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某米系外資系投資銀行にて長年規制・市場動向を追っています。

モデルベンチマーキングが資本計算に変革をもたらす

先週公表されたISDAの資本モデルに関するペーパーが興味深い。これまでは、各銀行が独自に作成したモデルをベースにリスク管理が行われてきた。内部モデルを許容している場合は、この独自モデルの結果によって資本賦課をするため、リスクを低く見積もるモデルを使えば資本コストを下げられるというモラルハザードの問題がつきまとう。こうした独自モデルは信用できないということで、標準法での計算を義務付けたり、アウトプットフロアが設けられてきた。

そもそもモデルが共通であれば、こうしたフロアなどは必要なく、共通の土俵で資本賦課が可能になる。最も簡単な解決法は当初証拠金の計算に使われているISDA SIMMのような標準モデルである。しかし、すべてのリスクとなると共通のモデルを準備するのは難しいため、今回ISDAが提唱しているのは、各社のモデルの出力結果を取りまとめて比較するというモデルのベンチマーキングである。

仮定のポートフォリオに対して各行でEEPEやEPEなどを計算し、それを比較すれば、業界の標準的な計算結果が明らかになり、そこから極端に乖離しているところも明らかとなる。こうした結果を当局が確認することによって、各行の独自モデルが概ね似たような計算をしていることが明らかになれば、ある程度独自モデルに基づいた結果によって資本賦課をするということが正当化される。

今回はUSD、EUR、GBP金利スワップ(1、5、10年)、ドル円為替フォワード(1、5、10年)、インフレーションスワップ(USD、EUR、GBPの1、5、10年)の仮想ポートフォリオに基づいた、大手10行の計算結果をもとに分析している。データフォーマットはCRIFで統一され、モデルとしては誰でもアクセス可能なオープンソースのORE(Open Source Risk Engine)が使われている。

EEPEやEPEは、大手であれば同じような結果になると思ったのだが、思ったより大きなばらつきがみられる。おそらく10行のうち6行はヒストリカルシミュレーションベースのEPE計算を行っており、残りの4行がMarket Impliedの計算を行っているように見える。そして、ヒストリカルデータを使っている銀行の方がEPEが大きく出ている。CVAの計算は通常Market Impliedだと思われるため、6行はCVAとCCR用のPFE計算に異なる計算を行っているということなのだろう。ヒストリカルデータを使っている銀行のうち1行はかなり他社と異なる結果となっているため、データエラーがあったのか、さもなくばモデルの見直しが求められそうだ。あるいは為替取引のブレが大きかったので、PFE計算のベースカレンシーが異なっていたのかもしれない。

このようなベンチマーキングが行われるようになると、業界標準的なモデルの考え方が統一され、各行の計算に統一性が生まれることになる。そうすれば、銀行が恣意的にモデルを操作してリスクを低めに見積もるのではないかという当局の懸念もある程度払しょくされることになる。これにより、内部モデル方式+標準法+アウトプットフロアという既存の枠組みが、ベンチマーク標準的モデルへと一本化することが可能になる。ベンチマーキングは行わないものの、米国が目指すERBAもある意味似たような方向性を模索していると言っても良いかもしれない。

いずれにしても、CRIF、CDMなどによってデータの標準化を推し進め、モデルの標準化が進むのは、金融業界にとっても望ましいことだろう。ただし、グローバルスタンダードへの対応が不可欠になっていくのだろう。

クリアリングの最終形

為替取引を行う際に、ヘッジファンドなどが、大手銀行の与信を利用して、複数の金融機関と有利な条件で取引できるFXPBがある。銀行としては、重要顧客のビジネスを囲い込み、担保資産も全て集中させるというメリットがある一方、想定外の市場変動が起きた時に巨額の損失を発生する可能性がある。なおかつ為替という取引の性質上、リスクに見合った収益性があるかという問題もある。

日本でも個人にFXサービスを提供するオンラインブローカーがPBに取引を集中させることがあるが、これもリスクリワードの観点から誰でも提供できるサービスではない。これを解決するために、一部外資系では、CSAの条件を極限まで厳格化し、ほぼリアルタイムでマージンコールを行い、担保不足に陥ったら強制終了させるというモデルが存在していた。確かに担保をリアルタイムで徴求し、担保不足になったら強制アンワインドすれば、理論上は、カウンターパーティーリスクは極限まで抑えられる。

しかし、ブッキングや担保送金の事務ミスなどのオペレーショナルリスクもあり、このリスク管理を担当する身としては、全くワークしないと思った記憶がある。夜中に起きた為替変動により、強制終了を告げるメールが来て、一瞬で判断を迫られたことがあったが、単なる送金ミスなのか、夜中の2時にわかるはずもない。確かに法律上は強制終了をさせる権利はあるものの、それを行使することによって起きるインパクトは計り知れない。

しかし、現在のテクノロジーをもってすれば、これはすべて解消できる可能性がある。特に米国では、昨年12月にクリアリングブローカーを介さない直接清算モデルに対するパブコメ募集が行われた。同時にビットコインやステーブルコインを担保としてい受け入れることをCFTCが実質的に承認し、その後も着々と検討を進めている。

当局サイドが前向きになっているのであれば、冒頭に紹介したリアルタイムマージンシステムが構築可能である。現在では一定の条件に基づいて行動を起こすスマートコントラクトが実現しており、ポジションの自動清算も容易になっている。そして、デジタル資産の決済が24/7で行える土壌が整備されつつある現在では、為替変動があれば24時間、休日でも担保を決済させることが可能になっている。

そもそもクリアリングブローカーは、顧客のリスクを保証し、清算基金を拠出するという役割があったのだが、顧客の担保が自動拠出が可能になり、担保不足時に強制終了ができるのであればブローカーは不必要となる。そもそも当初証拠金(IM)も、2週間などのクローズアウト期間に損失が拡大するリスクをカバーするものなので、担保の即時拠出が可能になればMPORは0となり、IMは必要なくなる。そして、カウンターパーティーリスクに起因する清算基金も理論的には不要になる。

また、発生しうる最大限のリスクを常にIMとして取っておくというコンセプトは以前から存在していたが、とりあえずこの担保をフルに取っておいて、後はスマートコントラクトによる自動マージンや自動清算を行えば、現代版FXPBのビジネスが完成する。

これを実現させるのが、スマートコントラクトによるリアルタイムマージン、リアルタイム自動清算、24/7の担保決済である。極端な話、24/7決済が可能であればデジタル資産を担保に使う必要もない。

既にKalshiEX、Polymarket US、Nadex、Gemini Titan、ForecastExなどはクリアリングブローカーを介さない自己清算型のモデルの提供を始めている。この点米国はやはり進んでいて、法整備とともに新たな新興企業が金融においても続々参入している。

