欧州委員会がEURスワップのクリアリングを欧州域内へ誘導

EURの金利スワップの一定量を欧州域内のCCPで清算するよう義務付けることを欧州委員会が検討しているとの報道が出ている。金利スワップに関してはLCHが圧倒的地位を保っているが、これをEurexに移そうという動きである(現在Eurexのシェアは15%程度)。Brexitによって英国がEUから離脱してから、欧州域内に金融の中心を移そうという動きの一環である。

現在は、規制の同等性の観点から、英国のCCPを使うことが一時的に認められているが、この免除が今度の6/28に期限切れとなる。どうやらこの免除継続の条件として一定量を欧州に移すことを条件にしようとしているようだ。

当然スワップポートフォリオを分けなければならないバイサイドや銀行からは批判の声があげられている。これによって欧州の市場参加者のコストが大きくなるという意見もある。

どこの地域でも自国に産業を呼び込むため、自国企業を保護するためにこのような規制が導入したいというインセンティブはあるが、金融に関してはこれが逆にコスト増や流動性の分断につながったりする。

日本円でもこの分断は起きており、LCHとJSCCの金利差であるCCPベーシスは金融機関のリスク管理上頭の痛い状況になっている。特に先週はこのCCPベーシスが突然動き、既に二つの金利を分けて管理している金融機関において一時的な損益が発生しているものと思われる。どうしても海外金利が上がると、それにつられてLCHで清算する海外勢が他通貨対比で固定金利を払ってくる。一方イールドカーブコントロールのもとで海外金利にはついていかないだろうと想定する国内勢は特に動かないため、LCHの金利だけが上がり、JSCCの金利が動かない。そしてCCPベーシスが広がっていく。

ここで損失が出ると、リスクを減らすように圧力がかかるのだろうが、反対方向の取引がLCHでない以上はポジションを減らすこともままならない。そうするとそんな流動性のないポジションを増やすなということになり、マーケットメイクすら困難になる。もともと昨今の金融緩和の中で金利マーケットの流動性が極端に落ちているので、非常に扱いにくいマーケットになってしまっている。

以前は日本円金利でポジションを取るヘッジファンドも多かったが、金利が動かないのと、流動性がないことから、日本で活動するファンドは徐々に少なくなってきている。国際金融都市というが、まずは金利機能を復活させて流動性を上げていかないと、誰も日本に興味を持たなくなるばかりか、撤退を余儀なくされるところも増えてくるだろう。

金利調整機能が復活し流動性が上がればCCPベーシスが存在してもある程度市場は機能するだろうが、この流動性ではCCPベーシスやTIBOR vs OISのような各種ベーシスの管理は極めて難しくなる。金利の低位安定は国の財政上は望ましいのかもしれないが、そろそろ健全な金利市場についての議論をすべきなのではないだろうか。

EONIA⇒ESTR変換が無事終了

先週末にEONIAからESTRへの変換作業が無事終了した。LCH、CME、Eurexの3CCPが同時変換作業を行ったため、正直うまくいくのか不安があったが、ふたを開けてみると非常にスムーズに作業が完了し、その後のマーケットも完全に落ち着いている。月曜日は何もなかったかのように淡々とESTRの取引が行われ、ESTRスワップの取引量は過去最大となった。

変換した取引の想定元本はLCHがほとんどだったが、それぞれのCCPで別途の作業が必要だったため、各社とも予行演習を含めて綿密な計画が練られたものと思う。LCHの変換手数料の€15を避けるため、事前にEONIAを減らす努力をしたところもあったかもしれない。

作業的にはほとんどシステム的な対応で終了し、人手を介する部分は本当に少なくなっている。今回の経験は、12/3の日本円LIBOR Swapや12/17のGBP LIBOR Swapを含めた大規模変換の良い予行演習になったと言えよう。12月の作業はサイズ的には約5倍程度という報道もされている。今回の変換作業を経験していないJSCCと日本の市場参加者の対応が気になるが、おそらく問題なく移行が行われるものと期待している。

それにしても金融は本当にシステム産業になったという印象だ。特にデリバティブ取引の世界では極力プロセスを標準化して、システム対応をするという方向になっている。今回の移行作業でもプロジェクトの主役はIT部門だった。

