デリバティブ取引の信用リスク軽減手法

ヘッジファンド等と取引をする際にはISDAマスター契約に何らかのトリガー条項が入っているのが普通である。ヘッジファンドは通常の会社と異なり信用評価が難しいので、財務分析をするというよりは、状況に応じて臨機応変にリスク削減を行うというのが重要になる。

しっかり相手方の信用力を判断してから取引に入るという文化の日本ではなじみにくい業態なのだろうが、デリバティブ取引のメインプレーヤーであるヘッジファンドや年金ファンドと取引をしていないと、市場の流れがつかめなくなる。とは言え、ヘッジファンド相手の取引は外資系が独壇場で日本の金融機関のシェアは少ない。

世界中で資産運用ビジネスが活発化している中では、このセクターとの取引は避けて通れないだろうし、ここをカバーしていないというのは片手落ちになってしまう。

特に近年はCCPにおける清算や、証拠金規制もありカウンターパーティーリスクが削減されているので、少し考え方を変えれば、日本の金融機関にも参入余地はあるだろう。

こうした業態と取引をする際に、マーケットで一般的に使われている(あるいは過去使われていた)トリガーを順にみていく。海外では各種Documentation関連の教科書に詳細が紹介されている。

NAVトリガー


これはおそらく今でも最も標準的なトリガーだろう。これは毎月純資産額の報告を義務づけ、それが前月比とか前年比で急減した場合に解約権を発生させるというものである。当然提出しなかった場合も解約権が発生する。

トリガー抵触時に直ちに全解約するのが望ましいかどうかはケースバイケースだが、そのまま解約することはあまりないのではないかと思われる。単純に大口の投資家が資金を引き上げたとか、別のファンドに資金を移したという、パフォーマンス以外の理由もあり得るからだ。

通常は、取引量や商品を限定する、当初証拠金を上げるなど担保条件を厳しくするということが行われる。モニタリングや報告を強化するということもできる。この解約権はISDAマスター契約のAdditional Termination Event(ATE)に設定される。デフォルトを宣言するEvent of Defaultとは異なる。

金融危機時には、ファンドの運用成績の悪化と投資家のリスク回避から、数多くの取引が解約され、市場に混乱をもたらした。とは言え、こうしたトリガーによって早期の債権回収を行い損失を回避した金融機関が存在したのは事実である。

また、ファンドのパフォーマンスだけでなく、運用商品や運用方針の変更をトリガーに入れるケースもある。

格付トリガー

Moody’s、S&Pといった格付機関の付与する格付が一定の格付を下回ったら取引解約権が発生するというものだ。この条件は、ISDAマスター契約やコンファメーションに記載される。

複数の格付が存在している場合は、そのうち最も低い格付をトリガーに用いるケースが多い。すべての格付が取り下げられたときも同様だ。格付に応じて与信枠を決めている場合などにはなじみやすいトリガーと言えよう。

解約権を与えるほかにも担保契約を入れる、担保条件を強化するというものもある。以前は担保契約に信用極度額(Treshold)というものがあって、これを引き下げるということが良く行われたが、現在では信用極度額をゼロにするケースがほとんどなので、あまり一般的ではなくなってきた。担保契約であるCSAを契約しておいて、格下げされたときにそれを有効にするというやり方や、信用極度額や最低受渡金額を無限大からゼロに落として実質フル担保にするという方法もある。業界ではフル担といったりもするが、会社によっては当初証拠金を入れてPFEをゼロにする場合をフル担と定義しているところもあろう。また、適格担保の種類を減らしたり、担保のヘアカットを増やしたりということも可能だが、近年はあまり行われていないものと思われる。

金融危機時には、格下げによって1兆円を超える担保拠出を余儀なくされたため、流動性危機に陥り実質政府支援で救済された保険会社が海外にはあった。このように格付トリガーは会社の命運を左右する条件になりうる上、Procyclicalityの問題があるので、あまり推奨されなくなってきている。外部格付に依存した信用評価を当局が良しとしなくなってきたことも格付トリガーの利用率を下げる原因になっている。

バーゼル上でも、格付トリガーの影響をPFEの計算に織り込むことが禁じられている。また、LCR(流動性カバレッジ比率)においても3ノッチ格下げ時の担保拠出額を分母に入れる必要があるため、規制資本上も望ましくない。当時はXVAの一種でRVA(Rating Value Adjustment)を入れるべきという議論も盛り上がったことがある。

価格トリガー


株価、社債価格、CDSスプレッド等のマーケットで観測される指標によってトリガーを設けるものである。株価やCDSスプレッドは一時的な要因で乱高下することがあるので、このトリガーは個人的にはあまりお勧めできない。自分より信用力の高い会社を保証するようなCDSを売るケースなどに使われたこともあるが、最近ではほとんど見られなくなったトリガーではないだろうか。株価トリガーなども一瞬ヒットしたがその後すぐに戻った時にどうするかとか、面倒な問題も多い。

日本で売られていたリパッケージ債などにおいては、SPVに入っている社債価格があまりも下落し、デリバティブ取引の時価が同時に下がるとSPVが債務超過になるため、社債価格や、デリバティブ取引の時価に対する社債価格の割合等でトリガーをつけるケースも以前はみられた。

財務トリガー


社債やローンにつけられる財務制限条項と同じものをデリバティブ取引に適用しようというものである。デフォルト時に社債権者とデリバティブカウンターパーティーのどちらが優先的に弁済されるかが問題になるが、通常はスワップカウンターパーティーが社債権者に優先するか、あるいはパリパス(同順位)にするのが一般的である。ローンだけに各種コベナンツがついているとスワップカウンターパーティーとしては問題になるので、同じコベナンツを入れる必要がある。

自己資本比率、負債比率、総資産の変化率等あらゆる条件の設定が可能である。年に数回の決算期末にしか使えないという問題もあるが、財務諸表が公開されていれば、トリガーヒットの判定は容易である。

持株比率トリガー


Ownership Clauseともいうが、親会社が支援を打ち切ったり、子会社を売却するような場合に使われる。Change of Ownership Clauseと言ったりもする。

カウンターパーティーが親会社に依存している場合に、親会社の持ち株比率を50%超にしておくという条件が一般的だ。100%子会社でなくなったときに解約権を発生させるというものもある。本来であれば親会社保証を入れれば簡単なのだが、日本では保証を与えることに躊躇する会社が特に多いため、こうしたOwnership Clauseが使われることが多い。

キーマントリガー


親会社にリンクしたトリガーと同じようなものだが、ヘッジファンドの場合は、著名なファンドマネージャーがいなくなった瞬間に資金が引き上げられるということが起きうるため、このような条件を付けている。ただし、最近ではあまり見られなくなっているが、業歴の浅いファンドなどにはそれなりの意味のあるトリガーと言えよう。

LIBOR移行はUSDが最後になる?

