LIBOR後の清算集中規制

CFTCコミッショナーのStump氏が海外CCPへのアクセスについてコメントを発信し続けている。LIBORがなくなったらCFTCのすべての清算集中規制は書き換えられるべき。だが、清算集中義務を課す一方で、規制対応のために、流動性を提供するCCPに米国参加者がアクセスするのを禁じるというのはおかしい。という趣旨の発言をしたとRisk.netで報じられている。

確かにBlackRockやVanguardといった米国のアセマネがJSCCにアクセスできないというのは昔からあった議論だが、これまではCFTCサイドが米国の顧客保護のためにこれを禁じていた。昨年法案が最終化したばかりなのですぐにこれが可能になるかどうかは不明だが、ここまで何度もコメントを出しているところを見ると、よっぽど大きな課題として認識しているのだろう。

確かに清算集中規制は今後修正されていくのだろうが、日本ではあまり議論が盛り上がっていない。12月にLCHなどのCCPは一括でLIBOR
から標準TONAスワップへの変換を行うが、その後はLIBOR Swapの清算集中はできない。現在の規制上はCCPが清算しないスワップは清算しなくても良いということなので、LIBORスワップを行ったとしても清算集中義務はなくなる。当然後継金利であるTONAに清算集中義務がかかることになると思われるのだが、その時期は明らかではない。

英国中銀からは12月6日以降JPY LIBOR Swapの清算集中義務がなくなる内容の市中協議文書が公開された。ただ、足下でTIBORへのシフトが進んでいるためか、その後規制がかかる後継レートは指定していない。TIBORになる可能性でも意識しているのだろうか。CFTCも同じようなルール改定を行うだろうが、現時点ではまだアナウンスはない。本来なら日本円スワップなのだから、日本がルールを決めてそれに海外が合わせるという順序が自然なのだが…

実取引データに基づかないベンチマーク、流動性に難のあるベンチマークを使うことに対する懸念が海外では強くなっている。これがAmeriborやBSBY、ターム物金利などに対する懸念にもつながっている。日本でも、OISの流動性が上がらないためターム物であるTORFを使うことに対して懸念をする声も聞かれるが、なぜかTIBORに対する批判はない。ベンチマーク規制上の要件をクリアしているというだけならBSBY等も同じで、BSBYはダメでTIBORは問題ないというのは不思議な気がする。

CFTCの話に戻ると、JSCCに参加をしたいという米国の市場参加者に対して、顧客保護のため参加できない仕組みを作るというのも理解しがたい。本人がリスクを承知で使いたいといっているのに、あなたのためを思って禁じているのですというのも不思議だ。確かに海外ETF等を投資家が買いたいと思っても日本で許可されているものでないと投資ができないようにしているのと同じなのかもしれない。こと金融に関してはこうした七不思議のようなものが多い。

LIBOR移行状況

ここからはLIBORからの移行が加速していくはずなので、2週間前に作成したグラフをUpdateしてみる。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

JSCCでクリアリングされた取引のみになるが、あまり前回と変わり映えがない。取引量が低調というのもあるのかもしれないが、この期間のLIBOR関連スワップの割合は67%となっている。TIBOR関連が22%でOISは11%という結果で、前回よりOISが減っておりTIBORが2割を超えている。

ただ、ISDA-ClarusのRFR Adoption Indicatorの推移をみると5月になって明確な上昇トレンドが確認できる。RFRの割合が6.8%というのは過去最高であり、GBPの54.9%には遠く及ばないもののUSDの6.9%と同じくらいになっている。

https://rfr.clarusft.com/

また、FCAが市中協議で意見募集を始めたが、シンセティックLIBORのベースとなるSONIAのターム物についてRifinitivではなくIBA(ICE Benchmark Administration)を選び、QUICKのTORFについても言及している。USDのターム物ではCMEが選ばれたが、GBPにおいてはIBAが面目を保った形になっている。

