JGBの決済システムの未来を考える

日本国債のレポ取引のオペレーションが複雑という不満が良く聞かれる。取引の8割程度はJSCCで清算されており、清算取引の効率化はある程度進んだが、残りの2割については、電話やメールなどで担保銘柄の照合、サブカストディアンである信託銀行への決済指示も自動で流れないことが多い。

近年では海外ヘッジファンドの取引量が急増しているが、海外のようなグローバルカストディアンを経由したトライパーティーレポが実現していない。2割といっても約60兆円、1日あたりの取引高でも20-30兆円になるはずだから、無視できないサイズである。決済期間の短縮化やリアルタイム決済の流れが加速する中、何らかの改善が求められる。

そもそもJGBの決済は日銀ネットで行わなければならないが、日銀ネットは世界的に見ても極めて高度で安定したシステムだったと思う。早くからRTGSを完備し、T+1化も他国に先駆けて実現した。だが、あまりにこれが優秀だったため、海外のようにこれを補完する民間インフラが育たなかったということなのではないだろうか。また日本の事務手続きが優秀だったため、何とか手作業でミスなく作業をこなすことができてしまっていたのかもしれない。

米国などではFedwireは日銀ネットほど高度ではないが、BNYメロンなどのカストディアンが高度な計算、決済を行い、トライパーティーレポが発達したため、全体としては優れた仕組みを作り上げている。そして人手を介するとミスが多くなることから、極力自動化、システム化が進んでいる。これからデジタル資産やスマートコントラクトの利用が増えてくると、日本の優秀なマニュアル事務プロセスでは追い付かず、やはりシステム的に対応するしかなくなる。

海外投資家はこうしたプロセスに慣れているため、JGBレポに参入するとその非効率さに驚くことが多い。海外のようにグローバルカストディアンがすべての処理をするのが不可能で、日本の信託銀行をサブカストディアンとして使うため、一つレイヤーが増えてしまう。このため、SWIFTのやり取りが増えたり、時差による確認作業が発生したりするので遅れが発生する。

かと言ってグローバルカストディアンが日本の免税手続きなどを行うのは非効率であり、日銀ネットへの直接参加や信託ライセンスという高いハードルもある。JGB決済を大規模に行うオペレーション体制がなく、複雑な税務処理や国内規制対応が事実上の参入障壁となっており、結局はサブカストディアンに頼ることになろう。

実際グローバルカストディアンやユーロクリアなどのICSD(国際証券決済機関)ではJGBブリッジという仕組みにより、外で帳簿を動かす仕組みも持っている。しかしユーロクリアなどに大量のJGBの在庫を置く必要があり、日本国内にJGBを戻す際には結局フェイルが起きたりする。また、何といってもJGBの保有主体を厳格に把握しなければならないという税務上の制約が大きい。ここは海外金融機関にとってはかなり難しい問題で、サブカストディアンの機嫌を損ねたくないという感情も相まって、海外からの参入にはどうしても制約がかかってしまう。

逆に国内サブカストディアンがグローバルカストディアン並みに自動化を推進していく方が簡単なように思えるが、米国などと比べると信託銀行の数が多く、24時間対応、海外接続などの課題が残る。

これらを解決しようとするとかなりの調整が必要になるのは明らかである。こう考えると、JGBのトークン化を通じて24時間の即時決済を可能にし、サブカストディアンを介さないデジタルウォレットを使う方法しかないのかもしれない。現金の方は中銀のデジタル通貨や、ステーブルコインなどを使えば良いだろうし、海外のDiSHのような仕組みを使うこともできる。トークン化を行う際の法的裏付け、税務対応が解決すれば、これが最も近道なのかもしれない。

米国G-SIBルール改正案

Basel III endgameに関連してG-SIBに対する資本上乗せ要件の見直しも行われている。先週木曜に公開された一連の文書から、G-SIBに関する概要をまとめてみる。

米国のG-SIBスコアはBaselの原案と異なり、経済成長に合わせた調整がなかった。つまり、米国経済が成長して銀行のサイズが大きくなれば単純に全員のG-SIBスコアが上がってしまう。これは業界から長らく批判されてきたが、今般経済成長に併せて調整が行われる仕組みに変更される。

また、米国のG-SIB計算であるMethod2には、STWF(短期卸売資金:Short-term wholesale funding)が含まれており、GSやMSのような投資銀行系に多くの資本賦課が行われてきた。本来、STWFはMethod 2スコアの20%を占めるよう設計されていたが、実際には約30%に達していたので、今回はこれを20%に戻すような変更が行われている。

現行ルールでは「STWFの加重平均額 ÷ 平均RWA」という比率でスコアを算出しているため、RWAが減少するとSTWFのスコアが逆に上昇してしまっていたが、今回は、RWAの分母をなくすことで、この問題を解決しようというものである。これはトレーディング業務の比率の高いGSやMSに朗報だろう。

また、かねてから言われていたように、G-SIBスコアの計算が、年末時点の数値ではなく、日次または月次の平均値を使用する方向性へと変更になる。これによって、期末に流動性が逼迫して市場変動が大きくなることは少なくなるだろうが、一方で、常日頃からバランスシートを膨らませないように努力したり、コンプレッションなどを行っておく必要がある。

