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某米系外資系投資銀行にて長年規制・市場動向を追っています。

大手米銀が資本削減に力を入れている

2024年第二四半期の大手米銀決算が出揃った。今回も決算発表後の質疑応答のスクリプトをざっと読んでみたのだが、今回は、SCB(ストレスキャピタルバッファ)についての不満をもらすところが多かった。多くの米銀が、資本削減、最適化にかなりの努力を継続してきたにもかかわらず、それがストレステストで評価されていない点が納得いかないようだ。

そして、SCBの計算が不透明であり、しかも非常にVolatileある点を問題視する意見が多い。シナリオがそれほど変わっていなくても、ここまでSCBが大きく上昇するというのは、各銀行の感覚と合わないようで、銀行自らが試算した結果と、FEDの計算結果が大きく乖離している点を問題視するコメントもみられる。一時期はレバレッジ比率規制やバランスシート規制に対するコメントが多く見られ、最近ではBasel III Endgameに関するものが多かったが、今回はSCBに注目するところが多い。

特にGSは、最近の資本削減、最適化の努力のおかげで、信用リスク資本、市場リスク資本とも大幅削減に成功している。株式投資関連エクスポージャー、デリバティブ取引エクスポージャーをかなり削減したようだ。一方ここまで削減努力をしてきたにもかかわらず、SCBが上昇しているのが不可解のようだ。FEDの審査に異議を表明しているという記事まで出ている。Citiも、SCBが減ったにもかかわらず、削減努力に比して減り方が少ないと思っているようだ。

それにしても、ここまで米銀行大手すべてが、資本削減や資本最適化に力を入れてきているというのは興味深い。しばらくは、資本賦課が銀行経営にとって最重要課題であり続けるのだろう。

全社横断的なデータ集約の重要性

FTなどで報じられている通り、Citiの清算計画(Resolution Plan)が米国当局に却下された。これは、金融機関が、自らの破綻時に迅速に破綻処理を行い、税金投入なく秩序だった清算ができるようにする計画である。遺言状を意味するLiving Willとも呼ばれる。

米国当局の一つであるFDICが5人のメンバー全員一致で却下となった。内容的にはCitiのデータコントロールの評価を2年前の「Shortcoming」から「Devidient」に変更している。これでFEDもFDICと同じ判断をすれば罰金が科されることになる。これは何もCitiに限ったわけではなく、他の大手銀行についても、より問題は少ないとしながらも同様の懸念を表明している。

今回重要なのは、何か不正があったというよりは、リスク管理やデータガバナンスが不十分とされたという点だ。データの信頼性が低いということは、ストレスがかかった環境でのポジション解消時に大きなリスクが発生することを問題視している。詳細はFRBのレターでも確認できる。

ここで重視されているのは、社内の各部門から、正確なデータをタイムリーに取得し、分析をすることができるかどうかである。データが得られないと、ストレス時のポジション解消にどのくらいのコストがかかるかが計算できない。そしてカウンターパーティー毎の信用リスク、資本なども同時に把握する必要がある。資本計算のためにはグループ間でのデータを総合的に見なければならない。当局は、各社の状況を比べ、良いところがあれば別の銀行にも同じことを求め、業界標準が出来上がっていくことが多い。

こうしたデータ分析はユニバーサルバンク形式を取る米系では比較的容易なはずなのだが、それでもこれだけの問題が指摘されている。銀行、信託、証券などが分かれている場合、各社のポジション、リスク、資本などをタイムリーに把握できるのだろうか。少なくとも米系は商品ごとにシステムは違えども、グループ間での相違が少ない。部門、地域、子会社などのポジションを横断的に集計し、それに対してストレステストやシナリオ分析をタイムリーに行うことが求められる中、世界中の金融機関が業務フローの見直しを迫られることになるだろう。

資本計算はグループ毎に行うので、日本でも大きな変革が求められるようになるかもしれない。LIBOR改革の時に明らかになったように、グループ内のすべてのエンティティのデータを集計するのに手間取るところが多かったからだ。ネット銀行、証券、為替証拠金子会社、さらに海外拠点まで含めてストレステストを行うとなるとかなりの手間になるだろう。

世界中で資本、ファンディングなどの最適化をグループ横断的に行うのが一般的になった。最近では、取引前に資本ハードルを満たしているかを確認するだけでなく、取引を行った後の最適化処理も含めて資本ハードルを考えるようになってきている。この分野において日本は特に遅れているように感じる。

米国資本規制緩和のニュース

最近たまに各方面からコメントが出てくるが、今週はFEDがG-SIBサーチャージの緩和策を検討というロイターのニュースが注目を集めた。決算に前向きな意見が出たこともあるが、米銀の株価が軒並み上昇した。

公式見解は何も出ていないのだが、事情を知る複数の市場参加者のコメントとして報道されている。米国ではこうした記事が出ることが多いが、今回もおそらく信ぴょう性が高いのだろう。内容としては、G-SIBスコアのうち、経済成長を反映させた形で係数を調整するということのようだ。

通常銀行がバランスシートのサイズを増やせばサイズを表すスコアが上昇し、G-SIBサーチャージが上昇する。グローバルなシステム上重要な銀行にかかるチャージであるため、サイズが大きくなればシステム上重要度が増すので、それが大きくなるのはある意味当然である。

以前G-SIBの定義を紹介した時の記事にも書いたが、バーゼルのルールが相対指標なのに対し、米国の一部ルール(Method 2)は絶対指標となっている。つまりバーゼルのルールでは、経済全体が10%成長していれば、個々の銀行が10%成長したとしてもスコアは変わらないのに対し、米国のMethod 2では、各行のスコアが上がってしまうのである。報道されている内容からするとこのMethod 2の見直しが検討されているということなのかもしれない。

