中国はデリバティブ大国になるか?

先日紹介した中国のクローズアウトネッティングに関する法律施行について、ISDAも動き出すようだ。近々ネッティングオピニオンを法律事務所に依頼するとのことなので、今年第三四半期くらいからのネッティング適用が現実味を帯びてきた。ISDAの外部カウンセルは、前回紹介した記事を書いているKing & Wood Mallesonsとのことなので、ほぼ間違いなくClean Netting Opinionが出ることになるのだろう。

こうなると、証拠金規制も適用になるため、中国のカウンターパーティーに対して、当初証拠金や変動証拠金の拠出もしなければならなくなる。20年以上にわたって実質的に大きな進展がなかったからか、法律変更の話が出た時も懐疑的な声が多かったが、今回ばかりは本物のようだ。それくらい今回の法律は国際的にも通用する内容になっている。これから中国のCounterpartyとデリバティブ取引を行っている市場参加者は、短期間の間に様々な準備をしなければならない。

一方、この変更により、中国向けエクスポージャー量が減るため、かなりの信用枠が空くことになる。中国の場合は香港などにある子会社を使ってデリバティブ取引をしているところが多かったが、これをオンショア中国の本体に変更できるのかもしれない。昨今の中国不動産業界を巡る混乱でも明らかになったのだが、中国の場合オフショアとオンショアでかなりリスクが異なっている。オフショアで発行された債券が30%のように下がっていてもオンショア発行債券は70%超で取引されたりしている。国や市の制約によって、中国にある親会社が子会社に保証を出しにくかったり、担保拠出をしにくかったりする。これがオンショアで直接取引できるようになると、中国がデリバティブ取引の最大市場へと育っていくきっかけになるかもしれない。それほどに今回の法律変更は非常に大きな意味を持つ。

既に中国の市場参加者は、ドル円を含む為替取引や日本国債を含む債券取引を行っているものと思われるが、今後プレゼンスがますます大きくなってくるかもしれない。日本の市場参加者も中国を無視して取引を行うことが難しくなる可能性があるので、市場動向には注意を払っていく必要がある。

アルケゴスを受けた金融庁監督上の留意点

金融庁からアルケゴスの教訓から学ぶ、監督上の留意点と対応が公開されている。既にCSレポートでも触れられている点が多いが、英米当局とも連絡を取り合って情報収集をしているのは重要である。個人的に重要だと思ったのは以下の留意事項である。

  • 経営陣の関与
  • 営業部門やリスク管理部門の役割と責任の明確化
  • 許容するリスク量を明確に定め、それに収まるようなリミットを設定すること
  • 海外子会社を含めたグループ内のリスク管理
  • 必要に応じて取引規模を示すクロスの数値などを活用した複眼的な管理
  • 誤方向リスクを適切に考慮すること
  • ストレステストを活用した能動的な管理
  • 運用戦略、取引規模、レバレッジの程度、参照資産の集中度を管理すること

特に日本では経営陣の関与ということが強調されることが多いような気がするが、あまり経営トップが一つ一つのリスクについて詳しくないという印象があるのかもしれない。

許容するリスク量を何で決めるかも重要である。しかし、今回のコモディティ価格急騰に見られるように、許容するリスク量を決めていたとしても、価格変動が激しすぎるためにリスク許容度を超えてしまうことも多い。

グループ内のリスク管理態勢については、CSのレポートでも問題点が指摘されていた。日本の場合は拠点によってリスク管理の方法やポリシーが異なるということがあるからか、親会社から海外子会社、海外子会社間における適切な監視、管理、牽制、連携が機能するための態勢整備と実効性の確保の重要性が強調されている。

取引規模を示すグロスの数値などの活用した複眼的な管理は確かに需要で、その後の誤方向リスク、ストレステストなどを用いながら多面的にリスク管理をしていく必要がある。最後のリスク集中は今後極めて重要になってくる。ニッケル暴騰で有名になった中国の生産者の例のように、市場のどこかにリスクが集中していると、それが極度の市場変動を引き起こすことが明らかになり、IMFなどもこうしたリスクをきちんと把握するようにと提言していた。

