資本規制によって銀行の対応が異なってきた

米系大手銀行はすべてSA-CVAを採用し、高度なCVA管理を進めている。3月のバーゼルIII最終化案でもCVAコストが高くなることが確実となったため、SA-CVA一択という方向性はさらに強まっていくことになる。

欧州でもデリバティブの取引量の多い大手行はSA-CVAを適用するケースが目立つが、ソブリン、事業会社や年金基金に対するCVA免除もあるため、CVAリスクを完全にヘッジせず、BA-CVAを選択するところも多い。

欧州でCVAが一部免除されるのは、為替や金利のリスクヘッジを活発に利用する事業会社が多く、CVA資本を大きくすると、それを銀行がチャージすることにより事業会社が不利になるためと言われている。ソブリンも年金基金も国民生活に悪影響があるということでCVA免除となっている。これを言い出すと何でも緩和できそうだが、欧州では、事業会社向けのコストをある程度銀行が負担しており、取引先破綻時には信用損失が発生しやすいという構図になっているとも言えよう。

一方米国ではこうした例外は一切なく、規制緩和の方向にある昨今でさえ、CVAに対しては厳しい態度が継続している。米国版アウトプットフロアであるColins Floorも廃止されることとなったため、ますますSA-CVAの重要性が高まる。SA-CVRを使うためには資本計算でSA-CCRを使っていることが前提となるが、米銀はIMMが使えなくなり、原則SA-CCRがデフォルトなので、SA-CVAを使うのは極めて自然である。CVAヘッジも日々行っているので、その慣行に規制資本の計算も合わせにいくというのは理にかなっている。

欧州ではカウンターパーティー信用リスクの計算に内部モデル方式(IMM)を使っているところが多いため、CVAの計算自体は問題なくできるはずである。しかし、IMMの継続利用が容認されており、事業会社などへの免除も広範囲に認められるため、BA-CVAのままでいいというところも多いのだろう。しかし、この状態が続くと、米系や一部欧州銀がリスク管理をますます高度化させ、リスクのヘッジも精緻に行っていくようになるのに対し、多くの欧州銀行のリスク管理の発展が停滞してしまうのではないかという懸念もある。

こうした銀行の対応の違いが規制によって起こっているというのは興味深い点である。大手行のリスク管理担当に聞いても、リスク管理上何が正しいかは明らかであるものの、実際の規制によってそれを曲げることは、普通に容認されているようである。

本来であればバーゼルなどの国際基準が幅広く導入されれば、常に共通のルールの上で、システミックリスクを抑えながら金融の安定を達成できる。しかし、国民生活を守るためといった理由で、規制は変更可能であり、自国主義が強まった現在では、こうした傾向がますます強くなってきてしまっている。この弊害は次のリーマンショックが発生して初めて明らかになるのだろう。

リスク削減取引の清算義務免除が進展

既に欧州とオーストラリアで認められていたPTRR (Post Trade Risk Reduction) 取引に関する清算義務免除が、米国でも認められることになった。先週6/17に度米国CFTCからもNo Action Letterが出されている。UKも、英国中銀に清算義務免除を認める権利が定められており、同じような免除が検討されている。欧米で足並みがそろい始めたため、いよいよ、本格的にグローバルでのリスク削減が進むことになる。

これは、相対取引でA銀行との取引が増えリスクが集中してしまった時に、そのリスクをB銀行へ分散させ集中リスクを減らすためのサービスである。この際、金利リスクをA銀行からB銀行へ移す際には、A銀行との間で既存リスクを相殺する金利スワップをブックし、B銀行との間でもとの金利スワップをブックするのが簡単である。しかし、ここで金利スワップを使ってしまうと、それはCCPで清算しなければならないので、自社とCCPとの取引に置き換わってしまい、A銀行からB銀行へのリスク移転は不可能ということになる。

これを解決するため、グローバルでは金利のスワップションが使われているが、これはPayerとReciverの組み合わせとなるため、取引元本が2倍になったり、リスク削減の効率が落ちるという問題がある。

今回米国での免除が実質的に認められたことから、例えば海外で幅広く行われている当初証拠金削減などにおいて、スワップを使ったリスク移転が可能になる。通常は、リスク削減を行う金融機関は、カウンターパーティー毎にIM増加の許容額や、どのカウンターパーティーとリスク削減取引を行えるかを指定できることになっているが、米国とEUの銀行とは、わざわざスワップションを使わなくても良くなるので、想定元本を増やさずにIMの削減効果を上げることができる。両者がスワップをブックできなければならないので、欧州とオーストラリアのみに免除が認められていた従来はなかなか運用が拡がらなかったが、これに米国が加ったのは大きい。

ここで懸念されるのは、免除のない国のカウンターパーティーの場合は、これまで通りスワップションを使う必要があるため、相対的に削減効率が悪化し、取引想定元本が増えG-SIBスコアやSLRが悪化してしまう。参加者によっては、こうしたカウンターパーティーを敬遠するところが出てこないとも限らない。昨今では担保コストをプライシングに入れるIMVA、MVAといった慣行が拡がっているため、IMがより多くかかってしまうカウンターパーティーが敬遠されるという懸念もある。