そして、従来50bpごとに資本賦課のレベルが上がるスコアの範囲を10bpごとに細分化した。急激な資本賦課の上昇を抑えるために期末になると取引を制限していたような銀行に対するプレッシャーが和らぐため、市場の流動性逼迫が起きにくくなるというメリットがある。

こうしてみると、色々と規制緩和が行われたように見えるため、政治圧力によって銀行規制が緩んでいるというよりは、どれも納得のいく変更であるため、従来から指摘されてきた問題に対処したという変更に見える。

米国Basel III最終化案

米国バーゼルIII最終化案(Endgame)の詳細が3/19に明らかになった。概ね想定通りだが、若干認識していなかった変更が含まれているように読める。

まずは、資本計算の新しい方式が提案されている。これまでは、標準的手法と内部モデルを使った先進的手法の両方を計算し、内部モデルの計算が標準的手法より資本削減につながらないようなフロアが求められていた。今後は、両方式の計算の義務付けを廃止し、拡大リスクベースアプローチ(Expanded Risk-Based Approach)なるものが使われるようになる。

大手銀行は、二つの資本計算を行い、それぞれの資本賦課の低減を図ってきた。これが一つの計算方法に統一される意義は大きい。

この手法のもとでは、住宅ローンにつき、従来の画一的なウェイトではなく、LTVに基づいてリスクウェイトを細分化することになるようだ。また、全体的に事業法人向けローンのリスクウェイトを100%から95%に引き下げ、そのうち投資適格等級の企業向けローンのリスクウェイトはさらに65%に引き下げられる。全般的に規制緩和方向に見えるが、計算方法の精緻化も併せて行っており、望ましい方向性のようにみえる。

次にオペレーショナル・リスクの標準化であるが、自社モデルの利用が廃止され、銀行の業務量に基づいた標準的な算出方法を用いることになる。ここはもう少し読み込んでみたい。ただし、投資運用やカストディ業務などリスクが低いとされる業務についての資本賦課も低くなりそうだ。

信用リスクとオペレーショナルリスクについては、内部モデルの使用が禁止されることになるが、市場リスクについては、当局承認を条件に使用が認められる。

市場リスクについては、従来のVaRに代わり、テールリスクをより正確に捉える期待ショートフォールが導入されており、これは最近のリスク管理の変化の方向性と一致している。

CVAリスクについては、BA-CVAとSA-CVAをベースとしつつも、リスク感応度をより精緻に考慮し、国際基準に近づけた形に変更とある。BA-CVAを使っていたとしても、直接カウンターパーティーのCDSでヘッジしなくても、同一業種、地域だったりすると、限定的ながらヘッジ効果が認められるようになる。インデックスものに関しては、構成銘柄が同じセクター(業種よりも広い概念)、信用区分(投資適格、非適格の区分)にあれば、シングルネームヘッジと同じように扱い、リスクウェイトに0.7を乗じる。構成銘柄が複数のセクターにまたがる場合は、各銘柄のリスクウェイトを特定し、元本で加重平均し、0.7を乗じる。

SA-CVAでは、デルタリスク、ベガリスクを補足するので、金利、為替、オプションによる市場リスクヘッジが資本賦課を軽減させることができる。CVAヘッジを行っている銀行であれば、この効果が反映される意味は大きいので、SA-CVA導入のインセンティブは大きい。また、クライアントクリアリングの顧客レグを含めた清算取引がCVA規制の除外と書かれている。これは若干驚きだ。これでクライアントクリアリングビジネスは一気にやりやすくなるのではないか。

このほかG-SIBについての変更もあるが、別記事でまとめたい。本最終案のコメント期限は6/18となっている。そこから最終規則の公表までは数か月かかるだろうから、正式な施行日は年後半か来年になりそうだ。

中東情勢がデリバティブ市場に与える影響

戦争などが起きると、通常は安全資産が買われるのだが、今回の中東情勢はインフレ懸念を加速させ、各国金利は上昇基調となっている。米国も9月までの利下げはないという意見が支配的となり、これまで2回の可能性があると言われていた利下げの回数予測も1回とするところが多くなっている。

国債利回りの更なる上昇に備えたヘッジ取引が活発化し、DTCCのデータによると、世界の金利デリバティブ取引高は戦争の翌週1週間で20兆ドルを超え昨年の平均の約2倍となり、過去最高水準の活況を呈している。米国では、年内の利下げ観測後退から特に短中期ゾーンの金利スワップの取引増が著しい。

欧州でもウクライナ戦争時のインフレショックの連想から、金利上昇圧力が高まっているためか、米ドル金利スワップもよりも欧州通貨の金利スワップの方が取引が増えている印象がある。英国では年内利下げ期待が大きく後退し、フランスやドイツでも短期債を中心に国債が売られ、利下げどころか利上げの話まで出始め、金利が上昇している。