一方、日本の場合はお客様のきめ細かなニーズに応えて最高のサービスを提供するのが良しとされる。ホテルなどのサービスでこれは強みになるのかもしれないが、金融で例外処理ばかりを作るとシステム対応ができず、コストばかり上がって事故につながる。金融の日本が弱いのはここに原因があるのかもしれない。

海外から来た友人が、ラーメン屋で油の量、麵の硬さ、トッピングなどを矢継ぎ早に聞かれて戸惑っていたが、海外なら標準的なラーメンをさっと出してくるのだろう。お客様は神様文化もあり、日本の消費者はこうしたきめ細やかな対応を好む傾向があり、売る側がその努力をするのが当然という雰囲気もある。アメリカにもクレーマーは多いが、店側も結構強く出ている。

金融の場合、こうした例外処理が多いからか、システム構築コストをかけるよりは、人手をかけてマニュアル対応をすることが日本では多い気がする。人件費が安いからか、解雇が困難なため余剰人員が多いからなのかよく分からないが、システム投資にあまり積極的でない。そんな金のかかるシステムを作るなら、せっかくいる人を使って対応しようという話が良く聞かれる。

システム会社も少数の大手の独占か、関連のシステム会社を使うことが多く、新興IT企業が入り混じって競争している海外の会社の方が、効率が良くコストも安くなっている。システムコストが高く人件費が安いなら、当然手作業で対応しようということになり、システム化が遅れる。

こう考えると標準化の必要な金融は、日本の文化には向かないのだろうか。それでもテクノロジーやシステムの重要性、効率性・生産性向上が声高に叫ばれるようになってきたので、今後の展開に期待したい。

排出権デリバ市場

近年排出権がらみの話が盛んに出てくるが、色々と新しい用語が飛び交っていてわかりにくいのだが、備忘録的に整理しておく。

まずは、EU ETSだが、これはEUのEmissions Trading System、つまりEUの排出量取引制度。世界でもっとも歴史のある排出権取引制度で2005年にCap&Trade型の制度として導入された。Cap&Tradeというのは、排出権取引規制の一手法で、対象の施設から出せる排出量に上限を設定するものである。

期末時点で排出量に見合った排出枠をもっていなければならず、枠がなければ買ってこなければならない。逆に言うと、これを削減した企業は、その分の排出枠を売ることができる。EU ETSがここから始まったため、ETSというとCap&Tradeと言われることもある。

ということで、売買がなされるので、その価格が株価のように変動する。変動するのであればデリバティブでヘッジしようという動きが生まれる。金融機関はオークションで排出権を買って、排出枠を持たなければならない企業にフォワードや先物で売ったりする。排出権の流動性や資本コストの問題から、排出権を買うより、デリバティブの形で買う企業が出てくる。デリバティブ市場が出来上がると、フォワードの価格が明確になったり、プロジェクトにかかるコストの変動を抑えることができる。

ここで売買されるのはカーボン排出枠、Carbon allowanceとかCarbon Creditと呼ばれるものである。ETSのもとで政府が発行する取引可能な証明書で、これがあると1トンのCo2を排出する権利がもらえる。また、カーボンオフセットというと排出を減らす試みに与えられる証明書を指す。EUAは、European Union Allowanceの略で、欧州の排出権取引制度(EU ETS)における排出枠を指す。排出量を表す言葉として、GHG排出量という言葉が使われることもある。GHGはGreen House Gasで、Co2やメタンなど温室効果ガスの排出量を言う。

米国の取引所であるICEはこのEUAとCCA、RGGIの先物とオプションを上場している。CCAはCalifornia Carbon AllowanceでEUAのカリフォルニア版といったところか。RGGIはRegional Greenhouse Gas Initiativeの略で、地球温室効果ガスイニシアティブとでも訳すのだろうか、米国の10の州が参加するプログラムである。やはり1トンのCo2を排出する権利である。

ICEが扱う世界の取引所取引のほとんどを占めているので、現状ではほぼ独占状態だ。CCAやRGGIの先物オプションの取引量は2019年あたりから急速に増えている。EUA先物オプションは2017年後半からの伸びが大きい。他にもEEX(European Energy Exchange)、Nasdaq、CMEなどの先物オプションもある。