監督上の留意点ということなので、今後の金融機関検査や監督において、おそらく確認が求められることになるのだろう。いずれも至極まっとうな論点なので、適切に対応していくことが求められる。

SA-CCRのマーケットインパクト

予想通りSA-CCRの影響が為替取引に表れ始めた。昨年から今年にかけてBoAに加えて、Citi、GS、MS、JPMがSA-CCRの適用を開始したが、これを受けて各社のRWAが軒並み上昇している。中でもFX Fowardの取引の多いCitiが大きな影響を受けているようで、Risk誌でCitiのプライスの悪化が取り上げられている。2020年第一四半期のデータではあるが、CitiのG10 FX Fowardのシェアは15%を超えていたとのことなので、インパクトが最も大きかったのだろう。常にトップだったCitiが昨年第四四半期には5位にまで落ち込んだというのだから、かなりシェアを落としている姿が伺われる。

従来のCEMでは1年未満の為替取引は資本をほとんど使わなかったが、SA-CCRになるとたとえ短期であってもRWAを食うことになる。欧州銀がSA-CCR移行によってあまり方針を変えていないのと対照的だ。とは言え、両方向の取引がある場合はある程度リスク分散ができるので、問題が大きいのは一方向に偏る短期の取引になる。その意味では日本のフローは一方向なので、今後はコスト高になってくる可能性がある。

これによってCitiに対して懸念を持つ向きもあるのだろうが、逆にこうした資本計算の変化に素早く対応してプライシングを変えているといのは、さすがというべきである。そして当然この問題に対処するため、ベンダーを使ったOptimisationなども行っている。日本の場合はコンプレッションやIM最適化などの利用も遅れているが、環境に合わせて素早く経営の舵を切るのは極めて重要だ。日本では、決算発表でSA-CCRのことを話す経営者などはいないのが気になるが。

中国のネッティングがついに可能になる?

中国でデリバティブ取引を行ってもネッティングと担保の効果が得られないというのが長らく業界の常識だったが、ついに進展があったようだ。もうかれこれ20年くらい前から同じ話をしており、各金融機関で独自の文言を入れたり、業界団体で議論をしたりしてきたが、誰もが完全に自信をもってネッティングが有効という判断は下せなかった。

中国の法律はよく分からないが、各種のWeb情報によると、今回は本物のように見える。今回は中国の先物デリバティブ法(Futures and Derivatives Law)が整備され、8月1日からクローズアウトネッティングの法的強制力が国の立法レベルで認められることになる。今回の法整備により、法律事務所がClean Netting Opinionが出せるようになるとのことであり、これによって金融機関はこれまでグロスで計算していいたエクスポージャーをネットすることができ、リスクリミット、XVA、資本コスト等に非常に大きな影響を与える。

これにより中国のカウンターパーティーが破産手続きに入ったとしても、このクローズアウトネッティングが停止されたり、撤回されることはないはずである。中国のデリバティブ取引が今一つ盛り上がらなかったのは、このネッティングの問題もかなり大きい。ネッティングが不可ということはNet Amountをベースにマージンコールをしても無効になるということを意味するので、全ての取引が無担保取引として扱われていた。

担保についても、質権設定などの方法でデリバティブ取引のエクスポージャーに対して取った担保が有効であることを保証している。質権ではなく、英国法準拠のCSAのように所有権が移転するTitle Transferの形で受け取った担保が有効かどうかの記載はないが、Web情報によるとおそらくこれも認められるだろうとのことだ。中国に証拠金規制はないが、これについても証拠金計上を原則とすることが提案されているようだ。

今後は大手銀行がオンショア中国のカウンターパーティーに対するデリバティブ取引を増やしてくる可能性がある。そうなると中国が世界有数のデリバティブ大国になるかもしれない。