一方為替市場では、安全資産のドル買いがみられ、円やユーロに対してドルが強含んでいる。EUは石油の64%を輸入に頼っており、日本はほぼ100%を輸入に頼っている。一方、引き続き安全資産とされるスイスフランが強含み、対ユーロで約11年ぶりの高値を付け、介入の話すら出てきた。一時期はスイスフランとともに円が買われることもあったが、昨今では円は有事で売られることが多くなってきた。

この高いボラティリティが継続すると、ストレス損失、VaRの上昇を招くため、CCPの当初証拠金やSIMMのパラメーター変更を通じた相対取引の当初証拠金の増加が起きる可能性が高い。これまでのところ、市場変動が大規模な倒産につながるようなことにはなっていないが、同時期に起きているプライベートクレジットの変調は気になるところである。ここで何か大きなショックが起きると、各種資本規制強化の動きが出てきても不思議ではない。少なくとも、銀行内部では、ストレスシナリオの見直しの議論などが出てくるだろうし、いったいどこまでのストレスを想定してリミットや資本を積めばよいのかという問題がクローズアップされることになるだろう。

バーゼルIII Endgameの決着が近くなってきた

一昨日3/12、FEDのBowman銀行監督担当副議長が、バーゼル3​最終化及びGSIB追加資‌本要件に関する米金融当局の新提案の概要を明らかにした。2023年案では、資本コストが約19%増加すると言われ、業界から強い批判の声が聞かれていた。今回のコメントを見ると、大幅な資本増強策は事実上撤回され、全体への影響は5%未満程度のマイルドな変化となりそうだ。

これにより米6大銀は今後1年半の間に約2000億ドルもの資本を配当や自社株買いに充てることができることになる。これは株価にとってもPositiveなニュースだろう。興味深いのは、内部モデルの使用に対する制限や標準法以上への資本削減を制限するアウトプットフロアが大きく緩和されそうな点だ。

市場リスクについても過剰なリスクウェイトの見直しが予想され、内部モデルの維持が可能になり、過度の制限がなくなりそうだ。業界が求めてきた変更がすべて反映されているように見える。また、米銀のG-SIBスコアの計算を年末ではなく通年平均とする方向に変更する模様だ。これにより、年末だけでなく常にコンプレッションなどでデリバティブ元本残高を圧縮する必要が生じるようになる。

また、短期資金調達に伴うスコアの要素見直しについても触れられていた。これが緩和されると、この寄与度の大きいGoldmanとMorgan Stanleyが有利になるのではないだろうか。

そして、いわゆるクリフ効果を軽減するため、50ベーシスポイントではなく10ベーシスポイントごとに追加の資本がかかるようにするともコメントしている。これまで、一定の閾値を超えないように、必死でポジションを減らし、市場流動性に悪影響が生じていたが、これが少し緩和されるかもしれない。

銀行業界としては、提案に関​する詳細内容​の公表を待ちたい⁠との考えを表明しており予断は許さないが、おそらくかなりの部分が緩和方向に向かうものと思われる。

とはいえ、プライベートクレジットを巡る警戒感が強まるなか、資本要件が本当に銀行システムの脆弱化につながるのではないかという声も出ている。いつものことであるが、民主党の​エリザベ⁠ス・ウォーレン上院議員が早速警告を発している。来週の理事会で新たな提案が承認されるかの採決が行われるとのことなので、まずは結果を見守りたい。

トークン化証券にかかる資本規制

トークン化証券を銀行が扱うと資本にどのような影響を与えるかというのは、業界の注目でもあった。この度、銀行資本要件において、トークン化証券に追加手当が不要になることを米国当局が明確化したという記事が出ている。トークン化証券を扱ったとしても銀行の資本要件において特段追加的な手当ては必要ないとのことである。一見トークン化証券をサポートするような印象を与えるが、要は既存の金融商品と同じ資本賦課となり、追加の資本負担はないという意味のようだ。

FRBのアナウンスメントによると、米国当局は、自己資本規制において、Technology Neutralな立場を取ると述べているにとどまる。つまり、証券の発行、取引にどのような技術が使われていたとしても、資本規制上の取り扱いは変わらないというニュアンスなのだろう。

ある意味当然なのだが、債券などの既存の資産をトークン化したからといって資本の扱いが変わるわけではなく、原資産にかかる資本コストと同等になる。トークン化証券を原資産とするデリバティブについても、もとの証券と同じコストになるという至極当然に扱いとなっている。

また、担保として使う場合についても言及されており、適格要件を満たしていれば、信用リスクを削減する効果を持つことが明記されており、原資産と同じヘアカットが適用されるとある。

ここで一つ疑問に思うのが、ヘアカットというのは、その資産を現金化する際にかかる期間とその間の資産変動に基づいて決まる。トークン化したからといってボラティリティがそれほど変わるとは思えないが、現金化にかかる期間は短縮される可能性はある。特にT+1とかT+2で決済されているような資産でも、トークン化すれば瞬時に決済することが可能になるため、ヘアカットは低くて良いのではないかという議論が出る可能性がある。ただし、本当に直ちに換金できるかどうかは定かではないので、この辺りは今後の進展を見守る必要がある。

いずれにしても、トークン化資産がデリバティブ取引の担保として使われるようになる日も近い気がしてきた。