例えばサーチャージが0.5%変更となっただけでも、JPMやバンカメなどの大銀行では各行1兆円を超える資本削減が可能になる。多くの大手米銀がこうした恩恵を受けるとなると、そのインパクトはかなり大きい。市場インパクトもあるかもしれない。

JPMなどは、この経済成長によって米国のG-SIBは$59bnもの資本を積んでいると試算していたこともある。言っていることはもっともで、なぜこれが米国だけ修正されないのかは不思議なところではあるが、大手銀行だけに有利な変更をするとなると、政治的にはなかなか受け入れられないだろう。とは言え、バーゼルIII Endgameでここを修正しないまま更に資本規制強化を行うのもかなり厳しい。

となると、Basel III Endgameで増える資本賦課と、経済成長を加味することで減る資本賦課がオフセットするようにデザインするというのが、誰からも受け入れやすい変更のようにも思える。しかし、この二つの変更には関連がないとする事情通のコメントも報道されているので、本当のところはよくわからない。いずれにしても米銀大手にとっては朗報であり、それが今週の株価の動きに表れているのかもしれない。

EUR IRSについてCCP間の競争が激しくなってきた

以前も紹介した通りユーロの金利スワップのクリアリングにNasdaqが参入し、現在5社入り乱れての競争になっている。とはいえ、メインはLCHであり、それをEurexが追う形になっている。Eurexは欧州域内のCCPとしては競争がないためか、コスト高という評判もあり、規制の後押しにも関わらず苦戦しているように見える。当然他の金利スワップとのネッティング効率という意味ではLCHが断然有利である。

通常あらゆる取引をネッティングするためには、極力一つのCCPの集中させた方が望ましい。だが、一社だけだと何かトラブルがあった時や、ポジションの集中リスクが大きくなった時のために、2社程度に分散しておく方が無難である。大手銀行はLCHとEurexの両方にアクセスがあるのが普通だろう。さすがにこの2社にBME、CME、Nasdaqを加えた5社は多いようにも思えるので、いずれは淘汰されていくことになるかNasdaqのように、北欧の銀行に強みを持つといった地域による棲み分けが起こるのかもしれない。

特に、委員会等への参加、デフォルトマネジメントプロセスやオークションへの参加など、ディーラーの参加者にとっての義務は軽くはないため、2社以上となるとかなりの負担になる。ただし、1社だとバックアッププランがないため海外当局からは不安視される傾向がある。

LCHに欧州当局から与えられている免除期間は来年2025年6月末で切れるが、さらなる延長があるのか、それとも欧州域内へのシフトが進むのかに注目が集まる。6月末で免除が終わることが明らかになれば、3か月前の3月までにLCHはポジション解消の通知を送らなければならない。欧州の規制としては、€6bn超の取引をする市場参加者は、半年ごとに5件の取引をEurexなど欧州域内のCCPでクリアリングする義務がある。これが€100bn超の参加者になると、毎月5件の義務となる。

これまでなかなかEurexへのシフトが大規模に進んでこなかったが、Nasdaqは北欧系の銀行を順調に取り込んでおり、LCHのポジションを移管するのならEurexではなくNasdaqという声も出始めているようだ。いわゆるEmir3.0が公開されるのが今年後半とのことなので、それまでには徐々に詳細が明らかになっていくのだろう。

JSCCのクライアントクリアリングに変化?

JSCCの統計情報を見ていて気付いたのだが、最近金利スワップにおいて、クライアントクリアリング経由の取引シェアが上がってきている。2019年からクリアリングされたスワップの想定元本の全体に対する割合を見ると以下のようになっている。

以前は一桁台後半でたまに10%に届くくらいだったのだが、今年に入って軒並み10%を超えている。直近はついに16%を超えるまでになっている。

これまで日本の金利スワップ市場は、ディーラー間取引はJSCCが9割、クライアント取引はLCHが9割という、世界にもまれにみるいびつな構造になっていた。これは米国当局が米国参加者のJSCC参加を認めてないのと、日本の当局が日本の参加者のLCH参加を認めていないという特殊事情から来ていた。

このため、日本ではCCP間の金利差であるCCPベーシスが乱高下しやすいという特殊なマーケットとなっている。もともと流動性がドルなどに劣るところに、こうした市場分断が存在しているので、さらなる流動性低下を招いている。欧州などでは、Brexit後もLCHが欧州クライアント向け業務を継続しており、様々な議論はあるものの、これを禁じてしまおうというところまでは行っていない。

その意味では、JSCCに参加するクライアントが増えてきているということは、このアンバランスを一時的に解消する方向に働くのかもしれない。

日銀の政策変更以降スワップの取引量が急増しているが、JSCCの統計からも明らかなように、2年のバケットに分類される短期のスワップの増加から来ている。したがって、PV01で見るとその増加幅は想定元本で見るほど大きくない。一方、JSCC同様、LCHの取引量も3月から急増している。LCHで特に短期のスワップが増えたという証拠は見られないので、日銀政策変更後は、JSCCにおける短期スワップの取引増が最も大きいのと、JSCCでクリアリングをする顧客が、緩やかながらついに増え始めたというのが大きな変化である。

いずれにしても今年の3月からは金利スワップ市場において何らかの変化の兆し見え始めている。せっかくグローバルな取引フローを取り込めるようになってきたのだから、極力公平性と透明性を高めて、円金利マーケットがグローバルに通用する市場であり続けることを期待したい。