IBA(ICE Benchmark Administration)からLIBORの停止に関する市中協議のアナウンスメントがあったが、GBP、EUR、CHR、JPYについての意見募集となっており、なぜかUSDが入っていない。

USDについては継続的に協議を行い、別途のアナウンスを行うと書かれている。FCAのアナウンスメントでも通貨ごとのコメントが掲載されているが、USDについてはまだ具体的な提案が行われていない。

GBPについてはTough Legacy(移行が困難な既存契約)が多く存在しているため、Synthetic LIBORの利用も示唆されている。Synthetic LIBORというとLIBOR存続という印象を与えるかもしれないが、結局はRFR(リスクフリーレート)+何らかのSpreadという形になると思われるので、従来型のパネル行が提出するレートから決まるものとは一線を画したものになるだろう。

円LIBORについてのコメントもあるが、継続して評価としているのみで具体的なことは何もわからない。

今回の一連の動きを見て、USD LIBORからの移行が遅れるのではないかという意見も聞かれ始めた。確かにSOFR連動のスワップはCCPの割引率変更の後若干増えたが、その勢いは続いていない。銀行のクレジットリスクを含んだインデックスについての議論も継続している。

SOFRのターム物に対する期待も高いが、しばらく時間がかかりそうだ。確かにここまで既存取引の多いUSDLIBORについて、急に移行を促すのは不可能なのかもしれない。GBP等他の通貨でまずはやってみて、USDの移行スケジュールを見極めたいとしても不思議ではない。

そうするとISDAプロトコルが有効になる来年1/25以降にGBP等一部の通貨の公表停止前トリガーが引かれ、最後にドルということになるのだろうか。他通貨の動きを見ながら円LIBORについて考えておけば良いかと思っていたが、実は円はドルより先に移行作業が必要になるのかもしれない。

信用リスク管理の基礎

米国では、1980年代くらいに、各銀行がシェア拡大を重視したため、その後のデフォルト損失が拡大した。この頃から伝統的な与信枠管理に加えて、リスク分散とヘッジに注目が集まり、ポートフォリオのリスク管理、信用リスクの移転が始まった。

期待損失と最大損失

そこで期待損失最大損失を分けて管理するようになり、期待損失はできるだけヘッジし、最大損失は資本で賄うという考え方が一般的になった。デリバティブ取引でいうと、期待損失はCVA部分にあたるので、それは日々ヘッジを行い、最大損失は与信枠で管理をするようになった。ローンで言うと期待損失は引当金で賄い、最大損失は与信枠での管理ということになる。

デリバティブ取引のエクスポージャーは、通常VaRなどのシミュレーションにより将来の損失額を見積もるが、与信枠はPFE(Potential Future Exposure)でCVAは期待損失を使う。つまり同じシミュレーションで枠管理とCVA計算の双方ができることになる。会社によってはPFE計算とCVA計算を分けているところもある。同時に同じシミュレーションを使って資本計算もできる。

日本では、デリバティブ取引の与信枠管理というと、想定元本に何らかの掛け目を掛けて計算していたり、資本計算等に使うCEM(カレントエクスポージャー方式)によって枠を決めているところもある。ただし、これだとネッティングや相関を正しく信用判断に織り込むことが難しい。


能動的ポートフォリオ管理

当初は、業種や格付などの分類に従って、ポートフォリオをモニタリングし、必要あればそのエクスポージャーにリミットを設けてリスク集中を避けるというものであった。

しかし、CDSの登場やLoan Participationによってクレジットマーケットの流動性が高まったことにより、信用リスクの移転が可能になった。海外ではローンの売買も活発に行われるようになっていった。

古くは、一度ローンを出してしまったら、最後まで付き合わなければならないため、厳密に財務分析を行い、コベナンツ、担保等による信用保全を行い、常にモニタリングをするのが一般的だった。

今では、信用リスクの一部を証券化によって移転したり、CDSによってヘッジをしたり、債権の売買を行うことによって能動的にリスク管理をすることが可能になっている。低金利から、こうした一部のリスクを取りたいというファンドも現れ、リスクマネーの担い手も増えてきた。

デリバティブ取引の場合だとNovationによってカウンターパーティーを変更するのは日常茶飯事であり、CCPで清算すれば相手先のリスクからは解放される。CCPで清算しなくても、証拠金規制により当初証拠金まで取るようになれば、カウンターパーティーリスクは極限まで軽減される。

こうして相手方の信用リスクからは解放されるようになり、証券会社においては審査部の担当者数が少なくなり、信用リスク分析の中心は、ローンなどの信用リスクのオリジネーションをするところと、クレジット投資を行う部門へと移っていった。また、信用リスクよりは流動性リスクやオペレーションリスクなどの別のリスクの重要性が増したため、こうした部門への配置転換が行われている。規制により資本賦課が高まったため、資本の最適化を行う部門やヘッジを行うXVAデスク等への人員シフトも起きている。ヘッジを行うことによってエコノミックキャピタルの削減も可能になったので、こうした部門の重要性はますます高まっている。

従来型の信用リスク管理においては、取引先の財務状況に目を配ることがメインの業務だったが、今では、どういったリスクがどれくらいの価格で移転されているのか、CDSのスプレッドがどう動いているかというマーケットのセンスが要求されるようになってきた。そして、既存ポートフォリオやヘッジから生じる資本賦課を意識しながら管理をしていかなければならないため、資本規制や流動性規制などにも通じている必要が出てきたのである。


CVAとは

信用評価調整などと訳されると何が何だか分かりにくくなるのだが、よく質問を頂くので実務家の観点からCVA(Credit Valuation Adjustments)の説明を。

今まで15年以上様々な説明を試みてきたが、日本ではローンの引当金のデリバティブ版というと、あーなるほどという反応が返ってくることが多い。

CVAはデリバティブの引当金?

