともできてしまうかもしれない。

もともと、各種資本規制や報告規制はこうした取引を前提として作られていないため、一から検討をし直す必要がある。技術の進歩は早いがこうした議論は専門家が話し合って決めなければならないので、意見集約までには時間がかかる。

リスク管理についても日中レポに対するヘアカットについても検討しなければならない。これまでは、決済やポジションのクローズまでにかかる期間等を考慮して最大損失をカバーするようにヘアカットを決めるケースが多かったが、瞬時に決済できるのであればヘアカットは小さくても良いかもしれない。しかし、それを規制資本計算上もリスクを少なく見積もれるかどうかはまた別の問題である。銀行内部のリスク管理部門もおそらく保守的な立場をとってくるだろう。

トークン化が進めば、レポ取引のみならず、日中の短時間の為替取引、ひいてはスワップやオプションなども瞬時に決済可能となり、リスク管理の在り方を根本から見直す必要がある。決済リスクが減るからリスクは減るだろうと楽観視するのも危険であり、決算日のみに短期のヘッジ取引を入れて「粉飾」に近いことをすることだって可能かもしれない。そうした行動を抑制するために、どのような取引報告が必要か、資本規制が必要か、LCRやNSFRに見直しが必要かといった様々な検討課題が浮き上がってくる。

今や毎週のようにデジタル関連では新たな提携、実証実験、テスト取引の報道が聞かれるが、恩恵を受けているのはこうした実証実験を請け負っているベンダーのみで、メインの参加者はほとんど何も収益を得ていない状況だと思う。ただし、何もしないと株主や経営陣から攻められるため、何かしなければならないという、どちらかというとDefensiveな行動を助長しているような気がしてならない。

個人向け取引とは異なり、既存金融の世界を変えるには、おそらく技術以外のところの障壁がかなり高い。この分野に極端に資金を投入し続けると、どこかでそれが疑問視される時がくるような気がしてならない。

規制緩和によってクライアントクリアリングビジネスが復活?

CCPでの清算が義務付けられたものの、ディーラーが顧客向けにクリアリングを提供すると資本コストが嵩(かさ)むようになったため、多くのディーラーがクライアントクリアリングから撤退した。主にリーマンショック後の規制強化を受けて、2014〜2015年頃にRBS、State Street、BNY Mellonが、そして2017年にはドイツ銀行が米国のクライアントクリアリングから撤退した。

主にレバレッジ比率規制上、顧客からIM(当初証拠金)を受け取っていたとしても、それをリスク(エクスポージャー)から控除できなかったため、業界からはかなり大きな批判が上がっていた。

しかし、このブログでも紹介したように、バーゼルIIIの枠組みの見直しにより規制緩和が行われ、クライアントクリアリングで顧客から預かった「分別管理された当初証拠金」を、エクスポージャーから差し引くことができるようになった。これを受けて、ドイツ銀行が米国のクライアントクリアリングビジネスを9年ぶりに再開したこともあり、取引量が第二四半期に8倍に増加したと報じられている。ドイツ銀行の場合は、規制緩和というよりは顧客ニーズに応えたもののようだが、今後もクライアントクリアリングに戻ってくるディーラーが現れてくるかもしれない。

特に最近は、クリアリングブローカーからの枠(キャパシティ)が厳しくなったという声がよく報道されるようになってきた。若干の緩和が行われつつあるとはいえ、クライアントクリアリングには依然として大きなコストがかかっている。アルケゴス破綻などを受けてストレステストを厳格化する銀行も多くなり、クライアントクリアリングの顧客に対するキャパシティはかなり減っているようだ。

こうした状況下で、顧客が一度は撤退した銀行に対して、クライアントクリアリングの再開を求めているという事情もあるようだ。

確かに取引量が毎年増えていく中、ディーラーに対する資本規制が厳格化されてきたため、このままではエンドユーザーがいざというときに取引できないという状況が発生しないとは限らない。長らく指摘されてきたことだが、規制強化が逆に流動性枯渇を招き、それが市場変動を増幅させているような気がしてならない。リスク管理は重要だが、市場全体を考えると市場流動性を高める努力も必要である。その意味では、今回の再参入の動きは良い方向に向かっていると言えるのかもしれない。