アウトソーシングが難しくなってきた

金融業界では、様々な業務をアウトソースするとともに、ベンダーのサービスを利用するのが一般的だった。しかし、昨年の米国当局のガイダンス公表から、徐々に金融機関の間で、ベンダーの審査を厳しくする傾向が見られ始めている。以前は、金融機関での勤務経験を持つ専門家がFintechを起業して成功する事例も多かったが、実績のないベンチャーがこの分野に割って入るのが難しくなりつつある。

そもそもこのガイダンス自体は2013年頃から存在しており、特に目新しいものではなかったのだが、2021年の市中協議や2020年のQ&A集によって、徐々に形になっていき、2023年の新たなガイダンスにつながっている。

細かく何をしなければならないということを示すというよりは、リスクベースアプローチをとっており、細かいところは個々の金融機関自ら考えるようになっている。昨今の傾向では、こうしたアプローチをとる場合は、細かくルールが決められる場合より、金融機関サイドでできるだけ保守的なルールが作られてしまうことが多い。90年代の日本などでは、ルールが細かく決められ、禁止されていないものはOKといった雰囲気があったかもしれない。しかし、ルールが細かく決まっていないと、あらゆる行動が認められるかどうかを自ら判断することになる。そうすると、不思議なものでより保守的な運営がなされることが多い。

確かに、厳しい規制監督下にある銀行がその業務の一部をアウトソースするのであれば、アウトソース先も同じレベルの管理が要求されるのはもっともなことである。しかし、新しく設立したベンチャーのような場合、株主構造、企業戦略、守秘義務にかかるようなサービス内容の開示のほか、障害が起きないような体制整備や報告体制を銀行並みに整えるのは、並大抵のことではない。

影響の大きい決済サービスのような場合は当然としても、単純な分析、レポート作成、人事評価、研修などのあらゆるベンダーに同じようなデューデリジェンスが要求されると、大人数のコンプライアンス担当を抱えているところでもなければ、途中でギブアップしてしまうところも多いだろう。とは言え、金融機関としても、業務はアウトソースできても責任をアウトソースすることはできないというのが大前提となっている以上、自ら行っているコンプライアンスプログラムに近いものを求めてしまう傾向がある。当然ガイダンスでもリスクの程度に応じて柔軟に対応すべきとしているのだが、どうしてもすべてが保守的な方向に流れてしまいがちである。

このガイダンスに対して各金融機関がどのように対応するかに注目が集まっていたが、TPRM(Third Party Risk Management)という言葉も生まれたように、懸念された通り保守的な方向に向かっているような気がする。金融機関内には、こうしたTPRMをカバーするリスクマネージャーを専属で置くところもある。

日本も米国に合わせる必要はないだろうが、グローバルでここまで各金融機関が力を入れ始めると、完全に無視することは危険になってきている気がする。少なくとも米国のガイダンスを理解したうえで、対応をしていると示せるところまではやっておいた方が良いだろう。

国債保有に規制をかけるべきか

資本コストが金融業界の最大のフォーカスとなる中、ISDAがSLRやG-SIBスコアの計算から米国債ポジションを除外することを求めるレターを出している。コロナショック時に、これらの免除が一時的に認められたが、これが米国債の流動性向上に一役買ったのは間違いない。

感染終息後の免除の恒久化が期待されていたものの、結局2021年3月に免除が終了したが、その際に当局が全体的な見直し作業に着手するとコメントしていた。この辺りの経緯は以前もこのブログでも紹介した。だが、その後見直しの議論が盛り上がった形跡はなく、Basel III endgameの中では、この免除については全く触れられていなかった。いったいどうなってしまったのかと思っている市場参加者が多かったため、先述したレターにつながった。

ここへ来て当局サイドからのコメントも増えてきたようだが、FRBに預けられている連邦準備金をSLRの計算から外すことは問題なくとも、これを米国債にまで広げるかどうかについては依然議論の余地があるようだ。シリコンバレーバンクなど米地銀が米国債ポジションから巨額損失を出して危機に陥ったことを考えればやむを得ないのかもしれない。

だが、この問題はSLRの議論とは切り離して考えるべきではないかと個人的には思う。そもそも、IRRBBのように、銀行勘定で保有する米国債の金利リスクに対する資本賦課のフレームワークが米国にないのが問題なのであり、SLRの問題とは別に考えるべきである。

自国の国債をレバレッジ比率から除外するのは、コロナショック時には他国でも一般的に行われていた。米国なら米国債、日本ならJGBというように、自国発行の国債のみについて免除を与えるのは仕方ないのだが、ここまでクロスボーダーの活動が増えている金融においては、本来はグローバルにおける調整が必要なのだろう。ただ、これは政治的に難しい。また、国際的に高格付の国債のみを外すということになると、財政懸念の大きな日本は不利になる。国債の格下げがショックをもたらす可能性が出てくるからだ。

話を米国に戻すと、特に中小銀行の金利リスクに対する規制の緩かった米国では、当局が言うように連邦準備預金のみを免除し、米国債はストレス時に免除しプロシクリカリティの抑制を図る方が望ましいのかもしれない。あるいは、金利リスクに対する規制を強化して、常時免除を模索するという方法もあろう。ただ、そうすると米国債の流動性が低下し、市場ボラティリティが高止まりすることを許容しなければならない。市場ボラティリティが上がると当初証拠金が増え金融全体としてのコストが上がってしまう。

その意味では、日本の規制は非常にうまくいっていると言えるのかもしれない。一部米国債で損失を発生させた金融機関もあるが、全体で見れば特に大きな危機を発生させることはなく、日銀のコントロールのお陰とは言え円金利のボラティリティは落ち着いており、比較的低コストで取引ができている。あまり資本コストを気にせず流動性を提供できる銀行が多いのもプラスに働いている。

