金利上昇と国債評価損

直近まで英国中銀の金融政策委員会の外部委員を務めていたサンダース氏によると、英国は金融危機以降、多くの長期債を買い入れたため、他国の中銀に比べると大きな損失を被る可能性が高いとのことである。

日銀も多くの国債買い入れを行っているが、金利が上昇すればこの損失が大きな問題になる。米国や欧州では、昨今の金利上昇によって中銀が買い入れた国債からの損失が大きくなっている。FTの報道によると、英国中銀の保有する国債の評価損は元本の23%とのことで、米国や欧州の約13%に比べてかなり高くなっている。

日銀が580兆円程度の国債を保有しており、単純に20%の評価損と仮定すると115兆円の損失となる。英国の場合15年から20年の国債が多いため確かに他国よりは長期債の比率が多いかもしれない。日本の場合は10年債が半分弱でその他は10年債と5年債が多く、英国よりは保有国債の満期は短いように見える。財務省の試算では金利が1%上昇すれば国債費は3.7兆円増加するとされているので、利払い費用だけに注目すればそれほどの金額ではない。しかし、英国並みに20%の評価損が出ると、一年分の歳出に相当する金額が吹っ飛んでしまう。日銀の2023年の上半期決算では、国債の評価損は10.5兆円だったので、あながちあり得ない数字ではない。

そう考えると金利が欧米並みに上昇すると、日本の財政はとんでもないことになってしまう。つまり、極端な金利上昇は何としてでも避けなければならないということなのだろう。そう考えると、マイナス金利からの正常化は確実に起きるのだろうが、かといって金利が一直線に上昇していくというのは、あまり想定しにくい。

以前長期金利が2%になったら評価損は52.7兆円になるという試算が公表されたが、こうした損失から逆算するとせいぜい長期金利2%が限度といったところになるのだろうか。日銀が述べたように、金利上昇に伴う含み損で短期的に財務が悪化しても、政策運営能力に支障が発生しないというのは、その通りなのだろう。ただ2%を急に超えてくるようだと歯止めがきかなくなる危険性があるので、ゆっくり金利が上がるものの低位安定してくれるのがもっとも望ましいシナリオなのだろう。

極端にリスクを避けると金融システムの安定が脅かされる?

CFTCのBob Wasserman氏が、CCPのクライアントクリアリングにおけるバックアップブローカーについて、12/11のGMACで懸念を表明した。クリアリングブローカーである銀行の破綻時に顧客ポジションを他のディーラーにスムーズに移せるとは思っている市場参加者は少ないと思うが、当局サイドもこれを認めている。Bob Wasserman氏はクリアリングの仕組みについてはかなり詳しい方なので、よく現実が見えているということなのだろう。当局としては異例ともいえるかもしれないが、厳しい資本規制がこのPortingを難しくしていると認めている。

上位10社のブローカーが全体の80%をクリアリングしているというのは、確かに問題である。昨今の資本規制とその収益性の低さから、クライアントクリアリングビジネスから撤退するディーラーが増え、撤退までいかなくともリスク許容度を減らしているところは多いものと推測される。リミットを引き下げているところもあるため、清算集中規制がない商品については、CCPからOTCに取引を移すところもあるというコメントも聞かれる。資本規制だけが問題ではないものの、規制強化が市場参加者をクリアリングから相対に押しやっているというのは皮肉な話だ。

特にArchegos以降、クライアントクリアリングに対する懸念も大きくなり、昨今のストレステスト重視も相まって、クリアリングがさらに厳しくなっている印象がある。Archegosで問題になったのはクリアリングされた取引ではなかったのだが、巨額のポジションとなると、必ずクライアントクリアリングのポジションが問題になってしまう。昨今のボラティリティが高まっているのは事実ではあるが、極端なシナリオを想定してリスクが大きいと判断するのは、クライアントクリアリングに関しては、少し行き過ぎているような感覚がある。

まずArchegosレポートで指摘されたようなStatic MarginがCCPでは発生しない。各CCPとも市場のボラティリティに併せて当初証拠金を見直しているため、CCPのIMはダイナミックに変動する。これを無視しして、例えば金利が2%突然上がった場合の想定損失額をベースに議論をするのは間違っているように思う。当然そんなことが100%起きないとは言えないため、なかなか認められないのだが、そのようなシナリオをベースにするならそもそもクライアントクリアリングビジネスは成り立たない。また、そんな状況で破綻参加者の傘下にあるポジションを受け入れようなどと言うディーラーがどこにいるのだろうか。

