米銀にとっては更に資本コストが重要になる

米国G-Sibスコアをめぐる変更の中でもう一つ注目されているのが、スコアの刻み幅の変更である。これまでは、スコアが一定の閾値を超えると資本コストが0.5%一気に跳ね上がる計算だったところ、これを0.1%刻みに変更し、いわゆるCliff Effectを避けようというものである。

確かにそんなに大きく資本コストが跳ね上がるのなら頑張ってスコアを減らそうという動きがあったのかもしれない。多くの銀行がスコアの閾値上限近くに張り付いていたこともあったようなので、一定のインパクトはあるだろう。

米国の場合はG-SibスコアといってもバーゼルのMethod 1と米国独自のMethod 2があるのは以前紹介した通りである。Method 1は相対スコアなので、例えば全社のサイズが大きくなればスコアは上がらないが、Method 2は全社のスコアが上がってしまう。本来ではどこかで調整されるはずと聞いていたのだが、資本規制を緩めることに抵抗の強い米国では、見直しには困難が伴う。

また、今回はいくつかの計算項目において、一時点のスコアで判断するのではなく、期中平均を使うことも提案されているので、ますますG-Sibスコアをコントロールするのが難しくなる。

いずれも理にかなった変更なので、そのまま施行される可能性は高いように思うが、今後は資本コストについてさらに注意を払う必要が出てくることが予想される。と同時に異なるルールが適用されるほかの国の金融機関と比べた時の米銀のスタンスがどう変わるかにも注目が集まる。

デフォルトリスクの内部モデル

何かと話題になっているBasel III endgameであるが、米国ではトレーディング勘定で持つ社債のデフォルトリスク計算に内部モデルが使えなくなるというのが話題になっている。この提案がそのまま施行されれば、国債などの信用力の高い債券の取引にかかる資本コストが少なくなり、リスクの高い社債の資本コストが上昇する可能性がある。

バーゼルの内部モデル方式ではどんなに信用力が高くても0.03%がデフォルト率の下限となっていたが、標準法を使えば一定の当局承認のもとで0%に引き下げられる。一方標準法で資本コストが上がる投機的等級の社債などについては、取引コストが上がることになる。

様々な規制改革の流れの中で、自社でモデルを構築し、それを維持していくコストが高まってきている中、さらに内部モデルをあきらめるところが増えるかもしれない。こうした動きは銀行のリスク管理能力の低下につながり、単にサイズを減らす方向のインセンティブが強くなる。これが本当に金融業界のためなのか個人的にも定かではなかったのだが、ここまでくると、サイズは完全に無視できなくなってきた。もともとほとんどデフォルトが起きない先進国の国債などについてバックテストが有効なのかという議論もあった。

G-Sibの規模スコアや、清算集中義務や証拠金規制がかかる閾値、レバレッジ比率規制、カントリーリスクなど、すべてサイズが重要になっている。昨今ではリスクが高いからという理由ではなく、大きいからという理由で却下される取引も増えてきたように感じる。こうした中、リスクの高い社債から低リスクの国債などへのシフトを促す今回の変更はあながち悪いことではないのかもしれない。

内部モデルで精緻にリスクを理解することは引き続き重要だと思うが、ここまで内部モデルのメリットがなくなると、標準法のもとで何ができるかということを考える方が良いのかもしれない。FRTB導入を控え内部モデルをどうするか各金融機関とも分析を行っている最中かと思うが、ひょっとすると一部商品について内部モデルをあきらめようというところが増えてくるかもしれない。

サイズのみといってもコンプレッション、担保、ネッティングのようなサイズの削減も不可能ではないため、今後はポストトレード処理を高度化させて、現状の制約のもとでもリスク削減を行う努力を継続するのは重要になってきているように思う。

あとは米国が若干先走って様々な変更を発表しており、オリジナルのバーゼルIIIからの乖離が目立ち始めている。この辺りはLevel Playing Fieldを意識しながら国際間の連携が取られることが望ましい。

クライアントクリアリング業務は持続可能か?