いずれもトークン化担保と結びついた文脈で語られることが多いが、実はトークン化しなくても即時決済が可能であれば、自己清算モデルは実現可能である。どうしてもデジタルとかトークン化というと注目を集めやすいのだが、実はトークン化資産の担保化を進める以前に、FXPBや自己清算型のクリアリングモデルの構築は可能なのではないだろうかと思っている。

もちろん、こうした自己清算型モデルは、すべての資産に適用するとうよりは、株式や国債などの現物資産、為替などのレバレッジの低い資産により適しており、高レバレッジの商品に関しては既存のブローカーを介する方式の方が望ましいかもしれない。

どうも最近は、AIとかデジタル資産、ステーブルコインなどの新しい用語を使えば資金が付きやすい傾向があり、ビジネスの実態から離れてしまっているような気がしてならない。規制当局、中央銀行、大手銀行もこうした流れに取り残されないよう、様々なInitiativeを立ち上げているが、もう少し既存のビジネスに結び付けた議論が出てくることが、ひいては新しい分野の発展にもつながるように思う。

プライベートクレジットの危機が銀行規制緩和を後押し

プライベートクレジット市場の変調がリーマンショック直前に似ているという指摘が、頻繁に聞かれるようになってきた。確かに、ファンドの解約制限などの事態は、かつての「パリバ・ショック」を想起させる。現在の市場環境は間違いなく火種の一つではあるが、証券化市場に比べればプライベートクレジットの市場規模は5分の1程度であり、当時ほどの過度なレバレッジもかかっていない。そのため、金融システム全体を揺るがすような危機にまで発展する可能性は低いようにも思える。何よりも、今回は銀行部門の健全性が高く、直接的な痛みが少ないという点が決定的だ。

そもそも、プライベートクレジット市場への資金集中は、皮肉にも「規制強化の産物」と言える。リーマンショック以降、銀行に対する規制は継続的に強化され、マーケットメイク(市場流動性供給)機能への制約から流動性の低下を招いた。その結果、融資においても銀行の代替としてノンバンクやシャドーバンキングの占める割合が上昇した。当局もシャドーバンキングへの監視を強めようとしているが、銀行ほどコントロールは効きにくい。そうであれば、銀行規制を適正化し、本来の融資機能を呼び戻すのが最も現実的な解決策となる。

その意味で、直近の米国バーゼルIII最終化案の修正は、この考え方に沿ったものと解釈できる。今回のERBA(拡張リスクベース方式)による企業融資のリスクウェイト(RW)引き下げにより、大手銀行が追加で提供可能となる融資枠は4,410億ドルに達すると試算されている。

具体的には、投資適格(IG)企業向け融資のRWが従来の100%から65%へ引き下げられる。これにより企業融資のRWA(リスクアセット)が3,600億ドル減少し、理論上4,410億ドルの融資余力が生まれる計算だ。このRW変更の対象は、当初案では上場企業に限定されていたが、最終的には「非上場でもIG相当であれば適用可能」と緩和された。ERBA適用行のエクスポージャーの約53%がIG向けとされる中、この引き下げが与えるインパクトは極めて大きい。

また、地方銀行(中堅銀行)に対しても、企業融資のRWが100%から95%へ引き下げられ、約2,260億ドルの追加融資余地が創出される。

さらに、このRW引き下げが非上場企業にも適用されるようになったことで、ファンド向け融資も恩恵を受ける。IGファンドに対して65%のRWが適用可能になれば、従来の「非上場プレミアム(高い資本コスト)」がなくなり、銀行による貸し出しが容易になる。また、ファンドへの出資についても、資産特定が困難な場合に1250%へと跳ね上がるとされていたRWが現行の600%に据え置かれるなど、随所に緩和が見られる。

こうした一連の修正により、銀行はプライベートクレジット市場においてノンバンクに対し強力な競争力を取り戻すことになるだろう。いわば、米国のバーゼルIII緩和は、プライベートクレジット市場の不調を逆手に取る形で「大義名分」を得た格好だ。事実、米国では「規制強化が市民の生活(住宅ローンや中小企業融資)を脅かす」といった趣旨のテレビCMが流れるほどの激しいロビー活動も展開された。

以前議論した「SFT(証券金融取引)とデリバティブ取引のクロスプロダクト・ネッティング」のような市場機能維持に資する緩和と併せれば、米銀の収益向上余力は格段に高まったと言える。今後は自社株買いや配当増額を背景に、米銀の収益性向上と株価上昇が続く可能性は高い。

今後の焦点は、米国のこうした動きに他国がどう呼応するかだ。米国案がこのまま実現すれば、相対的に厳格な規制を残す欧州系銀行が不利になる場面も出てくるだろう。一方、日本は国際規制に対して忠実であり、米国のようなドラスティックなルール変更は期待しにくい。とはいえ、詳細な明文化はせずとも、日々の監督によって「匙加減」を調整する独自の柔軟性があるようにも思える。それはそれで、極めて現実的かつ賢明な対応なのかもしれない。

オーストラリアの年金基金が急速に拡大

スーパーファンドと呼ばれるオーストラリアの退職年金はの規模が急速に拡大し、今や世界第4位の年金システムとなっている。その取引量がグローバルでも注目され始めたため、今般ISDAがレポートを出している。

そもそもオーストラリアでは、政府が雇用主に対して法律で義務付ける強制拠出率を段階的に上げてきたため、給与の約12%が自動的に基金へ流入する。このため、年金基金の総資産はオーストラリアのGDPの1.6倍になっている。そして、2021年の政治改革「Your Future, Your Super」によってオーストラリア当局のAPRA(英語でアプラと呼びます)が運用成績を厳しく審査し、パフォーマンスが悪いと新規加入者を受け入れられなくするという厳しい制約を課した。

これにより、年金基金の集約が進む(10年で249→95)とともに、より高いパフォーマンスを求めて、投資先の海外資産シフトが起きた。こうしてデリバティブ取引が約9000億豪ドルまで増え、特に海外資産のヘッジのための為替取引が約5000億ドルまで拡大した。こうなると急激な為替変動によるマージンコールなどにより、基金が十分な現金が確保できなくなるリスクに注目が集まり、金融システム全体に対する監視が強まっている。2020年には、AUDが14%急落して180憶豪ドルのマージンコールが発生しており、2022年のGilt Shockとともにリスクの火種の一つとして注目された。実際米国でトランプ大統領が週末に何か発言すれば、最初に為替市場でインパクトを受けるのがオーストラリアとなる。

ここまでのサイズになってくると、いくら優良顧客とはいえ、グローバルバンクにもリミットの問題が発生し、資本コスト、誤方向リスク、日々のマージンコールなどのリスク管理が重要になってくる。特にオーストラリアでは、レポ取引やマージンレンディングに規制上の制約がかかっており、流動性リスクには注意を払う必要がある。こうした資金ニーズからレポのニーズが高まっていることもあり、Risk.netでも二つのCCPが参入を計画していると報じられたばかりだ。

