米国債取引の清算集中

SLR(補完的レバレッジ比率)の計算から米国債を除くという一時的免除措置の期限が切れた際に、同時にSLRの改革を検討するとのアナウンスメントがあり、市場参加者の注目を集めた。未だその内容については、詳細が公になっていないが、一つの案としては米国債のCCPによる清算がある。

米銀数行が免除措置の延長が行われなかった影響を公表していたが、レバレッジ比率にして1%近い影響があった。これはかなりの影響であり、いかに免除措置のインパクトが大きかったかを物語っている。

米国政府の景気刺激策がかなりのサイズになっていることから、今後も米国債の流通市場の活性化は重要な課題となることは間違いない。現状は、Wells Fargoがスキャンダルの影響で資産規模の拡大を制限されており、市場にストレスがかかれば、以前のように米国債の流通に支障が生じる可能性は捨てきれない。

CCPで清算をすることによって、取引相手が信用力のあるCCPに変われば、資本賦課が減ることになり、銀行が米国債やレポ取引を行いやすくなる。そして、CCPを経由した取引については、SLRなどのバランスシート制約が軽減されることになるものと思われる。つまりSLRの悪化無しに米国債取引を継続することが可能になる。

政治家や当局の意見は二つに分かれているようだが、CCP化の反対意見の方が、若干理論的に弱いように見える。破綻時には納税者に損が押し付けられるという論調も目立つが、税金投入を前提としたCCPは一般的ではない。通常は十分な証拠金を取った上で、参加者が拠出する清算基金、CCP自身の保証金や資本で、かなりのストレスに耐えられるように設計されている。

この辺りの議論が進むと、銀行サイドにはあまり反対する理由もないことから、米国債取引はCCPに移っていくことになるものと予想している。技術的にはそれほど難しい話ではないので、比較的早いペースで移行が進んでいくのではないかと思う。

LIBOR改革と清算集中規制

LIBORからRFRへの移行によって清算集中義務がどうなるか、SEFやETPの対象取引にどう変更があるかということが、そのうち議論になってくるものと思っていたが、やはり最初に動いたのは英国で、清算集中義務の範囲をどうするかについての市中協議が開始された。締め切りは7/14となっている。

JPY LIBOR SwapについてはLCH等の一括変換直後の12/6からは清算集中義務から外れるとされている。すべてのLIBOR Swapが年末に公表停止となる前に、段階的に清算集中義務から外れることになる。そして新レートのスワップに清算集中義務が課せられていくこととなる。

新レートとしては、EURがEONIAが€STRに、GBPがSONIA
へと変更されるが、JPYについては、清算集中義務から外れるとしか書書かれておらず、後継指標の指定がない。

多くの国で一つのRFRへの移行が進む中、日本の金利市場では異なるアプローチが採用されており、現時点では、どのベンチマークが日本円Liborに代わって標準となるかはいまだ不明というのがその理由のようだ。そしてドルと円については、引き続き清算集中義務の範囲についてレビューを継続するとある。

円については、現段階では1つのベンチマークから別の単一のベンチマークに行われるとは考えられないため、流動性や取引量が円Liborからどの契約に切り替わるかは判断できないと書かれている。おそらくOISと同程度の取引量となっているTIBORが念頭にあるのだろう。

確かにシステム対応の遅れやヘッジ会計についての整理が終わらないために一時的にTIBORに流れることはあるだろうが、デリバティブ取引において、TIBORがLIBORの完全にとって代わると考えている日本の市場参加者は少ないのだろうが、外から見ると不明ということになるのだろうか。

後は日本の金融庁からのTONAの清算集中義務についてのアナウンスメントが待たれる。5年、7年、10年のLIBORスワップが対象となっている電子取引基盤規制の変更も必要だ。現状に鑑みると、12月に切り替えが行われるというのが最も自然に思える。いずれにしてもCCPで清算が不可能になれば清算集中もできないので、同じく12/6になると考えるのが普通だろう。そうするとETPの指標切り替えもこの辺りになるのだろうか。もしかしたら流動性がどうなるかわからないので、一定期間清算集中規制が適用されない空白の時間ができたりする可能性もあるのだろうか。