他にも上場されていない店頭デリバティブ(OTC)の取引も増えてきている。ISDAでもUS Emission Annex、EU Emission Annexなどをそろえており、最近ではFRTBでの扱いなど資本賦課についての議論も金融機関内では活発になってきた。

日本でもTokyo Cap&Tradeが2010に、Saitama ETSが2011年に作られている。全世界的な取引量でいうと、先行するEUが約8割を占め、残りはほとんどが北米になっている。そして、中国、ニュージーランド、韓国が続く。

最近のEU ETSの価格急騰がかなりの注目を集めているが、ここまでくるとさすがに金融取引も本格化してきそうだ。日本でも、15年以上前にISDAの排出権ワーキンググループで議論が行われたこともあったが、ここへきてまた機運が高まってきている。日本の場合、お勉強だけで終わって実際に取引が行われないというケースが多いが、今回はそれなりに進めようという動きがみられるので、今後の展開に期待したい。

第三四半期決算にみる米銀の行動

米銀の第三四半期決算発表の内容を見ていると、銀行行動に変化の兆しがみられる。FRBの債券購入プログラムの縮小を見越してか、資金を債券に振り向ける兆しが感じられる。

バンカメは、高利回りの債券を購入したことにより純金利収入が増えたというコメントしており、Citiも国債とMBSを増やしたと述べている。政府の景気刺激策などにより銀行の預金が増えているが、これを金利収入の得られる債券に振り向けられれば、銀行の収益底上げ要因になる。

一方JPMは、債券というよりは依然現金保有が多い。今後金利が上昇すると予想しているため、これを債券に投資してくる可能性は高い。金利が想定する水準に近づけば現金をもう少し投入する機会が見つかるかもしれないと述べている。

また、現状プライマリーディーラーである20数行程度に限定されているFRBのStanding Repoを、他の銀行にも拡大して提供するというアナウンスメントもあった。すでにいくつかの銀行が申請を行っているとのことである。

今後は銀行にある現金が別のところに回っていくようになるのかもしれない。

LIBOR移行が最終段階に

10/16の週末のCCPによるEONIAからESTRへのシフトが近づいてきた。CME、LCH、Eurexの主要CCPが一斉に新レートへ移行する。100兆ユーロ超の金融資産を支えてきたベンチマークの切り替えはLIBOR移行の試金石となる。既にメンバーテストも終わっているので、大きな混乱は起きないものと思われるが、現場ではそれなりに緊張が走る。

EURの場合はEuriborも残っているので若干ややこしい。9/21のRFR Firstにより、GBP、JPY、CHFについてはスムーズに新レートに移行した。一方、EURについては、マーケットの状況を見ながらということになっており、特に移行が強く勧められたわけではない。とは言え9/21以降ESTR vs SOFRの通貨スワップの取引量が増えており、SDRで見る限りESTR/EURの取引数がEuribor/USDLIBORを上回った日もあった。個人的にはもっと移行が進んでも良いと思っていたのだが、今のところEuriborもしぶとく取引が続けられている。

USDLIBORが18か月延長になったとは言え、今後徐々に新規取引が困難になっていくことが予想され、こちらもESTR/SOFRにシフトしていくのだろう。日本の市場参加者がEUR債を発行するときなどはEURの固定レートを円の固定レートに変換するためには、Euribor、通貨ベーシススワップ、6s3sなど様々なヘッジ取引が必要になっていたが、これがシンプルになる。

日銀のウェブサイトに掲載されている日本円金利指標に関する検討委員会のアナウンスにもあるように、昨日10/1からは、新規の円LIBOR金利スワップ、スワップション等が禁止となっており、ここからはLIBORスワップの流動性が低下していくことになろう。このアナウンスによると、リスク管理目的等での新規取引が除外になっており、顧客に取引目的の確認までを求めるものではないと書かれている。

仕組債などの移行もようやく最終顧客が真剣に検討を始めた感もあり、何とかLIBOR移行も参集段階に入ってきたようだ。