さて、JPY LIBORに話を戻すと、次はFSBのロードマップのP5にもあるように7/31のQuoting Conventionの変更がある。USDも7/26に同様の変更が行われるが、海外では、LIBORスワップを行うときは、まずはSOFR Swapを行い、LIBOR vs SOFRのベーシススワップを入れるという方向で話が進んでいる。ただし、円については何故かここまで具体的な話は聞かれてこない。ひょっとして日本では、特に気にせずLIBORスワップが続けられることになるのだろうか。

確かに二つのスワップをしなければならないとなると資本賦課も上がり、管理も面倒なので自然とOISに移っていくことになるが、これが変わらないのなら、逆にOISスワップをするときにLIBORスワップとLIBOR vs OISの二つのスワップをブックしなければならないとなると、移行のきっかけにもならないのではないか。単に二つのレートのスクリーンがありますよ。でもOISがメインですよ。という緩い感じのConvention Changeではあまり意味がないような気が個人的にするのだが。。。

CMEのSPAN2の導入時期が近付いてきた

長らく間議論されてきたCMEの証拠金モデルの変更が今年第四四半期になりそうだ。COVIDによって先延ばしになってきた変更がようやく導入されることになる。SPAN(The Standard Portfolio Analysis of Risk)は1988年から証拠金計算に使われており、日本でもJSCCとCMEの間でライセンス契約が結ばれ、先物・オプション取引の証拠金所要額計算にも使われている。世界で32の取引所で採用されている手法なので、日本を含めて世界中にインパクトを与える。

新しい計算手法はSPAN2と呼ばれ、シナリオベースのSPAN1と異なり、ヒストリカルデータを使ったVaRタイプのモデルとなっている。市場リスク、ストレスリスク、流動性・集中リスクの3つの部分に分かれており、ローリング・ルックバック期間に基づいている。AnchorモデルかRolling Lookbackモデルかはよく議論になるが、Anchorモデルの場合は例えば金融危機の時期を含むように2008年からといった形で過去データを固定する。

Rolling Lookbackは常に過去何年かといった期間をずらしていくので、極端な市場変動の時期が外れてしまうと証拠金額が大きくぶれてしまう。こうしたブレを緩和するために、一定のフロアを設けたり、ボラティリティを調整することによって、極端な変動が発生しないようにしている。商品によっては季節性を考慮したりもする。仮想シナリオを含めるのも良く使われる方法だ。

16のシナリオに基づくSPAN1に比べ、ポートフォリオ全体の動きを包括的に考慮するため、同じネッティング契約のもとに入っている取引については、ある程度のオフセットが見込まれるのではないかと予想される。パラレルテストは既に始まっているが、概ね好評との報道が多いため、当局承認を経て実際に導入されることになるのだろう。

アルケゴスの損失により、各金融機関ともMargined Riskの管理方法については、活発な議論がされていると思われるが、このSPANもリスク管理手法の進化に重要な役割を果たすことになるだろう。無担保取引が多かった頃は企業分析、ヘッジ等がリスク管理上重要だったが、有担保取引や取引所取引が中心になってくると、こうした証拠金計算手法がリスク管理の中心になってくるものと思われる。

米短期市場の資金の流れ

昨日米短期市場についてコメントしたが、もう少しデータも含めてみてみたい。今年3月にSLR(補完的レバレッジ比率)の一時緩和が延長されなかったことにより、JPMやCitiといった米銀大手が事業会社と預金を減らすよう話をしているという報道があったが、行き場を失ったその資金はMMFに流れた。お金を借りたいという会社が多ければ資金があるのはありがたいのだが、資金ニーズがないため、現在の資本規制下では、預金増は収益性低下につながってしまう。MMFに流れ込んだ資金は以下のように昨年以降急増している。

https://www.financialresearch.gov/money-market-funds/

FRBはQEによって資産購入を続けているが、融資が増えない以上資産を売って現金をもらうインセンティブが銀行にはなくなる。米国債とFRBの準備預金がレバレッジ比率の計算から一時的に除外されていた時は良かったが、この期限が切れた今となっては預金増は重荷になってしまう。MMFに移してもらえば資産運用となるためSLRの計算には含まれない。