いずれにしても今年は忙しい年末となりそうだ。

4月のRFR移行指標公表

4月のISDA-ClarusのRFR Adoption Indicatorが10.1%と発表された。3月の8.7%よりは上がったものの、昨年後半に10%を超えてから本格的な増加がみられない。その中でもUSDが7.5%になったのは朗報ではある。CHFが16.7%へと急上昇しているが、JPYについては、3.9%と依然さえない移行状況となっている。GBPは順調に50%を超え、ほぼ問題なく完全移行が達成できそうだ。

LIBOR移行とは関係ないかもしれないが、それよりも驚いたのは全体の取引量が激減しているという点だ。ここ直近では最も取引量が少なくなっている。JPYも例外ではない(というより最も減少幅が大きい)が、雰囲気からすると5月も低調な取引量となっているように思える。

SOFR参照スワップの取引量がSONIAを超えているのも興味深いが、USDについても着々と移行が進み始めているように思える。CHFも順調に移行が進んでいる。JPYは大丈夫なのだろうか。

英国のRFR移行ロードマップ

英国では、Sterling RFRワーキンググループのRoadmapに従って、着々と移行が進んでいる。やはり何かきっかけがないとマーケットの慣行というのは変わらないものなので、こうしたタイムラインが明確に示されることが実は一番大事なのではないかと思う。ここで示されているのは、以下のようなプランだ。

  1. 年末のGBP LIBORの停止に向けた準備
  2. 後決め複利SONIAの拡大に向けた努力
  3. 3月末で新規LIBOR参照ローン、債券、証券化商品、スワップなどの線形デリバティブ取引の停止
  4. LIBORから変換が必要な取引を3月末までに洗い出し、9月末までに変換作業を終えるべく努力
  5. スワップションなどの非線形デリバティブ取引については新規取引を6月末で停止するとともに、9月末までに変換を完了すべく努力

こうしたタイムラインの他にもクォートのConvention変更の日程も明らかにしており、それによって金融機関が行動を変えている。こうしてみるとほとんどの移行作業を9月末までには終わらせるという目標になっている。

翻って日本の状況を見ると、1だけが同じである。つまり日本は最終目標は同じなのに、他のすべての点において後れを取っている。米ドルは最終目標地点が18か月先なので、最も遅れているのが円である。

3については、LIBOR参照貸し出しの新規停止が日本では6月末なので3か月遅れ、線形デリバティブ取引については9月末なので半年遅れとなっている。

この英国のロードマップの中で、GBP LIBORにリンクしたレグを持つ通貨スワップの新規停止については、During Q2/Q3という言い方になっており、注にある細かい文字のところを見ると、It is acknowledged cross-currency RFR markets currently remain nascent, and that further developments will be necessary in 2021と書かれている。つまり、RFR通貨スワップについては、まだ移行の初期段階であり、厳格なタイムラインを示すまでには至っていないということのようだ。

したがって、GBP LIBOR参照取引の金利スワップは3月末、スワップションは6月末で停止となるが、通貨スワップについては9月末まで新規取引が行われる可能性があり、当然そのリスクヘッジとしての金利スワップがあれば、それも継続されるという理解になるのだろう。

ディーラーからすると、自分は顧客のフローを受けているだけだから、顧客がRFRレートの取引を依頼してこないと移行できないと言い、顧客サイドからすると、RFRの流動性が上がらないと移行できないと言い、お互いに何もできずにそのままになっている気がする。現実的には、流動性もないのに顧客がRFRで取引をしてくるとは思いにくいので、こうしたロードマップが示され、それを遵守すべく業界全体が動くというのが最も重要かと思う。

ARRCがCMEをターム物SOFR管理者として選定

先ほど(NY時間5/21)、ARRCがフォワードルッキングなターム物SOFRの管理者としてCMEを選定したと発表した。あとは5/6にARRCが示したガイドラインを満たすほどにSOFRの流動性が上がってくることが完全推奨の条件となる。AmeriborやBSBYなどの代替レートが注目を集めてはいるが、やはりARRCとしてはターム物SOFRを推奨したいということだと思う。

個人的にはAmeribor等は地銀のローン中心に使われるレートになるものと思っていたのだが、バンカメがBSBY連動債を発行し、BSBY vs SOFRのベーシススワップが執行されたりと、意外とその利用度が上がってきている。正直SOFRを進めてきたARRCや当局も困惑しているのではないだろうか。

