米国株式市場の混乱によって規制強化が起きる

以前WSB(WallStreetBets)の話をしたが、先週はこの話題で持ちきりだった。GameStop株の乱高下で個人投資家の存在感の大きさが際立ったが、オンライン掲示板のコメントで群衆が動き株価が動くというのは、理論的には当たり前の話だったが、ここまでの騒ぎになると何等かの規制が入ってくるのは間違いないだろう。

フォーカスの当たる会社は、特に業績が良い訳ではなく、何の脈絡もなく突然人気株になってしまう。銀が上がると書かれればETFや銀の現物まで一気に価格が急騰する。健全なマーケットとは程遠い。証券会社の人間がどこかの株価を吊り上げようとしたら完全に犯罪だが、一般群衆となるとどうやって規制するのだろうか。

バブル期の日本で証券会社がこの銘柄と決めて顧客に勧めまくった姿は、これと同じような動きなのかもしれない。個人投資家が一時取引ができなくなったにも関わらず、ヘッジファンドや機関投資家は取引が継続できたということで、政治家も証券会社批判に回っている。

SECは昨日1/29に声明を出しており、現状を詳細にモニタリングすると言っている。当局、FINRAや自主規制団体とともに議論を重ねているようであり、疑わしい取引について報告をするページを設けて意見募集もしている。

何と言ってもあのGensler氏が議長になるのだから、何も変化が起きないということはないだろう。ただ、Gensler氏のフォーカスが以前のようなデリバティブ規制ではなく、昨今のこうした動きやSPAC、ビットコインというところに向かいそうなので、従来のような銀行規制の強化にはすぐには手を付けないようにも思う。外出自粛が続く上、給付金追加支給もあり、中央銀行の流動性供給も続くことから、株式をめぐる混乱はしばらく続くだろう。もしかしたら規制強化が株式バブル崩壊の引き金になるということもあるのだろうか。

マイナス金利プロトコル脱退の動きが出てきた

通常預金をすれば金利がもらえる、担保を出せばその担保に対する金利は返ってくるというのが以前の常識だったが、マイナス金利になるとおかしなことになる。お金を預けた方が金利を払い、担保を出した方が金利を払うということいなるからだ。とは言え、海外、法人預金、日銀当座預金の一部にもマイナス金利が適用されている。

ここで自分が得をするときだけ担保金利のマイナスを許容すると、業界で大混乱になるため、当時ISDA中心に皆でマイナス金利を適用しましょうということで2014年にマイナス金利プロトコルが出来上がった。CCPの取引にもマイナス金利が適用され、何となく落ち着きを見せたと思っていたのだが、英国の金利低下を受けてこのプロトコル脱退の動きがあるというニュースがマーケットを震撼させた。

市場で金利がマイナスになるのであれば担保金利もマイナスにすべきであり、これがマイナスにならないとデリバティブ取引の割引率もおかしなことになり、すべてのデリバティブ取引の時価評価が変わってしまう。

そもそもこれを防ぐために、業界でプロトコルを準備し、大手銀行はすべてこれに批准していたのだが、いざ金利がマイナスになりそうになってきたらこれを反故にするというのはどういうことなのだろうか。もちろん銀行が自らの利益のためにこの決断をしたとは考えにくいので、顧客にチェリーピックをされると自らの身が危うくなるということなのだろうが。

業界でチェリーピックを防ぐために極力皆でこのプロトコルを批准しようと働きかけてきた身からすると、信じられない気分だ。当時も自らが得をするときだけマイナス金利を適用し、損をする場合にはこれを拒否するという動きがあり、皆がこれをやりだすと収拾がつかなくなるので、皆で大人の対応をしましょうということだったのだが、結局チェリーピックしたもの勝ちということになってしまう。

Citi、JPMなどの大手がプロトコルから離脱しているということなので、この流れはもう変えられない。現存する取引にはインパクトはないようだが、今後離脱した銀行と行う新規取引については、担保金利がマイナスにならない。

昨年もLIBOR改革がらみで、業界(ARRC)で決めたCash Compensationをしないのが市場標準になった時にも思ったのだが、業界の善意で秩序を保とうとしても、結局はそれを利用して収益を上げようとする人がでてくるので、結局自主努力だけでは無理ということなのかもしれない。

こうなると担保を多く出している市場参加者はマイナス金利の適用を避けるだろうし、担保を受け取っている方はマイナス金利を享受したいと思うのは当然だろう。プロトコルが破綻するということは、結局業界の善意で市場標準を作るのは無理で、やはり金融には規制が必要ということなのかもしれない。非常に残念だ。

しかしこの影響は非常に大きい。担保付デリバティブ取引の割引率が担保金利であったことを考えると、ほとんどの取引のValuationが変わるということになる。今後の取引時にもマイナス金利非適用顧客と取引した時に、それをDealer間でヘッジしCCPで清算した場合、CCPはマイナス金利適用なのでミスマッチが生じてしまう。それともCCPもマイナス金利適用を止めるのだろうか。少なくとも大手ディーラー間ではマイナス金利適用を相対で約束するのだろうか。

