TONA先物がまずまずの取引量となっている

TFXが3月31日にTONA先物の取引を開始してからもうすぐ3か月となるが、そこそこの取引が行われているようである。日々の取引量や取引価格はTFXのウェブサイトで公表されている。OSEが取引を始めたのは5月29日だが、こちらも取引が見られている。

日銀の政策変更をめぐる不透明感も取引増加の背景にあるのかもしれないが、TFXとOSEの価格差を取るような裁定取引をするヘッジファンドまであると報じられていた。ディーラー以外の参加者も見られることから、ほとんど取引されないのではないかと疑問視する向きも多かった中では、まずまずの出だしといったところなのだろう。

金利スワップについても取引量が増えており、特にLCHに対するJSCCの優位が鮮明になってきている。これでUSクライアントのクリアリングが可能になれば、さらに流動性が上がってくる。TONA先物と金利スワップのクロスマージンが可能になれば、OSEのTONA先物の取引量も上がってくる可能性がある。

海外では為替でも先物やCCPでの清算を行うケースが増えてきた。資本規制が緩和される可能性は極めて低いため、ROEを向上させるためには先物やCCPへのシフトは今後も必然の流れとなるだろう。これまで日本ではあまり意識されてこなかった分野ではあるが、ここへ来て資本効率にフォーカスが当たり始めている。今後もさらに取引手法に変化が起きていくことが予想される。

理想のカウンターパーティーリスク管理とは

欧州ECBがカウンターパーティーリスクに関するガバナンスとリスク管理についてのコメント募集を行っている。募集が始まったのが6/2で、期限が7/14なので、比較的短期間の市中協議となるが、内容的にはそれほど大きな意見の相違がある内容でもなさそうだ。

対象となっている報告書はSound practices in counterparty credit risk governance and managementというもので、カウンターパーティーリスク管理のベストプラクティスのような形となっている。カウンターパーティーリスク管理のガバナンス、リスク管理手法、ストレステスト、WWR、デフォルトマネジメントなどの項目について、現行のベストプラクティスがまとめられている。

ガバナンス面では3線管理の重要性が強調されている。フロントオフィスの1st line of defenceと、独立したリスク管理部門である2nd line of defence、監査を行う3rd line of defenceのガバナンスと役割分担の重要性が強調されている。大手銀行はフロントに専門のカウンターパーティーリスクチームを設置しているものの、あまり効果を発揮していないというコメントも見られる。CCRに関する詳細な報告がシニアマネジメント層に報告されていないとも書かれている。マージンコールを始めとする詳細なリスク管理に対するトップマネジメントの関与不足も指摘されている。

確かに担保管理プロセス、WWRの管理、ストレステストなど、すべてのツールは揃っているが、トップマネジメントの関与があるかというと、このレポートがコメントしている通りなのかもしれない。定期的にリスク管理委員会などで報告はなされるが、トップマネジメントが、この深く突っ込んだ質問をしてくることは少ないのだろう。本来は、複雑でかなりの細部にわたるリスク報告書を平易な言葉で報告をしていくことと、CROだけでなくトップマネジメントがリスクに対して関心を持つことが必要なのだろう。

とはいえ、この10年の間にリスク管理に関しては大きな進歩が見られているのも確かである。以前であれば、ビジネスを推し進めたい現場と、それを抑えようという2線が対決するのが当然だったが、最近では、2線が承認した取引でさえも、ビジネスサイドのトップが否認するというケースもあるようだ。特に海外大手銀行では、アルケゴスのような大きな損失が発生すると、現場のマネジメント層も責任を負うことが増えてきたため、収益サイドに偏っていた現場のマネジメントのフォーカスが、若干リスク寄りに変化している。

最も効果を発揮しているのは、こうした損失が発生した時に現場のマネジメント層が個人的に責任を負うというプラクティスである。これは当初英国で始められた規制だが、米国でも似たような議論が出始めている。この場合の「責任を負う」とは、過去に支給されたボーナスが没収される可能性があることを意味する。こうなると、いくら収益が重要といってもリスクを気にせざるを得なくなる。だが、これが正しいリスク管理なのかどうかはよくわからない。