JPM決算から伺われるコモディティ取引に対する影響

2022Q1の米銀決算発表の週が終わったが、トレーディング収益は市場予想に反して好調だったようだ。JPMの決算で気になった点をいくつか確認してみる。

$900mmのCredit Reserve積み増し、Credit Adjustmentsによる$500mmの損失というところが目を引く。$900mmのうち$300mmは主にロシアに関連した個人に関するものとのことだ。引き当てをこれだけ積むということは余裕があるということなのだろう。SA-CCRの適用に備える側面もあると言っているので、やはりSA-CCRによって資本賦課が上昇することを示唆している。

レバレッジ比率が5.2%というのは最低の5.0%に近いという意味で懸念に思ったのだが、質疑応答で、問題にならないと述べられている。あまりに分母が大きいので、5.2%というのは5%よりかなり離れていると述べられているが、JPMくらいのサイズになるとさもありなんということなのだろう。それにこれを引き上げるには簡単なツールがあるとまで述べているので、引き上げようと思えばすぐにコントロールできるという印象を受けた。SLRはもう米銀にとってはそれほど大きな問題ではなくなっているのかもしれない。やはりそれよりはストレステストが重要なのだろう。

各種報道でも強調されていたが、$524mmのCredit Adjustments and otherが主にコモディティ関連のCVAに該当するものと思われる。決算発表のQ&Aで、ニッケル生産者とつながりのある顧客のためのヘッジを行っていたが、極端な価格変動によりマージンコールが発生し、他行と強調して対応にあたったと述べられている。ここから$120mmの損失が発生したが、これはトレーディング損失ではなくカウンターパーティに関連するもので、与信調整およびその他の項目に表示されている。つまり、XVA損失が発生したということのようだが、各種報道にあるように中国のニッケル大手企業の巨額ポジションに関連するものだろう。市場リスクRWA増加分の約半分がここから発生しているということなので、かなりのインパクトだ。

これに関しては、Jamie Dimon氏は、顧客がこの状況を乗り切れるよう、手伝っている。今期は少し損失が出たが、事後検証を行って今後のことを考えるというニュアンスのことを言っている。ひょっとすると今後はコモディティ関連の取引には慎重な姿勢に転じるのかもしれない。LMEに対しても何か意見具申をしているという印象も受ける。

こうした市場ショックに対しては、様々なストレステストを行っているとのことだが、当然今後は無担保取引の制限、有担保だったとしてもポジションの制限等がかかってくるのではないか。そうなると、コモディティヘッジというのは非常にやりにくくなってくる。マージンコールのためのコミットメントライン、保険金支払いのような仕組みを考えていかないとコモディティ取引自体が難しくなってしまうのではないだろうか。

決算発表でここまでコモディティ取引についてコメントがあるのは珍しいが、大手のJPMがこれだけフォーカスしているということは、今後明らかに何らかの変化が起きてくるのではないだろうか。

市場行動はコントロールできるのか

EUR Swapを欧州域外で「過度に」クリアリングすると資本コストを上げるという案がEBAから出ている。どの程度なら「過度」といわれるかが明確になっていないため、当局サイドにかなりのFlexibilityがあることになる。つまり、英国のLCHでクリアリングする取引が大きいと見なされると余分に資本コストがかかるため、Eurexに移さなければならない。Brexit以降、欧州当局としては、何とかEURの取引を英国から欧州に移そうという努力が続けられている。

自国というか自分の地域を優先しようというグローバルな動きはなかなか覆せないようだ。昨今の地域間の争いや戦争もこれに拍車をかけているのかもしれない。欧州当局はこれまでも何度も英国から欧州へのビジネスの移行を進めようとあらゆる手立てを講じてきたが、未だにLCHの地位は盤石である。当然流動性のあるところで取引をするのが金融の常なので、この優位は揺るぎそうもない。資本規制にまで踏み込むとさすがに影響が出てくるのかもしれないが、これは欧州銀行が流動性にアクセスできないことを意味する可能性もあり、米銀や英銀に対する域内金融機関の弱体化を招く可能性もある。

こうしたゆがみを放置するとマーケットは思わぬ方向に暴れ出す。その意味では、日本のCCPでもCCP Basisの拡大というリスクを抱えている。最近は日銀の金融政策変更を予想する海外投資家が金利上昇を見込んだ取引を増やしている。このような環境下では、LCHにおける円金利が上昇し、JSCCの円金利が上昇しないということが起きる。これがCCPベーシスの拡大につながっているのだが、円スワップ金利一つとっても二つの金利が存在しているのである。