少なくともはっきりしているのは、今後このプロトコルに批准しようという市場参加者は少なくなっていくだろうということだ。そして市場分断が起き流動性にも影響が出る可能性がある。既にマイナス金利を適用している日本はどうなるのだろうか。

SPACが変えた株式市場とそのメリット

昨年から急増したSPACを通じた上場について、自らも多くのIPOを手掛けたGSのCEOが警鐘を鳴らした。SPACとは特別買収目的会社と訳され、未公開会社の買収を目的として設立される法人だが、近年投資銀行の株式収益のかなりの部分を占めるようになってきている。かなり昔からあった手法だが、昨年突然金融の表舞台に出てきた。米銀大手5行が2020年第四四半期に軒並み前年比30%程度の収益増を果たした裏ににはSPACの影響もあると思う。

2021年のこの流れが続くかどうかは定かではないが、1月の出だしを見る限り、勢いは衰えていないようだ。今月のIPOによる資金調達額のうち、実に70%以上がSPAC経由となっており、GSのCEOが心配になるのももっともである。既に200億ドルを超える資金を集めているというから驚きだ。テクノロジー会社、電気自動車といったいかにも投資家の興味を引きそうな会社にとっては、非常に資金調達が容易になる。

上場といってもいわゆるブランクチェック会社という空箱への投資で、その後買収企業が決まるため、いろいろと利益相反もあるだろうし、情報開示についても通常のIPOとは異なるものとなる。前SEC議長のJay Clayton氏も昨年SPACの調査をしているとコメントしていたが、金融危機時に名をはせた、あのGery Gensler氏がSEC議長に就任したことから、今後はSPACをめぐる規制が強化されることが予想される。

とは言え、スタートアップ企業に迅速に資金が回るこの仕組みは完全に悪とは言い切れないメリットがあるのも確かである。日本ではなかなか実現にはハードルが高いが、特にベンチャー企業の少ない日本でもこうした工夫がなされても良いかと思う。昨年2020年にモビリティやテクノロジー分野の26社がSPACに買収されたが、そのほとんどは利益を上げていないにも関わらず時価総額が1000憶ドルを超えている。

あまりにも市場が過熱しているので、今後は規制や制度整備で一旦このバブル状態が落ち着くことになる可能性は高いが、それでも一定のルールが定められれば、企業の資金調達手段の一つとして存続していくことになるだろう。日本でもこうした革新が起きることが期待される。

事業会社はスワップ取引に対して担保を出すようになるか

事業会社のデリバティブ担保契約についてのニュースがRisk.netに出ていた。海外では事業会社も担保契約であるCSAを締結するようになっているようだ。Vodafoneの担保金額についての記述があったので、財務諸表を見てみると、確かに27頁にCash Collateral Liabilitiesという項目があり、これが19年度末のEUR2bnから、20年度末にはEUR5.3bnに増えている。脚注2を見るとデリバティブカウンターパーティーである金融機関から受け取った現金担保とある。返却しなければならない資金なので、借りている金額、つまり負債として計上されている。EUR以外で調達した社債をEURに倒す通貨スワップを行っていると記載されているので、こうした通貨スワップか、昨年の金利低下でIn the moneyになった金利スワップから来ているのだろう。

また、Mark to market derivative financial instrumentsという項目もEUR1.2bnからEUR4.4bnに増えており、デリバティブ契約のMTM Adjustmentと説明されている。そのまま読むとデリバティブ取引の勝ちポジションかと思うが、MTM Adjustmentと書かれているのでCVAやFVAを含めているのかもしれない。

その下にShort Term InvestmentsがEUR5.2bnあるが、独、英、日の国債や政府保証債のEUR1.7bnを含むとあり、そのうちEUR1.1bnは銀行に担保として拠出しているとある。

これを見ると事業会社であったとしてもかなりのデリバティブ取引を使っており、そのポジションも5000億円を超える水準になっている。ここまでくると、財務に与える影響は相当なものであることがわかる。担保オペレーションも整備し、CVAなどの影響も管理しているようなので、一部の一般事業法人の財務部門はデリバティブ取引に対しても相応の知識を持つまでに洗練されているように見える。

他の会社の例としてAppleの財務諸表P48を見てみても、金利スワップ、通貨スワップをヘッジに使っており、Master Netting AgreementとCollateral Security Agreementを締結していると書かれている。おそらくISDA/CSAとレポの契約を総称してこのように表現しているのだろう。

Microsoftの財務諸表P72にも、OTCデリバティブの標準的慣習に似た担保を出すことを求められているという表現があるので、何らかの担保拠出がされていることが伺われる。欧米では事業会社の大手になると、意外とCSAの締結が進んでいるのかもしれない。

リーマン後の取引先リスク削減の動きによるところもあるが、やはり大きいのはCVA、FVA、KVAなどのデリバティブ取引にかかるコストだろう。特に昨今の証拠金規制、清算集中規制、資本規制強化の流れの中、無担保取引は金融機関にとってもかなりのコストになる。顧客獲得のためにある程度優良企業には譲歩せざるを得ないとは思うが、それによってROEが下がってしまっては元も子もないので、一定程度のチャージをせざるを得ない。このコストを聞けば通常の大手企業であれば担保契約締結に向かうのは当然の結果だと思う。おそらくヘッジコストが半分とか1/4にまでなることは珍しくないからだ。