とはいえ、現在こうしたリスク削減を行っている参加者の多くはこの免除の恩恵を受け始めることができるので、グローバルな金融システミックリスクの削減には資することになるだろう。

FRTBの延期が広がってきた

米国案が緩和方向に傾いていたため、欧州の銀行が競争上不利にならないよう、2029年末まで最大3年間延期される方針が決定した。本来2027年1月から全面的に適用される予定だった市場リスク資本規制を先送りされることとなった。

英中銀がFRTBの実施を2028年まで延期したのに続く措置で、各国で導入延期や規制緩和への動きが続いており、これらの基準が明確になるまで時間が必要との判断のようだ。先に導入してしまった日本としては歯がゆいところかもしれないが、海外ほどには、現場の日々のトレーディングにおいて資本コストが問題になることが少ないためか、市場へ大きなインパクトは出ていないようだ。ただし、海外との競争にさらされる海外現法や、外資系との競合が大きいところにとっては、潜在的には問題になってくるものと思われる。

欧州の3年間の延期措置は、欧州委員会だけでなく、ECBやEBAとの合意のもとで進められているようで、問題が広く共有されているようだ。今後6カ月以内にEU加盟国政府または欧州議会によって拒否されない限り、この2029年末までの延期スケジュールが確定するが、おそらく反対意見はないだろう。

より懸念されるのは、今回の延期に合わせて、EUが米国案を睨みながらFRTB規制そのものが大幅に修正されるというシナリオである。今回も、単なる期間の先送りだけでなく、FRTBを適用した際に発生する銀行の資本負担増(欧州銀行管理局の試算では市場リスク資本が平均30%、一部で最大80%増加)を相殺するための、独自の調整係数マルチプライヤー導入の話もあり、結局資本に対する影響を無くすような方向の話も出ている。したがって、ルール自体は導入されるものの、実質的な資本コスト増はゼロを目指すというものである。

さすがにここまでくると、既に導入してしまった国からの方針変更が出てきてもおかしくない。カナダなどもアウトプットフロアの引き上げを一旦停止しており、シンガポールやスイスなどからの批判の声も聴かれる。これは何も金融に限ったことではないが、何といっても米国が自国優先に走っていることが大きい。とはいえ、金融危機で起きればまた一気に雰囲気が変わる可能性も大きい。しばらくは様子見の状態が続くのだろう。

米国レポ市場における米系の復活

米国規制緩和の影響が日々の取引に表れ始めてきた。まずは米国レバレッジ比率規制であるSLRの緩和によって、米系のバランスシート制約の余裕が生まれたことにより、米系のレポ取引が増えている。このブログでも過去に何度か紹介したように、米国MMFとの取引においては、フランス、カナダ、日本などの銀行がシェアを伸ばしており、メインであるべき米系金融機関のシェアは低位に止まっていた。

各種バランスシート規制と、規制資本対比のリターンの低さから、米国の取引でありながら米系銀行が取引できないという皮肉な状況が続いていた。しかし、3年ほど前から米系が徐々にシェアを伸ばし、直近では過去最高を更新し続けている。15年前くらいには米系のシェアが3割程度のシェアだったのだが、ものが、2022年頃は5%近くにまで下がっており、BNPパリバなどの欧州系の独壇場となっていた。しかし、それ以降米系のシェアが復活し、再び3割近いレベルにまで戻ってきている。バーゼルIII最終化案が3月に出てから、この傾向に拍車がかかっているようにも見える。つくづく規制の影響は大きいということを再確認させられる。

https://www.financialresearch.gov/short-term-funding-monitor/datasets/mmf-single/?mnemonic=MMF-MMF_RP_wDFI-M

ちなみに、FICCで清算される取引も以下のように着実に増えており、これはスポンサーモデルの影響が大きい。FICCのシェアは約4割程度になっているが、これには米系がスポンサーモデルによって持ち込んだ取引も含まれているので、米系のシェアはさらに高くなる。米国債レポの清算集中義務化が始まれば、このシェアがさらに高くなる。

https://www.financialresearch.gov/short-term-funding-monitor/datasets/mmf-single/?mnemonic=MMF-MMF_RP_wFICC-M

個別の銀行のデータをOFRのデータから確認してみると、米系はほとんどが取引を増加させている。特にJPMの増加が著しい。CCPへの集中に併せて、各種オペレーションプロセスの自動化やシステム化を進めているので、薄利多売ながら地道に収益を上げるという、株式取引や短期の為替取引と同じような方向になっていくのだろう。

特に米国はオーバーナイトの取引、しかも双方向のネッティングが効きやすい取引が多いため、大量の取引を効率的に処理する能力がキーとなる。米系がバランスシート制約により食い込んでいなかった頃は、マニュアル対応でもある程度ビジネスが伸ばせたが、今後は装置産業化が進むと思われるので、システム投資が圧倒的に少ないところは、さらにシェアを失っていくことになるだろう。