さて、今後の方向性だが、今回CMEを選定したとはいえ、完全推奨という訳ではないので、キャッシュマーケットのFallbackレートは後決め複利のSOFRとなる。そして流動性向上が認められればターム物SOFRが主流となる。

このウォーターフォールは日本も同じなので、第一順位はターム物、つまりTORFということになる。日本では流動性がないと問題という議論が海外ほどは聞かれず、TORFを使いたいという市場参加者が多い気がするが、先物すら満足に存在していない中、米国を追い抜いてターム物が主流になるとは、少なくとも今年中は考えづらい。

それにしてもCMEはさすがだ。色々なビジネスにおいて先見の明がある。日本で金利先物というとTFXとなるのだろうが、CMEはあまりにも巨大である。何とか日本でも金利先物を盛り上げられないものなのだろうか。不思議と日本では先物というと株式先物とコモディティというイメージがある。唯一JGB先物は長期国債先物だけが取引されているという状況である。このような状況でTORFが主流になるの日は来るのだろうか。

GBPとJPYのLIBOR移行スピードの違い

英国のRFRの検討体のガイダンスでは7/1からはスワップションなど非線形のProductについても新規のLIBOR参照取引が停止となる。そして、こうした商品のクォートのコンベンションが5/11からRFRであるSONIAへと変更になった。

これは英国中銀のガイダンスを受けたものだが、その直後の5/14にGBP4.8bnもの取引がDTCCに報告されたとのことだ。4月全体の半分くらいを1日で取引したことになる。今年の1月がGBP1.2bn程度だったことを考えると、非線形商品についてもRFRへの移行が加速してきたように見える。

スワップなどのLinear Productについては昨年の10月頃にQuoting Conventionが変更になっているが、そこから半年たってNon Linearの移行も加速している。今年12月末に向けて着々と移行が進んでいる。1月の段階ではほとんどLIBORだったものが、4月には半々くらいに拮抗し、5月にはSONIAが逆転した形になっている。おそらく予定通り7月1日からはRFRのスワップションへの移行が完全に完了することになるのだろう。

日本の場合は線形商品の新規LIBOR参照取引の停止は9月末なので10月から新規取引の停止となる。そこから2か月で、英国で徐々に進んできた移行を一気に行わなければならない。

本当に間に合うのだろうか。。。

望ましいCCPの破綻処理とは

英国で提案されたCCPの破綻処理が議論になっている。2月に公表された英国財務省の案は、CCPがデフォルトに陥りそうになった時に英国中銀に権限を与え、CCPの規則によらずに中銀が迅速に行動を起こせるようにし、金融システムの安定を図ろうというものである。

この提案では、清算基金のようなCCPの参加者への債務を帳消しにしたり、CCPの規則で認められた範囲を超えて追加資金を要求できるようになっている。この追加資金拠出は日本のCCPであるJSCCでも取り入れられている手法だが、無限拠出を避けるため清算基金と同額程度にキャップされていることが多い。まだ全文を読んでいないのだが、どうやら英国中銀はこれを2倍にまで引き上げようとしているようだ。さらに参加者破綻に起因しないデフォルト時には、VMGHが使えないので、これを3倍としている。VMGHとはVariation Margin Gains Haircuttingの略で、要は勝ちポジションを持っている参加者がそれをあきらめるというものだ。

思い起こせば、日本はもともと市場参加者にほぼ無制限に資金拠出を求められる無限責任の形をになっていたため、国際的に批判を集め一定のキャップを設けることになった。今回の英国中銀の提案は、昔の日本のやり方に一歩近づくということになる。

これに関しては様々な意見があろうが、個人的には、もしCCPが破綻するようなことになれば、大規模銀行の破綻と同じような市場混乱が起きるため、何らかの形で当局が介入してくることになる気がしている。その意味で無限責任に近い状況になる。日本の場合は無限責任といっても多くの金融機関を破綻さぜるようなことはないから、きっと日銀が介入して資金を提供するのではないかという憶測からか、当局には逆らえないからか理由は定かでないが、昔から無限責任が問題視されることはなかった。

ただし、海外の資本規制上は、将来的に損失や資金負担が発生するのであれば、それを資本計算や流動性に加味して業務運営をしなければならない。したがって、上限なしに資金拠出が求められれば所要資本が増加してしまうため、一定の上限が必要である。CCP破綻時の追加拠出を別扱いにして、資本、流動性規制上の数字に加味しなくても良いということであれば無限責任でも問題なかったのかもしれない。