このまま10年金利を抑え続ければ、国債金利は一定でもスワップ金利が上昇する。JSCC金利の方が上昇が抑えられるかもしれないが、LCH金利だけが上昇する可能性がある。また、10年金利を参照するスワップションの買いもかつてないほどに活発になっており、ボラティリティの上昇は既にYCCの解除を完全に織り込んでいる。一般に見えやすい指標としては、ドル円の上昇リスクもくすぶっている。

つまり、無理して今の政策を日本だけが続ければ、アセットスワップの拡大、LCH/JSCCスプレッドの拡大、円金利ボラティリティの上昇、円安といった動きになる。これが他の市場に波及して、ドル円の通貨ベーシスの拡大、インフレスワップの上昇、TIBOR/OISの拡大と、広範囲に影響が拡大していく。

やはり、ここまで相互連関が強くなった金融市場において、無理のある政策を続けると、どこかで歪みが発生し、最終的に大きな市場変動につながるリスクは常に考えておかなければならないだろう。

金融制裁とデリバティブ契約

ロシアに対する制裁を受けてデリバティブ市場において混乱が長引いている。ロシアに対する制裁ではあるが、デリバティブの世界では、制裁の対象はISDAマスター契約でロシアの銀行と取引をしている側となってしまう。ロシアの銀行に対して支払いをしてはいけないが、しないとデフォルトになってしまうからである。アジア地域では、それほどロシアに対するエクスポージャーが大きい訳ではないので、あまり大きな問題になっていないものと思われるが、同じことが他の国で起こったらどうすべきかという議論が各行で行われている。

今回もISDAで、ルーブルが決済できない場合は他の通貨での決済を可能にするといった相対のテンプレートを準備しているという報道もされていた。一応ISDAマスター契約上はルーブルを払わないとデフォルトになってしまうため、何らかの手当をしなければならない。といっても支払いを受けなかったロシアサイドは、ポジションをクローズしてQuoteを取って解約価格を証明しなければならない。もちろん、この状況ではどんな価格が取れるのか定かではない。オンショア、オフショアで価格が違うという事情もある。Illegalityによる取引解約も可能なのだろうが、手続き的には結構面倒だ。それでも実際にかなりの解約は起きているようだ。一応ポジション解消に関しては5/25までの猶予期限があるので、それまでに何らかの手当を考えているところは多いだろう。今のところプロトコルを作成する動きはなさそうだが、今後に備えて議論をしておくことは必要だろう。

当然アジアでは中国との取引に対してこうした条項を入れておくべきかが議論になる。ただし、既にCNYの流動性がなくなった場合、CNYを両替できなくなった場合、CNYを持ち出すことができなくなった場合等に備えて何らかの契約上の手当てがされていることが多い。こうした文言を一つ一つ相対で入れていくにはかなりの手間がかかる。また業界でどのような文言が入っているかを何となくわかっている大手先進行ではこうした分析がなされており、文言も標準化されつつある。転職の多い金融業界においては、すぐにこうした業界スタンダードが出来あがる。ただし、こうしたサークルから外れている銀行には、いざ問題が発生したときに損失を被るというリスクがある。特に日本においては、ISDA等業界団体の動きに期待したいところである。

20年国債先物取引は定着するか

東証の市場再編の話の陰に隠れてニュースにすらなっていないが、20年の超長期国債先物の活性化プログラムが本日スタートした。もともと超長期国債先物自体は以前から存在していたが、ほとんど取引されていなかった。一時期これを盛り上げようと業界をあげてサポートをしようとした時期もあったが、結局尻すぼみに終わってしまっている。金利に対する注目度も高まってきているので、今般再度活性化にトライしようという試みだ。

米国債先物などは2年、5年、10年、20年近辺の長期、30年近辺の超長期と様々な年限が取引されており、このため、オートヘッジなどの電子取引が可能になっている。日本には原則10年しか流動性がないため、アルゴで自動ヘッジをしようにも不可能であった。少なくとも10年先物と20年先物があれば、カーブリスクのAuto Quoteなどもできるかもしれない。