退職を控えたマネジメントなどが、すべてのリスクを避けるという行動にでることもありうるからだ。一方転職してきたばかり、着任したばかりのマネジメントにはこうしたインセンティブがなく、両者のせめぎあいとなる。だが、これが本当に金融機関の経営として健全と言えるのだろうか。やはり個人の生活とビジネスディシジョンは別に分けておいた方が良いと思う。そもそもこうした規制が海外で導入されるのは、上級管理職の報酬が極端に高すぎるからなのかもしれない。

とはいえ、現場のマネジメントがリスクに注意を払うのは良いことである。日本の場合はリスクはリスク管理部門、ファンディングコストは財務部門、資本コストや規制コストは企画部門のようにサイロに分かれていて、現場のトレーダーが資本コストやファンディングコストを気にしながら取引をすることが少ない印象がある。海外モデルが正しいとは言えないが、海外と日本の中間のようなところに正しい姿があるような気がする。

Non Financial Riskに対する資本規制強化

大手銀行の資本コストが20%アップというニュースが今月初めに大きな話題となった。資本コストの変更によって大きなビジネスの転換を余儀なくされた米系にとっては、こうしたニュースは個人レベルまで影響が及ぶ大問題であるため、各所から問い合わせが寄せられた。当然シリコンバレーバンクなどの銀行破綻を受けた資本規制の変更であり、トレーディング業務の割合の大きい大手銀行に対する影響も大きいと言われた。

これまでこうした資本規制の変更に翻弄されてきた債券ビジネスに関わる担当にとっては、またかという感じだったのだが、報道によると今回は少し様相が異なっていた。というのは、これまでは安全とみなされていたウェルスマネジメントに対する資本コストの増加が見込まれると報道されたからだ。

2007-2009年の金融危機では、トレーディング業務が狙い撃ちされ、それに対応するためにいくつかの銀行がウェルスマネジメントに舵を切った。こうした銀行の収益は安定し株価も右肩上がりとなり、従来巨額の収益をトレーディングから上げてきた銀行との差を広げていった。今では猫も杓子もウェルスマネジメントという風潮になっているのだが、今回の変更がこの傾向に待ったをかけるのかに注目が集まる。

こうした手数料収入にフォーカスしたビジネスは、確かにトレーディングから収益を上げるビジネスよりはリスクの振れ幅が少ない。しかし、今回注目されたのは、カウンターパーティーリスクやマーケットリスクではなく、不正や人的システムエラー、サイバー攻撃のようなオペレーショナルリスクに対する資本賦課の増加である。

金利ポジションの管理に失敗したSVBを始めとする地銀や中小銀行に対する規制強化は誰もが予想していたが、ウェルスマネジメントのような手数料ビジネスにまで規制強化の影響が及ぶとは思っておらず若干唐突感がある。確かに、昨今では虐待疑惑のかかる富豪と取引をしていたことから罰金を科される事件なども起きており、金融機関は、より社会的な責任を負うようになってきている。日本でも反社会勢力との取引が銀行を危機に追いやることもあるため、同じように状況にある。

虐待、環境破壊など、社会的に望ましくないとされる業界とビジネスを行っていることが、金融機関を危機に追いやることがあるので、確かにリスクとはいえる。つまり資金融通をするという金融仲介機能以外に、社会的公器としての役割が金融機関には求められるようになってきたということである。

従来は、カウンターパーティーの財務的健全性の検証にフォーカスしていたDue Deligenceが、それ以外のNon Financialな部分に及び始めたということである。日本では、こうしたリスクに対する罰金の額は少ないが、米国エプスタイン事件ではJPMは160億円にも上る罰金を支払っている。こうしたリスクはリスクの高いトレーディングビジネスを行っているとか、アルケゴスのような集中リスクを抱えるという伝統的なリスクとは性質が異なってくる。

今後はデフォルト損失やトレーディング損失にフォーカスするリスク管理者のほかに、KYC(Know Your Client)や顧客の社会的行動についても注意を払う担当が必要になってくる。そしてそのリスクを数値化し、資本コストとして割り当てていく必要がある。これはトレーディングビジネスのみならず、ありとあらゆるビジネスに関係してくる。

日本では反社会勢力に対する取引という観点で、もしかしたらこの分野では一日の長があるのかもしれないが、海外ビジネスを行う際には、日本とは異なり、巨額の罰金が科せられる可能性があることを考慮しながら、新たなプロセスを設けていかないと、日本の銀行だけが罰せられるということにならないよう、注意していかなければならない。