当然APRAは、こうしたファンドに対してもグローバルスタンダードなリスク管理の強化を求めている。2023年のSPS530では、マージンコールに対応するための現金確保に関する計画について、取締役会の承認を義務付けた。そして、ストレステストの定期的なシミュレーションを義務付けた。そして、2025年のCPS230では、デリバティブ実務を外部に丸投げすることが実質禁じられ、市場混乱時にもデリバティブ決済や評価が滞りなく行えるような体制維持が義務付けられた。

以前から、ここが金融危機の火種の一つになるのではないかと言われていたのだが、やはり当局も市場関係者も十分理解していたようで矢継ぎ早に改善策を求めている。しかし、為替取引は今後10年でさらに2倍になるという見通しもあるため、市場への影響も無視できない。何か問題が起きればその危機がグローバルに広がる可能性も否定できない。引き続き目が離せないセクターになりそうだ。

米国Basel III最終化でCVAが資本制約に

2026年3月19日のBasel III endgameは、前回案に比べると規制緩和ともいえるものだが、その中でCVA資本賦課の役割が大きくなってきた。

これまで、CVA資本賦課は先進的手法(Advanced Approaches)のみに含まれており、標準的手法では対象外となっていた。多くの銀行にとって、先進的手法で資本賦課が減っても、結局はコリンズフロアがあるため、結局は標準的手法の資本賦課がフロアになってしまっていた。しかし、今回の最終案では、この二つのアプローチが拡大リスクベースアプローチ(ERBA: Expanded Risk-Based Approach)に一本化されたため、コリンズフロアも無関係となった。

つまり、これまで標準的手法の資本賦課だけを見ていればよかった銀行は、先進的手法にのみ含まれるCVA資本賦課を気にする必要がなかった。しかし、ERBAではCVA資本が含まれるため、大手行は皆CVA資本を気にせざるを得なくなった。これによってCVA資本賦課は全体で約96%増加とされているので、約2倍になるということだ。

一方で、CCPのクライアントクリアリングによって清算した取引については、クライアントレグ、つまりブローカーが顧客のリスクを取る部分についてCVA資本賦課の対象外となった。当初案ではCVA資本賦課があったので、この変更はクライアントクリアリングを行うブローカーにとっては朗報だ。資本コストがあまりにも高く収益性が低いため、クライアントクリアリングビジネスから撤退するところもあったが、米銀にとってこの状況がかなり改善される。またレポなどのSFTがCVA資本要件の対象外と明確化された点も大きい。

CVA資本賦課の詳細については、BA-CVAとSA-CVAの枠組み自体は維持されるが、最新の国際基準に合わせて若干精緻化されるようだ。SA-CVAでは、金利や為替ヘッジを行えば資本賦課を下げられるということもあり、SA-CVAを採用するインセンティブが大きくなる。BA-CVAではCDSによるヘッジ効果を織り込むことができるが、このヘッジ効果は75%を上限とするとされている。

このように、CVAがERBAのメイン項目へと格上げされたため、BA-CVAの保守的な75%フロアに甘んじ、マーケットヘッジ効果を無視して高い資本を積むか、コストをかけてSA-CVAを導入し、ヘッジ効果を最大限に活用して資本を節約するかという選択になるが、これまでよりはSA-CVAを導入するインセンティブが高まったように思える。

JGBレポ市場に起きている構造変化

日銀のレポート「本邦レポ市場のトレンドと近年の特徴点」が非常に示唆に富む内容になっているので、ここで紹介したい。JGBレポ市場はYCCの下で低迷してきたが、日銀の政策変更を受けて突然取引量が急増した。受け渡し銘柄を特定しないGCも増えているのだが、それ以上に銘柄を特定したSCの増加が著しい。

特にこれを増加させているのが「非居住者」に分類される市場参加者である。SCの増加は日銀の政策変更を後押しするように金利上昇に賭ける10年近辺の銘柄をショートする戦略を海外ヘッジファンドが取ったことを示している。特に2022年の年末頃にこうした海外フローが急増し、市場からモノがなくなってしまったのは、市場関係者であれば記憶されているところだろう。アウトライトで長期国債を強烈にショートし、そのための玉をレポ市場で大量調達していたのである。これはある意味海外からのYCCアタックだったと言えるのかもしれない。

YCC撤廃後は5-10年ゾーンの特定銘柄のショートニーズは減ったのだが、その後は1-5年ゾーンでの両建ての取引が活発になり、先物vs現物の価格の歪みも解消された。金利のボラティリティは高まったものの、正常化と言ってよいだろう。

ただし、両方向のレラティブバリュー取引となると、やはり海外ファンドの取引量の方が増えやすく、今後も非居住者フローにフォーカスが当たってくるものと思われる。レポートによると、所在地別の取引残高では英国が突出しており、これが海外ヘッジファンドの取引量の代替指標となっているとしている。米国はデリバティブと異なってキャッシュ取引に関してオフショアブッキングに制約があるので、これはおそらく正しいと思う。

直近でも、日銀の量的緩和策終了に伴い、昨年6月以来四半期ごとに2000億円の国債購入の減額が行われており、市場に放出されるJGBが増えてきている。長期国債先物の取引量のうち海外投資家の占める割合は7割を超えており、海外中心の動きが強まっている。

とかく投機的などと言われて批判されがちなヘッジファンドであるが、海外では流動性向上に大きな役割を担っている。特に近年は市場アタックをする投機筋のみならず、市場の歪みを捉える参加者が増えており、こうしたフローは、ある意味流動性向上や市場正常化に役に立っていると言えなくもない。米国債のように保有主体の多様化は、国債の安定消化にも望ましいはずである。デリバティブの世界では、日本も海外並みに取引の透明化や標準化が進んでいるが、JGBについても市場の効率化を図ることが望まれる。

JGBの決済システムの未来を考える

日本国債のレポ取引のオペレーションが複雑という不満が良く聞かれる。取引の8割程度はJSCCで清算されており、清算取引の効率化はある程度進んだが、残りの2割については、電話やメールなどで担保銘柄の照合、サブカストディアンである信託銀行への決済指示も自動で流れないことが多い。

近年では海外ヘッジファンドの取引量が急増しているが、海外のようなグローバルカストディアンを経由したトライパーティーレポが実現していない。2割といっても約60兆円、1日あたりの取引高でも20-30兆円になるはずだから、無視できないサイズである。決済期間の短縮化やリアルタイム決済の流れが加速する中、何らかの改善が求められる。

そもそもJGBの決済は日銀ネットで行わなければならないが、日銀ネットは世界的に見ても極めて高度で安定したシステムだったと思う。早くからRTGSを完備し、T+1化も他国に先駆けて実現した。だが、あまりにこれが優秀だったため、海外のようにこれを補完する民間インフラが育たなかったということなのではないだろうか。また日本の事務手続きが優秀だったため、何とか手作業でミスなく作業をこなすことができてしまっていたのかもしれない。