ローンを出した後に会社が潰れそうになると、会計上引当金を積まなければならないので、そのローン自体の価値が下がる。これと同じことがデリバティブでも起きているだけだ。

同じ会社に10億円のローンと10億円のスワップの勝ちポジションがあった場合、ローンの方は50%の引当金を積んでいるので5億円の価値なのに、スワップは10億円の価値があると報告するのはおかしいでしょうという話だ。

CVAを計上していれば、CVAが5億円なのでスワップの価値は5億円に減るが、CVAがなければこの価値は10億円だ。

ならば、このスワップを5億円で買って来れば良い。引当50%の危ない会社の債権だったら相手も喜んで売って(Novation)してくれるだろう。そして10億円の価値のスワップを5億円で買ったということで、自分は会計上5億円の利益を計上できる。

CVAによる逆選択問題

変な話だが、こんなことはずっと行われてきたし、今も多かれ少なかれ起きている話だと思う。こうして危ない会社向けのスワップを買いまくれば、巨額の利益が上げられるという寸法だ。いわゆる逆選択の典型例である。このからくりを知っているトレーダーがこの方法で利益を上げたという話は海外でも報じられていた。そのトレーダーが退職した後、当該銀行にはデリバティブの不良債権が溜まってしまい、後年CVAを導入した際に巨額の損失を計上していた。

CVAヘッジ

ローンの引当金は決算期毎に更新すれば良いかもしれないが、CVAの場合は基本的には毎日計算してヘッジもするのが海外では一般的だ。ローンのように元本が固定されている訳ではなく、スワップの勝ち負けは、金利や為替などの市場の変化によって日々変動するため、CDSだけでなく金利ヘッジなども必要となる。

もう一つ引当金と異なるのは、会社の信用力を測る際にCDSなどの市場で観測されるスプレッドを使うという点だ。自社で計算する想定デフォルト率ではなく、市場で取引されている信用スプレッドを使うというのが引当金との違いとなる。

DVAとは

難しいのは、いつも銀行がリスクを取っているローンとは異なり、デリバティブ取引はエンドユーザーが銀行のリスクを取ることもあるということだ。この場合はCVAを減らす効果を持つが、これをDVA(Debt Valuation Adjustments)という。

ただし、カウンターパーティーの信用スプレッドが拡大した時にCVAが増加するのと同様に、銀行自身の信用スプレッドが拡大した時にDVAも増加する。つまり引当金が減る=利益が出るということになる。銀行が破綻しそうになるとDVAから利益が上がるという不思議なことになるので、一部DVAは入れるべきでないという批判もあった。

DVAを入れないCVAを一方向CVA、DVAを入れるものを双方向CVAという。

CVAの計算方法

エクスポージャーの計算

まずは既存ポートフォリオが将来どのようなエクスポージャーになるかを計算する。これは同じISDAマスター契約の下で存在しているすべての取引についてポートフォリオベースで行い、担保条件等も反映させる。

CVAの計算にあたっては、あらかじめ決められた将来の時点ごとに、リスクファクターのシミュレーションが必要になる。将来の期待エクスポージャーを求める際には、あらゆる取引、あらゆるプライシング手法に対しても柔軟に対応できるため、モンテカルロシミュレーションを行うのが一般的である。

そして、時点ごとに、ポートフォリオの中の全取引を評価する。そしてその値が正(つまり銀行にとって勝ちポジション、つまり相手方のリスクを負っているとき)の値の平均を取ってこれをEPE(Expected Positive Expsoure)とする。負の値についても同様に平均を取り、これをENE(Expected Negative Expsoure)とする。

デフォルト確率の計算

カウンターパーティーのCDSスプレッドから将来のデフォルト確率を計算する。CDSがない場合は社債のスプレッドや同業種や信用力の近い会社の信用スプレッドから市場の信用スプレッドを推定する。過去のデフォルト確率から計算してはならない。回収率は40%とか35%といったCDSの回収率に合わせるのが一般的である。

そして、EPEに相手方のデフォルト確率を掛け合わせCVA(一方向CVA)を計算し、ENEに自行のデフォルト確率を掛けてDVAを計算し、差額が双方向CVAとなる。

CVAの会計

海外では、デリバティブ取引の時価評価にはカウンターパーティーリスクを反映させなければならないことになっているので、もはやCVAは必須と言っても良い。

日本の会計規則上も似たような記述があるものの、その手法については決まったやり方はなく、若干の引当金を積むだけでも問題ないとされてしまうケースも多い。それでも海外大手会計事務所を中心にCVA導入の機運は高まっている。

CVAの計算上はMarket Implied、つまりCDSのスプレッドをベースにしたCVA計算がグローバルスタンダードである。銀行の独自デフォルトデータに基づいて計算すると、金利減免、元本猶予等の行われてきた日本におけるデフォルト率は極めて低いため、CVA自体が形骸化してしまう恐れもある。

とは言え、CDSの流動性に難のある日本のマーケットでは、どうやってCVAの時価評価をするかという問題はいつもつきまとう。現実的には、同じ業種、格付等でマトリクスを作って、iTraxx Japanに連動させるようなProxy Spreadを作成して時価評価するのが一般的ではないかと思われる。

CVAの税務


CVAを導入すると、その分利益が少なくなり、引当金が増える。つまり収める税金が少なくなるため、税務当局の注目度も高い。以前米国で銀行がCVAを導入したところ、米国内国歳入庁(IRS)がこれを利益の繰延べに当たるとして否認し、裁判になったこともある。当然銀行側が勝利し、これからCVAの発展が進むことになるが、日本でもこうした評価調整が税金控除になるかどうかという議論が続いてきた。

不良債権化したデリバティブ取引を売買しようとしたとき、引当金に相当するCVA部分を利益として納税するということになると、こうした債権の流動化は全く進まない。

全銀協主導で行われた「デリバティブの CVA 管理のあり方に関する研究会」の報告書が公開されているが、ここでもCVAの損金算入について検討が進める重要性について触れられている。

これを受けて平成31年度税制改正に関する要望の3(5)に、「デリバティブ取引に係るCVA等の税務上の取扱いの明確化」が含まれた。こうして、日本でも着々と海外のように正しくCVAを認識するインセンティブが高まっている。

本邦社債市場の活発化が急務

COVID-19の初期にダイヤモンドプリンセス号が与えたインパクトは計り知れないものがあったが、このクルーズ船の運航会社を傘下に従えるカーニバル社が、$1.6bnの無担保社債発行を計画している。

コロナ発生後ここまで$10bnもの資金調達を社債によって行っているが、これまではクルーズ船等の資産を担保にしたものだった。約5年の社債でクーポンは8%とのことだ。ワクチンのニュースの影響もあるのか、4月に発行した3年債の12%と比べるとコスト安である。

