日本には社債市場の発展が必要

海外でクレジット関連のETFや先物取引量が増加してきている。もともと多くの企業が銀行借り入れよりも社債によって資金調達を行っていたため、社債市場の規模は海外の方が圧倒的に発展している。日本が間接金融中心のために劣っているわけではないが、目まぐるしく変化する現在の環境において、社債によって機動的に資金調達を行える方が望ましい。経済発展の初期には、銀行が重厚長大産業に集中的に資金を投入することに意味があったが、米国ではITベンチャーへの資金提供を行うベンチャーキャピタルが重要な役割を果たしており、これらの企業は銀行ローン以外にも社債を積極的に発行している。

日本でも楽天などが10%を超える金利で巨額のドル建て社債を発行したことが話題となったが、ドル社債であれば、世界中の投資家から資金を調達できる。日本には銀行が多いものの、融資方針はどこも似通っており、10%以上のリターンが見込める場合でも、借り入れ可能な金額には限度がある。一方、海外の投資家であれば、10%のリターンが得られる社債には様々な投資家が資金を提供するだろう。

海外では格付けの低い企業も頻繁に社債を発行しており、社債を参照資産としたETFも増えてきている。今年は特に社債の先物取引量が急増している。電子取引の増加に伴い、社債市場のマーケットメイクを行うCitadelやJane Streetなどの参入もあり、流動性がますます高まっている。日本では「NISAで投資」といえば「株」が一般的だが、海外では「債券」をポートフォリオに加えることが極めて一般的である。

近年、CBOE、CME、Eurexなど、海外取引所も社債の先物取引を相次いで取り扱い始めている。特にEurexの今年の成功が注目されている。ETFの取引量が増えたため、先物取引がやりやすくなったという背景もある。先物市場の発展には、ETFの流動性が不可欠だとの声も多い。また、海外ではCDSの流動性も高く、リスク管理には社債のショート、ETF、先物、TRSなど様々なツールが利用されている。

日本では社債発行量が極端に少なく、社債をショートすることもできない。ほとんどの社債は満期保有を前提とした投資家によって保有され、頻繁に社債を売買する市場参加者は少ないため、取引量が増えにくい。銀行からローンが引けなかった場合に社債市場にアクセスするのは、大企業に限られる。もっとも、楽天のようにドル債を発行すれば、厚みのある海外資本市場へアクセスすることは可能である。しかし、為替リスクのヘッジも必要とあり、通貨スワップ取引などのセットアップが必要となる。その意味では為替ヘッジの必要のない米国は有利である。

投資家の観点から見ると、社債への投資を考える人は少なく、多くの資金は株式に向かう。NISAで投資できる投資信託のほとんどは海外社債を基にしたもので、日本の社債に投資できる商品はほとんど存在しない。また、投資信託は多いものの、ETFは少なく、しかも海外のように手数料が安くないため、ETFのメリットは少ないかもしれない。もしETFがもう少し増えれば、引け値や投信の基準価格に振り回されることも減るだろう。

「貯蓄から投資へ」という流れは着実に進んでいるように見えるが、次に起きる変化として、銀行から証券へ、ローンから社債へ、株式投資から分散投資への移行も必然的に進むだろう。

米国投資家のJSCCへのアクセス

米上院議員が米国投資家が日本のJSCCにアクセスできるよう求めたレターをCFTCに送ったと報じられた。また、BlacRockやシタデルなどがメンバーとなっているCommittee on Capital Market Regulation も同様のレターを送っている。日本円の金利スワップの清算を認めることで、米国の顧客の取引コストとリスクを軽減することができるとしている。

特にJSCCスワップを取引できる能力の重要性が経済的に増しているとも書いているが、これは日銀の政策変更によって金利変動が大きくなっていることを指しているのだろう。

今回のレターを送ったBoozman議員は以前にも同様のリクエストをCFTCに出しているが、CFTCのBehnam長官は議論を約束したものの、その方向性については、明確なコメントはしていなかったように思う。円金利が変動するようになり、ヘッジニーズが増したことから、多くのバイサイドがJSCCへのアクセスに注目し始めたことにより、ついに米国内の意見がまとまってきたように見える。JSCCとしても長年地道に会話を続けてきたのだろうが、やはりユーザーである資産運用会社などの米国投資家からのリクエストに、米上院議員からのサポートが加わるとなると心強い。

他に正式にDCO登録をしているCCPがいる中、Exempt DCOのステータスでJSCCだけが認められるのはおかしいという意見も出ていたが、日本の倒産法のもとでは、どんなに努力をしてもDCO登録はかなり困難のように思える。