米国のG-Sibスコア計算方法変更をめぐるアナウンスメントに注目が集まっているが、最大のサプライズは、クライアントクリアリングに関する提案だった。クライアントクリアリングには欧州で一般的なPrincipal Modelと米国で始まったAgent Modelがあるが、Principal ModelではCCPと顧客の間にクリアリングブローカーが入ることになるが、Agent Modelでは、取引自体はCCPと顧客の間に立ち、クリアリングブローカーはその取引をAgentとして保証するだけである。

従来G-SIBsスコアの計算上は、規模指標計算(相互連関性と複雑性スコア)に、Principal Modelの場合は対CCP、対顧客で2つの取引が存在するとして計算が行われる。一方Agent Modelでは、このような二重計算は行われなかった。このため、業界団体は、欧州のCCPでも、米国と同じようなAgent Modelを使えるようルール変更ができないか模索してきた。Principal ModelからAgency Modelへの変更が行われるのではなく、両モデルが並行して使えるような方向性が検討されているという話を聞いていた。LCHもAgency Modelを用意し、日本の顧客を含めてかなりのクライアントがAgency Modelを利用しているものと思われる。

ちなみに日本の場合は「取次」という方法が使われ、Principal ModelとAgency Modelの中間のような扱いになっており、どのような資本計算が行われるかは各銀行の判断によって異なる。しかし、概ねAgency Modelのような扱いをしているところが多いのではないかと推測される。

しかし、Agency Modelの計算方法が変わると、これまでの議論が白紙になる。日本のクライアントクリアリングをAgency ModelとしてG-Sib計算を行っていた銀行があれば、今回の計算方法変更に伴って日本の金利スワップ市場にも影響が及ぶかもしれない。

クライアントクリアリングを行った際に、銀行が対CCPの取引と対クライアントの取引の二つをエクスポージャーとしてカウントしなければならなくなると、現状のクライアントクリアリング業務の収益性では、業務撤退の動きが出てくるかもしれない。本来システミックリスクを避けるためにCCPが作られ、そのためにクライアントクリアリングによってほとんどの取引をCCP経由にするという目的のもと、相対取引からCCP取引へのシフトが起きた。

しかし、当初の予想と異なり、クライアントクリアリングにかかるリスクを思ったより考慮しなければならないルールになったため、クライアントクリアリングを提供するコストが上昇し、すでにいくつかの大手銀行がこの業務から撤退している。クライアントクリアリング業務を行うディーラーが減ると、たとえば大手顧客や大手銀行が破綻した場合には、誰もそのポジションを引き受けることができなくなり、CCP自体がToo big to failとなってしまう。

もしこのインパクトがG-Sibスコアのみに影響を与えるというのであれば、資本賦課は増加するものの、何とか吸収できる範囲なのかもしれないが、その影響度合いは各銀行によって異なる。また、どの程度その資本コストを顧客に転嫁できるかによっても異なる。その意味では何事においても最終価格に反映させるのが難しい日本へのインパクトも無視できないのかもしれない。コメント期間は11/30までとのことなので、今後の議論に注目が集まる。

社債担保の国債レポ

昨年9月のGiltショックで、多くのファンドが手持ちの英国債の売却を余儀なくされた。急激な金利上昇によって固定金利を受けていたファンドが金利スワップの負けポジションをカバーするために、現金担保の拠出を求められたからだ。

これを受けてファンド側では、担保契約であるCSAにおいて現金ではなく、国債や社債を担保に出せるようCSAの条件変更を銀行に依頼するところが増えた。だが、担保を変更すると取引自体のValuationが変わってしまうため、取引から損失が出たり、その後の取引のコストが上がってしまうというデメリットもあった。