こうした極端なシナリオを想定して各ディーラーが保守的にリスクを見るようになると、クリアリングの仕組みが崩壊してしまうだろう。当然中央銀行や政府に頼った仕組みを作るのは望ましくないが、戦争や天変地異で市場が大きく変動した時に備え、証拠金や資本を積んでおくというのは不可能なレベルに近づきつつある。システムが存続不可能になるレベルまでディーラーが保守的になるのを防ぐために、ある程度の国のバックアップが必要ということを認めるのは、行き過ぎなのだろうか。

英国決済短縮化についてのアナウンスメント

英国の決済期間短縮化に関するタスクフォースからレターが送られている。T+1化をすべきかどうかというよりは、いつどのように実現するかという問題とされているので、すでにT+1化を進めるのは既定路線となっている。T+1がなぜ望ましいかというと、業界全体でシステムやオペレーションのプロセスの自動化に投資するきっかけとなるからだと述べられている。

どうやらマーケットスタンダードやオペレーションの詳細を詰める第一フェーズと、実際に移行を行う第二フェースの二段階アプローチが検討されているようだ。

ただ、実際の移行日については未だに意見が分かれているようである。米国がT+1で英国がT+2という期間を極力少なくするために、できるだけ米国に合わせて早い段階での移行をすべきという意見もあるが、未だ時期が決定していない欧州に合わせるべきという意見もある。

最終レポートは来年第一四半期には出るようだが、ここでも期限が示されないかもしれない。それでもあまりに遅らせたくないという意見も多いことから、来年は、欧州も含めて移行に向けた分析と議論が盛り上がることになろう。これに向けて、各社とも全世界的に決済短縮化に向けたシステム開発を進めることになるが、米国で準備を行っているところについては、それほど追加の作業負担は大きくない。むしろ早めに揃えてもらった方が効率性が高まる。

日本は何もしなくて良いのだろうか。

中国のデリバティブ市場の盛り上がり

中国のCallable債が売れている。HKで発行されるCNH(Offshore Deliverable)の点心債(Dim Sum Bond)に中国本土からの買いニーズが高まっている。Callableというと台湾のFormosaの例があるので、金利のVegaなど、マーケットへのインパクトが気になってしまう。台湾の例では、ドルの長期のベガを抑えるインパクトが大きかったため、台湾の規制などの動向によって米金利市場が大きく変動した。

Callableの場合は、発行体が早期償還をするオプションがついているので、以下のような式になる。

Callable債の価格=通常の債券価格-オプションの価値

通常金利が上がれば債券価格は下がるのだが、オプションの価値も下がるのでCallable債の下落幅はマイルドなものになる。通常Callableの発行が増えると、Swaptionを売ってYeild Enhancementを行う動きが出る。中国CNHの場合は、通貨スワップによってCNHをUSDに交換し、通貨スワップに対するオプションを売る。通常通貨スワップのVolの買い手は少ないので、売り一辺倒になってしまうが、ここにヘッジファンドが買い手として現れている。

中国本土と香港間の債券相互取引であるBond Connectが2017年から始まっているが、香港から中国への投資をNorthbound(北向通)、逆をSouthbound(南向通)という。最近では、クーポンの高い不動産会社の債券に流れていたSouthboundの資金が、Callable債に流れているようである。Southboundが始まったのは2021年9月なので、極めて短期間の間に取引が増えている。

点心債は信用力の高いグローバルバンクが発行するものが多く、クーポンもCallableにすることによって1%程度高くなることもあり、中国本土の資金がかなり流れてきているようだ。

取引の流れとしては、発行体が債券発行によって得たCNHを通貨スワップでUSDに倒す。通貨スワップではCNHの固定金利を受けてそれを投資家にPass throughし、USDの変動金利を支払う。そしてその通貨スワップのSwaptionを売ってYeild Enhancementを行う。
CNHUSDの通貨ベーシスが拡大すれば高いクーポンを提供できることになる。この通貨スワップのSwaptionにヘッジファンドの資金が流れ、Swaptionのマーケットが広がりつつある。