日本ではOver bankingもあり銀行がROEを下げてでも取引をするという傾向は残っているためなのか、事業会社の担保契約締結はそれほど進んでいないように思う。しかしCVAやROEを気にするようになると、欧米のようなプライシング慣行が導入される日も遠くない。そのためには、即時決済や同時決済など、日本の決済システムの高度化が急務であり、人手を介してミスがないようにダブルチェックをするようなやり方から、システム化と自動化を進めていく必要がある。事業会社向けにこうした決済関連のサービスを提供する会社が増えても良いだろう。

今後の国際金融ハブはどこか

Brexit後に株式現物取引の多くがロンドンからEUに移ったデリバティブ取引についてもデータが出始めた。業界ではよくCashかDerivativesかという言い方をするが、この場合のCash取引というのは債券のような現物取引、スワップなどがDerivative取引だ。

キャッシュ取引の場合は取引所の場所が移れば取引拠点が移る。先物の場合は若干微妙で、例えば日経225の先物は大証で取引されるが、夜間取引も可能で、米国CMEやシンガポールSGXでも取引できる。デリバティブ取引は場所を問わないため、拠点が移るというのはどういうことかというと、基本CFTCの規制で義務付けられた取引Venueで判断する。これは米国ではSEF(Swap Execution Facilities)、欧州ではOTF(Organized Trading Facilities)、日本はブローカーを中心としたETP(電子取引基盤)となる。

今回は、取引執行がロンドンから米国SEFに移るという事象が発生した。IHS Markitの調べによると1月の最初の2週間で、EURとGBPのスワップ取引に占める米国SEFのシェアが12月の11%から23%へと倍増したとのことである。USDのスワップ取引シェアも36%から48%に増加しており、これら3通貨のEUの取引執行機関のシェアは落ち込みを見せている。

BrexitによってEUに取引が移るかと思ったら米国に取られたということだが、これはもともと想定されていた。金融取引に場所はあまり関係ないのだから流動性があるところに取引が移るというのがデリバティブ取引においては自然な流れだろう。しかも以下に簡単に取引が別の拠点に移るかということも明らかになりつつある。

金融危機後はDodd Frank法によって米国における取引を嫌い、欧州に流れる動きがみられたが、今後この流れは逆転していくものと思われる。SEC議長になったゲンスラー氏がさらなる規制強化を進める可能性もあるが、おそらくスワップ規制にはそれほど大きな変更は生じないだろう。むしろビットコインやSPACと言った近年注目を集めている分野の規制変更にフォーカスするものと思われる。

日本の国際金融ハブ化というが、単純にデリバティブ取引を行うのであれば、一部金商法の制限はあるものの、海外からの取引は可能で、日経225先物の取引などは全く場所を選ばない。現物と先物の裁定取引等は日本の市場が開いている時間に取引した方が流動性が高いため、やはり拠点を選ぶのは現物ということになる。つまり日本の株式や社債に興味がある投資顧問会社が日本進出を検討するという構図になる。

一方もう一つ注目を集めているのがオランダのアムステルダムである。今やデリバティブ取引においては、SEFや電子取引を提供するTradeweb、Bloomberg、MarketAxessのような会社が重要であるが、こうした会社はすべてEU拠点としてオランダを選んでいる。こうなると、こうした電子取引のシェアはオランダが欧州で最も取引量が多いということになる。既に国債取引、株式取引はかなりの部分がオランダに移っており、1月の取引量はロンドンを超えている模様だ。

アジアの取引ハブはどこになるかということだが、既にデリバはTradewebとBloombergの2強で、社債についてはMarketAxessの取引も増え始めている。ただ、ローン中心だったためか、いかんせん円建ての国内社債市場があまりにも小さい。昨今は円債の起債も増えているので、社債市場の整備は海外からの投資や日本への進出を増やすためには重要課題である。

ETPは米国SEFに関する規制と同等性を保つためにとりあえず揃えたという感が否めず、これをアジアのマーケットスタンダードにしていこうという機運は全く見られない。唯一動いていたのはJGBのYensai.com、Quickくらいで、後はJSCCやTFXに期待ということになる。

金融ハブというのならオランダのような政策を取るというアイデアもあると思うのだが、現在のところ税制、英語サポートという一般的な内容にとどまっている(もちろん、これらも大事だが)。やはり国際ハブ化の前に、金融のシステム化、オートメーション化など、テクノロジー投資が不可欠である。政策面から後押しできるとすれば、米国のようなSEFの規制、STPガイドライン、決済周りの規制を整備して、日本の金融機関に海外並みのテクノロジー投資を促すことが肝要かと思う。

LIBORから新レートへの一括変換

一部では、ドルLIBORのLIBOR消滅の延期のニュースを誤解してとらえている向きもあるようだが、これはあくまでも移行が困難な古いレガシー取引に対する措置であって、新規取引は予定通り新レートで行われなければならない。したがって、移行作業を止めてよいというわけでは全くない。

また、5年間の中央値でスプレッドを決める時点も18か月遅延と誤解されることもあるが、これも12月のISDAのWebinarでFCAのSchooling Latter氏からコメントがあったように、すべてのLIBORベンチマークのスプレッド計算が一度に起きる可能性が高い。