業界のためには、垣根なくスムーズな取引が行われることが望ましく、そうでないと流動性が分断してしまう。そもそも日本円金利は2種類のTIBORがあったり、様々なベーシスリスクが多く、海外参加者からはトリッキーなマーケットとみられていた。しかし、LIBORもTONAに移行し、ZTIBORもなくなるため、少し流動性が集中してきた。LCH/JSCCベーシスの変動も少なくなれば、さらに流動性が上がる。流動性が上がると、市場の厚みが増し、極端な市場変動も起きにくくなるだろう。

トランプ政権の発足とそれに伴う人事変更による不透明感は残るが、是非とも不必要な市場分断が少なくなることを願いたい。規制による市場分断は、百害あって一利なしだと思う。

G-SIBが流動性に与えるインパクト

毎年年末になると流動性が逼迫してくるが、今年は特にその影響が大きそうだ。特にG-SIBの問題についての話になることが多く、様々な報道でも問題が指摘されている。大統領選後米銀の株価が急上昇したことにより、G-SIBスコアが上がってしまったことが関係しているのではないかという話を以前したが、金利スワップの取引量が増えていることも要因の一つかもしれない。

特に欧州のようにプリンシパルモデルを使っていると、CCPと顧客の間に立って取引をするブローカーにとっては、取引量がCCP側と顧客側でダブルでカウントされる。顧客のためにクリアリングをすればするほど、所要資本が増えてしまう。その他の資本計算上はCCP向けのリスクウェイトが低くなっているケースがあるが、G-SIBの場合は単なる想定元本である。つまり自らリスクを取ってポジションを取るよりも、顧客のためにCCPに繋いであげる方がより不利になるということである。

欧州Eurexでは、この問題を解決するために米国のようなエージェントモデルであるEATM(European Agent Trustee Model)を導入し、ダブルカウントを避けようという動きが継続しているが、ドイツの源泉税の関係で難航しているらしい。一方イギリスではこの問題は発生しないようだ。

しかしここまで市場流動性に影響が生じてくるとG-SIBの計算式も見直した方が良いのではないかと思えてくる。CCPに清算集中せよと言っておきながら、それをサポートしようとすると、資本コストが急増してしまうというのは不思議な話だ。

マーケットが急変したときに、以前であれば銀行がある程度の在庫を抱えながら市場インパクトを吸収していた。最近では、市場が急変動した場合には銀行は指をくわえて静観する以外にない。なかなか売れない資産を顧客から抱えて、市場が落ち着いたときに売却するということは、現在の規制環境下ではほぼ難しい。売れない資産を買ってしまった瞬間にレバレッジ比率が悪化し、NSFRやLCRにも悪影響が及び、G-SIBスコアの上昇に従って資本コストも増えてしまうからだ。

銀行が本来の役割を果たせなくなった分をシャドーバンキングがカバーしてきたのだが、当然シャドーバンキングのサイズが大きくなってくると、それに対する規制が強化される。だが、それが銀行に戻るかというとそういうわけではないので、結局は市場の流動性が悪化するという当たり前の結果になっている。

G-SIBスコアは細かく見ていくと、ダブルカウント、トリプルカウントではないかという項目も多い。今年の状況を見ていると、何らかの改善が望まれる。

米国の一人勝ちはいつまで続くか

米国大統領選挙後の米国株への資金流入額が、月$140bnに急増した。これは近年稀に見る水準の投資資金の流入で、2000年以降最高とのことである。本来であれば関税はインフレを誘発し、FEDの利下げが難しくなるという連想が働くはずなのだが、米国株以外に選択肢がないということなのかもしれない。

どこから資金が流れてきたかというと、欧州株から$14bn、Emerging Marketsから$8bn、日本から、$6bn、中国から$4bnとなっている。これで今年の米国株への資金流入は過去最高となり、今後もこの傾向が続くという楽観的な意見が強くなってきた。このペースが続くと予想する声は少ないが、それでも来年も一定の資金流入があると予想するアナリストが多い。Investors Intelligenceの強気指標も最高水準の62.9%となっている。

ファンダメンタルズを見ていると確かにそれを裏付けるようなデータが多い。しかし、ここまで多くの人が強気になると、一度その反動が起きると大きな流れを引き起こすのがマーケットの常である。そろそろ米国株の割合を減らした方が良いとは誰もが言えることだが、そのタイミングをぴたりと当てるのは非常に難しい。

一方、ロンドンの株式市場では、今年に入って新規上場が18社あったが、上場廃止や移管によって88社の企業が退出している。これは金融危機以降最大の退出であり、多くの企業がNYに流れてしまっている。新規上場も過去15年間で最低となり、若干危機的な状況になってきた。ロンドン証取に上場する企業は金融危機以降30%も減少している。