ただ、徐々に資本コストの重要性が理解されてきていることから、日本においても、レバレッジ比率から国債を除くかどうかについての議論を海外並みに行っても良いかもしれない。特に今後金利上昇が見込まれる中、海外からは日本の金利上昇にベットする取引が増えてきている。このような投機的圧力が一時的に市場混乱を引き起こす可能性は否定できず、国債の売り圧力を抑える仕組みは今のうちから整えておく必要はあろう。

そのためにもレバレッジ比率の計算からJGBを恒久的に除外しておくのは、一つの選択肢だと思う。当然米国地銀のようなことにならないよう金利リスクに注意する必要があるが、日本で米国のようなことは起きないようにも思う。

現状のように日銀がほとんどの国債を保有していれば問題は少ないが、今後買い入れを減らす方針なのだから、いよいよこうした議論が大事になってくる。海外勢は国債先物やレポによってこうした取引をすることも多いので、国債現物市場のみならず、他の商品も併せてみていく必要があろう。

米銀ストレステスト結果公表

FRBの年次ストレステストの結果が公表され、対象となった31行すべてについて、深刻なストレス環境にも耐えられると結論付けられた。今回のストレステストに基づいて最低所要資本に対して上乗せされるSCB(Stress Capital Buffer)が決められる。

早速業界団体のFinancial Services Forumから、これだけ十分な資本が既に積まれているのだから、ここから更に資本要件を厳格化するBasel III endgameは必要ないとの声明が出されている。

とは言っても業界では資本賦課に対する懸念の声ばかりが聞こえてくるので、これまで以上に資本を求められることが予想されている。不動産価格4割下落、失業率6%上昇といったシナリオは、結構なストレスだとは思うが、これが全く起きないとは言えないだろう。それでも31行総額で$685bnの損失を吸収しても資本が最低要件を満たすというのは、かなりの損失吸収能力が米銀にはあるということを示している。

それでもFRBのコメントによると、ストレス時のショック幅をそれほど変えなかったにもかかわらず、銀行の自己資本比率の低下幅が2.8%となったのは、銀行がリスクの高いビジネスを増やしており、経費も嵩んでいるとのことだ。特に過去最高レベルの増えた、クレジットカードビジネスにおけるリスク増加を懸念している。

大手行の結果を個別に見ると、ストレス時の自己資本は以下のようになっている。

JPM 12.5%
GS 8.5%
CITI 9.7%
BofA 9.4%
MS 10.6%

JPMやBoAは結果発表後、自らの計算はFRBの推計と若干異なるとコメントしている。しかしJPMのローン損失は平均より低い割合にとどまっており、健全性という意味では問題視されていない。

先週Basel IIIが当初案よる緩いものになるのではないかという記事も出ていたが、今後は大統領選に向けて、Basel III最終化がどのような方向に落ち着くのかに注目が集まる。

欧州CCPの新スキームEATM

以前欧州のクリアリングでエージェントモデルを導入しようとする動きについて紹介したが、2020年から続くこの検討も最終段階を迎えているようだ。

残念ながら参加できなかったのだが、6/19にFIAでプレゼンがあった。European Agent Trustee Model(EATM)と呼ばれるこのスキームを使えば、欧州でメインのプリンスパルモデルよりも資本コストが下がる。そもそもプリンシパルモデルでは、ディーラーが顧客とCCPの間に立って取引をするため、想定元本がダブルでかかってくる。一方エージェントモデルでは、基本的には顧客とCCPとのダイレクトな取引となるため、ディーラーの取引元本にカウントされないというメリットがある。

元本がダブルでカウントされるということは、SLRなどの資本コストが高くなるうえ、G-SIBSスコアの計算上不利になる。このため、コストの高いクライアントクリアリング業務から撤退するディーラーが相次いでいる。

もっとも以前紹介した通り、米国ではこのエージェントモデルに対しても資本賦課を上げようという動きがあるのも事実である。幅広くCCPでの清算集中を促しておきながら、清算集中を支援するクライアントクリアリング業務に対して資本規制を強めるのは本末転倒との批判が起きている。

EATMには英国法とドイツ法の2種類があるようだが、これはCCPの属する国ではなく、市場参加者の属する法域によって決まるようだ。LCHでは英国法のリーガルオピニオンと当局承認の取得を進めている。英国の市場参加者は、英国版のスキームによってLCHとEurexに参加できるようになるようだ。

Brexit後の域内CCPの拡大を目指している欧州にとっては、英国からクリアリングのシェアを欧州に移すためには、無視できないプロジェクトである。Eurexはロンドンの顧客シェアを拡大させるため、金利スワップについて英国の顧客向けにサービスを始める予定だ。健全なCCP間の競争があれば、このようにお互いがサービスの充実に向けて検討をするので、これは市場にとっても望ましいことである。

この新たなエージェントモデルはプリンシパルモデルに取って代わるものではなく、併用されるものである。参加者破綻時にポーティングをする際にもエージェントモデルからプリンシパルモデルへの変更が可能となっている。したがって、現在プリンシパルモデルを適用している場合にBack upブローカーを選定しようとしたら、別にプリンシパルモデルを提供できるブローカーにこだわる必要はない。

米国が極端な規制に向かう中、欧州でユーザー目線にたった仕組みができてくれば、昨今ように米系が上位を独占する動きに変化が表れるかもしれない。または規制の制約の少ない日本などが、もう少しプレゼンスを高めれられれば良いのだが。