この低金利下で毎年8%のリターンが見込めるのなら、と考える投資家がいるということなのだろう。中央銀行のサポートも安心感につながっている。

アメリカン航空も$500mmを自社株売却により調達し、ルフトハンザ航空も€600mmを転換社債によって調達している。アメリカン航空の今年の調達は$16bnを超えている。いずれも旺盛な投資家の需要に支えられている。

カーニバル社のように、格付がB格の会社が社債発行をできるというのは、やはりドルやユーロの社債マーケットに厚みがあるからなのだろう。日本であれば銀行が何とか支える以外ないだろうが、円債市場の育成も一つの大きな課題かと思う。日本でも一定の企業であればドル債を発行して通貨スワップを行うことができるが、中小企業になると銀行に頼らざるを得ない。

一方で、金利10%くらいでリスクマネーを提供するプレーヤーも日本に少なからず存在し、銀行では取りきれないリスクを取って流動性サポートをしている。社債市場の育成は時間のかかる話だろうから、こうした分野のプレーヤーが増えてくるのも望ましい。ただし、日本の法制度、税制、契約慣行などは特殊な部分もあるので、海外資本の参入は不動産以外では困難のようだ。

金融庁などが長らく主張しているように、資産運用ビジネスが活発になれば、投資資金がこうした社債にも流れ、金融市場の発展につながるのようになるのだろう。

ドル調達懸念は払しょくされたか

今年はドルのひっ迫がみられない。ドル円ベーシスは安定しており、全般的にマーケットも落ち着いている。

2020年のG-SIBリストも公表されたが、例年に比べてG-SIBサーチャージを理由にラインを絞る動きは見られない気がする。今回はJPM、GS,ドイツ銀行等がランクを下げて資本保全バッファーが0.5%軽くなっている。邦銀ではMUFGが1.5%バッファー、MizuhoとSMBCが1%バッファ―となっている。

やはり中銀によるドル供給プログラムが3月まで継続しているという安心感が相当強いのだろう。足元の利用度は下がっているが、春から夏にかけては、特に日本勢の利用が最も多かった。つまり、ドル円ベーシスに対するインパクトは相当程度あるものと思われる。

また、各国の金利が下がる中、ドル建てJGBの金利が相対的に高くなっている。簡単に言うと、通貨スワップでドルを円に換えて0.5%受け取れるとなると、たとえJGBの金利が0.5%でも合計で1%になる。事実、このドル建てJGBの10年金利は米国債の10年金利を上回っており、その差は今年になってさらに拡大している。

海外投資家がJGBを買いに来ると、ドルから円に変換するのニーズが生まれ、ドル円ベーシスがタイト化する。これもドル需要が逼迫しにくい理由の一つともなっている。こうした投資家から市場にドルが供給されるからだ。

これでドル金利が上がってくると、今度は本邦投資家からのドル債投資が増えるため、円を売ってドルを買う人が増える。そうなると、ドル円ベーシスの拡大要因になる。常にこのバランスでドル円ベーシスが動くのだが、最近の傾向からするとベーシスのタイトニング圧力の方が強いようだ。

前にも書いたが、感染拡大時にFRBが行った各種市場対策の中では、このドル供給が最も大きなインパクトを与えたと思っている。特にドル円に対する影響は相当なものだった。何と言っても、これまでこのファシリティを使うことを躊躇していた大手銀行が、使っても大丈夫なんだと思ったのは大きい。当面ドル逼迫懸念は和らぐものと思われる。

日本国債の電子取引は不可能?

前回の「在り方懇」つまり国の債務管理の在り方に関する懇談会の議事要旨が公開された。コロナ対策に伴う補正予算編成に伴い国債発行総額は過去最大となったが、これは主に短期債で賄われている。

委員の意見のところを読むと、国債の年限長期化を図るべきという意見が強い印象を受けた。運用の中心も20年に移ってきているというコメントや、超長期債ゾーン育成を主張する意見も紹介されている。50年債の発行にも触れられている。

内容を素直に読むと、国債発行総額はコントロールしていかなければならないものの、超長期ゾーンの発行にシフトさせてはどうかという意見が目立つ。慎重な分析が必要とはされているが、生保等からの需要も一定程度見込まれるため、超長期債を伸ばしても消化されると考えている人が多そうだ。スワップ金利に比べて超長期の国債金利が直近で下がらないのは、このためなのだろうか。

個人的に注目したのは20年のところをベンチマーク化するような動きがあっても良いのではないかという意見だ。国債先物市場がなかなか機能していない点にも触れられているが、JGBの20年先物を盛り上げることができればそれなりにメリットがあるのではないか。

海外では、国債の電子取引が急速に進みつつある。その際に自動ヘッジに先物が使われるのだが、日本の場合は7年ゾーンの先物一つしかないため、自動ヘッジが困難だ。20年先物の流動性が上がれば、一定のヘッジが可能になるかもしれない。もっとも3月のように先物と現物市場が全く別の動きをしてしまうと損失を被る可能性もあるので、一筋縄ではいかないのは理解している。

とは言え、海外で株式、為替、国債、社債、スワップと、電子取引の割合が急速に増えていく中、日本においても早急に市場改革を行わないと海外に取り残されてしまうという懸念がつきまとう。

自分も昔為替ヘッジを電話から電子に変えた時に、こんなに楽なのかと思ったものだ。注文から執行、ブッキング、当局報告、取引約定確認等すべてをオートメーション化したため、オペレーションにかかる人的資源も少なくなり、同時にミスも減った。取引頻度も増え、流動性も向上し、効率性が格段に向上している。今回の感染拡大下においても海外が問題なく事務を行えているのも、こうしたオートメーション化によるところが大きいだろう。

在り方懇資料でも触れられているように、日本においては在宅勤務が始まった頃に取引量が急減し、ビッドアスクが拡大し、入札のテールが拡大する等、不確実性が高まった。海外では在宅勤務が常態化しているものの、市場機能は全く損なわれていない。今年前半の経験を活かして、いくらかの改善がみられるものの、海外と比べるとシステム的、オペレーションの変化があまりにも遅い。オフィスに行かないと国債入札事務ができないのは、今や日本だけではないだろうか。印鑑文化もそうだが、こうした変化は政治主導で進めるのが、日本では手っ取り早いのだろう。