今回の英国中銀の提案が所要資本の増加につながるのであれば、銀行にとってはたまったものではないだろう。いずれにしてもCCPの破綻規制と資本・流動性規制のバランスなので、本来であれば当局サイドが、すべてのピースのバランスを取った上で規制を決めればよいはずの話のように思える。

現状市場参加者は、CCPの規則に則って取引清算を行っており、その前提で資本計算等を行っている。中銀がこれらのルールを逸脱した権限を持つことが参加者にとってプラスになるのかマイナスになるのかは実際にそれが起きてみないとわからない。今回の文書上も参加者に過度の負担を負わせるものではないというコメントもみられる。NCWO(No Creditor Worse Off)というコンセプトで、CCPの株主、清算参加者が不利な状況に置かれたときに補償するという規定だ。

とは言え、やはりCCPを企業体として存続させるという意味においては、通常の企業と同じように資本を厚くするというのが本来のやり方なのであろう。CCP破綻時には国の関与が予想されるとは言え、国の資金を投入することに対しては世論の反発も出るだろう。特にリーマンの経験があるからか、海外では過度の資金投入は困難だ。CCPの資本という意味ではSIGまたはSITGと言われるCCPの自己負担分を増やしていくのが王道なのだろう。SIGはSkin in the Gameの略で、企業経営者が事業に自費をつぎ込む際にも使われる言葉だが、破綻処理において使われるCCPの負担分を指す。

参加者のリスクに見合った負担がIM(当初証拠金)、自分のリスクではないが全体のために負担するのが清算基金、CCPの負担がSIGとなるが、この3社のバランスが最も大事だと思う。国際的にこの3つの適正負担割合を決めるのが望ましいというのが個人的な意見だ。こうなると勝ち方負担のVMGHなどは本来は望ましくないのだろう。VMGHがあると、CCPに破綻可能性が上昇した時にメンバーがVMを減らそうと躍起になり、銀行の取り付け騒ぎのような動きによって市場変動が加速してしまう可能性も否定できない。

今回は追加SIGといった概念も提案されており、5月28日までコメント募集となっている。どのようなコメントが寄せられるか注目が集まる。

ドル円通貨スワップの新レート移管が待ったなしに

国内ではLIBORからの移行が遅々として進まない。日々LIBORスワップが行われており、JSCCのデータを見ていても、どちらかと言えばTIBORへ移管しているのかと思えるほどの取引量になっている。

とは言え、来年からはLIBORが公表されなくなるのは確定しており、10月以降は新規取引にLIBORを使うことが当局からも推奨されていない。あと半年を切っているというのに、10月以降もLIBORを使えるかという問い合わせすら入る始末である。

プロトコルさえ批准しておけばLIBOR移管は終了と思っている市場参加者も多いのかもしれないが、海外当局者がコメントしている通りプロトコルはシートベルトのようなものである。シートベルトをしているからと言って時速100㎞で壁に突っ込んで良いということにはならない。壁に当たる直前に減速するとか、ハンドルを切るとか、何か行動を起こす必要がある。

顧客資産を委託しているファンドなどは、ハンドルを右に切るのか左に切るのかといった判断を入れることが難しいので、壁に突っ込むしかないという事情もあるのかもしれないが、その他の参加者は直ちに行動を起こすべきだろう。もしかしたら最近取引量が減っているのは、壁に突っ込む前にスピードを減速させているということなのだろうか。

特に通貨スワップについては、ドルLIBORの存続が18か月間延長されたことから、2段階の壁が存在している。こんな面倒なことになるのなら、事前にハンドルを切って2度の衝突を避けた方が明らかに得策なのだが、自主的に早期変換を行おうという動きはあまり見られない。それでも新規取引でRFRを使った通貨スワップは徐々に取引はされ始めているようだ。

通貨スワップに関してはARRCから2020年1月24日に出された勧告に移管に関するある程度のガイドラインが示されている(日銀も日本語でコメントを1月31日に出している。)。ここでは、変換の仕方について以下の3つの選択肢が示されている。

当然新規RFR vs RFRの通貨スワップが大々的に取引されていないので、どの方法が主流になるかは定かではないが、何となく③の方法が多そうだ。つまり、元本交換と最終金利支払いが2営業日ずれることになる。為替のFixingの仕方や決済日が変わることもあり、システム開発が追いつかないので移管が進まないと言ことなのかもしれない。