欧州がバーゼル3最終化を2026年1月に延期

予想通りではあるが、6/18に欧州がFRTBの施行開始を1年延期すると発表した。カンファレンスのkeynoteスピーチの中でコメントされているので若干回りくどい言い方になっているが、スピーチ後半に差し掛かったところで、米国が2026年1月までにバーゼル3最終化を行う可能性は極めて低いと述べており、これを理由に2026年1月へと1年の延期を決めたとのことである。

資本規制によってビジネス環境が大きく変わるようになっていく中、タイミングがずれることによって競争上大きな影響があるため、ある意味当然の結論と言えよう。これを受けて、スイスなどでも延期を求める声が上がっており、ROEをあまり気にしないカナダや日本だけが先行適用している程度になっている。

それにしても、海外では日々取引を行う際にCapital Costを非常に気にするようになってきている中、日本の状況には少し危機感を覚える。CVAもそうだったが、当初証拠金のコスト、その他ファンディングコスト、Capital Costとなどが、すべてトレーダー毎に日々Allocationされるのが普通になっている中で、これをどんぶり勘定で管理しつづけていると、株価が上がっていかないのではないだろうか。また、こうしたコストが高い取引を押し付けられてしまう可能性もある。

当初証拠金などはグループ全体でIM Thresholdを加味しながら最適化するようになっているのだが、異なるEntityにまたがる全体的なリスク把握が、日本ではあまり重視されていないように思える。現在盛んに行われるようになった各種最適化についても、日本では元本のコンプレッション程度にとどまっている。この辺りを進めていかないと急速に海外に後れを取ってしまわないか心配である。

FRTBとCVA Capitalの施行は延期されるか

欧州でBasel III FRTBの延期を求める声が強くなっているが、米国の状況が不透明になってきているので、おそらく欧州でも延期となるのではないだろうか。

大手銀行にとって、資本が最大の制約になりつつある中、資本規制の施行タイミングや内容が異なると、一部の銀行を利することになってしまう。それほどまでに、資本は重要であり、このルールの違いによって、各銀行はその行動を大きく変えている。実はFRTBは、日本ではすでに一部導入されているのだが、資本やROEを現場レベルで細かく管理する必要がないからか、あまり大きな問題になっていない。

欧州がFRTB施行開始を遅らせるとすると、CVA Capitalの扱いが焦点になる。当然CVAについてもFRTBに併せて延期されると考えるのが自然なのだが、これはすでにEBAによって却下されたとの報道もある。CVAについては、FRTBほど強くPush Backするところが少ないのかもしれない。また、欧州の場合は事業会社をCVA資本賦課の対象から外してしまっているのも事態を複雑なものにしている。

事業会社向けエクスポージャーがCVA資本の対象外だとしても、会計上CVAの計上はしなければならず、それに対するヘッジも行うところがほとんである。新たなCVA資本のフレームワークでは、従前のようなシングルネームCDSのヘッジに加えて、為替や金利スワップによるマーケットリスクヘッジを資本賦課の計算時に考慮できるようになる。しかし、事業会社向けのCVAが免除になると、こうしたヘッジだけが浮いてしまう。

こうした実際のリスク管理と会計や資本計算の手法が異なるケースはほかにもあるが、個人的な経験では、これらは極力揃えていった方が望ましい。これが食い違うことにより、誤ったインセンティブで取引が行われてしまうことがあり、総合的にみるとリスク管理として望ましくないことが起きかねないと思う。

米国債のClearingとExecutionの分離

予想通りではあるが、来年末から清算集中の義務付けが予定されている米国債についても、清算(Clearing)と取引執行(Execution)を分けるべきという意見が出てきた。

金利スワップなどの他の商品では、顧客のためにクライアントクリアリングサービスを提供することにより、自社での取引執行を促すこと利益相反とされている。このため、クライアントクリアリング取引を担当する部門と自社のトレーディング部門との間に情報障壁を設けるのが一般的だ。

クリアリングは他社で執行した取引情報も得ることになるため、その情報を使って自社のトレーダーが利益を上げようとするのは望ましくないという考え方だ。CFTCでスワップなどのクリアリングを推し進めてきたGensler氏がSECで国債のクリアリングを担当しているのだから既定路線ではある。

英語のトレーディング用語では、プライスコンペで負けて、他社に取引が取られたというときにDone Awayという言葉が良く使われる。一方、あまり現場では聞かないが、自社が勝って執行に至った取引をDone withという。現在米国債のクリアリングを独占しているFICCのSponsored Clearingでは、Done with、つまり自社で執行した取引のみをクリアリングするのが一般慣行になっている。これを、コンペに負けて他社に取られたDone Away取引についてもクリアリングするようにと、先週Gensler氏が発言した。

このように金融においては商品によって取引慣行が異なるケースが多かったが、最近ではすべてが統一される方向に向かっている。以前コメントしたレポのヘアカットも、参照する債券によって決めらる傾向が強かったが、Swapのようにカウンターパーティーの信用力に重きを置く動きが強まってきた。

日本でもレポのクリアリングを行っていたJGBCCがJSCCに統合され、リスク管理手法も同じようなものになりつつある。以前であれば、商品が異なるのだから、他のやり方は通用しないという意見が強かったが、そういう意見は通らなくなりつつある。同じように、日本は特殊だからというのも主張しずらくなってきているように感じる。独自のCDSのDC、NAFMIIなど、自国主導のやり方を貫こうとしている中国を除けば、あらゆる市場慣行が統一されていくことになるのだろう。