ここでも何度かコメントしたように、ドル円通貨スワップにおいて、円Legだけ最初にスプレッドが決まり、その後にドルLegの調整が二段階で決まるのは面倒でしかない。

また、これに関してCCPにおけるレート変更がいつ起きるかという点についても意見が分かれている。LCHの意見募集が一般公開されていないため、ここでは紹介できなかったが、CMEの市中協議は内容を見ることができる。ここでは、市場参加者からLCHと同様の一括変換の検討依頼があったと書かれているが、CCP間で扱いが異なると対応が難しくなるので、当然の成り行きだろう。となると結局JSCCも追随するだろうから、すべてがLCHのやり方に収斂していく可能性が高い。

CMEの意見募集は以下の5点となっている。

  1. 他の市場、他のCCPとの平仄
  2. 一括変換のタイミング
  3. 固定レート、クーポンの計算期間、支払い日の扱い
  4. ヘッジ会計及び税金上の扱い
  5. 一括変換後に行使されたスワップションによってできたスワップの扱い

2のタイミングについては、やはりドルだけ遅らせるというのは手間なので、すべて同時にやってしまった方が望ましいと思う。3については、既に決まっているクーポンはそれを使う方法と、そのクーポンも置き換える方法の2種類があるが、CCP間で扱いが異なるように思える。トレーダーにとっては、後決めなのだから全て置き換える方が良いように思えるのだが、バックオフィスの人にとっては、既に決まったレートを変更するというのは抵抗があるのかもしれない。5は、スワップになりクリアされた瞬間に標準OISに変更するというので良いと思う。

そろそろLCHの市中協議の期限なので、来週か再来週くらいには今後の方向性が明らかになってくるものと思われる。

パッシブ投資へのシフトがもたらす変化

Vanguardの預かり資産額が7兆ドルを超えた。これでBlackRockとVanguardの2強体制がほぼ確立した。これは昨今のアクティブファンドからETFへの資金シフトを如実に表していると言えよう。

ETFに流入した資産額は近年急増しており、特に昨年は7600憶ドルを超える資産増となり、ETFの資産は8兆ドルを超えた。中央銀行が大量の緊急流動性を供給したため、感染拡大をめぐる市場混乱をよそに、ETFへ流れ込む資金は増加の一途を辿っている。安全資産逃避もあるだろうが、ゴールドのETFにも450憶ドル近くの資金が流れ、ゴールドの価格上昇に一役買った。

昨年の新規ETFビジネスの半分以上をこの2社が獲得しているというのも驚きであるが、日本にこうした資産運用会社が出てこないのは歯がゆいところだ。

近年ではStory ETFといったテーマ別ETFが人気になっている。ストーリ性のある株から何らかのテーマを持ったETFの方に資金が流れている。クラウドコンピューティング、新エネルギーなどホットトピックが生まれると、それに特化したETFが作られているが、手数料が高くなるうえ、あまり分散効果はないように思える。とは言え、ETFの資産額増加に一役を買っているようだ。

MiFID IIのリサーチアンバンドリングによって小型株のアナリストが減り、アクティブファンドが減ることによって個別企業分析の重要性が低下しているのは若干気になる。本当に良い企業を見極めようというよりは、インデックスをトラックすることにのみフォーカスが集中してしまっているように思う。やはり流れを変えるには、大きなマーケットショックが一度は必要なのかもしれない。

JPM決算発表時のSLRに対するコメント

昨日JPMの2020年第四四半期の決算発表があったが、感染拡大にも関わらず好調な決算だった。それよりも個人的には、いつもそこかしこにちりばめられる規制についての批判に注目している。今回もレバレッジ比率規制(SLR)をめぐるコメントが興味深い。

SLRが導入されたころは、FEDのバランスシートがそれほど大きくなかったが、近年これが急速に膨らんでおり、それに応じてGSIBチャージとSLRが、単なるバックストップからBinding Measureになってきたと述べられている。バックストップと言っているのは、バーゼルIIIの先進的手法などの所要資本がメインで、SLRは、精緻なリスク指標ではなく、あくまでも補完的役割だったのが、今や大きな制約になってしまっているということだ。つまり、バックストップであるはずのSLRの重要性が高まってしまったので、その他の資本計算を精緻にモニターする必要はなくなり、SLRだけが重要になってしまった。

SLRについては感染拡大を受けて一時的に緩和されているが、これも3月末には期限が切れてしまう。JPMは、これを恒久的な措置とするか、最低でも期限延長をすべきと言っている。

昨今では金利低下とローンに対する需要が低下したため、預金を集めてもほとんど収益に貢献しなくなっている。この状況下でSLRが最大制約となってしまうと、新規社債発行を行い、資本も高水準で確保しなければならない。こうなると、当然新規に預金が増えるとROEの低下を招く。では、銀行としては、新規預金受け入れを止めるか、その資金を他のところに回すか、資本を高水準に保ったままコストを転嫁するかという難しい選択を迫られる。これを解決するには、サイズに依存したSLRのような規制の一時緩和措置の継続が必要だという論法だ。