米国などではFedwireは日銀ネットほど高度ではないが、BNYメロンなどのカストディアンが高度な計算、決済を行い、トライパーティーレポが発達したため、全体としては優れた仕組みを作り上げている。そして人手を介するとミスが多くなることから、極力自動化、システム化が進んでいる。これからデジタル資産やスマートコントラクトの利用が増えてくると、日本の優秀なマニュアル事務プロセスでは追い付かず、やはりシステム的に対応するしかなくなる。

海外投資家はこうしたプロセスに慣れているため、JGBレポに参入するとその非効率さに驚くことが多い。海外のようにグローバルカストディアンがすべての処理をするのが不可能で、日本の信託銀行をサブカストディアンとして使うため、一つレイヤーが増えてしまう。このため、SWIFTのやり取りが増えたり、時差による確認作業が発生したりするので遅れが発生する。

かと言ってグローバルカストディアンが日本の免税手続きなどを行うのは非効率であり、日銀ネットへの直接参加や信託ライセンスという高いハードルもある。JGB決済を大規模に行うオペレーション体制がなく、複雑な税務処理や国内規制対応が事実上の参入障壁となっており、結局はサブカストディアンに頼ることになろう。

実際グローバルカストディアンやユーロクリアなどのICSD(国際証券決済機関)ではJGBブリッジという仕組みにより、外で帳簿を動かす仕組みも持っている。しかしユーロクリアなどに大量のJGBの在庫を置く必要があり、日本国内にJGBを戻す際には結局フェイルが起きたりする。また、何といってもJGBの保有主体を厳格に把握しなければならないという税務上の制約が大きい。ここは海外金融機関にとってはかなり難しい問題で、サブカストディアンの機嫌を損ねたくないという感情も相まって、海外からの参入にはどうしても制約がかかってしまう。

逆に国内サブカストディアンがグローバルカストディアン並みに自動化を推進していく方が簡単なように思えるが、米国などと比べると信託銀行の数が多く、24時間対応、海外接続などの課題が残る。

これらを解決しようとするとかなりの調整が必要になるのは明らかである。こう考えると、JGBのトークン化を通じて24時間の即時決済を可能にし、サブカストディアンを介さないデジタルウォレットを使う方法しかないのかもしれない。現金の方は中銀のデジタル通貨や、ステーブルコインなどを使えば良いだろうし、海外のDiSHのような仕組みを使うこともできる。トークン化を行う際の法的裏付け、税務対応が解決すれば、これが最も近道なのかもしれない。

米国G-SIBルール改正案

Basel III endgameに関連してG-SIBに対する資本上乗せ要件の見直しも行われている。先週木曜に公開された一連の文書から、G-SIBに関する概要をまとめてみる。

米国のG-SIBスコアはBaselの原案と異なり、経済成長に合わせた調整がなかった。つまり、米国経済が成長して銀行のサイズが大きくなれば単純に全員のG-SIBスコアが上がってしまう。これは業界から長らく批判されてきたが、今般経済成長に併せて調整が行われる仕組みに変更される。

また、米国のG-SIB計算であるMethod2には、STWF(短期卸売資金:Short-term wholesale funding)が含まれており、GSやMSのような投資銀行系に多くの資本賦課が行われてきた。本来、STWFはMethod 2スコアの20%を占めるよう設計されていたが、実際には約30%に達していたので、今回はこれを20%に戻すような変更が行われている。

現行ルールでは「STWFの加重平均額 ÷ 平均RWA」という比率でスコアを算出しているため、RWAが減少するとSTWFのスコアが逆に上昇してしまっていたが、今回は、RWAの分母をなくすことで、この問題を解決しようというものである。これはトレーディング業務の比率の高いGSやMSに朗報だろう。

また、かねてから言われていたように、G-SIBスコアの計算が、年末時点の数値ではなく、日次または月次の平均値を使用する方向性へと変更になる。これによって、期末に流動性が逼迫して市場変動が大きくなることは少なくなるだろうが、一方で、常日頃からバランスシートを膨らませないように努力したり、コンプレッションなどを行っておく必要がある。

そして、従来50bpごとに資本賦課のレベルが上がるスコアの範囲を10bpごとに細分化した。急激な資本賦課の上昇を抑えるために期末になると取引を制限していたような銀行に対するプレッシャーが和らぐため、市場の流動性逼迫が起きにくくなるというメリットがある。

こうしてみると、色々と規制緩和が行われたように見えるため、政治圧力によって銀行規制が緩んでいるというよりは、どれも納得のいく変更であるため、従来から指摘されてきた問題に対処したという変更に見える。

米国Basel III最終化案

米国バーゼルIII最終化案(Endgame)の詳細が3/19に明らかになった。概ね想定通りだが、若干認識していなかった変更が含まれているように読める。

まずは、資本計算の新しい方式が提案されている。これまでは、標準的手法と内部モデルを使った先進的手法の両方を計算し、内部モデルの計算が標準的手法より資本削減につながらないようなフロアが求められていた。今後は、両方式の計算の義務付けを廃止し、拡大リスクベースアプローチ(Expanded Risk-Based Approach)なるものが使われるようになる。

大手銀行は、二つの資本計算を行い、それぞれの資本賦課の低減を図ってきた。これが一つの計算方法に統一される意義は大きい。

この手法のもとでは、住宅ローンにつき、従来の画一的なウェイトではなく、LTVに基づいてリスクウェイトを細分化することになるようだ。また、全体的に事業法人向けローンのリスクウェイトを100%から95%に引き下げ、そのうち投資適格等級の企業向けローンのリスクウェイトはさらに65%に引き下げられる。全般的に規制緩和方向に見えるが、計算方法の精緻化も併せて行っており、望ましい方向性のようにみえる。

次にオペレーショナル・リスクの標準化であるが、自社モデルの利用が廃止され、銀行の業務量に基づいた標準的な算出方法を用いることになる。ここはもう少し読み込んでみたい。ただし、投資運用やカストディ業務などリスクが低いとされる業務についての資本賦課も低くなりそうだ。

信用リスクとオペレーショナルリスクについては、内部モデルの使用が禁止されることになるが、市場リスクについては、当局承認を条件に使用が認められる。

市場リスクについては、従来のVaRに代わり、テールリスクをより正確に捉える期待ショートフォールが導入されており、これは最近のリスク管理の変化の方向性と一致している。

CVAリスクについては、BA-CVAとSA-CVAをベースとしつつも、リスク感応度をより精緻に考慮し、国際基準に近づけた形に変更とある。BA-CVAを使っていたとしても、直接カウンターパーティーのCDSでヘッジしなくても、同一業種、地域だったりすると、限定的ながらヘッジ効果が認められるようになる。インデックスものに関しては、構成銘柄が同じセクター(業種よりも広い概念)、信用区分(投資適格、非適格の区分)にあれば、シングルネームヘッジと同じように扱い、リスクウェイトに0.7を乗じる。構成銘柄が複数のセクターにまたがる場合は、各銘柄のリスクウェイトを特定し、元本で加重平均し、0.7を乗じる。