今回BlackRock等が英国債のレポ取引の証拠金に社債を含むことを模索しているという報道があった。社債を担保に資金調達をする社債レポではなく、国債を担保に資金調達をする国債レポだが、その変動証拠金に社債を使えるようにしたというものだ。当然CSAでカバーされる金利スワップと同じようにレポについても担保条件が変わればValuationが変わるはずである。しかし、昔からレポ市場とデリバティブ市場の分断があったため、レポの担保に社債を使う方が受け入れられやすいのかもしれない。

当然理論的には全くおかしな話なのだが、当初CVAデスクができた頃は、通貨スワップや金利スワップからクレジットチャージの導入が進み、その後為替やコモディティなどの他の商品に拡がり、レポは蚊帳の外だった。レポの場合は、契約もISDAではなくGMRAで取引されており、別扱いされることが多かった。CVAトレーダーもレポに関してはコストをチャージするところは少なく、会計上もレポ取引にCVAなどの評価調整を入れているところは少なかった。当時は無担保取引にフォーカスが当たっており、ThresholdがゼロのCSAで行われる取引についてはCVAが無視されることも多かったので、レポについても同様の感覚だった。というよりはCVAトレーダーがレポ取引のリスクを取るところは少なく、レポトレーダーが自らリスク管理をしていたというのも大きな理由だろう。

その後CVAがXVAへと広がり、様々な取引についてXVAを考慮するのが一般的になり、当然レポ取引についても同じような扱いをするのが当然だろうということになり今に至っている。それでも、レポのヘアカットはデリバのIMより少なかったり、XVAを細かくプライシングする慣行がなかったりと未だに別扱いが継続しているところが多い。したがって、レポ取引の担保に社債を受け入れたからといって、Valuationを変えないところも多いのではないかと推測される。つまりISDA/CSAではできなかったことがGMRAなら若干の文言修正を入れれば簡単にできてしまうということである。BlackRockなどがこれを狙って社債の受け入れを進めているかどうかは定かではないが、意外と市場に拡がっていく可能性がある。

一応受け入れる社債にはA-以上といった格付制限があり、20%を超えるようなヘアカットが適用される。取引コストもそれなりに要求されるだろうが、それでも担保不足から突然資産売却を求められるよりはましである。社債レポによって直接ファンディングをするよりはコストが安いとのことである。市場が効率的であればこのようなことは起きないのだろうが、レポのXVA、当初証拠金の徴求(IM vs ヘアカット)、担保条件のプライシングなどが整合的に行われていないため、このような裁定機会が生まれてしまうのだろう。まあ短期だからValuationの違いは少ないため目をつぶってしまっても大きな影響はないというのが本音なのだろうとは思う。

G-SIBsスコアの計算方法のマーケットインパクト

7月28日に米国FRBから、G-SIBsスコアの計算に年末ではなく日々の平均を使うという提案がなされた。もともとレバレッジ比率などでは既に日々の平均が使われているので、これ自体は驚くことではない。これによって年末にレポが逼迫することがなくなるだろうが、常にレポのバランスを気にしなければならないため、全体としての流動性に対する影響を懸念する声も聞かれる。最速で2025年からの適用となるようだが、今後のマーケットインパクトにも注意が必要である。

特に気になるのが、金利スワップなどのデリバティブ取引に対する影響だ。金利指標がLIBORだったころはレポからの直接のインパクトはなかったが、現状ではRepoレートがSOFRのインプットになっているためレポ金利の変動はデリバティブにも波及する。金利変動が激しくなると、CCPのIMやSIMMのIMが増えることとなる。そしてその影響がしばらく続くことになるので、過度な金利変動は望ましくない。CCARなどのストレステストにも影響するので資本に対する影響もある。

最近のマーケットを見ていると、2020年春の米国債、昨年9月の英国債、各種コモディティの価格乱高下など、大きな市場変動が多発している。そしてこれらの市場変動が起きると、当初証拠金や銀行の資本充分性に対する懸念が高まる。証拠金の引き上げや資本規制強化をお行うと、更に銀行のマーケットメーキングが困難になり、市場流動性が枯渇し、更に市場変動が増幅するという悪循環になっているように思う。当然銀行破綻が起きてはいけないので、資本規制強化は避けられず、CCPの安全性が揺らいでもいけないので証拠金引き上げもやむを得ない。