アセットスワップの基礎

アセットスワップとは

アセットスワップとは債券購入とスワップを組み合わせたものである。

  • アセットスワップの買い:債券購入+スワップ固定払い
  • アセットスワップの売り:債券売却+スワップ固定受け

要は変動利付債を買いたいのに固定利付債しかないときはスワップを組み合わせることによって変動金利を受け取ることができるというものだ。

アセットスワップの種類

Par Par Asset Swap

最もポピュラーなのはPar Parアセットスワップと呼ばれるものだと思うが、キャッシュフロー的には以下のような構造になっている。円金利スワップを前提としているが、ドルで円社債のアセットスワップを買う場合には通貨スワップになる。

ここでは社債価格が95だと仮定しているので社債購入資金が95、Par(100%)にするために5をスワップカウンターパーティーである銀行に払う。期中は社債のクーポンを受け取ってそれを銀行に払い、その対価として変動金利を受け取る。そして最後に100で社債が償還される。満期到来時に受け取る金額と購入金額が同じパーなので、パー/パーとなる。社債自体は95のアンダーパーで買っているのだが、5をスワップで払うという形だ。

Yield Yield Asset Swap

一方パーではなく、その時の社債価格である95を払うだけで後はスワップ金利で調整するものにYield Yield Asset Swapがある。当初95しか払っていないのでPar Parの時に比べてスワップの固定金利がその時の市場実勢に近くなる。

Market Value Accrued Asset Swap

もう一つ、あまり使われていないとは思うが以下のようなアセットスワップもある。Par ParとYield Yieldを組み合わせたような形だが、Yield Yieldのように当初は95の支払いだが、期中の金利スワップはPar Parと同じになり、その調整を最後の償還時に行うというものである。

銀行にとってのインプリケーション

デリバティブなので、これ以外にもいかようなスワップも可能であり、投資家のニーズに応じて様々な形に対応できる。しかし、銀行にとっては、スワップのキャッシュフローが大きく異なるため、プライシングが異なってくる。XVAなどがかかってくる場合には、プライシングへのインパクトがあるため、投資家にとっても影響が生じる。

まずPar Parの場合だが、上の例では、アップフロント(当初)で5を受け取り、その後少し高めの変動金利を払うような金利スワップになる。つまりスワップをブックした後にそれがすぐにPayableとなる。Payableの説明は面倒だが、将来にその価値を返していくもの、マイナスの時価ポジションとでも言えようか。負けている訳ではないのだが、時価的には負けポジションともいえるかもしれない。

最初に5を借りているという言い方もできるが、この場合投資家が銀行のカウンターパーティーリスクを取っている。したがって、無担保であればCVAが少なくなるので銀行にとってはBenefitがある取引になる。有担保契約の場合は5をもらった瞬間にそれを担保として返さなければならないのでインパクトはない。

逆にこの社債が105円のオーバーパーだった場合は、最初に5を払って徐々にその価値を返してもらう形になる。この場合は投資家のリスクを取っているのだから、CVAが高くなる。もちろん有担保の場合は払った5が担保として返ってくる。

現金担保の場合はプレミアムの受け払いはすぐに担保の受け払いで相殺されるが、国債担保の場合はプレミアムを現金で受け払いし、その同等額を国債で返すという形になるのでレポをやっているようなものである。その場合国債にヘアカットがある場合はそれも考慮する必要がある。

本来であれば、こうした担保の違い等によって精緻なプライシングをするべきで、一部の先進行はかなり綿密な計算をしているものと思われる。ただ、こうした概念はXVAの概念が早くから一般的だった海外金融機関に一日の長があるような気がする。

米国債の流動性に対するブレイナード発言に注目が集まった

次の財務長官の最有力候補とみられているブレイナード氏から米国債市場に関するコメントが出されている。

CCPによる中央清算を行うことによって流動性を高めるべき、ブローカーを介さない直接取引を広めるべきとの主張だ。

さすがに現職理事だけあって、3月の混乱やFRB内での議論を踏まえ、よくわかった上での発言と言えよう。

このまま財務長官に就任するとなれば、米国債取引におけるFICCの占める割合がさらに拡大することが予想される。レポ市場の機能不全についても理解が深いだろうから、今後流動性向上のための何らかの策を打つとしても不思議ではない。

そしてブローカーを通さない取引となると、取引執行プラットフォーム経由の取引にも追い風になる。電子取引やアルゴリズム取引の更なる増加にもつながるかもしれない。

翻って本邦に目を転じると、清算集中はそこそこ進んではいるものの、日本国債の電子取引やアルゴリズム取引が進む気配はほとんど見られない。

米国のように流動性が枯渇したと言う事象があまりないからなのかもしれないが、既にガラパゴス化している国債取引マーケットが、さらに海外に遅れを取ると言う懸念が残る。

そういえば地銀の再編をインセンティブ付けするべく最近アナウンスされた方策が、海外でかなり注目を集めている。金利が低下する中、地方金融機関が佳境に陥っている様は、各国共通の課題のようだ。

こうしたアナウンスメントが市場の構造を変えるインパクトを持っていると言うことは、国債の電子取引化等も、当局の後押しがあれば、容易に進むのではないだろうか。

市場参加者自らが、マーケットを変化させようという動きが出てこないのが残念ではあるが、金融機関に一定の保守性が求められる以上、やはり日本においては当局の力というのは他国に増して強いのかもしれない。

ワクチンのニュースが市場の雰囲気を変えた

PfizerとBioNTechの新型コロナウイルスワクチン候補の臨床試験の中間解析結果によって、マーケットの雰囲気は一変した。当然ウィルス感染拡大後に好調だったテクノロジーセクターから、これまで打撃を受け続けてきた不動産や航空会社のようなセクターへの資金シフトが起きた。

デルタ航空やアメリカン航空などのような航空株は15%上昇、英国ブリティッシュ・エアウェイズなどは25%上昇した。ショッピングセンターなどの株の中には2日で50%上昇したものもある。ここまで半値以下になっていたものが戻った格好なのだが、これらの株をショートしていたヘッジファンドが巨額損失を被ったようだ。

バリュー株はは6.4%上昇し、1980年代以来の強い上昇となったが、モメンタム株は13.7%下落で過去最悪の損失となったというJPMの分析も報じられている。さすがにここまで動くとコンピューターを使ったアルゴ取引などのフローも変わってくるだろうから、ちょっとした転換点になっている。

ワクチンもめぐる状況は今後も不透明だが、それでも来年以降は前年比の業績が上向くところが増えるだろう。今年好調だったテクノロジー株も、前年比ベースでは大きく伸びないかもしれないが、そうは言っても業績不安が大きいわけではない。