SA-CVAでは、デルタリスク、ベガリスクを補足するので、金利、為替、オプションによる市場リスクヘッジが資本賦課を軽減させることができる。CVAヘッジを行っている銀行であれば、この効果が反映される意味は大きいので、SA-CVA導入のインセンティブは大きい。また、クライアントクリアリングの顧客レグを含めた清算取引がCVA規制の除外と書かれている。これは若干驚きだ。これでクライアントクリアリングビジネスは一気にやりやすくなるのではないか。

このほかG-SIBについての変更もあるが、別記事でまとめたい。本最終案のコメント期限は6/18となっている。そこから最終規則の公表までは数か月かかるだろうから、正式な施行日は年後半か来年になりそうだ。

中東情勢がデリバティブ市場に与える影響

戦争などが起きると、通常は安全資産が買われるのだが、今回の中東情勢はインフレ懸念を加速させ、各国金利は上昇基調となっている。米国も9月までの利下げはないという意見が支配的となり、これまで2回の可能性があると言われていた利下げの回数予測も1回とするところが多くなっている。

国債利回りの更なる上昇に備えたヘッジ取引が活発化し、DTCCのデータによると、世界の金利デリバティブ取引高は戦争の翌週1週間で20兆ドルを超え昨年の平均の約2倍となり、過去最高水準の活況を呈している。米国では、年内の利下げ観測後退から特に短中期ゾーンの金利スワップの取引増が著しい。

欧州でもウクライナ戦争時のインフレショックの連想から、金利上昇圧力が高まっているためか、米ドル金利スワップもよりも欧州通貨の金利スワップの方が取引が増えている印象がある。英国では年内利下げ期待が大きく後退し、フランスやドイツでも短期債を中心に国債が売られ、利下げどころか利上げの話まで出始め、金利が上昇している。

一方為替市場では、安全資産のドル買いがみられ、円やユーロに対してドルが強含んでいる。EUは石油の64%を輸入に頼っており、日本はほぼ100%を輸入に頼っている。一方、引き続き安全資産とされるスイスフランが強含み、対ユーロで約11年ぶりの高値を付け、介入の話すら出てきた。一時期はスイスフランとともに円が買われることもあったが、昨今では円は有事で売られることが多くなってきた。

この高いボラティリティが継続すると、ストレス損失、VaRの上昇を招くため、CCPの当初証拠金やSIMMのパラメーター変更を通じた相対取引の当初証拠金の増加が起きる可能性が高い。これまでのところ、市場変動が大規模な倒産につながるようなことにはなっていないが、同時期に起きているプライベートクレジットの変調は気になるところである。ここで何か大きなショックが起きると、各種資本規制強化の動きが出てきても不思議ではない。少なくとも、銀行内部では、ストレスシナリオの見直しの議論などが出てくるだろうし、いったいどこまでのストレスを想定してリミットや資本を積めばよいのかという問題がクローズアップされることになるだろう。

バーゼルIII Endgameの決着が近くなってきた

一昨日3/12、FEDのBowman銀行監督担当副議長が、バーゼル3​最終化及びGSIB追加資‌本要件に関する米金融当局の新提案の概要を明らかにした。2023年案では、資本コストが約19%増加すると言われ、業界から強い批判の声が聞かれていた。今回のコメントを見ると、大幅な資本増強策は事実上撤回され、全体への影響は5%未満程度のマイルドな変化となりそうだ。

これにより米6大銀は今後1年半の間に約2000億ドルもの資本を配当や自社株買いに充てることができることになる。これは株価にとってもPositiveなニュースだろう。興味深いのは、内部モデルの使用に対する制限や標準法以上への資本削減を制限するアウトプットフロアが大きく緩和されそうな点だ。

市場リスクについても過剰なリスクウェイトの見直しが予想され、内部モデルの維持が可能になり、過度の制限がなくなりそうだ。業界が求めてきた変更がすべて反映されているように見える。また、米銀のG-SIBスコアの計算を年末ではなく通年平均とする方向に変更する模様だ。これにより、年末だけでなく常にコンプレッションなどでデリバティブ元本残高を圧縮する必要が生じるようになる。

また、短期資金調達に伴うスコアの要素見直しについても触れられていた。これが緩和されると、この寄与度の大きいGoldmanとMorgan Stanleyが有利になるのではないだろうか。

そして、いわゆるクリフ効果を軽減するため、50ベーシスポイントではなく10ベーシスポイントごとに追加の資本がかかるようにするともコメントしている。これまで、一定の閾値を超えないように、必死でポジションを減らし、市場流動性に悪影響が生じていたが、これが少し緩和されるかもしれない。

銀行業界としては、提案に関​する詳細内容​の公表を待ちたい⁠との考えを表明しており予断は許さないが、おそらくかなりの部分が緩和方向に向かうものと思われる。

とはいえ、プライベートクレジットを巡る警戒感が強まるなか、資本要件が本当に銀行システムの脆弱化につながるのではないかという声も出ている。いつものことであるが、民主党の​エリザベ⁠ス・ウォーレン上院議員が早速警告を発している。来週の理事会で新たな提案が承認されるかの採決が行われるとのことなので、まずは結果を見守りたい。

トークン化証券にかかる資本規制

トークン化証券を銀行が扱うと資本にどのような影響を与えるかというのは、業界の注目でもあった。この度、銀行資本要件において、トークン化証券に追加手当が不要になることを米国当局が明確化したという記事が出ている。トークン化証券を扱ったとしても銀行の資本要件において特段追加的な手当ては必要ないとのことである。一見トークン化証券をサポートするような印象を与えるが、要は既存の金融商品と同じ資本賦課となり、追加の資本負担はないという意味のようだ。

FRBのアナウンスメントによると、米国当局は、自己資本規制において、Technology Neutralな立場を取ると述べているにとどまる。つまり、証券の発行、取引にどのような技術が使われていたとしても、資本規制上の取り扱いは変わらないというニュアンスなのだろう。

ある意味当然なのだが、債券などの既存の資産をトークン化したからといって資本の扱いが変わるわけではなく、原資産にかかる資本コストと同等になる。トークン化証券を原資産とするデリバティブについても、もとの証券と同じコストになるという至極当然に扱いとなっている。

また、担保として使う場合についても言及されており、適格要件を満たしていれば、信用リスクを削減する効果を持つことが明記されており、原資産と同じヘアカットが適用されるとある。