米銀大手3行の預金額は、2019年末から2020年末までに約3兆ドルから約4兆ドルへと増えたが、ローンの方は2兆ドル程度で一定である。優先株の発行等によりティア1資本を増やしてSLRの改善に努めてはいるものの、今年の第一四半期にも預金は約2500億ドル増えているため、預金は銀行経営の重しでしかなくなってきた。

企業はMMFに資金を移し、MMFは結局短期国債であるT-Billに投資をすることになるが、このT-billの発行額が減少している。となるとお金の行き場がなくなってしまったため、FRBはRRP(リバースレポプログラム)によって国債を市場に提供した。6月のデータはまだないが、このRRPの利用額を国債に絞ってグラフにしてみると以下のようになる。

https://www.financialresearch.gov/money-market-funds/federal-reserve-repo-facility-total-utilization-and-mmfs-participation/

2017年くらいにもRRPが使われていたが最近はほとんど利用がなかった。それが一気に4月に3500億ドルを超えてきている。国債のみかどうか定かではないが、報道によるとこれが直近7500億ドルを超えてきた。

こうして改めてデータを見てみると、かなりマーケットの流れが変わってきているのを改めて実感した。やはりSLRの見直しは急務のように思える。

米短期市場の混乱の始まり

FRBの利上げ前倒し方針を受けてマーケットがきな臭くなってきた。6/17から、IOER(超過準備の付利)とリバースレポの金利を0%から0.05%に上げたことにより、突然過去最高水準となる7500億ドルを超える資金が、RRP(Reverse Repo Program)を通じて約70社の市場参加者から流入した。お金の行き場に困っていたMMF、政府系企業、銀行が、現金をFRBに預けた格好だ。春先までほとんど使われていなかったこのRRPの金額がここまで急増するのは異例だ。

数か月前からこの資金流入は続いており、1日当たり5000億ドル程度にはなっていたが、今後もこの増加傾向は続きそうで、近いうちに1兆ドルを超えるだろうという声も聞かれる。つい最近までほとんど利用がなかったものがここまで急増したというのは、少し神経質になるべきなのかもしれない。ここ10年くらいのグラフを見ても明らかにこの動きは目立つ。

リバースレポなので米国債を担保に資金を得る方向なので、現金が余り過ぎているか、担保債となる米国債が足りないという理由が考えられる。2月から短期国債の供給が減っているのも影響しているのだろうが、やはりお金があまり過ぎているのだろう。2019年9月にレポレートが急騰してFRBが資金供給を行った時とは反対の流れになっている。

実行FF金利が過去最低水準になっていたため、利上げを想定する声は多かったが、これを受けてFF金利は0.10%まで上昇した。0%から0.25%の範囲に誘導するためなので、パウエル議長は狙い通りとコメントしているようだが、マーケットの現場では明らかに混乱がみられる。

FRBは月間1200億ドルの資産購入プログラムを継続しており、金余りが続いているため、どこかに資金の置き場が必要になっている。銀行融資も実は昨年後半からは増えておらず、企業の資金調達ニーズも減退している。完全に金余りである。コロナショック直後は有事に備えるためかローンが一時的に増加し、企業在庫も増えていたが、昨年からそれは解消され運転資金の必要性もなくなってきた。

ワクチン接種が進み経済活動が再開されれば消費が増え、生産も復活するという見込みだったのだろうが、実はコロナ前には完全に戻らず、消費増が生産増に結び付かないのではないかという懸念も出始めている。確かにリモートで何でもできるということも明らかになり、完全に元に戻るといよりは、ロックダウン時に起きた変化が一定程度継続する可能性は高いだろう。これだけ資金が余っているのなら債券購入プログラムを止めるというのが普通の考え方だが、FRBはそのインパクトにも神経をとがらせているのだろう。