なかなかこの問題には解決法が見つからない。個人的に考えられるのは以下のような策だろうか。

  • 価格統制(サーキットブレーカーや価格変動上限などによる市場変動の抑制)
  • 証拠金の負担分担拡大(銀行のコミットメントラインや保険会社の利用)
  • 介入(為替介入や日銀の国債買い入れなど)
  • 証拠金決済期間(MPOR)の短縮(ブロックチェーンなどを使った決済の高度化)

いずれも完璧な解決法ではないのだが、このまま証拠金や資本賦課を上げ続けていくと、どこかで限界が来るような気もしている。その意味では過度の市場変動を避けている日本というのは、優等生なのかもしれない。SIMMにおいても円金利は低ボラティリティに分類され証拠金負担が少ない。過去に過度な変動がないのがその理由だが、これが円金利スワップの取引コスト抑制につながっている。米国や英国と比べると市場変動に対する懸念と対策強化が進んでおり、これを市場操作と批判する声もあろうが、デリバティブ市場には好影響を与えているのは確かである。

あとは商業銀行や保険会社による負担の分散化である。そもそもデリバティブ市場参加者は何かあった時に巨額の現金を負担することに長けていない。こうした極端なマーケット変動に備えてコミットメントラインを持っておくのも重要な解決策の一つとなり得る。特にCCPなどでは銀行の信用状(LC、LOC)を適格担保にしているので、実際に現金を動かすことなく商業銀行が資金仲介の役割を果たすことになる。保険会社がこの支払いを保険でまかなうこともできるかもしれない。

上場商品であればサーキットブレーカーや、ニッケル問題の後に導入されたLMEの日々の価格制限なども過度な市場変動を抑える効果はある。如何せんマーケットでは過剰反応やオーバーシュートが起きがちなので、ある程度の対応は正当化されよう。

最後の決済期間短縮は技術的な解決策である。現状のように10日分のリスクをベースに証拠金を決めたり、資本規制を強化するのではなく、担保決済やクローズアウトに至る期間を短縮化することによって、証拠金水準を下げようというものである。

いずれもかなりの紆余曲折がありそうだが、証拠金や資本規制強化による対応だけではそろそろ限界が来そうな気がする。

CDSのDC問題

以前から問題にはなっていたが、CDSのDC(Determination Committee)のバイサンド参加者が減っていることがニュースになっている。DCはCDSのBig Bangによって設置されたデフォルトの認定を行う決定委員会(Credit Derivatives Determinations Committee:DC)である。以前はこのクレジットイベントの認定は当事者間に委ねられていたが、これをDCの下で業界横断的にクレジットイベント認定するようになったものである

導入当初はメンバーになるべく働きかけを行っていたところもあったようだが、結局このような公の場で自分のポジションに有利な主張をするのは難しく、特に規制やコンプライアンスの厳しい銀行では、当然トレーディングポジションに基づいた発言ができないよう、法務部門担当者がDCに参加し、トレーディング部門との情報遮断も行われた。

初期の頃はフロント部門でも議論の内容に興味を持つものが多かったが、結局議論をするというよりは法律の解釈に従って決定するだけなので、次第に関心が薄れていった。コンプライアンス的に問題にならないよう慎重に外部弁護士と相談するところもあったが、結局これにはコストがかかり、業界のためにコスト負担をするという側面が強くなっていった。当初はCDS取引に詳しいフロントやオペレーション部門の担当者の参加もあったように記憶しているが、今ではほとんどが法務部門の参加者になっており、CDSの市場について議論をするというよりは法的な文言についての議論が大半を占めているものと思われる。