一般的に米国株はテクノロジー株の占める割合が多いが、この流れからすると今後は米国から日本や英国への資金シフトが起きるかもしれない。

債券に目を向けると、一時的には金利の上昇を予想する声が多いものの、不透明性が高まればFRBが行動を起こすだろうから、金利が大きく上昇していくとも考えにくい。

ドル安とヘッジコストの低下もあり、特に日本の投資家から米国クレジット物への投資意欲も上がってくる可能性がある。足元でのドル調達コストは低位安定しているが、為替スワップや通貨スワップによってドル調達を行って米国社債に投資するという動きが出てくると通貨ベーシスのワイドニングも一定程度起きるかもしれない。

ただし、ファイザー等のニュースの後は、ジャンク債に大きな資金流入がみられた。よく見るとジャンク債の利回りは感染拡大前の水準まで完全に戻っている。銘柄選定は重要だろう。

IBORからの移行タイミング

IBORフォールバックプロトコルの批准が進み、一体いつからレートが変更されるのかと聞かれることが多くなってきた。

プロトコルの文言上はIndex Cessation Effective Dateからということになるのだが、これはIndex Cessation Event(LIBORがなくなるか、LIBORが指標性を失ったというアナウンスメント)の後になる。

このIndex Cessation Eventは客観的に判断できなくてはならなず、プロトコル上は細かく規定されているが、要は当局から何らかの公式なアナウンスがあった時ということになろう。

そしてその日(Index Cessation Effective Date)から、個々のLIBORがAdjusted RFR + Spread Adjustmentに変更される。

Adjusted SOFRは、例えば1か月USDLIBORだったら、オーバーナイトSOFRの30日間の後決め複利計算となる。スプレッド調整は、SOFR(日次複利)とLIBORの差の5年間の中央値で計算される。

本当は2営業日の調整とかテナー毎の調整等が入るので、もう少し複雑なのだが、おそらくトレーダーは、各LIBORのテナー毎に日々5年中央値をアップデートして、スプレッド調整がどこに収斂するかをチェックしているはずである。

5年間のうちかなりの部分が明らかになってきているため、理論的にはIndex Cessation Eventが発生した時の収益インパクトはそれほど大きくならないはずだが、ここで損が出ないよう引き続きモニターしていく必要があるだろう。

BLOOMBERGがLIBOR代替指標構築を発表

これまでAmeriborなどのクレジットスプレッドを加味したLIBOR代替レートについて紹介してきたが、新たにBloombergが指標作成に名乗りを上げた。

どのような指標になるかの詳細は明らかになっていないが、BYIと似たようなものになると報じられている。米国当局がSOFR以外の独自の指標の利用を妨げるものではないというアナウンスもあり、この分野の競争が激しくなってきている。

相変わらず米国にはビジネス機会とみれば様々な企業が競い合うダイナミズムがある。CCPもCME、ICE、Nasdaqなどがあり、SEFも乱立している。英国やEU、日本においては、このような動きはほとんどみられていない。どちらが良いのかはよくわからないが、様々な参加者が切磋琢磨して市場を作り上げるのは悪くないことなのだろう。

日本株への注目度の高まりは持続するか

週末にも書いた通りが日本株に対する注目度が高まり、ついに海外勢からの資金流入の兆しが見えてきた。米大統領選挙後、日本株がトップパフォーマーとなっており、新聞でも欧州の投資家からまとまった買いが入ったと報じられている。

米国の友人と話していても、日本株に注目が集まったのは、小泉ブームとアベノミクスの三本の矢以来だと言っていた。といっても今回はそう言った政治的ネタではなく、単純に日本株が見直されている印象だ。

日本の配当利回りが約2.8%で、米国の2.2%よりも高く、多くの新興市場の配当利回り3.0%に匹敵するという点も注目を集める一つの要因となっている。

ファイザー社のワクチンもEU、英国、日本がまずは大量注文をしており、最初に恩恵を受けるだろうなどと海外メディアでは報道されている。日銀の地域金融機関支援制度まで海外で報道されている。

そうは言ってもこれまで何度も裏切られてきた古い世代は、どうしても慎重になってしまうのだが、しばらく資金流入は続くのかもしれない。これで日本も元気になってほしいものである。

米国のLIBOR代替レートは複数候補が併存することになる

先週金曜に銀行監督当局としてはLIBORに変わる代替レートを特定の候補に限定しているわけではなく、銀行が選択できるとコメントしたというニュースが出ていた。基本的には既にこのブログで述べつくした内容ではあるが、ローンにおいてはSOFR以外のレートが使われる方向性を改めて確認したことになる。

ニュース上ではAmeriborのことも書かれているが、実際どのような発言があったのかは、実際の発言内容が見つからなかったのでよく分からなかった。しかし、これでSOFRに一本化するのではなく、複数のベンチマーク併存という方向性が確実になってきたと言えよう。金融機関としては、それぞれのレートについて金利カーブをシステム的に準備する必要があり、複数ベンチマークを用いたポジション評価をしなければならなくなる。

それほど大きな問題ではないものの、通常金融機関はカーブごとにBid Offer VAなどの様々なリザーブを取っていることが予想される。カーブが増えれば、そのカーブに依存したポジションを解消する際にビッドオファーを払わなければならないので、その分のリザーブが必要になるところが多いだろう。

しかしこのままカーブの種類が増えて、各種VAが増え続けるのは、本当に金融の将来にとって有益なのだろうか。複数のベンチマークが併存するのは避けられないのかもしれないが、無用に複雑性が増して、流動性やプライシングが悪化してしまうと、ユーザーの利便性を損なってしまうのではないだろうか。

FVAはトレーディング損益か?

Risk誌にFVAは通常の損益ではなく、その他の包括利益(OCI: Other Comprehensive Income)に入れるべきだと意見が紹介されていた。3月に海外大手銀行が巨額のFVA損失を出したことも影響している。

FVAの会計計上方法

FVAをヘッジするのはかなり難しく、本当にヘッジになっているかどうかもよくわからないので、個人的には賛成である。そもそも、FVAの計算方法には確立した方法がなく、自らの社債スプレッドを使って計算しているところもあれば、業界の平均スプレッドのようなものを使っているところもある。

計算方法が違う以上、これを変更すればヘッジ量も変わる。つまり経済的に必要なヘッジというよりは、会計上の損益変動を減らすためのヘッジとなっている。同じ理由からストラクチャードノートのDVAがOCIに移ったことを考えると、FVAも同様の扱いにするというのは理にかなっている。

FVAのヘッジ

FVAを競合他社の社債やCDSでヘッジすることも可能だが、そもそもこれにどこまで意味があるのかよくわからない。カナダのようにFVAヘッジを市場リスク資本計算から除外するような措置があれば話は別だが、このヘッジは結局マーケットリスクキャピタルを使うことになるので、資本規制上も望ましくない。

FVAの正確性

そもそも日本ではFVAを計上しているところは一部の証券会社にとどまっており、その意味では収益に影響を及ぼしていない。OCIにすらレポートされていないということだ。海外でも、どこまで真面目にFVAの計算を行っているかもよくわからず、個人的にはかなり保守的にレポートする銀行とそうでないところの差が非常に大きいように感じる。こうしたスタンスの違いで損益変動が大きく変わるというのは、やはり問題なのではないかと思う。

日本株に楽観論?