米金利が下がり、中国元が減価するとCNHのImplied Yieldが高くなる。また、中国オンショアとオフショアの金利差が開くと、クーポンが上がるためSouthboundの取引が増える。ヘッジファンドはこの辺りの市場の動きを予測することにより利益を上げているようだ。これに、中国市場におけるプレゼンスの大きい欧州の自動車会社の売り上げ減による、通貨スワップの減少などの要素も加わり、マーケットダイナミクスが複雑になる。

中国経済時代は停滞の兆しがみられるものの、市場開放努力は着々と進められており、金融取引自体は未だ世界の投資家の興味を惹きつけているようである。

米国債のCCPによる清算義務付けが決定

先週12月13日の水曜に米国SECから、米国債の清算集中規制を進める旨のアナウンスがあった。これまでレポの20%、リバースレポの30%、現物取引の13%しかクリアされておらず、大部分の取引が相対で行われてきたので、全体で26兆ドルといわれる米国債市場にとって大きな変化になる。

ゲンスラー委員長が指摘しているように、現状米国債レポ取引の多く(74%程度)がゼロヘアカット、つまりデリバで当初証拠金に当たる超過担保なしで取引されており、レバレッジがかかっている。これがCCPに移行することにより一律のヘアカットがかかることになる。10月に英国中銀から出されたDear CROレターでもレポのヘアカットが不十分であるとの指摘があり、すでにマーケットに若干影響が出始めているが、今後はレポのヘアカットにも大きな変化が起きる可能性が高い。

ゲンスラー氏のいつもの主張のように、クリアリングによってAll to Allの取引が増え、競争が促され、透明性が高まるとされている。ディーラーとしては、自己ポジションと相殺してヘアカットを計算することができなくなるので、顧客毎に担保を確保していくことになる。確かに透明性は増すだろうが、コストが上がることは間違いない。一方、ディーラーとしては、顧客から受け取った担保をそのままCCPにリハイポすることが認められるようである。

清算集中の対象であるが、レポについては
のメンバーとの取引についてはほぼ全て清算(内部取引は除く)、顧客取引についてもSponsored Repoの形でクリアリングが行われることになる。現物については、IDB(インターディーラーブローカー)プラットフォームにおける取引が対象となる。昨年9月に発表された当初案からするとだいぶ後退したようにも見える。ヘッジファンドなどには米国債の現物取引の清算は義務付けられておらず、レポのみが対象となる。

このルールは以下のような2年半の間に段階的に適用される。

15か月: CCPが顧客クリアリングなどのルールを最終化
9か月: 顧客サイドでの現物取引のクリアリングの準備
6か月: レポ取引についてのクリアリング準備

これによって担保ニーズが高まり、クリアリングに向けたシステム、オペレーションの整備などの準備が始まる。これがほかの国に広がるかどうかにも注目が集まる。おそらく事務の自動化やオペレーション負担増加を嫌う日本が最後になるだろうが、次は欧州の動向に注目が集まる。

欧州の証券決済T+1化

先日米国とカナダの決済期間短縮化について記事を書いたが、欧州や英国では議論が割れているようだ。EUでは2カ月前の10月に議論が始まったばかりであり、未だ方向性についてのアナウンスは確認できていない。

英国については、タスクフォースが作られ議論が続けられているが、報道によるとかなり反対意見も多いようだ。一応今月末までにProgress Reportを公表し、来年末までに最終化の予定となっているようなのだが、今の雰囲気だと計画は後ろ倒しになりそうだ。どうやら短縮化すること自体に反対する意見は少ないようだが、その実施時期については慎重な意見が目立つ。

そもそもBrexitによって欧州規制とは一線を画した自由な規制の導入が可能ということで、エジンバラ改革と銘打ち国際金融都市ロンドンの地位向上を模索していたはずなのだが、ほとんど大きな進捗が見られない。銀行やアセマネ業界は2026年春ごろを目途に準備を進めるべきとしているようだが、バックオフィスのシステム改訂が間に合わないという意見が多い模様だ。このままだと今月に出されるProgress Reportでは、時期が明示されない可能性が高い。

その他の国ではインドが短縮化を進める方向で動いているが、日本ではあまり議論が盛り上がらない。もともと事務フローの自動化や、期間短縮に関しては世界に類を見ないくらいに慎重なところがある。海外のように短縮はするがフェイルが多くなるという慣行が、まじめな日本人にはなじまないのかもしれない。ただし、オペレーションの自動化、システム化、AIを使った効率化が急速に進む中、日本だけが後れを取るとグローバルな資金の流れから取り残されてしまう危険性もあるので、海外の動向を見ながらキャッチアップしていく必要があるだろう。