決済T+1化がシステム投資を拡大させる

米国の証券決済T+1化が始まり、トムネの需要が大きくなるという報道が以前からあった。これはTommorow Nextの略で、約定日の翌営業日スタート、翌々営業日エンドの取引をいう。約定日の翌営業日に取り組み、2営業日目に決済をするということになる。

例えば、ドル円の取引であれば、月曜に取引を約定し、月曜をValue Dateとした円売りドル買い(円買いドル売り)と火曜をValue Dateとした円買いドル売り(円売りドル売り)を行うといった取引を指す。T/Nと表記されることもある。

一方2営業日に取り組み、3営業日目に決済を行う取引をスポネといい、S/Nと表記することもある。

通常決済リスクを負わない形で取引をするためにCLSを通す場合は、スポット為替の決済はT+2となる。一方米国のT+1化の後は決済を早めるためにトムネを使うニーズが高まる可能性がある。しかしCLSを通さないとなると、相対取引となり決済リスクが残ってしまうので、売り買いを効率的にネットしていく必要がある。

様々な時間帯に異なる価格で約定される取引が多数あるとネッティング効率が悪くなるので、BloombergがT+1でのベンチマークのFixingを公表することを計画している。金利スワップでクーポンを統一したスワップを行ったり、CDSで固定スプレッドを統一するのと同じ原理だ。

そもそもこうした足の速い取引に対するリスク管理には昔からあまりフォーカスが当たってこなかった。カウンターパーティーリスクを合算する際に、全世界で取引をしている場合はNY Closeからバッチプロセスが走るシステムなどもあるだろうから、NYではT+1でのデータしか入手できず、アジアや欧州では、時差の関係からT+1.5、T+2になるということもあるだろう。

しかしT+2のデータだけを見ていては、そのデータを確認した瞬間には、かなりのT/Nが既に消えているかもしれない。また、1日前に行われた取引が計算に入っていないかもしれない。

決算機関はT+1の次はT+0という話が出てくる可能性も高いので、各金融機関ともリアルタイムに近い形でのリスク把握が求められるようになっていく。その時にデータを人の目で確認することは不可能なので、巨額のシステム投資が必要となる。だが、これをきちんとやっておかないと、何か問題があった場合に、数百億円の罰金を払うことになるかもしれないので、早めに準備を進めておくことが望まれる。

CDX Financialsの取引開始の延期

前回紹介した、米国の金融セクターのCDS インデックスであるCDX Financialsの取引開始が直前に延期された。IHS Markitのアナウンスによると、複数のディーラーによってRaiseされたRegulatory Concernによるものと書かれている。すべてのディーラーが取引できるよう、必要であれば何らかの変更を加え、as soon as possibleに市場参加者にアップデートするとのことだ。

銀行が自身のCDSを売ることはできないが、インデックスで1/25くらいならこれが可能になるかもしれないと前回のブログで書いたが、どうやらこの懸念が理由のようだ。これは昔から議論されていることであり、欧州では問題になっていない。てっきりこの懸念については解決し取引開始に至ったと思っていたが、取引自体は可能でも資本賦課をどう計算するかについて、懸念が残っていたものと推測される。

確かにこのインデックスを取引した時に、巨額の資本コストがかかるのであれば、ディーラーにとって取引をするインセンティブはない。または、銀行に対するカウンターパーティーリスクであるCVAをこのインデックスでヘッジした場合にヘッジ効果が認められるかはっきりしなかったからなのだろうか。いずれにしても取引開始予定日の1営業日前の延期発表は極めて異例だ。

米国の規制は、日本に比べて、細部まではっきりと決められていないことが多く、ルールベースというよりはプリンシパルベースのアプローチをとる規制が多い。このため、ルールにないから大丈夫だと思ったという言い訳は通じず、各金融機関が規制の精神に照らして自ら判断しなければならない。

規制としてはこの方が本来望ましいとは思うものの、罰金が巨額になっていることもあり、金融機関サイドとしては、極端に保守的な解釈するケーズが散見される。ひょっとしたら、今回のケースも、いくつかの銀行が資本賦課を保守的に見積もったため、取引ができないと判断したのかもしれない。

となると当局も交えた明確化が必要になってくるので、as soon as possibleに解決したいと書かれてはいるものの、しばらく時間がかかってしまうかもしれない。

CDSの取引が少ない銘柄をインデックスに入れる?

来週6/4より、米国のCDSインデックスにCDX Financialsが加わる。金融機関を対象にしたインデックスは欧州でも取引されており、特に目新しいことではないが、今回は、CDSの流動性が低い銘柄が含まれている点が新しい。つまり、日本で例えれば、CDSなどが取引されない横浜銀行や千葉銀行などが、CDSのインデックスに含まれているようなものだ。

通常は流動性が高い銘柄から25や50銘柄選択してインデックスを組成するが、今回は、あえて流動性の低い銘柄を入れることによって流動性を上げようという試みである。

まったく取引がないということはないのかもしれないが、インデックスの中の25銘柄のうち10行はDTCCの統計上Activeに取引されている銘柄には入っていない。これでCDSのシングルネームの流動性が上がってくれば非常に面白い取り組みとして注目されることになろう。

そもそも、昨年のシリコンバレーバンクなどの米地銀破綻は、大手金融機関のCDSでヘッジしていたとしても、効果は限られていた。しかし、このCDX Financialsがあれば、もう少しヘッジ効果が大きかったはずである。