欧州で実例はあるものの、預金にマイナス金利を適用するのはかなりのハードルだ。口座維持手数料等を取って金利のマイナス分の効果を削減するというのが今のところ精一杯かと思う。担保としての意味合いもあるのだろうが、未だに預金獲得に走るところがある日本の銀行とは異なり、JPMの場合は規制のコストまで考慮してビジネスモデルを模索している姿が決算発表のコメントから伺われる。

それでも海外の場合は、預金の占める割合は日本ほど高くなく、株や債券、投資信託等への投資に回る部分が大きいので、まだましである。日本でも預金から投資への流れは着実にみられ始めているが、やはり現金を持つリスクというものを考えておいた方が良いと思う。デフレ下では関係なかったが、これから万が一インフレが起きれば現金の価値は下がってしまう。自宅に金庫を買って現金をため込むという方法はあるが、電子マネーがここまで普及してくると、金融機関などに資金を置いておく必要性は高まる。

こうした変化をうまく捉えて銀行経営を考えなければならないと、JPMのコメントを見ていて再認識させられた。

ISDA LIBORプロトコルの批准が加速

ISDAのLIBORプロトコル批准者数が7000近くになり、批准が加速してきた。ISDAのリストによると、日本の銀行、証券、生損保も軒並み批准を完了し、地銀や信金まで名前が既に上がっている。一部名前が出ていない市場参加者はそろそろ焦りを感じているところではないだろうか。

不思議なことに80%以上が米国の市場参加者であるが、日本も100社を超えており、英国、シンガポールの次に4番目の多さとなっている。ただし米国があまりに多いので日本のシェアは2%に満たない。米国の場合は一つの金融機関でも複数の会社が存在しているからかもしれない。

ISDAも1/14にアナウンスを出しており、更なる参加者の拡大を呼び掛けている。発効は1/25だが、その後の批准も可能だ。ただし、批准のタイミングをずらして自らが得をすることを模索していると見られたくないため、早期に批准を進めようというところが多いものと思われる。

ISDAのアナウンスにもあるように、プロトコルはサインすればそれで終わりではなく、前倒しで自主的に移行作業を進めることが推奨される。年末までにそれほど時間があるわけではないので待ったなしの状況になってきた。

ドルの担保金利変更もARRCの推奨期限となったが、あまり進んでいないように思える。やはりすべての取引の価格を合わせるのが困難なのだろう。金額に合意できないと、新規取引から新レートによるディスカウントに変えていくという二段階の変更が主流になる。この状況ではマージンコールが二倍になり、ネッティングもできないので一時的に必要担保額が増えてしまう。証拠金規制導入時にレガシー取引と新規取引でネッティングセットを分けたような場合は、契約が3つも4つも増えてしまうこともある。カストディアンの業務も煩雑になろう。

LIBOR改革には、レートの変更以外に様々な事務の変更が関係してくるため、今年一年の事務作業は著しく増えることになる。やはり早めの移行準備が肝要である。

LIBOR移行に関するLCHの市中協議

LCHのLIBOR移行プランについての問い合わせが増えてきた。とは言え、現在行われている市中協議の詳細は、自分の知る限り公開されていないと思うので、ここで書くことはできないが、いくつか新聞報道やLCHのコメントから分かっている内容をまとめてみる。

まずは昨日1/15のBloombergの記事によると、本年末を控えたLIBORの公表停止前にLIBORから新レートへの切り替えを行うことについての意見募集と書かれている。この切り替えによって生じた損益はCCPを通じてやり取りするという案になっている。CMEも同様の意見募集を14日の木曜日に始めたとある。

別途Risk.netにも書かれていたが、スワップの切り替えの際に、ISDAプロトコルに基づくFallback Rate RFRに変更されるのではなく、マーケットスタンダードである、標準的RFRスワップに変更するというのが、今回の意見募集の趣旨である。

この二つのスワップを仮にStandard OISとFallback Rate OISと呼ぶことにすると、条件はほぼ同じだが、少しだけ性質が異なる二種類のスワップがCCPに存在してしまう。こうなると、流動性が分断され、参加者破綻時などにオークションを掛ける際も面倒なことになり、リスク管理上も望ましくない。その後のコンプレッションや解約のハードルも上がる。

特にFallback Rate OISは、Fallback発生時には一瞬取引量が増えるが、その後も継続的に取引が行われる可能性は低く、普通に考えればStandard OISにシフトしていくことになる。当然流動性がなくなれば、クローズアウト時のコストも大きくなるため、当初証拠金所要額も上げざるを得ない。

一時的にFallback Rate OISをクリアリングしても良いが、どうせ使われなくなるのであれば、Fallback Rate TONAができた瞬間にStandard TONAに変換してしまえば、二種類のスワップが併存する状況は避けられる。

CCPとしては、なるべく多くの商品を清算してサービス向上を図りたいというニーズもあるだろうが、流動性向上のためにメインの商品に絞ってマーケットスタンダードを作っていくという視点が求められると思う。その意味ではLCHの提案は個人的には賛成である。おそらく市中協議でも市場参加者からの支持が得られるのではないかと思われる。