本来であればこうした詳細をはっきり決めた上で各社がシステム開発を進めて、一斉に切り替えるというプロセスが理想なのだろうが、やはり金融市場においては、当局がここまで細かいところに立ち入るのも困難だし、銀行が主導してしまうのも何となく難しそうだ。やはりある程度のコンベンションができてから、それをルール化していくというやり方しかできないのだろう。

LIBOR存続が延長されたUSDだが、新規取引については7月からはLIBORの利用の自粛が求められている。つまりドル円通貨スワップについては後1か月半でTONA vs SOFRスワップにしなければならないということになる。SOFRとLIBORと異なる通貨スワップが同時に存続してしまうのは色々と面倒で、スプレッドは固定されたとはいえ、一応LIBOR vs SOFRのベーシスリスクも管理しなければならない。

そうなると後数週間で通貨スワップの主流はTONA vs SOFRスワップということになるはずである。その割にはあまりにも静かだ。ほとんどの人は気づいているはずなのに、このまま皆壁に突っ込んでいくのだろうか。

ARRCがターム物推奨の条件を提示

LIBOR代替金利として、相変わらずフォワードルッキングなターム物金利を望む声が強いが、ARRCがこの度ターム物金利を推奨するために考慮する市場指標を公表した。3月には、流動性が不十分であることを理由に、ターム物金利を推奨できないとコメントしていたが、不満の声が多かったのかもしれない。

条件としては以下の通りだ。

  1. SOFRに連動するオーバーナイトのデリバティブ取引量の継続的な増加
  2. SOFRデリバティブの流動性を高めるためにつくられたARRCのベスト・プラクティスに対する目に見える進展。
    a. SOFRスワップおよびスワップスプレッドの電子的なマーケットメークおよび執行の提供
    b. 米ドル建てデリバティブ取引のクォートの市場標準をLIBORからSOFRに変更すること
    c. SOFRに連動した金利変動商品(スワップション、キャップ、フロアを含む)のマーケットメーク
  3. SOFR平均にリンクした、ローンを含むキャッシュ商品(前決め、後決め共)の目に見える増加

英国でもターム物金利を推奨するには、新レートであるSONIA連動のデリバティブ取引の流動性が高まることが必要としている。流動性がない中で前決めのターム物を使うと、結局市場操作が可能になり、何のためにLIBORから移行したのかわからなくなってしまうからである。その点後決めであれば、流動性の高いオーバーナイトのマーケットで実際に取引された金利から決められるので恣意性がなくなる。

米国では、やはり金利が後から決まることを問題視している参加者が多いようで、これは日本とも同じである。ただ、米国ではAmeriborやBSBYなどの代替金利が生まれ始めるとともに、流動性のない中ターム物金利に移ることはできないという原則を保っている。この点日本ではなぜか、TONA Swapの流動性がない中、ターム物のTORFを盛り上げたいという声が多いような気がする。

ARRCの今回の推奨により、SOFR Swapの流動性が高まればターム物が使えるということが明確になったため、頑張ってSOFRの流動性を上げようという動きが出てくるかに注目が集まる。日本でも「TONA Swapの流動性が上がらないとTORFが支持できない」くらいの声明があってもよさそうなものなのだが。

決済短縮化の流れが決定的になってきた

SECの新議長となったゲンスラー氏が早速動き出している。金融危機時には銀行を目の敵にしていた印象を持たれていたたが、さすがに金融規制については熟知しており、今後の行動力に期待すら集まる。

その中で、ファイナンスとテクノロジーの融合の重要性を説いており、それに政策立案者がどう対応するかという点に注目していた。今年前半に見られた市場変動の要因として、彼は以下の7つを挙げている。

  1. ゲーミフィケーションとユーザーエクスペリエンス
  2. 支払いフロー
  3. 株式市場構造
  4. ショートセルと市場の透明性
  5. ソーシャルメディア
  6. Market ”Plumbing”:清算と決済
  7. システミックリスク