ここまでくると、各社から代表を送る意味があるのかという議論も持ち上がり、本音を言えば抜けたいというところが多くなっている。結局この情報を使って取引を行い利益を得ることは不可能であり、自分のポジションに有利なように議論を誘導することも不可能である。LIBOR問題などもある中、参加者間で結託して議論の方向性を変えようと思うところがあるとは考えにくい。一方準備や法的分析、社内コンプライアンス対応なでのコストは大きい。業界でコストを出し合い、法律事務所などにアウトソースしても良いのではないかと思う。

委員会の構成としては15人のうち5人がバイサイドとなっているが、今ではこのバイサイド席の2つが空席になっていると報じられている。公平性を期すためにバイサイドを加えたのだろうが、銀行ではないからといってポジショントークができるとは思えず、銀行のような大規模な法務コンプライアンス部門を持たないところにとっては、負担が大きすぎるのだろう。このような状況でバイサイドが法律主体の議論に参加できるとは思えず、参加自体に意味がなくなっているように思う。

そういう意味ではCCPの破綻管理委員会なども同じで、業界を支えるために銀行から出席者を送らざる得ず、税金や参加料のようなイメージになっているのだろう。昨今の規制環境下においては、レートを提出したり、市場にインパクトのある事柄に意見するようなことは極力避けたいというのが銀行の本音であり、そこで市場操作を画策することは不可能である。銀行サイドでは、こうした委員会への参加について厳しいポリシーを策定しており、その発言内容も細かく精査される。DCについても早晩見直しの議論が持ち上がることになるのだろう。

TPRM (Third Party Risk Management)

通信記録保持義務違反に関連してNFRの強化が図られているという記事を昨日Postしたが、同様に外注ベンダーなどのリスクを管理するTPRMもグローバルでは必要以上に厳しくなっているものの一つである。

コンサルティング、各種業務委託、会計、税務、IT、データー入力といった外注のほかに極端に言うと清掃、受付、警備など様々な外注が行われている。10数年前であれば、便利なサービスがあれば使ってみてその意義を検証するということが容易にできたが、昨今では、こうしたベンダーから膨大な資料の提出を求め、厳密な審査とレビューを行わなければサービスを利用することができない。

通常こうしたベンダーの中にはベンチャー企業も多く、膨大な資料提出に対応が難しいところも多い。たとえ手間とコストをかけて、その資料をすべて提出したとしても採用されるとは限らず、結局大手独占を助長してしまうように感じる。

リーマンショックやアルケゴスショックなどを経て、Finandcial Riskのリスク管理強化が行われるのは理解できるのだが、最近はありとあらゆることを規制で統率しようとしているため、技術革新の妨げになっているように感じる。NFRやTPRMを担当する人員も数多く採用しているので、当然担当者は真面目に仕事をしようとする。こうして社内の統制がどんどん厳しくなっていく。

まだ日本はましだと思うのだが、海外業務を手掛ける場合は、先日の通信記録保持違反の罰金のように影響を受けてしまう。

今回は6/6に米国当局からTPRMに関するガイダンスが出されており、特にフィンテックに関する締め付けが厳しくなりそうだ。今回のガイダンスは、最近の流行りではあるのだが、リスクベースアプローチが取れらているため、何が許容され、何が禁止されているかという細かい規定はない。銀行が自ら考えてコンプライアンスプログラムを作成し、問題が起きないように考えてほしいというガイダンスだ。

ある意味正しいやリ方なのだが、こういった場合に問題になるのはいわゆる「横並び」の必要性である。通常こうした新しい規制が始まるとコンサルティング会社などがアドバイザーとして入り、そしてコンサルには各社の対応状況が蓄積され、何となく業界スタンダードが出来上がっていく。しかしこうしたコンサルを使っていないと、いつの間にか自分だけがOutlierになっていまっているということもありうる。特に米国外の銀行の場合はなおさらだ。