そして一旦インデックスが出来上がると、インデックスと全銘柄の平均との差であるSkewを取引するところが増える可能性があり、そうなるとCDS市場の流動性が上がることになる。Skewの他にも、社債とCDSのスプレッド差を取引するベーシス取引なども増えてくれば、CDSの流動性にポジティブな影響がある。日本ではこうした裁定取引をする市場参加者が少ないが、流動性向上のためには、こうしたフローは重要である。その意味で、日本ではイメージの悪いヘッジファンドなどにも存在意義がある。

また、銀行の金融リスクヘッジにも使えるかもしれない。金融機関が金融機関を参照するCDSを売買するのは困難なのだが、インデックスであれば、IMが高くなる可能性はあるものの、取引可能になるかもしれないからだ。例えば、JPMのCDSをJPMから買う人はいない。JPMがデフォルトして債務がカバーされるときに、JPMに支払いを求めに行っても意味がないからだ。同様にJPMのCDSをCitiから買っても、相関が大きいため、あまり意味がなくなる。CCP経由で取引をする方法もあるが、インデックスのうち1/25であれば、自己参照、高相関の問題が若干緩和される。

CDSは流動性を向上させるのが最も大切なので、こうした取り組みは非常に興味深い。流動性に苦慮している日本でも参考になるところもあろう。

米国決済T+1短縮化完了

米国決済のT+1化が大きな問題なく行われた。過去1年近くにわたって準備してきたのだが当然ではあるのだが、フェイルの件数も増えなかった。特に、27日(月が米国休日であったため、29日(水)は24日(金)のT+2、28日(火)のT+1に当たり、Double Settlement Dayとして注目が集まっていた。

DTCCのDaily Reportを見ると、注目の29日のフェイルはCNS上で1.90%、CNS外でも2.92%と、普段より逆に低くなっている。30日には少し上昇しているが、それでも極端に多いわけではない。

9pmまでにアファームされた取引も94.55%と極めて高い割合となっている。特にこの日は注意してプロセスをしようという意識が働いたのかもしれない。

報道を見ていても、若干の遅れや軽いトラブル程度で大きな問題にはならなかったようだ。あれだけ騒がれた、時差のあるアジアでの混乱も、今のところ何も聞こえてきていない。これで、グローバルでT+1が標準となるだろうが、今度はいつt+0に移行するかに注目が集まる。

円金利スワップ市場の活発化

昨年末にJSCCの金利スワップの取引量が過去最高を更新した後、1月2月は若干取引量が落ちていたのだが、3月4月と更に過去最高を更新してきた。

グラフから明らかなように、数年前まで100兆円に届くかどうかというレベルだったものが、ついに月間300兆円に到達し、別次元にシフトしたように見える。

ようやくYCCから脱却し、金利のある世界に入り始め、ヘッジニーズが増えたのと、海外からの円金利市場に関する投資意欲が増しているのを感じる。JSCCのクライアントクリアリングの取引残高を見ると、同じ3月4月にほぼ倍になっており、海外顧客を含む顧客フローもかなり伸びていることがうかがわれる。

CFTCの制約により米国顧客がまだ参加できていない中でこの取引増となっているのだから、米国顧客の参加が叶えば、ますます円金利スワップ市場の厚みは増していくことになる。

米国証券決済のT+1化がついに始まる

1年以上にわたって準備してきた米国の証券取引の決済期間のT+1への短縮化が、ついに来週火曜(5/28)から始まる。メディアではそこそこ騒がれており、各社オペレーション部門でも、かなりの時間を割いて準備が進められているが、フロントのセールス、トレーダーの意識はそれほど高くない。各社ともトレーニングは実施しているので、これが起きることくらいは認識しているだろうが、今一つどういったインパクトがあるか計りかねているようにも見える。

時差の関係するアジアでは、フェイルが増えるといった直接の影響に加えて、ストックローンや為替取引でスプレッドが拡大するといったコスト面でのインパクトがあるかもしれない。比較的手作業の介在する証券貸借取引などでは、オペレーションの混乱を避けるため、一時的に株を貸すサイドが若干取引を手控える可能性もある。つまり、株の空売りが減ることになる。最終的には自動化を進める動きが活発化するのだろう。

フェイルの件数については、6/15に公表されるSECのフェイルレポートが重要だ。また5/31のMSCIのリバランスで混乱が起きないかどうかにも注目が集まる。為替取引では、流動性の落ちるNY時間引け後、つまり日本時間の早朝に取引量が落ちないか注視していきたい。CLSの決済締めであるNY時間午後6時前後も重要な時間帯だ。特に金曜の引け後は日本やアジアがすでに土曜で動いていないため、流動性は極端に落ちる。月末でもあり、MSCIのリバランスの時期も近く、前日は米国メモリアルデーの休日にもあたるので、来週火曜は注目だ。

とはいえ、ここまでオペレーション部門で準備してきたので、パニックになるようなことはなく、ジワジワと変化が起きてくるような形になるのだろう。

ストレステストの弱点

あまりにも大きな市場変動が起きるからか、ストレステストがリスク管理のメインツールとして使われるようになってきた。従来はPFEのようなリミット管理に加えて、想定外のストレスがかかった場合に何が起きるかを把握するという意味でストレステストやシナリオ分析が行われてきたが、このような極端な状況に耐えられるようにストレステストの結果をリミットに使うべきという意見が米国当局からも多く聞かれるようになってきた。

金利が200bp上昇した時と言ったシナリオならまだしも、ある特定のシナリオをベースにリミット管理をするのには違和感を覚える。実際のリスクが増えるにもかかわらず、リミットに空きを作ることが理論的に可能だからだ。決められたシナリオに関してのみリスクを減らしても、それ以外のリスクが増えてしまう。