今回は単にリバースレポの金利を0.05%引き上げただけと言ってはそれまでだが、FRBが短期の金利がマイナスになるのを極度に恐れていることの裏返しなのかもしれない。誰もが安全と思っていたMMFの危機につながるかもしれないのである。SLRの一時的緩和を延長しなかったのも事態を悪化させた。

実際の生産活動に比して資金が多すぎると、その調整はインフレに表れてくるはずである。足元のインフレ加速は一時的なものとパウエル議長はコメントしているが、これが続けば緩和修正が早まる可能性があり、その時に株式市場の暴落が始まってもおかしくない。しばらくは短期市場の行方にも注目したい。

LIBOR取引に対するペナルティチャージがかかり始める

CCPで清算された取引について、12月にLIBORからOISへの一括変換作業が行われるが、当局のガイダンスにもある通り、事前に変換が行われることが望ましい。LCHでは、ペナルティという言い方はしていないものの、残ってしまっているLIBOR Swapに実質的には手数料をかけることになっている。大分前から話は出ていたので、事前変換はMUSTだと思っていたのだが、関係者と話をしてみると、このフィーに気づいていない人が多いようで気になった。

詳細はLCHのWebサイトを参照頂きたいが、フォールバックフィーとコンバージョンフィーという二つの手数料によって早期移行を促す仕組みとなっている。フォールバックフィーは、残存LIBOR Swapにかかるもので、コンバージョンフィーは12月の一括変換時にかかるフィーである。

フォールバックフィーは、LIBOR Swapの件数によってチャージされるが、重要なのはこれが毎月取られるという点である。18か月の延長のあったUSD LIBORは除外されているが、JPY、GBP、EUR、CHFについては9月末から一件5ポンドのフィーが取られる。

日本では、面倒なので最後まで待とうという声も聞かれるが、12月に変換作業を行うスワップが多いとオペレーションリスクがあるうえ、こうしたフィーによる収益インパクトもある。CCPで清算された取引については、コンプレッション/Risk Transformationがメインの削減方法になるので、来月以降できるだけ多くの参加者がTriOptimaとQuantileのRunに参加し、Risk Torelenceを上げてLIBOR取引の削減に努める必要がある。

ちなみにこの手数料は直接参加者である銀行のみならずクライアントクリアリングのポジションにも適用される。12月に適用されるコンバージョンフィーについてはまだ開示されていないものと思われるが、早期コンバージョンのインセンティブ付のために、高い水準に設定されたとしても不思議ではない。

LCHがこうしたフィーを導入しているということはJSCCなど他のCCPが追随したとしても不思議ではない。コンプレッションの参加者は特に日本では限定的かもしれないが、今後はこうしたコンプレッションRunに積極的に参加することも重要になる。まずはLIBOR Swapの件数を調べてコストを計算してみるべきだ。わずかなbid offerやブローカーコストに注意を払うトレーダーが、単に手間だからと言ってコンプレッションに参加しないというのは本末転倒である。いや。トレーダーというよりは、資本、ファンディング、証拠金、クリアリングにかかるコストに対して注意を払う部門が必要なのかもしれない。

システム的、オペレーション的に手作業が多く消極的な参加者も多いようだが、海外ではほぼ自動化が進み、通用作業の一つになっている。こうした点でも後れを取らないようにしないと、証拠金負担、資本賦課によって収益性、ROEにおいても海外に後れを取ることになる。これに気づいているクライアントクリアリングの参加者は少ないのではないかと思うが、顧客サイドも早めに準備をした方が良いのではないだろうか。

米国債に清算集中規制は適用されるか

CMEとFICCが米国債のクリアリングに関してクロスマージンの仕組みを見直すというニュースが出ている。もともとCMEはBrokerTecを運営するNex社を買収したことによって、米国債の清算進出を伺っていると数年前に騒がれた。CMEが国債とレポ取引を一体的に管理できるようになれば、国債、レポ、先物、スワップまでクロスマージンができるようになり、証拠金削減につながるので、米国債の流動性向上に資する可能性がある。