欧州CCPの利用の義務付けは欧州のためになるのか

EMIR3.0の一部であるActive account要件が物議を醸している。これはEUR金利スワップの一定程度を英国LCHではなく、EUのEurexでクリアリングするように定めたルールだ。LCHに比べると流動性に劣るEurexでクリアリングするということは、それだけ追加コストを払わざるを得なくなるということだ。LCH/EurexのCCPベーシスは、LCH/CMEベーシスとは異なり、10年で4bp程度にまで開くことがある。年金基金やアセマネなどで最良執行義務があるところなどは、コストの高いEurexでのクリアリングを義務付けられると、顧客との間で問題が起きるのではないかという懸念もある。

まだ具体的な数値が確定した訳ではないが、この要件が課されるのは2024年からなので、適用開始に向けて議論が大きくなる可能性がある。

Risk.netによるとドルスワップの80%は米国参加者によるものである一方、ユーロスワップの場合は、24%が欧州参加者によるものらしい。直感的にはわかりにくいが、ドルの場合は、米国参加者による取引がかなりの部分をカバーしている、つまり受けも払いもバランスよく含まれているということのようだ。したがって、CCPベーシスが拡大しにくい。一方ユーロの場合は、EUの参加者の取引がマーケット全体のバランスを表しているというよりは、70%の取引がEU外のグローバルプレーヤーによるものとなっている。つまり、EUの参加者にEurexの参加を義務付けても、一部のフローが移るだけで、結局CCPベーシスの縮小にはつながらない。

米国の場合は、CMEにおいて先物と金利スワップのクロスマージンによる証拠金の削減が可能になっていることからCMEでクリアリングするメリットもある。一方Eurexの先物は取引量が少ないため、クロスマージンのメリットが少ない。こうなると異なる通貨間の相殺効果があるLCHの方がマージンが少なくなり、コストが下がる。

また、年金基金に認められている清算集中義務の免除の期限が来週から切れることから、一方向(長期の固定受け)の取引が更に増え、ベーシスの拡大につながるのではないかという懸念がある。週明け以降のマーケットには注意したい。

中国オンショアスワップの行方

5/15に中国のSwap Connectの取引が始まったが、事前の期待とは裏腹に、今のところそれほど取引量は増えていないようだ。主な参加者は中国外の大手アセマネ、年金、保険会社といった、いわゆるリアルマネーの投資家となっている。

とは言え、興味を示す市場参加者が確実に増えているようなので、一定の時期を経れば急激に取引量が増えていくことが予想される。そうなると、これまでオフショアでドル差金決済をするNon Derivarableで取引されてきた金利スワップ(NDIRS)マーケットからのシフトが予想される。オンショアでDerivarableの金利スワップが使えるのであれば中国国債(CGB)のヘッジとしても最適である。流動性や取引コスト面でもオンショアの金利スワップは圧倒的に有利だ。

事実、Swap Connectの話が出てからというものオンショアとオフショアのスワップ金利の差は20bpから4bpへと縮小している。このベーシスリスクは中国のトレーダーの収益の源泉だったのだが、この取引戦略のうまみがなくなりつつある。

これまでBond ConnectやCIBM DirectによってCGBの取引をしてきたオフショア投資家のほとんどがSwap Connectに参加していくようになると予想されている。CIBM Directに比べると参加時に求められる手続きもSwap Connectの方が簡単なようだ。

それにしてもOnshoreとOffshoreでここまでマーケットが異なるということには驚きを隠せない。流動性にも大きな違いがある。これが社債になると、OffshoreでほぼDistress債のような価格で取引されているものでも、Onshoreではパー近くで取引されることもある。一連の市場開放策によってこうした差が収斂していくと予想する投資家も多く、実際にポジションを取っている人もいるようだ。確かに巨大なOnshoreマーケットが開放され、参加者が増えてくれば、ドルに次ぐマーケットが出来上がる可能性はある。当然政治的リスクはあるものの、無視できるマーケットではないだろう。