しかも、来年も更にNYへ移行するのではないかと言われる企業が多くなっている。アメリカファーストを訴えるトランプ新大統領のもとでこの流れは加速するのかもしれない。

英国の株価指数であるFTSE100も米国S&P500などに比べるとパフォーマンスがかなり悪く、完全に米国株独り勝ちの様相となっている。

とはいえ、英国も手をこまねいてみているだけではなく、様々な市場改革に乗り出している。資金調達額という意味では英国は未だ世界3位の水準にあり、市場の危機感を感じているからこそ、規制や市場の透明性を高めるために努力を行っている。未だ効果が見られないという批判もあろうが、こうした改革がすぐに結果を生むことは難しい。数年後に何らかの形で結果が出てくることになると思う。

担保リスク管理には規制が必要

CMEから担保管理のスタンダードについてガイダンスが出ている。マージンコールに応えることが出来なかった顧客のポジションをクローズする際に、クリアリングブローカーに一定の裁量権があるというルールがあったが、どこまでの裁量権があるのかについては意見が分かれていた。今回のガイダンスによってルールが明確いなった。

おそらく顧客からマージンコールのタイミングをずらして欲しいという要望があったのだろう。いくつかの銀行が顧客との契約上猶予期間を与えていたことに対して、CMEがルール違反としてEUR25kの制裁金を課したのである。

担保管理実務に関しては、どうしても易きに流れる風潮があるのでこの対応は望ましい。本来は自分が担保を出したのに反対取引から担保が入ってこないとファンディングコストがかかる。したがって大手銀行はISDAのBest Practiceなどに従い、タイトなタイミングでの担保授受を求めるが、事務ミスで振り込めなかった時のリスクを恐れたり、休暇で手続きが滞ったりするのを避けるため極力タイミングを遅らせようとする市場参加者も多い。ただし、金融全体の流動性を確保するためには、迅速な資金移動は必須であり、一部の参加者がこれを滞らせると全体に影響が及ぶ可能性もある。

後発組などで、担保管理を緩めてビジネスを取りに行こうとする銀行が現れると、それを根拠に全取引銀行にルーズな担保管理を求める参加者がいる。本来ならば、自らの手間を省くために金融全体の資金の流れを滞らせるのは望ましくないのだが、顧客の立場が強く、必要のないリスクが存在することになってしまう。残念ながらこれを防ぐには規制が最も効果的だ。証拠金規制後こうした交渉の余地がかなり減った。とは言え、海外とは異なり日本では、まだT+3の受け渡しが残っていたりする。

その意味ではCCPが担保管理の事務フローを厳格化する今回の動きは、規制と同等の効果を持つため、市場全体にとって望ましいことである。

日本の場合は、システム障害や、事務ミスが起きた時のためにタイミングをタイトにしたくないと言うところも多いが、CMEのガイダンスを見ると、こうした特殊市場は例外として除外されている。稀に障害が起きるからといって通常のリスク管理を緩めるのは本末転倒である。

アルケゴスに代表されるように、当初証拠金を引き下げるべく各銀行に無理を言って、立場の弱い銀行がこれに応じてしまい、全体としてのリスクを増やしたという事例も多い。重要顧客を繋ぎ止めるために、顧客に便宜を図ってリスク管理を弱め、その結果市場変動を増幅させたり、流動性ショックを与えて大きな影響を与えないよう、ある程度当局やCCPがこうした牽制を効かせることは、市場の安定化には有効である。

アルケゴスなどの例もあるので、海外では銀行検査において、こうした圧力に負けてリスク管理を緩めたケースなどを調べていたとしても不思議ではない。やはり、規制やルールで定めてしまうのが最も透明性が高いのだろう。優越的地位を活かして便益を得ようという意味では、ある意味下請けいじめにも共通するものがある。下請けいじめも違法行為として注目を集めているが似たようなものかもしれない。

逆にこうした罰金があると、顧客が銀行に無理な要求をしたとしても、罰則があるのでといって断ることが容易になる。本来規制でがんじがらめになるのはよくないのだが、こうした取引ルールについては、規制で明確化していくしかないのだろう。

システム障害リスク

7月に起きたクラウドストライクのシステム障害は、総額100億ドルを超える経済損失を与えたと言われている。システム依存度が高くなると、そのリスクへの対応が重要になってくる。DMMビットコインが不正引出しの影響で廃業に追い込まれたのもそうだが、サイバーセキュリティなどの対策も併せて重要になってきている。こうしたシステム投資をケチると会社の屋台骨を揺るがすような大事故に繋がってしまう。