次期SEC議長候補が市場にもたらすもの

先週Gary Gensler氏が次期SEC議長候補になっているとの報道が相次いだ。ゲンスラー氏と言えば金融業界の方であれば覚えている方も多いと思うが、オバマ政権でCFTC長官を務めたやり手で、ドッド・フランク法導入時に様々な金融規制強化を推進した人物である。

個人的には金融業界の方向を決める際に規制が果たす役割が増えたのは彼の功績?によるところが大きい。バイデン氏と近く、昨年11月から金融規制等に関してアドバイスを行っていたので、今回の報道はそれほど驚きではないものの、前議長が規制緩和を進めてきただけに、今後の流れが一気に変わる可能性がある。

近年はブロックチェーン技術や仮想通貨について大学で講義したりしていたので、ビットコイン等の市場について新しい規制が入ってくるかもしれない。もともとGS出身者で、デリバティブ取引を支持する立場だったのが、金融危機を受けて完全にデリバティブ市場を抑えに行ったことを考えると、仮想通貨市場に同様の規制をかけ始めたとしても不思議ではない。以前見せたようななりふり構わず突進する推進力を見せれば、ビットコイン市場暴落の可能性は捨てきれない。

その他のフォーカスとしては、天候リスクの開示、職場のダイバーシティ等が予想されている。いずれにしても、業務遂行能力が高く、極めて有能な人物であることは間違いないので、そのまま議長に就任すれば、良くも悪くもマーケットに対する影響は大きくなるだろう。

BREXITにもかかわらずLCHの躍進は続く

BrexitでEUの株取引が英国からEUに流れているという話をしたが、デリバティブ取引についてはやはり、それほどの変化はないようだ。先週のデータはまだ明らかになっていないが、2020年を通してみると、LCHのスワップのクリアリングは、極めて好調であった。

金利スワップをクリアするSwapClearの取引件数は、昨年640万件で想定元本ベースでは$1.1 quadrillionに上ったようだ。1000兆ドルとなると、もう何が何だかよく分からない数字だ。

同時にSwapAgentの取引量も二倍以上に増えているとのことである。このSwapAgentの内容は別途詳しく書きたいと思うが、要はCCPに清算するわけではないものの、CCPのプロセスを使って事務の効率化が図れるというものだ。CCPのようにカウンターパーティ―リスクを軽減することはできないが、担保管理や決済管理が効率的に行える。スワップションや通貨スワップ等、CCPで清算すると当初証拠金が莫大になってしまうような取引についても使えるという利点がある。

金利スワップのみならず、FXやCDSの世界でもLCHの地位は揺らぐ兆しはないようだ。やはり現物株とデリバティブは相当異なっており、先物になるともっと影響は少なくなるのだろう。

ビックバン2.0という話も英国では出ており、Brexit後の各種制約の中、金融センターとしての地位を保つために、様々な手を売ってくることが考えられる。ロンドンの金融センターとしての地位を危ぶむ記事を書いたばかりではあるものの、デリバティブや先物におけるプレゼンスを高めることによって、金融に革新を起こしてくれるかもしれないという期待もある。少なくともここまでの地位を確立したLCHの牙城を崩すのは、なかなか難しいものと思われる。

通貨スワップの取引量が増えている

通貨スワップ、特にドル円の通貨スワップがここ数年増えている。Clarusのブログによると特に昨年2020年のドル円通貨スワップが大きくなっているように見える。

特に最近はLIBOR改革もあるので、LIBOR建ての変動利付債の発行は少ないだろうから、ほとんどがドル建て固定利付債を円に倒す際に発生する通貨スワップだと思われる。これは別途説明した通り、ドル円ベーシスの縮小圧力となる。他にもUSDやAUD建てでJGBに投資するアセットスワップのフローも入っているものと思われる。ドル円ベーシスが拡大しないのは、こうしたフローの影響も少なからずあるだろう。

米国では社債発行が2020年に急増したが、これに投資したい日本の機関投資家が通貨スワップでドル調達を行ったというフローもあるだろう。こちらはベーシス拡大要因になるが、米金利が上昇していけば、引き続きこの方向の通貨スワップや短期の為替スワップが増えていくものと予想される。

ここで注目されるのは、今年後半に通貨スワップがLIBORではなくRFRに変更されるかどうかという点である。海外ではRFRを両方のLegに使った通貨スワップも見られ始めており、HKEXでは、2021からHKDとUSD、CNYとUSDなどのRFR通貨スワップのクリアリングまで計画している。USDのLIBOR消滅が18か月延期されたからといって、新規取引にLIBORを使うことはできなくなるため、今年のどこかで、おそらく第三四半期くらいにはRFRの通貨スワップが主流になっていかないといけない。2020年12月時点での報道ではRFRの通貨スワップは21取引しかDTCCに報告されていなかった。

Fallbackのタイミングも例えば円Legが先にLIBORからRFRになり、その後ドルLegがSOFRになるといった二段階Fallbackになると事務的に煩雑である。一方がLIBORでもう一方がRFRというスワップもあまりにも面倒だ。個人的には両方のLegを同時に変更した方が望ましいと思うが、この辺りも業界のコンセンサスを取っていかなければならない。本年末までにはRFR同士の通貨スワップがマーケット標準となってなけれならないからだ。固定vs固定で取引をする発行体や投資家にはあまり影響がないのかもしれないが、裏で標準的なMTM条項付スワップを行うディーラーにとっては重要な問題である。