米国の決済期間T+1化がアジアに与える影響

米国で決済期間の短縮化が粛々と進んでいるが、アジアでは時差の関係から様々な問題点が指摘されるようになってきた。社債や株式の決済を来年5月28日の期限までにT+1にすべく作業が進んでいるのだが、実は米国ではそれほど問題がなくとも、時差の関係でアジアにおける作業が最も大変になるかもしれない。

例えばアジアの市場参加者が米国債を購入した場合、次の日に米ドルの確保をしてT+2で決済してきた。これがT+1になるということは取引がマッチした日に米ドルをSame Dayで確保するのがベストである。あるいは決済前に米ドルを持っておかなければならない。日本円はおそらく大丈夫だろうが、アジアの通貨の中には、取引日のNYクローズなどに為替を取ろうと思っても、時間帯的に流動性に難があるかもしれない。

CLSのカットオフであるNY時間18時に間に合わないと相対の決済を行うしかないが、そうすると決済リスクが発生してしまう。ここまでテクノロジーが進歩したのだから、即時決済などが進んでも良いのだが、なかなかこれに関しては技術革新が起きていない。

こうした点は以前から議論されてきたのだが、アジアからの懸念が十分に認識されないうちに、米国主導でT+1化が進んでしまっているような気がする。もう少しアジアからの主張を声高にしていく必要がありそうだ。

ISDA SIMMのAd Hoc更新が行われた

証拠金規制のIMについては、毎年決まった時期にパラメーターの更新が行われるが、今回は直近のボラティリティの上昇を受けAd hocで調整が行われた。マージンパラメーターの変更が遅きに失しているという批判を受けて通常のサイクル外で変更をかけたものと思われる。このVersion 2.5からVersion 2.5Aへの変更は来月から実施されるが、主に金利関連の変更が行われている。

ドルやユーロなどの標準的なVolatilityの通貨に関するもので15年までの年限に関するものだが、6か月までの短い年限では若干リスクウェイトが低くなっている一方、3-5年回りの年限で引き上げが行われている。逆にHigh Volatility通貨については短期の上昇が著しい。唯一のLow Volatility通貨である円については、10年回りのリスクウェイトが上がっている。日銀の政策修正を巡って10年近辺の変動が大きくなったのでこれは当然だろう。クレジット物、株式、為替、コモディティなどには全く変化はない。

これによって相対取引のIMが7月15日から引き上げられることになる。10年円金利スワップのRisk Weightが2割程度引き上げになるのが、日本にとっては最大の影響となるだろう。あとはHigh Volatility通貨であるブラジル、メキシコなどの短期スワップのIMが急上昇し、ドルについては5年回りが15%増となる。

Clarusの分析では一般的なポートフォリオでIMが4-17%、平均にして14%増加すると見込まれている。最近IMが急上昇したコモディティのIM増加幅に比べるとマイルドな変化と言えるが、円金利についての変更はそこそこのマーケットインパクトがあるかもしれない。原則論からするとIMのファンディングコストをチャージするMVAの上昇につながる。

今回は年次更新のサイクルの外で行われた最初の変更となるが、今後は四半期ごとの更新などへと議論が移っていくかもしれない。市場変動に合わせて柔軟に変更をかけるというコンセプトは問題ないのだろうが、あまりに頻繁にこれが変わると、ファンディングコストがぶれるため、ビジネスプランが立てにくくなるうえ、プロシクリカリティを誘発しかねない。とはいえ、市場が動いてからのカリブレーションがかなりのラグを持って行われるのも問題なので、今回のような、大きな変動があったときに機動的に変更をかけるという方法にするしかないのだろう。

ただし、頻繁な変更に備えて社内のシステムテストなどのプロセスをもう少し自動化していく必要はありそうだ。

顧客保護を意図した規制により顧客の利益が損なわれる例

5/15に中国のSwap ConnectがGo Liveとなり、グローバルで注目を集めている。ここへ来て、JSCCで長らく問題となっていたUS Personのクライアントクリアリング参加が突然注目を集め始めた。米国の市場参加者はCFTCの制約により、Exempt DCOと言われる外国CCPに参加することができないのはこのブログでも何度か説明してきた。

もともとは、米国の市場参加者を保護するための制約だったのだが、流動性が高まるJSCCの円金利スワップ市場や、今回新たに始まったSwap Connect経由の中国の金利スワップも取引することができない。完全に米国の参加者にとっては不利なのだが、CFTCは自分で自分の首を絞めてしまっている。