日経平均株価が約30年ぶり以来の高値を付けた。社会人になったころの株価に戻ったというのは何とも感慨深い。しかも外国人ではなく日本の個人投資家の買いが株価を押し上げている。より日本の個人投資家が株式市場に入ってきているようだ。

トヨタなどの大手の決算は比較的好調で、感染拡大度合いも欧米とは異なり低位で推移しているため、株価暴落を予想する声をよそに楽観論も漂い始めた。確かに近年大きく上げていた海外株に対すると下値安心感がある。

海外メディアでも日本株好調の記事を目にすることが多くなり、比較的コロナをうまく抑え込んでいると思われているところもあるので、ここから海外投資家の関心も高まっていくのかもしれない。

考えてみれば巣ごもり消費で業績を上げているGAFAばかりが強調されるが、任天堂やソニーなども同じような恩恵を受けているのではないだろうか。

日本株に投資しては裏切られてきた記憶を持つ人は多いだろうし、人口減やデフレなどもあり、リターンだけを考えれば海外株の方が格段にパフォームしてきたが、やはり日本の企業にも元気になってほしいものである。

大統領選後に金融業界に対する圧力はどう変わるか

米国大統領選挙の混乱が続いているが、それでも共和党が上院を支配しそうな勢いになってきた(追記:結局バイデン候補当確)。これにより大胆な景気刺激策を打てなくなるという憶測が強まった。金融業界にとってどのような影響があるかと考えてみると、まずはトランプ政権下で35%から21%まで下げられた法人税だが、バイデン政権になればこれを28%まで戻すというのが公約となっている。しかし上院を共和党が取れば、それほど簡単にはいかないかもしれない。

民主党が上院を取れば、銀行に対して厳しい立場を貫くウォーレン議員が財務長官ポストの有力候補だったであろう。しかしマサチューセッツ州にいる共和党知事がこれに反対することが予想される。日本の報道では金融規制強化が進むのではという報道が多いようだが、ある程度の増税のリスクはあっても金融規制が突然強化されるような方向にはならないように思える。

もともとバイデン氏はデラウェア州出身で、デラウェア州といえば様々な金融法人が設立されている州として有名であり、金融の重要性が高い州である。

そうなるともう一人の候補であるブレイナード氏のスタンスも重要だが、いずれにしてもFRBは民主党寄りの政策を取るようになるのではないかという声が多い。銀行のストレステストの緩和に反対し続けてきたブレイナード氏の意向が反映されるとなると、資本バッファの積み増しが要求され、銀行の資本コストは跳ね上がる。あまり金融規制に対して強い声を上げている印象はないものの、金融危機後に導入された銀行規制の緩和にはいつも反対票を投じているという印象がある。

総じてみると、大きく規制緩和が行われるような可能性は低いが、結局規制緩和を訴えたトランプ政権下でもそれほどの緩和はなされていない。そう考えると今までの状況が続くということになるのだろう。

スワップのノベーションはどのように行われるか

通常ヘッジファンドや海外の年金ファンド等は、いくつかの金融機関と取引を行うが、取引解約時にはNovationが行われることが多い。デリバティブの世界のNovationは簡単に言うとカウンターパーティーの交替である。自分の契約をだれか別の人に譲渡するということだが、結局その際に取引相手が変わることになるからだ。

日本ではこうしたファンドは少ないのだが、世界のデリバティブ市場においては、全体の取引量のかなりの部分はヘッジファンドやアセマネがマネージするファンド経由になっており、流動性に大きな影響を与えている。本気でスワップをやろうというのならこうしたファンドとの取引は避けて通ることはできない。これは円スワップでも同様である。

取引頻度が多いため、ノベーションやアロケーション、担保決済、電子取引、取引報告等の事務が煩雑になり、それをサポートするシステムやオペレーションフローが必要になる。こうしたシステムやオペレーションがネックになっているのか、言語の問題なのかよくわからないが、ファンドとの取引先は外資系がメインになっている気がする。

通常ファンドは複数の銀行にクォートを求めるので、複数の金融機関と取引をすることが多い。例えば以下のようにA、B、C、Dとそれぞれ1、2、3、4件のスワップを持っている例を想定する。

この場合、真ん中のヘッジファンド(HF)が利益確定のため全部の取引を解約しようとした場合、AからDの各銀行にそれぞれの取引解約を依頼するようなことはせず、すべての取引を示した上で全部を引き受けてくれる銀行を探すことになる。ここでAが提示したすべてのパッケージのプライスが良くコンペに勝ったとすると、ノベーションが行われ、以下のような関係に変わる。AはHFとの取引一つを解約し、残りの取引はHFが抜ける形(Step out)になる。例えばBから見るとカウンターパーティーがHFからAに変わったという形だ。HFがStep out、AがStep inし、BがRemaining Partyとなる。

レバレッジ比率規制や証拠金規制やOISディスカウントがなかった頃は簡単で、こうしたノベーションが即座に行われていた。現在では、AにとってはB、C、Dと取引を持つことになるため、レバレッジ比率の計算に入れなければならなくなり、証拠金規制対象のファンドであれば証拠金が増えるかどうかのチェックもしなければならない。また、ディスカウントの差などをチェックするために、それぞれとの担保契約(CSA)の確認も必要である。金融危機直後は、こうしたチェックのために回答が遅れてトラブルになることもあったかもしれないが、最近は理解が進んでいるようである。

ただし、CCPによる清算集中が進んでからはこれが楽になった。こうした手間を省くため、清算集中規制の対象になっていないヘッジファンドサイドも自主的にクリアリングをするようになっている。CCPを通じたフローの場合、ノベーションが行われた後すぐにCCPで清算されるため、当初の図のHFがCCPに変わったような形になる。