金利指標改革の作業終了と今後の課題

ARRCに続いてEuroのRFR Groupも11月13日の会合をもって最後となった。日本においても金利指標フォーラムの活動が終了となったが、第6回の会合の議事録によると、実務者ネットワークを維持するということで、一応フォーラムが存続する形になるようだ。定期的に会合を行うことはないが、当面は日銀からのメールによる情報共有にとどまるとのことである。

米金利については、ターム物SOFRのディーラー間取引の解禁が焦点となっているが、欧州に関してはEuriborの行方が課題として残っている。このため、日本と同様に、何か議論すべきトピックがあった場合は再度集まる可能性もあるとESMAはコメントしている。

デリバティブ取引に関しては半分以上がESTRに移っており、将来的にさらなる移行が進む可能性があるが、キャッシュに関しては、未だEuriborが存在感を保っている。そもそも債券などのキャッシュ商品に関しては、ターム物RFRを第一順位として優先して使うべきとしてしまったのが間違いだったのかもしれない。日本でもターム物のTORFの利用は進んでおらず、ユーロでもターム物ESTRの利用は限定的である。

当面は、Euriborの決定に関して、Liborで起きたような恣意的に金利を操作できることがないように、指標改革を続けていくしかなさそうだ。その意味では日本のTIBORと同じような状況になっている。

米証券決済T+1化のインパクト

来年5/28から米国で始まる(カナダは5/27)証券決済のT+1化まであと半年を切った。これによって決済リスクの軽減と、効率性、流動性の向上が期待されているのだが、同時にオペレーショナルリスク、フェイルの増加が懸念される。これを受けて各社ともさらなる事務フローの標準化と自動化を進めている。

米国での準備はほぼゴールが見えてきた感はあるが、米国外では、時差の問題もあり懸念材料が尽きない。米国の問題ということもあり、米国外での意識がそれほど高まっていないようにも感じる。とは言え、アジアで行われるクロスボーダーの取引の約半分は米国がらみであるため、本来は日本を含むアジアへのインパクトは意外と大きい。もともと取引のAllocation、コンファメーション送付、取引のBookingとAffirmationなどにかかる時間はアジアの方が長かったので、その影響も必然的に大きくなる。

また、米株や米国債などの決済が短縮されるということは、それに関連して行われる為替の決済に対しても注意を払っておく必要がある。先月11月には、FXPA(FX Professionals Association)から「FXPA Buy Side Guidance in Preparation for T+1 Settlement」が出されている。ここでも自動化やシステム化の重要性が強調されている。今回の変更は証券に関するものだけだと思っていると、実はこれに関連するあらゆる取引の決済期間短縮化につながる可能性がある。

証券のフェイルというのはグローバルでは頻繁に起きており、そのためのフェイルチャージも決められている。当然フェイルは望ましくないことなのだが、ある程度マーケット慣行として認められていた。これをもう少し厳格化しようという動きがあった後でのT+1化なので、フェイルが増えて混乱が増幅する可能性も否定できない。だが、T+1化を進めても結局フェイルが多発してT+2がほとんどになってしまったということだと本末転倒となってしまう。結局この問題は標準化とテクノロジーによって解決するしかないので、システム投資をケチると、大きな問題に発展しかねない。

日本では、フェイルというと大きな事務ミスとみなす市場参加者も稀に存在するので、その意味では真面目な国民性が表れているのだが、T+1化の後に混乱が発生しないとも限らない。特に為替がからんでくると、CLS決済も進んでいない中でフェイルが起きると、余計な決済リスクを取ることになりかねない。ここまで高速の処理が要求されるようになると、巨額のシステム投資を避け、人海戦術で乗り切ろうというのはもはや成り立たなくなってくる。

日本でも、銀行証券、ブローカー、カストディアン、信託銀行、アセマネ等で共同して自動化を促進していった方が良いのだろう。特に時差を考慮するとT+1だとあまり時間に余裕がないため、為替周りが特に気になるところである。