日本の投資家や発行体にとっては通貨スワップは必須であり、今後もニーズが高まっていくのは間違いない。ドル円通貨スワップのCCPクリアリングはハードルは高いだろうが、日本の金融の発展のためには、この通貨スワップの使い勝手は重要な問題である。例えば、米銀が日本の投資家と取引した場合、まずは日本時間で円を払って、NY時間でドルを受け取るというケースがある。反対の場合は問題ないが、日本の企業の信用力が低い場合は、この数時間の決済リスクが問題になる。これをスワップの元本交換をCLS決済にするような変更ができれば、このような決済リスクの制約はなくなる。

SLRやCCARなどの制約によって通貨スワップのコストが高くなったり、制限がかけられることも多いが、日本としては通貨スワップの流動性を下げる規制変更には注意を払っていく必要がある。おそらく通貨スワップの制約が金融経済活動に与える影響が最も大きいのが日本だと思われるからだ。本来なら、決済システムを何とかしてクリアリングできれば良いのだが。

米金利は上昇を続けるのか

米上院選ジョージアの2議席を民主党がともに獲得したことにより、上院は民主共和で50/50となった。これにより積極的な財政政策が打てるということで、米10年金利は1%を超えるところまで上昇した。多くの市場参加者が予想した通りイールドカーブのスティープニングは加速し、5y30yは2016年以来の幅に広がっている。

インフレ期待も高まり、インフレの指標に使われる10年のBreakevenは一気に2%を超えた。このような金利のベアスティープニングを予想する投資家は多かったので、恩恵を受けたヘッジファンドも多いのではないだろうか。そして、国債増発が既定路線となり、このトレンドはしばらく続くとの予想がマーケットコンセンサスとなっている。

とは言え、日本だって国債増発を続けてきても金利はずっと下がってきた。日銀が国債を吸収したというのもあるが、最近では他の国でも国債増発が金利上昇につながるという証拠はない。国の債務を増やしてもお金を擦り続ければ、結局は金利が低くても債券に資金が回り、金利上昇が抑えられる。例えば、金利が1%でもあれば日本や欧州の機関投資家からすると、魅力的な水準に見えるだろう。

米国でも国債購入を減らすテーパーリングが懸念されているが、実際は既に購入額は減少傾向にある。購入額を増やせば金利上昇を抑えることは可能だろう。

また、特に日本のケースがそうなのだが、金利が上がってしまうと、国債の利払い費用が大きくなってしまう。財政破綻を避けるためにも金利はある程度低位安定を続けた方が政策的には望ましい。

こうした状況を総合すると、このまま金利が一方方向に上がっていくとは考えにくいと思ってしまうのは、自分が日本にいるからなのだろうか。米国のみが突出して2%、3%のような金利上昇を続けていくとはとても思えない。まずはせいぜい1.25%を目指すだろうが、その後1.5%を超えていくかは個人的には疑問である。

金融センターとしての英国の地位が揺らぎ始める?

Brexitにより2021年始より、株式のトレーディングが英国からEUに大きく流れた。1月初日の英国における取引はほぼ半分になったという報道もみられる。もしかしたら本当に英国は金融センターとしての地位を失っていくのかもしれない。基本的にEUの投資家は、英ポンド建て以外のEU株式はEU域内で取引をしなければならない。EUで取引をした方が流動性もあるようだ。こうなるとEUの株式をわざわざロンドンで取引をしようというインセンティブはなくなる。これまでは、Brexitによる雇用減も1万人程度で、大きな影響はないと言われていたが、これが7万5千人になるのではとう報道もあった。

英国の年金資産は6兆ポンドを超えるとも言われており、引き続き重要な市場であることは明らかだが、従来のような地位を享受し続けられるかは定かではない。スイス株の取り扱い、英国におけるソブリンウェルスファンド創設の話もあるが、ロンドンの地位を保つには、80年代に行ったような大規模な改革が必要になるだろう。

デリバティブ取引については2022年6月までの免除規定があるためすぐに変化があるとは思えないが、現物株がEUに完全に映ってしまえば何らかの影響があるかもしれない。EUサイドもEU域内CCPへの誘致を加速させるだろうし、EU域外の資産運用会社にポートフォリオ管理を任せることは禁止されていないものの、昨今のコンプライアンス重視にかこつけて、よりEU域内で完結させるような動きを見せる可能性も高い。

ただし、特にデリバティブ取引や先物取引になると、取引の場所の重要性が低くなる。日本の日経平均先物にしても、株価指数の中では世界3位で、夜間取引で膨大な取引量があり、日本に住んでいなくても取引が可能である。デリバティブ取引も日本で日本時間であったとしてもロンドンの会社として取引が可能であり、あまり地域を考えながら取引をすることがあまりない。

唯一考えなければならないのが規制とライセンスである。日本で取引をする際には金商法に従わなければならないとか、米国ではDodd Frank法、EUではEMIRといった具合に異なる規制によって取引拠点が影響を受ける。つまり、EUが規制を変えてしまえば英国を締め出すことは容易にできてしまう。今でも米国参加者は日本のCCPで円金利スワップを清算できないし、日本の市場参加者が海外のCCPで円金利スワップをする際にも制限がある。