現状は国債と国債先物のクロスマージンにとどまっているが、商品が広がればマージンの削減効果も高くなる。米国債のクリアリング規制の話も出始めているが、米国債のCCPによる清算集中義務化が確定すれば、このクロスマージンは極めて重要になる。

一時はCMEがDTCCの牙城を切り崩すかと思ったのだが、両者が強調するような方向に進んでいる。提案では、各CCPがクロスマージンの証拠金削減効果を計算し、より保守的な方の数字を採用するということのようだ。既に株式オプションでOCCとCMEが実現している方式に近い。今年中に局承認までもっていきたいとのことなので、かなり検討が進んでいる模様だ。

レバレッジ比率規制の見直しをしている最中にこのニュースが出るということは、米国債の清算集中義務付けや米国債の流動性向上策の一環としてこれが出てきているとも勘繰りたくなる。確かに、銀行のバランスシート制約によって米国債の流動性問題が発生したので、清算集中によってバランスシートインパクトを軽減するという方式であれば規制緩和に反対している政治家も説得しやすい。

日本でもIRSと国債先物のクロスマージンが行われているが、すべてJSCCの中で行えるため、複数CCPが絡む米国よりはハードルが低い。国債、レポを含めたクロスマージン制度の充実を今のうちから検討しておいた方が良いのかもしれない。

Quoting Convention変更のインパクト

CFTCから6/8に公表されたインターバンクのQuoting Convention変更に関するアナウンスメントが注目を集めた。関連する基調講演及びFAQも参照頂きたい。

GBPでは昨年スワップ等の線形商品、5月にはスワップションなどの非線形商品についてのConvention変更が行われたが、ドルについては7/26にLIBORからSOFRにQuoteの慣行を変更することになる。日本についても来月同様の変更が予定されている。

これはベストプラクティスで罰則がある訳ではないのだが、マーケットでは極力これに従う方向になるだろう。余談だが、海外では昔からベストプラクティスガイダンスというものが多く、市場参加者はできる限りこれに従ってきた。日本ではあまり聞かれない慣行で、単なるガイドラインで罰則規定がないなら関係ないのではないかという意見も聞かれることがあるが、海外の市場慣行はこうしたベストプラクティスで動くことが多い。法律ではないので、たとえ市場慣行が変わらず方針変換をしたとしても、法律の書き換えは必要ないため使い勝手が良い。

さて、7/26よりディーラー間ではLIBORよりもSOFRを優先させるということだが、イメージがつかみにくい。具体的には、7/26以降ディーラー間では、LIBOR Swapの代わりにSOFR Swapを提示して取引をすることになる。しかもLIBOR Swapの画面は情報提供目的のみとなり、10/22以降はその画面が完全に消えることになる。

CFTCのアナウンスに従えば、すべての取引、アウトライトおよびベーシス・スワップは、SOFRを中心に行われることになる。 ここで、LIBORはSOFRのベーシスとしてアクセス可能となると書かれている。つまり、LIBOR Swapをやりたいと言われたら、固定 vs LIBORのスワップを行うわけではなく、まずは固定 vs SOFRのスワップを行い、SOFR vs LIBORのベーシススワップを入れることになる。Notionalが二倍になるので資本賦課の点でも不利になる。そして、10/22以降は、LIBORの画面が完全に消える。

もともとLIBORの画面もOISの画面も両方あるから、7月以降何が変わるかよく分からないという声もあるが、取引の仕方が、固定 vs LIBORではなくOISを挟んだ二つのスワップになるとすると、やはり移行の機運は高まるのではないかと思う。