中国の場合、オンショアとオフショアで完全にマーケットが二分されてしまっており、オンショアマーケットの流動性は格段に高い。これは金利だけでなく、為替、債券などあらゆる商品共通である。社債などもオフショアのドル債は30%くらいに価格が下落していてもオンショアでは90%で取引されていたりする。金利スワップについては、ドルで決済するNon Derivarableの形で行われてきたが、今般のSwap Connectにより、海外市場参加者がより流動性の高いオンショアマーケットにアクセスすることができるようになった。だが、米国の参加者以外はという但し書きがつく。

DCOとはDerivatives Clearing Organizationの略で、これが認められるためには、米国CFTCが定めた要件を満たす必要がある。しかし、多くの米国外CCPはExempt DCOというStatusを取ることにより、一部制限された形で取引を行っている。JSCCもSwap Connectを提供するHKEXもともにこの形態をとっている。

米国のバイサイドでは日本円金利市場はもちろん、中国国債の取引をするところも多いので、流動性の高まるJSCCの金利スワップや中国のSwap Connectにアクセスできないのは、非常に不利である。大手であれば欧州にファンドを設立してそこから取引をすれば良いが、こうなると何のための規制なのかわからなくなってくる。これでようやくCFTCも重い腰を上げるかもしれない。

金融機関のシステム産業化

大手米銀がテクノロジー投資を加速させている。クラウドインフラ、データーセンター、各種データ分析、セキュリティ、ソフトウェアやアプリ開発と、もはや金融機関というとテクノロジー会社の様相を呈してきている。これまで右肩上がりに上昇してきたテクノロジー支出だが、今後も更に増加することが見込まれている。全世界のテクノロジー支出は4.8兆ドルを超えるとも言われている。

JPMの2022年のテクノロジー予算は約$14bn(約2兆円!)だが、そのうち$6bnが成長を支える新デジタル商品やデジタルサービス、通常業務に必要なテクノロジーの導入に充てられている。そして$4bnが主要ビジネスであるチェースブランドのリテール、投資銀行、商業銀行、資産運用に使われている。

特にJPMだけが突出しているという訳でもなく、バンカメも約$11bnを年間使っており、兆円単位での支出をする銀行は多い。日本のシステム投資額を同じ分類で比較するのは難しいが、一昨年のS&Pのアナリストの分析では、比較的システム投資に熱心なMUFGが300億円程度と推定していた。当時のJPMの投資額が1.1兆円だったことから1/3以下ということになる。近年では邦銀のシステム投資は米銀の1/5というニュースもあった。円安の影響もあるが、JPMの投資が2兆円近くになってきたことから、この差はさらに開いているものと思われる。

米銀のシステム投資は、新技術に対して行われることが多く、6-7割がこうした新しい取り組みに対するものである。翻って日本の状況をみると、既存システムのメンテナンスや拡張が中心になっており、先のS&Pの分析では新技術に対する投資は2割程度と推測していた。

システム投資のみでなく、人材面でも大きな変化がみられる。海外ではトレーダーの数は極端に少なくなり、オペレーション部門の人員削減が進み、かなりの業務がシステムやAIに置き換わっている。当然過渡期であるため、日本のように人手を介して手厚くサポートするサービスに比べると、満足のいくサービスが行えていない面もあるかもしれないが、これは技術進歩によって大きく変わっていくことになる。JPMなどでは全従業員の約2割以上がテクノロジー関連の技術者だが、邦銀のシステム部門の人員は全体の数%と言われる。

これだけのIT人材を雇おうと思うと、もう国内だけでは不可能となる。実際米銀でもテクノロジー部門の人員はほとんどが米国外におり、ブタペスト、ムンバイなど世界中のあらゆる国から優秀な人材を集めている。特にコロナ以降この傾向はますます強まっている。

あらゆるスタートアップ企業が新しいテクノロジーをフル活用して、過去のシステムより優れたものを短期間でしかも低コストで構築しているのをみると、日本でも時代遅れのレガシーシステムのメンテナンスに資金を投入するよりは、一から新しいシステムを作った方が良いのかもしれない。もっとも銀行サービスが止まってしまっては死活問題なので、そこまで大胆な決断ができるところは少ないだろうが、意外とその方がリスクが低いのかもしれない。