そしてこの後、ABCDそれぞれがCCPに持っている他のポジションと合わせてコンプレッションが行われ、これらポジションが削減されていくため、レバレッジ比率への影響も少なくなり、ポジションが極端に偏らない限りCCPに対する当初証拠金への影響も軽微となる。ディスカウントはCCPがしてする標準的なディスカウントになる。

CCPでの清算ができな通貨スワップやスワップションについては引き続き従来の問題は残るが、取引の大部分を占めるスワップについては、かなりフローが確立してきた。

ヘッジファンドというと何か日本ではハゲタカ的なイメージがあるが、こうしたファンド勢は市場の流動性向上には不可欠な存在になっている。日本でも資産運用の機運が高まり、ファンドが増えてくれば、こうした取引形態を行うところが増えてくるかもしれない。本邦でもノベーションなどの事務フローを海外並み高度化していかないと、世界に後れを取ってしまうだろう。

日本におけるLIBORからのシフト(その2)

先週末にOISの取引量拡大についてコメントしたが、その後新聞でも同様の内容が報道されていた。もともと日本では、金融に関するニュースが海外に比べて少なかったが、今回の報道記事は、きちんと調べて書かれていて良い記事だったと思う。

LIBORがなくなるとは言え、プロトコルさえ批准すればOKと思っている市場参加者が多いのか、このままでは来年以降何が起きるか非常に不安な状況である。計算期間の最後に金利が決まる後決め複利が日本では敬遠される傾向があり、ターム物リスクフリーレートであるTORFに期待する声が多いが、TORFの流動性を上げるにはOISの取引を増やすことが重要だ。したがって、どのタイミングでOISの取引が増えていくのかに注目が集まっているわけだが、期限を考えるとそろそろ限界が近づいている気がしてならない。

10月の日銀金融システムレポートを読むと、71頁に以下のようなくだりがある。

「⾦融機関に対しては、LIBOR 利⽤状況調査の継続的な実施やヒアリング等を通じて、個別⾦融機関の対応状況を確認し、必要に応じて直接的な働きかけを⾏っていく。」

そして脚注34にこう書かれている。

「第 2 回 LIBOR 利⽤状況調査について、現時点では、2020 年 12 ⽉末を報告基準⽇とし、2021 年 1〜3 ⽉中の調査票の発出を予定している。前回調査(2019 年6⽉末時点)以降における、移⾏作業の進捗等を確認することが主眼である。」

つまり年末時点でLIBOR取引を集計して、1年半前と比較してどの程度移行が進んでいるかを確認するということになる。あまり進捗がみられないと、「必要に応じて直接的な働きかけを⾏っていく」ことになるのだろうか。

もしかしたらこれがきっかけで12月までにOIS取引を増やしておこうという動きが出てくるかもしれない。前回の調査結果を見ると、PV01で集計することの多い海外とは異なり、想定元本ベースでの報告だった。第2回がどうなるかわからないが、日本はデリバティブはリスク量というよりは元本という文化が支配的でもあり、継続性の観点からも、想定元本で継続される可能性が高い。つまり、短期のOIS取引を増やせば元本は大きくなるので、移行が進んでいるように見えることになる。

このからくりに気づく人が増えれば、12月に向けて急速に短期のOISの取引量が増えるかもしれないが、いずれにしてもOISへの移行が進むのは業界にとっても望ましいことである。

USD LIBORの代替指標候補AMERIBORとは何か

LIBOR改革によりドルLIBORに代わるレートとしてSOFRへの移行が進みつつあるが、一方で米国地方銀行を中心にAmeriborを推す声が強くなってきた。

Ameriborとは、AFX(American Financial Exchange)が作成した金利指標で、無担保ローン市場における日々の取引実績に基づいた加重平均レートである。日数計算はActual/360、休日調整はFollowing、小数点5位を四捨五入したレートである。SOFRなどと同様IOSCO準拠のベンチマークとして承認されている。

American Financial Exchangeというと米国を代表する金融取引所かと思ってしまうが、つい5年前の2015年に設立されたばかりの自主規制取引所である。当初は6社のメンバーだったが、その後着実にメンバー数を200社以上に増やしている。これは全米銀行のおよそ1/4であり、メンバー銀行の資産量でいうと全米銀行資産の約14%を占めている。平均的に20憶ドルの取引があり、通算では1兆ドルを超えている。

米国債を担保にしたオーバーナイトの資金調達コストに連動するSOFRと異なり、多くの米国中小銀行の無担保資金調達コストをより良く表していることから、主に米国地銀がサポートしている。3月にSOFRが急激に下がる中、銀行の資金調達コストが下がらなかったことから、逆ザヤを懸念する銀行からの支持が多い。

こうした地銀は米国債保有高が少なく、それを担保に資金手当てをするというよりは、無担保での調達に頼ることが多いので、Ameriborの方が確実に自身の資金調達コストに連動する。何らかの危機が発生すれば有担保より無担保の調達コストの方が上昇しやすいが、貸出金利が有担保の調達コストに連動していると、一気に収益が悪化するからである。LIBORとの相関も99.74%(2020/10現在)とLIBORに近い動きをしている。その他詳細はAFXの月次レポートに詳しい。

またSOFRが米国外の銀行の行動にも影響を受ける一方、Ameriborは米国の一定の銀行の調達コストを反映したものであるため、特に米国地銀にとっては都合が良い。

このような懸念から2020年2月に地銀10行がFRBにレターを送り、Ameriborの検討を呼び掛けた。そして、5月にFRBパウエル長官は、SOFRがLIBOR代替金利の有力候補であるとしながらも、銀行がそれぞれの状況に合わせて適切な金利指標を選ぶことを容認し、中小銀行にとってはAmeriborの利用をサポートした形になっている。LIBORの代替レートとして幅広く認めたというよりは、中小銀行など一部の銀行にとっては有力候補だというトーンのようだったが、これによって複数のベンチマークが併用される可能性が一気に高まり、Ameriborに対する期待も高まった。

既に一部中小銀行では貸し出しレートとして使われており、10月には初のAmeribor参照債券がSignature Bankから発行された。他にも複数のベンチマーク候補があるが、中小銀行向けにはこのAmeriborが一歩抜きんでているように見える。取引量はそれほど伸びていないようだが、Ameribor先物取引も昨年8月から始まっている。

今後はこうした銀行からのヘッジニーズによりAmeribor参照の金利スワップ等も出てくるかもしれないが、これが米国の地銀のみに使われる一部の指標になるのか、クレジットスプレッドを考慮した貸し出しレートを使いたいというその他の金融機関の間でも広く使われるようになるのか、今後の動向に注目が集まる。