LIBOR移行進捗状況

先週は日銀副総裁の講演(最終局面を迎えたLIBOR移行対応)、ISDAのBenchmark Strategies Forum、Quick社のセミナー等、LIBOR関連の様々な情報提供が行われた。そろそろマーケットも動き出す雰囲気が感じられるので、また直近のデータが気になる。

JSCCの清算取引データを見てみると、確かに直近LIBOR Swapの割合が減少傾向にある。6/3ベーシスやDTIBOR vs ZTIBORベーシスなどはそれぞれ適宜分類して、単純にLIBOR関連、TIBOR関連、OIS関連に分けてみた。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

OISが突然取引される日はあるものの、やはり直近はTIBORへのシフトが起きているように見える。一昨日などはTIBORの取引量がLIBORに迫っている。DTIBORは20年までしか清算できないので、実はこれよりもTIBORは多い可能性もある。グラフの期間の取引量を合計すると、LIBOR関連が65%、TIBOR関連が19%、OIS関連が16%という割合になる。昨年は8割を超えていたLIBORの割合が65%というのは進歩だが、4月が67%、5月が66%だったことを考えると、それほどトレンドが大きく変わったわけではない。

やはりヘッジ会計がネックなのだろうか。当局としても金融機関にプレッシャーをかけるより、監査法人にLIBOR移行に協力するようにした方が効果的なのではないかとも思ってしまう。時価評価を嫌う日本の文化では、会計がデリバティブ市場に与える影響が他国に比べて極端に大きい。直接デリバティブ取引をすると時価評価しなければならないからという理由で、日本でRepackが多いのも会計が理由のように思う。

来月7月からは、新規のUSD LIBORスワップが原則停止となるが、厳密にいえばドル円の通貨スワップにもUSD LIBORが含まれているので、これも停止かという話もある。ただ、現状のマーケットを見ていると、7月に完全移行ができるとは到底思えない。GBPのロードマップ上もGBP LIBORレグを含む通貨スワップはQ3移行の停止を想定しているとも読める箇所があるので、しばらくは通貨スワップの移行は起きないのだろう。海外では通貨スワップの事前移行の動きも活発化しているので、日本の遅れがここでも目立ち始めている。ワクチンと同じように、日本は動き出すまでは異様に時間がかかるが、一旦動き出すとものすごいスピードで追いつくということになるのかもしれない。

金融とITの融合

金融データ分析を行うCoalition Greenwichのレポートについての記事が出ていたが、バイサイドの株式トレーディングに係る予算が12%増加したとのことだ。コロナ禍で、リモートワークに対応するためにシステム投資を増やしたところが多いようだ。予算のうち40%がリモートワーク環境に対するものなので、感染終息後もリモートワークを一部活用することになりそうだ。

次に大きいのはオーダーマネジメントシステムに対する出費で27%を占めている。また、AI、ブロックチェーン、クラウド技術に対する予算も33%程度増やすとなっている。Robotic処理などの次世代テクノロジーに対する出費も増加する見込みだ。

確かにデリバティブ取引周りの処理についても、コンファメーションを郵送やFAXで送っていた頃とは大きく異なり、かなりの部分がオートメーション化された。取引のブッキングや照合作業もほとんどが機械化されており、ミスも減ってきた。

このように金融はますますテクノロジーに依存する形に変化している。業績好調にもかかわらず、人員削減は続いているが、テクノロジーに対する出費は軒並み増えている。人の仕事がマシンに変わると言われて久しいが、少なくとも予算や人員を見ているとこれは既に業界の常識になっている。

既にかなりの部分がオートメーション化されてしまったため、口頭で確認した内容が間違っていると、それがそのまま下流のプロセスに流れ、Booking、クリアリング、清算機関へと流れてしまう。電子取引の多い海外では、あまり問題にならないが、ボイストレーディングが中心の日本では、誤ったコンファメーションを出したり、当局報告データに誤りがあることを恐れるためか、わざわざこの自動プロセスを外し、複数の人がチェックするというオペレーションを行っているところもあると聞く。