ここで一つ疑問に思うのが、ヘアカットというのは、その資産を現金化する際にかかる期間とその間の資産変動に基づいて決まる。トークン化したからといってボラティリティがそれほど変わるとは思えないが、現金化にかかる期間は短縮される可能性はある。特にT+1とかT+2で決済されているような資産でも、トークン化すれば瞬時に決済することが可能になるため、ヘアカットは低くて良いのではないかという議論が出る可能性がある。ただし、本当に直ちに換金できるかどうかは定かではないので、この辺りは今後の進展を見守る必要がある。

いずれにしても、トークン化資産がデリバティブ取引の担保として使われるようになる日も近い気がしてきた。

レポ取引のクリアリング義務化は米国以外にも拡がるか

米国では来年6月にはレポ取引の清算集中義務が始まる。FICCへの直接参加者が行う米国債レポが対象となるが、ディーラー間のみならずディーラーとバイサイド間の取引も含まる。これまでは一つの国が動けばその他の国も追随するというのが一般的だったが、今回はこれが他の国でも導入されるかどうかは、微妙な状況である。

特に英国や欧州では市場構造が米国と異なるため、義務化というよりは、インセンティブをつけることによって自発的なクリアリングの方向性を模索しているように見える。

米国の場合、オーバーナイトの取引が中心で、様々な参加者によるフローがあるため、CCPを通じたネッティング効果が極めて大きい。しかし、英国・欧州では、年金基金などの資金の借り手と、MMFなどの資金の貸し手のニーズが一方的になりやすく、取引もオーバーナイトよりは期間の長いターム物が中心となる。したがって、CCPを介しても期待されるほどのネッティング効果が得られないと言われている。

また、米国ではMMFの運用資産が7.2兆ドルと巨額なのに対し、英国ではMMFの占める割合は1%程度と極めて低くなっている。同様に日本でも多様な市場参加者がレポを行っている訳ではなく、大手金融機関中心のマーケットとなっている。欧州同様、既に6割程度が自発的にクリアリングされており、クリアリング比率が4割程度にとどまる米国とは状況が異なる。

このような状況において米国に追随して清算義務化を行うと、プロシクリカリティを誘発し、預金者や年金加入者にコスト増のしわ寄せが行くという意見が、ICMAやISDAなどの業界団体からも出されている。

英国中銀もレポ市場の強靭化に関する議論文書を公表し、清算集中の拡大を検討しているが、業界としては義務化より構造的な障壁を取り除くことによる自発的な清算集中を訴えている。欧州CCPの幹部からも、欧州では既に自発的なクリアリングで透明性の高いプロセスが確立しているのであえて清算集中義務は必要ないとのコメントまで飛び出している。

おそらくここで残る問題は、デリバティブ取引に義務付けられている当初証拠金にあたるヘアカット問題だろう。レポ市場では適切なヘアカットが取られていないため、信用危機時に連鎖倒産が起きる可能性は残っている。特に大手バイサイドは非常に強い交渉力を持っており、ヘアカットの低いところに取引が流れるのを嫌って、市場変動に比べて十分なヘアカットが取れていない取引が多いものと予想される。ただし、商品は異なるものの、アルケゴスでIMをディスカウントしたCSにポジションが集中し、危機につながったのは記憶に新しい。

単純にヘアカットを上げると、年金受給者にコスト転嫁するのかという議論も持ち上がるだろう。したがって、現物や先物、金利スワップなどとのネッティングを確立し、クロスマージンを減らした上で、十分なヘアカットが確保できるようにしていくのがベストな方向性なのだろう。

米国債レポのクリアリング義務化による影響

来年から米国債のクリアリングが義務化され、レポについても来年6月末から義務化となる。これによってどの程度のインパクトがあるか常に気になっていたのだが、OFRのブログで大手米銀6行のSLRが2000億ドル以上削減されるとの見通しが示されている。6行合計でレポが7470億ドルから5400億ドルへ、リバースレポが6340億ドルから4270億ドルへと減少するとされており、これはかなりの減少だ。OFRの公式見解ではないとしているものの、かなり信頼性のある数字だと思う。

昨年の8月までの一日平均取引量のうち、米国債レポの約45%がクリアリングされていたが、清算集中義務化が行われていれば、これが約77%まで上昇していただろうとのことである。残りの23%のうち約8割が関連会社間の取引とのことで、残りがオプション付の特殊なレポということになる。ちなみに日本では既に6割近くがクリアリングされていると記憶してるので、他国に引けを取らない割合が既にクリアリングされている。

この残高減少は主にCCPに取引を集中させることによって得られるネッティング効果によるものである。A社に国債を貸して、B社から同じ国債を同じ期間借りていた場合、それをCCPで清算すれば、オフセットしてゼロになる。

また、興味深いことに日々のレポ残高を見てみると、四半期末などにポジションを減らして規制資本を下げようとする、いわゆるWindow Dressingがみられない。つまり、常日頃からSLRが増えすぎないような管理を行っており、期末にだけポジションを落とすようなことは米銀は行ってないということだ。

当然レポのクリアリング義務化が行われれば、様々なコスト増が発生するだろうが、ネッティング効果やカウンターパーティーリスクの削減により、市場安定化に帰するものと思われる。

英国デジタル証券サンドボックス(DSS)

世界中でDLTを証券の発行、決済、取引に活用しようという動きが活発になってきた。英国では、英国中銀と金融当局であるFCAが共同でDSS(デジタル証券サンドボックス)という規制上の実証環境を運営している。

これまでのように取引所とカストディアンなど様々な機能が分散されていたが、DSS内では一つの企業がすべての役割を担うことができる。対象資産としては、国債、社債、株式、CP、投資信託、排出権などで、資産の裏付けのない暗号資産やデリバティブ取引は対象外となっている。

ここで発行されたデジタル証券は、レポ取引やデリバティブ取引の担保として使うことができる。ポストトレード処理の迅速化とコスト削減が可能になり、金融機関やバイサイドなどの市場参加者全体に利益をもたらし、発行体にとっては資金調達が容易で「深い」資本市場へのアクセスが可能になる。

このDSSは2024年9月に開始され、2029年1月8日まで(または2028年12月まで)運用予定となっている。参加申請期限は2027年3月頃だが、既に大手銀行、取引所、DLTを活用する多くのスタートアップ企業がテスト段階であるゲート1を通過している。

米国でも米国債をトークン化しようという動きがみられており、世界中で決済周りの革新が起きている。特に米国では国債の決済はFEDであるものの、DTCC、FICC、トライパーティーとなる銀行など、既に分散型で運用されており、民間を巻き込んだ柔軟な制度設計ができる可能性が高い。証券の保有もブローカーが間接保有することが多い。英国でもDSSを皮切りに業界を巻き込んだ革新を起こそうとしている。

こうなると日本も出遅れてはならないと思うのだが、日本の場合は権限を中央銀行に集中される中央集権型なので、法改正などハードルが高くなる。英国のように日銀と金融庁がこうした動きを主導するのもかなり難しそうだ。日本の場合は日銀ネット上で振替法に基づく直接記録体系をとっていたと思うので、米国とは異なるアプローチが必要になるのだろう。