Market ”Plumbing”はマーケットの導管(マーケットを機能させるインフラ)とでも訳すのだろうか。何となくニュアンスはわかるが。

そして、時間はリスクであるとして、決済期間の短縮を訴えているが、これには全く同感である。テクノロジーの進化によって即時決済を含む決済期間の短縮は技術的には可能になっているはずである。マージンコールなどの即時決済、ポジションの即時把握が可能になれば、ゲームストップやArchegosのようなショックは、完全に防ぐところまでは行かなくとも、ある程度の損失で止められた可能性がある。

SECのスタッフに、決済サイクル短縮化のための検討を指示したと言っているので、今後間違いなく決済のT+1、ひいてはT+0化が加速するだろう。奇しくもRobinhoodのCEOも時代遅れの決済システムに対する不満を表明していた。DTCCもまずはT+1化に向けて動き出しているようで、これにより所要証拠金の削減の可能性にも言及されている。

現在、証拠金や資本計算にはMPOR(Margin Period of Risk)というものが使われているが、これはマージンコールの支払いが滞ってからデフォルトしてクローズアウトするまでの期間だが、決済期間が短縮されれば所要担保額が少なくなるはずである。

こうなると、世界で最も金融決済が遅れている日本がまた世界から取り残されることにならないか心配である。債券等の決済期間を遅らせてほしいというリクエストの数は世界一である。ゴールデンウイークがあるから、年末年始だから、在宅勤務が多いからという理由まで様々だが、グローバルには有名な話になってしまっている。証拠金規制でもT+1等の期限が切られていないのは日本の規制だけである。「直ちに」とルールには書かれているが、これを海外に説明するのは非常に難しい。

おそらくこれは、システムコストをかけたくない、人手で対応した方が安いという理由の他に、期限に後れることに対する嫌悪感という文化的な要素もあるのかもしれない。金融はどうしても欧米主導なので、期限に後れてもフェイル扱いにしてフェイルチャージを払うというのが一般的になっているが、日本だとフェイルをデフォルトのように扱うところもある。

いずれにしても決済システムの高度化とシステム化をもう少し進めていかないと、アジアの他国にも完全に後れを取ってしまう。ここまでくると規制でシステム化を強制するしかないのかもしれない。


リスク管理と規制

以前Equity OptionのボラティリティがSA-CCRの計算上非常に保守的に扱われているというペーパーがJournal of Credit Riskに出ていた。ドイツのMichael Kratochwil氏のものだったが、SA-CCRの調整に加えられるいわゆる当局ファクターが大きすぎるというものだ。昨今の株式オプションの取引増加に照らすと、この計算方法は当局や銀行にとっても重要な問題となる。

過去のデータから計算すると、個別株でボラティリティが2.25倍高く見積もられてしまうとの分析だった。だが、昨今の株式市場のボラティリティは過去に比べてかなり高くなり、Archegosに代表されるようなリスクも顕在してきた。しかもSA-CCRはヘッジやネッティングを考慮するので、一方向に傾いたポートフォリオに対しては、多くの資本が必要となる。

これまでのカレントエクスポージャー方式(CEM)では株式のポテンシャルフューチャーエクスポージャー(PFE)は1年以下が6%、1から5年が8%、5年超が10%だった。これは大体2週間の99%といったVaRに近くなるのだが、現在の個別株のボラティリティからすると、20%を下回る程度のVolatilityになってしまうので、これも若干少ない。当初証拠金の簡便法であるグリッドだと15%だが、これもVolatility換算で33%程度だ。

今回Archegosの破綻に関してCredit Suisseが10%のIMしかとっていなかったというニュースが出ていたが、証拠金規制の標準グリッドの15%よりも小さい。通常は最低でも20%くらいは取るのが業界水準のはずなので、本当であれば相当Agressiveにビジネスを取りに行ったのだろう。

この当初証拠金、以前は独立担保額(IA)ということが多かったが、この交渉はいつも難しい。一番低いところを例に出して、あそこはここまで下げてくれたのになぜこんなに高いんだという競争をあおるところもある。ただし、最近ではCCPのマージン、SIMMモデル、証拠金規制上のグリッドなど様々なデータポイントがあり、少なくとも客観的にこれくらいは必要というコンセンサスが得られやすい。

そう考えると、やはり清算集中規制、証拠金規制は金融の安定性にかなり役に立っていると言えるのだろう。ただし、これらのRegulatory Minimumを取っていたとしてもArchegos損失は免れなかっただろうから、いかに個別のリスク管理が大事かということになる。