日本では、どうも投資というと株という印象のようで、そのほかは不動産かビットコイン、あるいは為替くらいになってしまう。海外では株式と債券に投資を分散するのが一般的だが、日本で個人投資家が債券に投資しようとしてもあまり選択肢がない。日本の社債に特化した投信すら少ない。

超長期先物は機関投資家向けなので直接関係はないが、日本においても投資ツールを増やすのは重要であり、そのために債券リスクがもっととれるようになるとすそ野が広がるのではないだろうか。個人投資家がすべてを株に突っ込み、その後損失が大きくなり投資から足を洗うというケースが結構あるように思う。

さて、今回の活性化プログラムだが、取引単位の縮小と即時約定可能値幅の変更がメインとなっている。テクニカルな変更ではあるが、これで市場参加者が取引を盛り上げようという機運が高まれば、一定程度の流動性が出てくるのではないかと期待している。注目された初日の取引量だが、取引レポートを見ると8件の取引がついたようだ。取引の薄い月曜ということもあるので、初日にしてはまずまずといったところか。

あまりにもマニアックなのか話題にする人も少なかったが、何とか日本の市場の活性化のためにも、盛り上がってほしいものである。

CCPの中銀アクセスと規制の役割

CFTCのBehnam委員長から、米国の顧客にサービスを提供するすべてのCCPが連邦準備制度の預金口座にアクセスできるようにすることを明確に支持した。コロナウィルス感染拡大、ロシアによるウクライナ侵攻などにより、市場変動がかつてないほどに大きくなったことを受けてこうした思いを強くしたということだ。

CMEやDTCCなど米国にとって重要なCCPについてのみ認められている措置であるが、これをLCHやその他外国CCPにも拡大するということだ。日本のCCPの場合は日銀口座が使えるためあまり問題はないが、確かに余剰資金をレポで運用してリスクを増やすよりは、中銀預金にしておいたほうがシステミックリスク削減につながる。

CCPがここまで重要なインフラになってくると、こうした安全性を高める措置は市場全体にとっても歓迎されるべきことだろう。特に昨今のコモディティの市場変動は、従来の想定を大きく超えている。それによって巨額のマージンコールが発生しているが、今後企業のデフォルトがCCPからのマージンコールで引き起こされるケースが増えていくだろう。そしてその過程において担保融通が滞ると金融システム全体に悪影響が及ぶ。

さすがにマージンコールが巨額になった場合に中銀サポートを得たいという案は却下になりそうだが、中銀以外の銀行がこうした証拠金拠出を目的とした融資や保証提供が急務になってくるだろう。また、ことコモディティに関しては、株式のようなサーキットブレーカーを導入し、一日の価格変動が一定の範囲内に収まるようにしておく必要もある。価格操作は望ましくないという意見もあろうが、巨額に担保拠出を一気に求められた場合には、その証拠金の工面に数日を要することがあるからだ。こうした仕組みがないと、証拠金計算モデルがはじき出す必要証拠金の額も、危機時に大きく膨らんでしまう。

その他、CCPに持ち込む取引のポジションリミットを設けたり、割増証拠金を求めることにより、一部の参加者にリスクが集中しないようにしなければならない。ただし、清算集中規制のない株式デリバティブやコモディディ先物などは、取引所外のOTC取引についても合算して考えなければならない。これはCCPでは取得不可能な取引だが、こうした相対取引のポジションの偏りが、CCP取引に対しても影響を及ぼすことが明らかになった。

本来はこれがすべて把握できるのは規制当局なのだが、現状はここまで理解が進んでいない。そもそも取引報告規制によって集められたデータが有効活用されていないという問題もある。既存の当局内にデータ分析部隊をつくるよりは、一部海外当局が始めたように、データの分析を外注するということも必要なのだろう。各国当局が独自の基準でデータを集めるのではなく、国際的に合意したフォーマットで、世界中のデータを集め、分析できるようにしていくことが重要である。