日本の場合は、レポ取引なども取引主体が限られており、そもそも日銀が多くの国債を保有してきたため、他国のようなトライパーティーレポなどの発展も起きてこなかったため、DLT導入インセンティブは他国ほど高くないのかもしれない。また、日銀がどこまで外部基盤への接続を認めるかという問題もあるが、これも他国よりはハードルが高いだろう。

とはいえ、日銀の保有比率が今後減少していること、グローバルな市場参加者が日本国債への興味を示し始めていることから、今後は状況が急速に変わっていく可能性がある。おそらく日銀ネットを外すことは不可能に近いだろうが、日銀ネットと接続する形で米国債型のトークン化を進めていく必要があるように思う。

DLTによって決済が容易になれば、資金不足による破綻、連鎖倒産などを防ぐことができ、金融市場の流れが円滑になる。市場変動がここまで多くなってくると必要担保額がさらに増加していくが、デジタル資産を適格担保に含めることができればトークン化したMMFなどを担保に出せるようにもなってくる。また決済期間短縮化が進めばリアルタイムFX、リアルタイムレポなども容易に行えるようになる。ここ1年の進歩を見ていると1~2年後にはこうしたことが海外では実現している可能性が高い。日本でも海外に後れを取らないよう、準備を進めておいた方が良いと思われる。

ステーブルコインがもたらすデリバティブ市場変革

ステーブルコインの発行量が増加し、為替取引への応用が議論されている。様々なデジタル資産がチェーン上で取引されるようになり、即時決済も可能になってきたので、当然の議論だと思うが、それでも金融の現場ではまだ慎重派が多いように思う。確かに、ブロックチェーン上で取引されるオンチェーンの取引の場合は、自社のウォレット内で残高が移動するものが中心で、実際の為替や送金に使われているケースは極めて少ない。

あとは現金や株式債券といった資産がリアルタイムで動けば良いのだが、これはある程度実現している。例えばSwapAgentにおける決済は、SwapAgentが銀行内に用意した信託口座の中で、参加者の所有権を移転することによって決済を行っている。つまり、資金の引き出しや送金は行われず、SwapAgentが指示を出した通りに所有権が帳簿上瞬時に移転しているだけである。これを応用すれば資金を簡単に移すことができるので、リアルタイムFXなども可能なのではないかと思ってしまう。

国債についても所有権を書き換えれば良いだけなのだが、国債を保管する場所の制約もあるため、そのままでは使いにくい。その場合、国債をトークン化してオンチェーンに持っていけば問題は解決できる。また現金についてもトークン化によってオンチェーンの世界に移せば、すべてが即時決済できるようになる。このようにして、現金、国債などのデジタルツインを作れば、決済のあり方が完全に変わる。国際送金なども、一旦現地通貨をデジタル通貨にしてオンチェーン上で別の国に動かしてまた元の通貨に戻せばよい。手数料も現在と比べるとかなり安くなる。

それにしてもこの世界になると、新興企業がサービスが多すぎて、名前がこんがらがってくる。ここで少し名前を整理してみる。

ステーブルコイン発行体

  • Thether(USDT)
  • Circle(USDC/EIRC/USYC)
  • Paxos(USDP/PYUSD)
  • MakerDAO(DAI)
  • First Digital(FDUSD)

ブロックチェーン

  • Ethereum
  • Tron
  • Solana
  • Polygon
  • Canton

若干例を挙げただけでこれらの他にも数多くの発行体、チェーンがある。そして銀行自体が構築しているコインや決済システムも存在しており、まさに玉石混合の様相を呈している。これ以外にも、取引所が様々な取り組みを始めている。

そして今月には、CFTCがデリバティブ取引の証拠金にステーブルコインを担保として受け入れることができるというアナウンスメントを出している。ISDAやFRBからもデリバティブ取引の担保にデジタル資産を使う方向性に関して様々なコメントが出ている。

これまでこうした動きが出ても、またかという感じでしばらく先の話という印象で聞いていたが、今回ばかりは実現に向けて動き出すかもしれない。技術的にはすべてが可能であり、それを海外当局が後押しする動きがみられ始めてきたからだ。

日本だとライドシェアの際にあった既存業界からの反対運動などの動きがみられるだろうから、政府が主導しない限り新しいことはなかなか進まなかった。しかし、最近の大手行のステーブルコイン発行に向けた動きについては、片山金融相からの支援コメントが出ている。ひょっとすると今回ばかりはかなりのスピードをもって市場に変革が起きるかもしれない。

まずはリアルタイムFX、リアルタイムレポなどからはじめて、デリバティブ取引の担保の分野に広げていくのが良いかと思う。

デジタル資産の適格担保化

先週ECBが、DLTネットワーク上で発行される債券を含むトークン化された証券を、ユーロシステムの中銀オペレーションにおける担保として利用可能とする方針を発表したと報じられた。今年の3月末からサポートされると書かれている。

当面は、通常の担保要件を満たすことに加え、トークン化された担保が TARGET2で決済できること、およびCSDを通じて発行されていること が条件となる。TARGETとはTrans-European Automated Real-time Gross Settlement Express Transfer Systemの略で、ECBと17の欧州中銀で構成されるユーロシステム運営する資金決済システムである。第二世代のシステムということで2がついている。デリバティブの祝日カレンダーでTarget2と書かれているのを認識されている方も多いだろう。

また、ロイターで報道されているように、ECBの発表を受けた英国中銀に対する質疑応答でも、英国版EMIRの中で、トークン化担保をどのように取り扱うかを明確にする方針を2026年に公表する予定であると回答されている。

英国では、トークンされた銀行預金を使って即時決済を実現するブロックチェーンの決済プラットフォームの発表もあったばかりである。

以前から話には出ていたものの、ここへ来てデジタル通貨を巡る動きが活発化してきた。CCPや相対デリバティブ取引の担保にデジタル通貨が使われるようになるのも時間の問題となってきた。これによって決済期間の短縮や資金移動のスピードが早まれば、MPORの削減通じた当初証拠金や資本賦課の引き下げがついに実現するかもしれない。

台湾生保の会計基準変更が為替市場に与える影響

台湾の金融当局である金融監督委員会(FSC)から生保の為替ヘッジの会計基準を緩和するプレスリリースが出ている。この変更によって、台湾の生保は従来のように為替ヘッジによってPLをヒットさせる必要がなくなり、負債の残存期間に応じて為替差損益を定額法のような手法で償却できるようになった。

これまでも、生保が債務超過に陥りそうな時は会計規則を変えて一時的に乗り切ったことがあったが、今回はヘッジコストの高まりを受けて恒久的にこの取り扱いが認められることになるように読める。