10月にはBloombergのチャットが30分程度ダウしただけで、市場機能が一部麻痺した。Bloombergと言えば2015年に起きたシステム障害で、英国債の買入償却が延期されたこともあったが、ここまでくると、当局がバックアッププランを求めたとしても不思議ではない。当然電話やメールで対応するというプランはあるのだろうが、これは現実的には結構難しいというのは現場にいる人ならよくわかるだろう。

同じように取引所やCCPのシステムがダウンした場合のバックアップも海外では話題になるが、そのために複数のCCPと接続しておく必要がありコストは嵩む。あるCCPがサイバーアタックなどでクラッシュしても、当局が精算集中規制を一時的に解除して、相対取引を認めるとは考えられない。なぜそのために他のCCPを使うといったバックアッププランを準備していなかったのかということになる。

過去には様々なBCPプランについて議論してきたが、例えば地震リスクを例にとると、電話が使えるか、オフィスに入れるか、電車が動いているか、メールが送れるかによって対応が全く異なってくる。議論していると誰かが、こんな時はどうするんだ、もしこれが起きたらどうなるんだと言い出し永遠と議論が続くことになる。コロナショック時はこれに近い危機ではあったが、WhasAppや個人携帯とかで何とかしのぐくらいは問題ないかと思いきや、海外当局の対応は極めて厳格なものだった。

日本で地震が起きて電話回線が繋がらなくLINEだけが使えた場合、どうしてもヘッジしなければならない取引をLINE電話機能で顧客から受けてしまったらどうなるのだろう。外資系の人であれば、散々厳しく言われているのでおそらく規制違反はできないので断るという結論になる可能性が高い。

システム障害時にマニュアルで取引のブッキングを行うと、リアルタイムレポーティンクに繋がっていなかったり、自動リミットチェックを通らなかったりと、様々なミスが発生してしまう。当局からの罰金もかなり大きいので、結局何かバックアップ手段を試すよりは、そのまま大本の障害が回復するのを待った方が得策ということになる。

そうすると色々なベンダーに対するライセンス要件や規制を厳しくするという方向になり、新規参入によるイノベーションが起きにくくなる。BCP対応にも多大なコストがかかり、普段は必要のない施設やシステム、人員などを常に確保しておかなければならない。

原発リスクのように人の命に関わるリスクや、クラウドストライクのように企業の存続に関わるようなリスクは何としてでも避けるべきなのだが、金融の信用リスクや市場リスクのようにある程度のリスクを取るからリターンもあるというビジネスの場合はどこまでリスクを削減すべきなのだろうか。

現状はかなり極端なリスクに備えて資本を積む、リスクを絞るという傾向がかなり強くなってきた。どこまでやるかは非常に難しい問題であるが、現状は若干厳しすぎる方にバランスが偏りつつあるのではないだろうか、またその偏り具合が国によってもかなり異なってきているようにも感じる。トランプ大統領になってこの流れに変化が起きるのかについて注目が集まる。

英国CCPルール改正?

欧州のクリアリングに関する規制はEUのEMIRで定められているが、Brexit後基本的に英国もこれを踏襲する形になっていた。EU側がEMIR3.0の議論を進める中、英国でも若干独自色を出した改正がなされるのではないかという報道が出ていた。何らかのアナウンスメントが今月か来月にでも出るのではないかと言われている。

欧州のルールは、どちらかというと保護主義的になってきており、LCHからEURスワップのクリアリングをEU域内に移そうということで、域内で最低限クリアリングをしなければならない取引量を定めたりしているので、英国が規制の独自色を強めるのはある意味当然の流れなのだろう。

英国では、2022年の9月にトラス政権の大型減税が金利の急上昇を招き、担保が出せなくなったアセマネなどのバイサイドが、手持ちの国債を現金化して担保に充てるという動きが市場の混乱を増幅させた。この時に適格担保を現金以外に広げるべきという議論が持ち上がった。その後のコモディティ価格の急騰でさらなる担保不足が発生し、銀行の保証状を適格担保として認めるべきという議論も盛り上がった。そして今回のEMIR3.0でこれが認められることになりそうだ。

英国では特にトラス政権時代の経験があるため、同じような適格担保の拡大が盛り込まれる可能性が高いものと思われる。これ以外にもどのような独自色を出してくるかに注目が集まるが、CCPのルールはFMI原則がベースになっているので、それほどドラスティックなものにはならないかもしれない。ただ、日本ではあまりこうしたルールの修正が行われていないため、海外の動向を睨みながら、グローバルな流れから取り残されないよう注意を払っていく必要がある。