米国では、これを受けてコンプライアンスプログラムのレビューが進んでおり、小規模のフィンテックが市場から締め出されているという報道も見られる。

リスクベースアプローチをとっていると、銀行によってはすべての点において保守的な対応をするところも出てくる。そうすると、これまでのように、革新的なサービスを思いついて起業したとしても、コンプライアンスの負担に耐えかね、どこからも契約が取れないということもありうる。いずれにしても、あらゆる規制が金融業界にInnovationを起きにくくしているように思える。とは言っても米国規制の影響は無視することはできないので、日本の金融機関もある程度の対応をしておかないと、突然罰金をかせられるということにもなりかねないので注意が必要である。

Non Financial Riskの重要性の高まり

海外の金融機関においては、様々な仕組みが業界横並びで導入されることが多く、以前であればXVAデスクなどの構築が業界全体で進められたが、昨今ではNFR(Non Financial Risk)に関する部門を作るところが増えてきた。特に米国では、ある程度当局の指導が入るのと、転職が多いため同じような部門が同時期に作られたりすることが多いが、最近はNFRリスクマネジャーの募集広告なども数多く見かけるようになってきた。

NFRとは文字通りNon Financialなので、市場リスクやカウンターパーティーリスクなどのようにVaRやストレステストなどによって計量的に分析するリスクではなく、もう少し定性的な要素が大きくなる。もともとバーゼルでオペレーショナルリスクの定量化の流れの中で、定性的管理と定量的管理を分離した上て定性的なリスクを一元的に管理するようになってきており、これを担当するのがNFRということになっている。

日本語では非財務リスクと訳されるのだが、何となくこの訳はしっくりこない。市場リスクやカウンターパーティーリスクを財務リスクとしてまとめることに違和感があるからだと思う。いずれにしても、このNFRはこれまでのオペレーショナルリスクとは異なり、コンダクトリスクやコンプライアンスの側面が大きくなる。

別の記事に書いたWhatsAppを使った通信記録保持違反などもこのNFRの範疇となる。これが100億円ちかくの罰金につながることがあるので、無視できない水準になってきたため、それを専門的に管理する部署を作ろうということだ。その意味では当局の規制が作り出した部署と言えなくもない。このほかにサイバーリスクや、危機管理に関するリスクもNFRの範疇となる。

このNFRを3線管理と結び付け、フロントの1線にNFR担当を置くところが多くなってきた。2線は特に新たな部署を作るというよりは、リーガル、コンプライアンス、2線のオペレーショナルリスク担当がカバーするところが多い。このように外資系ではNFRの認知度が上がりつつあるが、日本の罰金がそれほど大きくないので、わざわざ日本ではリソースを割くまでもないかもしれない。しかし、ここまで規制がボーダレスになってくると今回の通信記録の件のように海外現地法人が巨額の罰金を科せられることにもなりかねない。過去の流れを見ていると今後は日本の金融機関でもNFRというファンクションの拡充が図られていくことになるのかもしれない。

個人携帯利用に対する当局の温度差

個人用携帯で顧客とやり取りをすることがグローバルで禁じられてから5年くらい経つが、さらなる制裁金のニュースが出ており、今回はSMBC Nikkoやみずほ証券の米国法人も罰金の対象となっている。

5年前にグローバルで指導が入った時は、ここまで厳しく規制されるとは思っておらず、現場でも禁止命令を重く受け止めない風潮もあり、顧客からWhatsAppやインスタントメッセージで連絡が来てしまうから仕方がないではないかという反発も強かったと報じられていた。

しかし、そのうちに多くの金融機関従業員がこれを理由に解雇されるというニュースが増え、疑わしい行為は避けるという意味で、個人用携帯の利用は全面禁止としているところが多くなった。日本では営業担当と顧客がLineでつながることも多く、長年の顧客になると友人と顧客の区別もあいまいになり、今度飲みにでも行きましょうか、ゴルフでも行きましょうかという連絡が入ってしまうこともあるが、これも完全にアウトとしているところが多いだろう。

最初のうちは、顧客からLineが来てしまった場合は、会議に少し遅れますといった業務外の内容ならOKとか線引きをしていたが、これをいちいち判定する方も面倒で、そのうち顧客から仕事関係の内容が来てしまうこともあるので、今では全面禁止としているところが多いと思われる。それほど米国では通信記録が残せないというのは一大事として扱われている。日本では規制でここまで問題視されるという雰囲気はあまり感じられず、金融機関のみならず業務にLineなどを使っているところはかなり多いものと推測される。