例えば、不動産不況、クレジット損失が多発するシナリオによってリミットが制限されていた場合、CLOや証券化商品を売って国債を買えばよい。リターンが低くなる分は国債の量を増やして賄うことになる。おそらくマネジメント的にも、リスクの高い資産を売って、安全性の高い国債に乗り換えたと言えば聞こえはよい。

勘関で起きたことに似ている。安全資産である国債保有を増やした後に、米金利が急上昇し、シリコンバレーバンク(SVB)などの地銀ショックが起き、日本の一部金融機関も米国債ポートフォリオから大きな損失を出してしまったのである。

最近は金融機関でも、一見わかりやすいクレジットリスクを気にする人が増え、マーケットリスク管理がおろそかになっているように思える。デフォルトリスクを避けるために巨額のCDSヘッジをしたがるリスクマネージャーやマネジメントがいるが、CS01などで必要とされる以上のヘッジを行うと、スプレッドがタイトになった時にCDSから大きな損失が出てしまう。特にトップマネジメントがリスク管理に詳しくない場合は、こうしたことが行われがちであるので、CROの役割は重要である。

ロシア危機や米地銀危機、英国Giltショックなど、大きな市場変動が起きるたびに新たなシナリオを増やしていくと、リスク管理が複雑になり、その仕組みを利用してほかのリスクを増やそうとする人が出てくる。非常に危うい状況になっているように感じる。

本来は、バーゼルのIRRBBくらいの考え方がちょうど良いのかもしれない。米国はIRRBBを適用せず、CCARをメインとしているが、様々なイベントが起きるたびに、より極端なシナリオが追加されていく。CCARの方がより細かく包括的にリスクを捕捉できるという反論もあろうが、リスク管理は複雑にしすぎるとワークしなくなる。今年はFRBが最大のリスクを抱えるヘッジファンドのデフォルト、金利急上昇のシナリオ等の4シナリオを追加したが、金利上昇シナリオはSVBの破綻を受けたものだろう。

一方IRRBBでは金利変動時のリスクや資産の評価損を表すEVEの開示が求められる。IRRBBでは、金利のパラレルシフト、カーブシフトなどの6つのシナリオのもとで、EVEがどのくらい減るかをディスクローズしなければならない。そしてそれがティア1資本の15%以上になればリスク量が巨大と見做され、追加の資本を求められたり当局の指導が入ったりする。

おそらく米国がこれを適用していればSVBのようなケースでは一定の抑止効果を発揮していたのではないだろうか。

金利ポートフォリオのPV01が100億円あったときに、金利が100bp上昇すれば1兆円の損失が出るというのは、極めて簡単な概念だ。例えば以下の二つでどちらがリスクが大きいか、考えてみていただきたい。

  1. 1兆円のCLOを保有
  2. PV01で100億円の米国債を保有

金融機関によって答えは変わるだろうが、経営トップ層などでは、1を嫌がる人が結構いるかもしれない。個人的には2は怖くて仕方がない。1の場合は価格が半分になれば5000億円の損失で、最悪1兆円の損失である。一方2の場合、米国のように金利が300bp上昇すれば3兆円の損失になる。

やはりこうしたリスクを経営層に正しく、しかもわかりやすく説明できるリスクマネージャーの役割は極めて重要である。

ISDA Margin Survey 2023

ISDAから昨年のマージンサーベイの結果が公表されている。これは、証拠金規制が最初に適用になったフェーズ1の大手ディーラー20社とフェーズ2の5社及びフェーズ3の7社の合計32社から得られた回答を元にまとめたものである。証拠金規制フェーズ6までが完全に終わった後のサーベイであるため、今後は、規制対象が拡大することによって証拠金が急拡大することはなくなる。

証拠金残高、特に当初証拠金は毎年増え続けており、2023年は前年比40%増の$432bnへと膨らんでいる。変動証拠金は13.5%減の$984bnで、合計では$1.4tnの証拠金となっている。

2012年のISDAの予測では、証拠金規制が完全導入されると市場から担保に必要な現金が吸い上げられ、マーケットインパクトも出てくることが懸念されていた。当時は必要担保額が$0.8tn、ストレス期で$4.1tnに増えると予想されていたが、実際2023年のIMは$0.4tnと予想の約半分となっている。今回のサーベイが32社に限定されていることを考えると実際市場で取られている当初証拠金は2012年の予想と近いのかもしれない。

一方で、昨今の金利変動やウクライナ情勢を受けたコモディティ価格の乱高下は、当時の想定を超えているように思えるので、実際は懸念したほど必要担保は増えなかったと言えるのかもしれない。

当初証拠金には主に国債が使われており、規制IM全体の72.7%を国債が占めている。これは受け取った担保をカストディアンに分別管理をする必要があるため、Title Transferで現金を受けるよりはSecurity Interestで国債を受ける方が、法的に簡単だからという理由がある。それでも2021年から若干現金が使われるようになっているのが興味深い。

また、Other Securitiesに分類される国債以外の担保が増えてきているのも最近の傾向である。10%代前半だったものが、2023年には、全体の25.2%まで上がってきている。数年前から社債を担保に出したいというニーズが高まってきていたが、それを裏付ける形となっている。

一方CCPに拠出する担保も年々増加傾向にあり、金利系で$332bn、CDSで$60bnとなっているが、最近は増加が少し頭打ちになっているようだが、クライアントクリアリング分は少しづつ増えているようである。

全般的に従来の金利スワップやCDSのような商品に関しては、証拠金規制のインパクトはほぼ落ち着いたように見える。あとは国債のクリアリング、新しく増え始めている為替商品のクリアリングによって、どれだけ担保が増えていくかに注目が移る。