レポ取引のクリアリングは必要か

昨年のGilt Shockに際して英国金利が乱高下したことを受け、CCPの当初証拠金負担が上昇した。これを受けて当初証拠金が高止まりしていたLCHのRepoClearでは、証拠金モデルを見直しが先月行われた。とは言え、当然のことながら相対取引に比べたコスト高は否めず、取引が一方向に偏りやすいバイサイドがレポのCCP取引を増やすとは思えない。

CCPとしては急激な市場変動に備えて十分な当初証拠金を徴求しておかなければならないのだが、市場変動が激しくなると99% VaRなどのリスクをカバーする証拠金額が大きくなってしまう。特にレポの場合は相対取引のヘアカットが極端に小さいのが市場慣行となってしまっているため、清算取引と非清算取引の証拠金に大きな差が発生している。

現状の金利変動を考えると、レポという商品は清算集中が不可能な水準になっているのではないかと思われる。現在でも通貨スワップやスワップションの清算は進んでいないが、通貨スワップの決済リスクの他に、市場急変に備えて徴求しなければならない当初証拠金が大きすぎるというのが最大の理由だと思われる。

おそらく資本コストが高く、多くのポジションを抱えるセルサイドにとっては清算のメリットはあるが、エンドユーザーにとっては、引き続き相対で取引を続けるのが最も現実的な選択肢となっている。この状況を変えられるとしたら、清算集中規制だが、これにはかなりの抵抗が予想される。というのも、今回は銀行からの抵抗というよりはエンドユーザーからの抵抗となり、コスト高が国民の年金パフォーマンスなどに影響してくる可能性があるからである。

現実的には市場急変時には、債券買取プログラムや、政府によるファイナンスが可能になることが多いので、特に国債レポ市場は、CDSや金利スワップとは様相が異なる。なかなか受け入れられないアイデアだとは思うが、レポは銀行と超大手のBalanced Portfolioを持った市場参加者に限った清算が中心で、バイサイドは引き続き相対というのが、しばらくの間のスタンダードであり続けるだろう。

ディーラーを経由した清算も可能ではあるが、通常はエンドユーザーのポジション管理はディーラーに依存しており、CCPサイドでできることは限られている。エンドユーザーが大きな一方向の取引を増やしたとしてもConcentration Chargeをそのエンドユーザーに転嫁することは現実的には結構難しい。しかもこうしたユーザーが増えればディーラーの資本コストも上がってしまう仕組みになっているため、ディーラーとしてもこうした顧客との取引を増やすインセンティブはあまりない。

クリアリングサービスを提供することによって、他のビジネスの収益が増えれば意味はあるかもしれないが、Execusionは利益相反の観点からこの二つはリンクしておらず、逆にクリアリングしていることをレバレッジにして取引執行の収益を取りに行くことは認められていない。したがって、収益性が低く資本コストの高いクライアントクリアリングビジネスからの撤退というのは、大手ディーラーの中では常に議論されている。

選択肢としては、規制によってレポ取引のヘアカットを増やし、相対取引のコストを上げることによってCCPへの移行を促すという方法が最もやりやすい。あるいはクリアリングの資本規制を見直してクリアリングブローカーを増やし競争を促すという方法もあるが、これは当局サイドには評判が悪い。通貨スワップで使われているSwapAgentとCCPの中間のような仕組みができるとレポ市場にとっては最高なのだろうが、これについてはさらなる技術革新が待たれるところである。

為替ヘッジコストと円相場

Bloombergにも出ていた通り、生保の外債為替ヘッジが極端に落ち込んでいる。過去にさかのぼると2015年9月末以来の落ち込みで、今年上半期のForward、FX Swap、Optionのヘッジ比率は50%を割っている。

足元の対内対外証券投資のデータを見ていると、外債のネットの売り越し状態は収まりつつあるため、FRBの利上げ停止により徐々に外債投資が復活する可能性もあるだろうが、現在5.7%にまで上昇したヘッジコストが下がるかどうかにも注目が集まる。基本的に外債投資が戻っても、ヘッジコストの高まりからUnhedgeで持つところが多くなる可能性がある。

通常このヘッジはFX Spot取引と3か月Forwardで行うことが多いが、現在は米金利が逆イールドで、3か月金利が極めて高くなっている。SOFRに比べて米国債のイールドが上がれば、若干有利になることもあるが、それでもまだヘッジコストが高い。

また、日銀の政策変更が緩やかなものになると予想されている現状においては、米国が利下げをAgressiveに前倒しで行わない限りは、急速な円高は起きにくいと判断すれば、ヘッジを行わないというのは自然な行動だろう。