インスタントメッセージを会社で記録できるようにしたりという努力も行われてきたが、日本は通信事業業者に通信記録保持の義務がないため、実質的には不可能である。

この辺りは、国の仕組みに応じた柔軟な対応をしてもらえると良いのだが、こと通信記録に関しては米国のやり方がスタンダードになりつつあり、日本人的には信じられないような他愛のない会話が大問題に発展してしまう。罰金の金額も日本の罰金に比べると格段に大きい。

電話の録音ももちろん、Zoomなども海外金融機関では記録できるようなカスタマイズをしているところも多い。それを何か問題があった時はすぐに当局に提出できるようにしておかなければならない。日本の金融機関でも、特に海外ビジネスを手掛けるところは、こうした仕組みを構築しておいた方が得策だろう。

レポ取引のヘアカット問題

CVAの黎明期は、金利スワップ、通貨スワップなどのデリバティブ取引を中心にチャージを計算しており、その後為替、コモディティと対象を広げてきた。その中でレポについては歴史的にCVAという概念がなかった。したがって、レポのカウンターパーティーリスク管理のみ担当部門が異なっていた銀行が多いものと思われる。

昨今ではすべてのプロダクトを扱うようになったため、スワップのIMに相当するレポのヘアカットも同じような計算をした方がよいという話が出てきている。しかし、レポに関しては昔からの慣行で国債のレポは2%とか5%のように単純に決まっており、金利スワップのように、年限毎に異なるIMを取ることが難しいことも多い。また、証拠金規制のように双方が担保を出すというよりは、一方のみが担保を出すような形になっている。

とはいえ、10年スワップのリスクと10年Underlyingのレポのリスクはほぼ似たようなものなので、本来はスワップのIMと10年債参照のレポのヘアカットは同じようなレベルになるはずなのだが、相対取引だと過去の経緯もありこれがなかなか難しい。

一方CCPでクリアリングする取引の場合は、同じようなVaR方式を使っているため、IMは同じくらいになっている。したがって、レポをクリアリングすると必要担保額が増えてしまうので、相対で取引をしたいという市場参加者が増えてくる。レポに清算集中規制がないのでなおさらである。資本コストを気にする銀行サイドとしては相対でレポを行うとバランスシートを使い、レバレッジ比率の悪化を招くので取引がしずらい。こうして世界で最も流動性があるはずだった国債のレポの使い勝手が悪くなり、ひいては国債の価格変動や流動性低下を招くことになってしまう。

特に、昨年大きな金利変動のあった英国債のレポの担保が著しく引き上げられている。長期の物価連動国債のIMに至っては25%にも達すると言われている。相対でレポをすればヘアカットは2%なので、極力クリアリングを避けようという市場参加者が増えても不思議ではない。

通常はProcyclicalityの観点から、IMが急激に上がったり下がったりするのは望ましくない。そのため、Volatiltyにフロアを設けたり、過去最大の市場変動や架空のシナリオを追加することにより、市場が落ち着いた時にもIMが下がらないような仕組みが検討されてきた。今回は全く逆で、Giltショックによって上がりすぎたIMを何とか早くもとに戻せないかということでLCHが何らかの変更を検討しているとのことだ。

ただ、あまりにIMの水準を低くすると99.99%のように決めたバックテストの基準を下回ってしまうので、バランスを取るのが難しい。だが、25%のIMというのはかなり大きく、クリアリングを使うインセンティブがなくなってしまうことから、これを引き下げるような変更が行われると予想される。やはりリスク管理の基本に立ち返って、Expected LossまではCVAでカバーし、99%などのテイルまでは担保でカバーし、それ以外は資本(CCPの場合は清算基金)でカバーするというのが王道なのかもしれない。