台湾主要生保の財務諸表を見ると、その資産の多くが米国の資産(株や債券)になっている。大手は5-8割といったイメージだが、平均でも6-7割はあるのではないだろうか。そして、その約6割について為替ヘッジを行っている。おそらく多くは現地行とのオンショアのDeliverable為替フォワードを使っているのだろうが、3割程度はNDFで海外銀行とのヘッジも行っている。

このNDFヘッジには季節性があるため、外資系やヘッジファンドの収益源となってきていた。このフローが減るとなると、世界第二のNDF市場に大きな影響があるかもしれない。昨年起きたようなTWDの大きな動きも見られなくなるかもしれない。

外資系としても、昨今の地政学リスクの問題から取引量に制限がかかっていることが予想され、しかも外資系銀行がフォワードでTWDを売るサイドになりWWR(誤方向リスク)になるため、台湾生保にとってコスト高になっていたのは事実だろう。

この流れを先取りしていたのか、2025年末の統計を見るとヘッジ比率は既に6割から5割程度に減少している。生保のバランスシートは会計的に安定するだろうが、NDF市場の流動性はかなり落ちていくことになろう。既にNDFのフォワードポイントはプラスに転じ、マーケットへの影響がみられ始めている。

これによってTWDのNDF市場の縮小、流動性の低下による取引コストの上昇が危惧される。長期負債に対して短期でヘッジする必要はないという理屈もわからなくないが、非常に危うい会計の変更のようにも思える。もしドルが大暴落してドル建て資産の売却を余儀なくされれば、台湾の生保の中には破綻に瀕するところが出てくるかもしれない。何かが起きてから慌ててヘッジしにいっても、ヘッジコストも急騰しているのは間違いない。シリコンバレーバンクなども、満期保有だからといって金利ヘッジをせずに米国債を持っていたら、いざ金利上昇が始まった時に売却を余儀なくされ破綻した。同じことが起きないことを願うばかりである。

ポートフォリオ最適化にクリアリング規制免除が与えられた場合のインパクト

以前当初証拠金の最適化などで発生した金利スワップをクリアリング規制から免除するというEUの決定があったので、これができるとどの程度のインパクトがあるのかSIMM v2.8に従ってExcelで簡易計算してみる。

通常は取引先Aにリスクが集中していてIMが多いときに、リスクを取引先Bにリスクを移転させると、トータルのIMが削減できる。この時リスク移転に通常のIRSを使うと清算集中義務があるため、CCPで清算しなければならなくなる。そうなると、AからBへのリスク移転はできないため、Swaptionを使ってこれを行う。Buy Payer + Sell Receiverのシンセティックスワップを使うことが多いが、1m10yのSwaptionを例にSIMMのIMを想定元本に対する%で計算してみる。

このようにSwaptionを組み合わせた取引は、Sensitivityを計算するとVolのリスクが出てくるのだが、Strikeが同じATMのSwaptionだと、SIMMの計算上VolやCurvatureがオフセットしてゼロになり、デルタだけのリスクになり、IMはIRSと同じになる。つまり、同じ取引先とPayer+Receiverをブックすれば、IRSを使ったのと同じようにリスクが動かせる。

しかし、当然その他にボラティリティのリスクも同時に移すことも多く、また、PayerとReceiverをブックする取引先が異なる場合もあるため、この時はSIMM IMの削減幅が小さくなってしまう。それを確認するためにPayerとReceiverのSIMM IMを別々に計算すると、上のようになる。ちなみにこれは自分が担保をコールする方向での計算なので、Postする場合は結果が異なる。SIMMの計算上、Swaptionを買うときはCurvature分のIMを拠出する必要はないが、徴求する必要はある。Swaptionを売るときは逆になる。

まずPayerを買った方は相手に対してCurvature分のIMを徴求しなければならないのでIMが大きくなる。Postする方はこれがないため、拠出額は2%ちょっとになる。もちろん1m10yだからCurvatureが大きかったのだが、これが1y10yのようにExpiryまでの期間が長くなればCurvature IMは少なくなる。10y10yとかになると、CurvatureからのIMはほとんどゼロに近づく。しかし金利の動きにもよるが、その分Vol IMが増えてくる。

Receiverの方は売りでCallサイドなのでCurvature IMがない。つまり、Payerの買いを取引先A、Receiverの売りを取引先Bとブックした場合は、4%+3%で合計で7%のIMをコールすることになる。IRSだと5%弱なので、IMが40%増になっている。

まとめると、クリアリング規制免除が認められれば、7%の担保が5%に減る。ただし、PayerとReceiverを同じ取引先と行っていればそこまで変化はない。どの程度こうした取引先のSplitがあるかわからないが、最小で0、最大で40%の削減が見込まれるので、ざっくり10-20%のIM削減効果と言えるのだろう。それよりも、2つのSwaptionを一つのIRSに置き換えられるというオペレーション上のメリットが大きいのだろう。

英国中銀のNew Year Resolution

英国中銀のラムスデン副総裁が、新年のResolutionとして非銀行セクターの破綻処理(Resolution)に関する取り組みについて議論をしているというニュースがあった。ヘッジファンドのようなNBFIについてかと思ったらクリアリングハウスの破綻処理の仕組みとある。しかし、スピーチ原文を読んでみると、より広範囲なトピックを扱っている。

シリコンバレーバンクやクレディスイスの例を挙げ、破綻処理はできる限りResponsiveなものであるべきというのが、スピーチの趣旨となっている。頑健な破綻処理体制があれば、銀行の所要ティア1資本を5%程度削減することが可能とのことだ。

とはいえ、今月からは破綻処理計画を策定しなければならない銀行の閾値が従来の150-250億ポンドから250-400億ポンドに引き上げられている。そして閾値近辺の銀行が破綻した場合は他の銀行への譲渡を想定することにより、通常の資本要件以上の準備金であるMREL(Minimum Requirement for Own Funds and Eligible Liabilities)の保持を求めないこととしている。つまり小規模行の負担軽減が図られている。

他にも先月から預金保険の保護限度額も85,000ポンドから120,000ポンドへ引き上げられている。1800万円が2500万円になったようなものなので、日本の1000万円よりはかなり大きい。そもそも日本は、細かい修正はあったものの、40年前の1986年から1000万円である。インフレが一般的な英国では5年ごとに見直しが行われる。103万円の壁が引き上げられたように、これから様々なものを引き上げていかなければならないだろう。

その後確かにCCPの破綻計画についてのコメント、システム上重要なステーブルコインの保有者保護のため、裏付け資産を信託で保有することが検討されている。

全般的に、破綻計画は重要としているものの、小規模行に優しい変更や、預金保険限度額引き上げ、資産保護の検討など、規制強化を目指しているようには取れない。昨今グローバルでは、規制を強化するというよりは、現実的な対応が目立ってきていることから、次の危機が起きるまでは、大きな規制強化の動きはないように感じる。