米利下げが急速に進んだり、日本で賃金上昇が確認され、日銀の政策変更のスピードが上がってくれば、円高リスクが出てくるが、現状ではこのリスクは低いとみている投資家が多いのだろう。

金融庁の「有価証券モニタリングレポート」

今年9月に、金融庁から「有価証券モニタリングレポート」が出されている。これは、地銀の有価証券運用について、リスクテイク規模が大きい先を対象に行った調査結果をまとめたものである。有価証券投資自体を問題視している訳ではなく、体力に見合った投資とリスク管理の重要性を強調するものとなっている。


 そもそも地銀がなぜ有価証券投資を行う必要があるかというのが重要だと思うが、レポートでは、有価証券投資を「金融仲介機能発揮のための経営体力を維持する上での主要業務と位置づけるか、あくまで余裕資金の運用業務と位置づけるかといった点を明確化すべき」としている。

本来経営体力維持のために投資をするというのは不自然な気もするのだが、預金は集まるものの投資先がないからある程度仕方がないということの裏返しなのかもしれない。ただし、株式は少なくほとんどが債券なので、堅実にキャリーを稼ぎたいということなのだろう。

アメリカでも急速に預金が集まりすぎたシリコンバレーバンクが、その資金を米国債に振り向け、金利上昇時に損失を拡大させたのは記憶に新しい。レポートの中では、1%の金利上昇時に資本の15%程度を毀損するという分析結果となっており、これを「相応の規模」としている。画一的な対応を求めるものではないとしているが、この辺りがある程度の目線になってくるのだろう。米国で問題になった地銀と比べるとそれでもマイルドな水準に見えてしまう。

そのほかリスクの3線管理、ストレステスト、リスクアペタイトフレームワークなど、海外でも取り入れられているリスク管理手法の徹底が主張されている。運用やリスク管理に携わる人材不足も指摘されている。外貨流動性、資本減少リスクへの備えなど、今後のリスク管理フレームワークを確立するには良いガイドラインとなっている。

10年前には50%近かった日本国債の占める割合が19%まで低下しているのは大きな変化に見えるが、その分増えているのは地方債なので、国債と地方債を含めて考えると微減となっている。投資信託は19%に増えているが、株式は極めて少ない。

これを資金循環表などと組み合わせてみると、個人が銀行預金を増やし、その預金の一定割合が銀行を通じて債券に流れているのがわかる。その他の企業ではおそらく持ち合い株なども含めれば株式の比率が若干高いだろう。貯蓄から投資へとよく言われるが、個人が預金に集中させているとは言え、そのお金は銀行を通して国債や社債に流れているようだ。

過去20年間に米国の個人金融資産が3倍になった一方、日本は1.4倍とよく言われるが、非金融法人では意外と株式を持っている。一方金融機関の資産は社債に集中している。過去20年の株式パフォーマンスを考えると、海外の方が着実に金融資産を膨らませているのは確かだが、日本でもある程度は法人部門にその恩恵が一部蓄積されている。ただし、株式の割合は低く、持ち合い株なども多いため、確かに効率は良くない。ただ、それでも一部の大企業ではこうした蓄積があるため、賃上げ余力はあるのかもしれない。

銀行部門で見ると、負債の半分程度を預金で集め、そのまた半分を貸出しに回し、資産の2割近くを現金で保有しているように見える。比較的欧州に近い形だが、米国は現金預金比率は資産全体の2%程度しかない。常にお金を循環させていることが、経済効率を高めているようだ。また米国では、その他金融機関に属するセクターの資産が銀行の倍程度あり、欧州でも銀行と同レベルである。日本では銀行の約半分がその他金融機関である。米国ではPTF(Principal Trading Firm)と呼ばれる市場参加者がおり、この取引シェアが拡大している。米国市場ではもはやCitadelのようなPTFなしでは取引が成り立たなくなりつつある。米国債市場ではPTFのシェアは50%を超えており、今年前半のSVB破綻後はシェアが60%を超えた。

日本においては銀行のプレゼンスが他国に比してかなり大きいが、これだけ集まった資金をいかに成長分野に流していくかが重要になってくる。国債や外債などではなく、今後の日本を変えるような、新しい成長分野に資金が流れることが望まれる。