こうした制限は利用者の利便性というよりは、顧客資産保護に対する当局の考え方や、国同士の政治的交渉によって決まる。つまりすべては政治で決まるということだ。現在の欧州の交渉状況を見ていると、英国に不利に動き始めているように見える。一定のEUシフトはこれからも続く可能性がある。

SURE(Temporary Support to mitigate Unemployment Risks in an Emergency)とは

欧州委員会が2020年4月に提言した景気対策の一つである。欧州各国の失業給付金支給や雇用維持のため、100bnユーロまで加盟国に低利融資をするものだ。緊急時の失業リスクを軽減するための一時的支援とでも訳すのだろうか。

2020年には、5年、10年、15年のEU SUREソーシャルボンドが39.5bnユーロ発行されている。投資家の需要もそこそこ集まったようだ。10年のSURE債は-0.42%でドイツ国債よりは利回りが高いが、イタリアのプラス0.5%よりはかなり低い。残りの60.5bnユーロのSURE債発行は2021年の早い段階で発行される見通しである。Temporaryという言葉が表すようにもともと一時的な措置として導入されたのだろうが、今後はこれが恒久化されると予想する声が多い。

他にも、欧州周辺国などで雇用をサポートするための財源がない場合でも、EUを通じて支援が得られるリカバリーファンドのフレームワークが作られた。EUは一つの国ではないため、従来は共通の税金などの財源がなかったが、このフレームワークによって、EUメンバー諸国のために債券発行ができるようになった。そしてこの債券の償還は、一部EU自身が集めた税金によって返済されることになる。税金の財源としては、プラスチックごみにかかる新たな環境税、デジタル課税が中心のようだが、将来的には金融取引税の導入も予想される。

750bnユーロがリカバリーファンドとして準備され、そのうち312.5bnユーロが加盟国に返済義務がないもの、つまりEU自身の集めた税金で賄われる。ひょっとするとこれがEUの統合を一歩進める重要なステップになるのかもしれない。2021年は約150bnユーロの発行が見込まれている。

ドイツと同じようなリスクでありながら、利回りがある程度乗っているので、一定の投資家需要が見込まれる。ただし、かなりの割合が中央銀行によって購入されているようだ。これがある程度ユーロ高に寄与している。そうすると、今後共通債の発行が増えるということは、ユーロ高の圧力がかかり続けるということなのかもしれない。そしてEUの債券購入プログラムは、今後も減ることなく継続されるということなのだろう。問題はいつそれが止まるか、そしてそれがどのような影響をグローバルマーケットに与えるかということである。

金利低下が株式上昇を促す

米国金利上昇とイールドカーブのスティープ化はほぼマーケットコンセンサスになっている。短期金利は中央銀行の政策によってゼロ近辺に抑えられるだろうが、ワクチンの広がりによる景気回復、インフレ懸念、国債発行増などの理由から、長期金利の上昇を見込む投資家が多い。

こうした金融政策や景気刺激策は米国以外でも行われているが、金利上昇の見通しが強いのは米ドルだけのようにも見える。当然日本ではイールドカーブコントロール(YCC)により金利が低く抑えられており、欧州でもほぼYCCに近い金融政策が取れらているといって良いだろう。

こうなると金利がゼロに近い日欧の投資家は米国債の購入を進めるだろうし、社債の投資意欲も高まる。これによって米金利の上昇がある程度抑えられるだろう。また、金利がなくなってしまったことから、株式やその他の資産に投資資金をシフトさせる動きも見れられる。これはおそらくインフレが制御不能になるまで続くのだろう。ということになると、米金利上昇、スティープ化は市場コンセンサスではあるものの、10年金利で1.25%とか1.5%といった水準がせいぜいということになる。

2020年は感染拡大にもかかわらず、株価は軒並み上昇したが、中央銀行の政策によって金利が抑えられ、資金が消去法で株式市場に流れたからなのだろう。そうすると金利が上昇すれば債券市場に資金が戻り、株価下落というシナリオもあるのかもしれない。

また、パッシブファンドの急増により、優良企業を選別して資金が流れるというよりは、インデックスのウェイトに従って自動的にお金が流れるようになっている。もしかしたらこれまで債券のようなFixed Income商品に投資をしてきた投資家が、金利低下によってインデックスファンドをFixed Income商品の代わりに購入するようになっているのかもしれない。いずれにしても、しばらくは金利が急上昇することはなさそうなので、既に割高な株式市場もこのままのペースで上昇するということになるのだろうか。

気になるのはインフレだが、各国が食糧備蓄を増やす中、食料価格が上昇の兆しを見せている。農産物先物やオプション取引において年後半の価格上昇を見込んだ取引が投機筋からも増えてきている。先進国というよりは、新興国や欧州周辺国においてインフレが発生し、それが何らかの形でグローバルに波及した時が市場の転換点になるかもしれない。

このような市場の異変によって一旦マーケットが動いたときにすべてが逆流して株価下落というのが最もあり得るシナリオだが、それが起きるまでにはまだしばらく時間はありそうだ。