日本では、システム投資にお金が流れにくい。そんなコストを掛けるよりは人海戦術でやった方が確実という結論になることも多い。解雇という選択をしにくいため、余剰人員活用をしたいというニーズもあるのかもしれない。

しかし、ここまで海外のシステム投資が増えてくると、このままでは日本の金融が大きく取り残されてしまう可能性がある。大手はきちんと戦略を立てて、システム投資をしているところが多いが、バイサイドや大手機関投資家で、Coaltionが分析したような積極投資を行っているところは少ないように思う。

海外投資家に聞くと、フェイルに対する慣行、資金決済、口座開設にかかる手間の他にも、何か日本の金融は特殊だというイメージがあるようで、極力オフショアで取引をしたいという意見が多い。

アジアを含めた海外の資金の影響がここまで大きくなってくると、日本の金融ガラパゴス化は、日本にとってあまり良い影響があるとは思えない。本当は日本で作った基準がグローバルに広がっていけばよいのだが、金融においては、残念ながら極力グローバルスタンダードに合わせていく方が望ましいのだろう。

ターム物RFRではなくオーバーナイトRFR

6/2にFSBからもう一つ「金利指標改革:オーバーナイト物リスク・フリー・レート及びターム物レート」が公表されている。2018年7月の文書を改訂したものだが、オーバーナイトのRFRへの移行が金融の安定性のために重要としている。主にデリバティブ市場について触れられている箇所が多い。

ターム物金利についても言及があるが、it is important that transition away from IBORs is to the new overnight RFRs rather than to these types of term rates.と書かれており、ターム物ではなく、オーバーナイトRFRへの移行が重要としている。IBORsはDeep/Liquid Underlying Marketに欠けるため脆弱だとしているが、内容的にはこのIBORsにはTIBORも入るように思うのは私だけだろうか。

また、以下のように、ターム物RFRを広範に使うことは、利益相反にもなりかねないと明確に述べている。

widespread use of term RFRs in derivatives would create the potential for actual or perceived conflicts of interest for market participants.

FSBもターム物に一定の役割があるとは認めつつも、その利用は限定的なものになるとしている。一方オーバーナイトRFRの利点として、中央銀行の政策金利に連動しやすく、銀行に対する信用懸念によって市場が歪められる可能性も低いという点を挙げている。そしてターム物の流動性向上を待つのではなく、オーバーナイトRFRへの移行が重要としている。

英国では、ターム物SONIAの導入にも関わらず、変動利付債や証券化商品の発行において、後決めSONIAが広く使われるようになっている。スイスではターム物金利が存在しないこともあり、住宅ローンや企業向けローンで後決め複利のSARONが一般的となっている。米国の変動利付債も後決めSOFRが一般的となり、消費者ローンは前決めSOFRになっていることなどが紹介されている。日本についての言及はない。

以下のようにFSBとしては、ターム物がオーバーナイトRFRほど頑健性を持つようになるとは予想しておらず、その使用は限定的なものであるべきと言い切っている。そしてターム物の方が変動も激しいことが予想されるので、金融の安定には望ましくないとしている。

because the FSB does not expect such RFR-derived term rates to be as robust as the overnight RFRs themselves, they should be used only where necessary.

また、どうしても金利を先に確定させたいローンなどについては、前決めRFRやIBORと同じNotice、決済を行うRFRの可能性にも触れている。ヘッジツールとしても、一部の債券のヘッジ以外はオーバーナイトRFRを使うのが効果的と述べられている。全般的にターム物の利用は限定的にすべきであり、特にデリバティブ取引については、オーバーナイトRFRをメインとすべきという強いメッセージがあちこちにちりばめられている。そしてターム物を使ったとしても、流動性がなくなる場合に備えてフォールバックの文言を準備すべきとまで言っている。

ターム物のTORFに対する期待感が強く、足下でTIBORへのシフトがみられる日本は大丈夫なのだろうか。

JPY LIBORの移行状況

TIBORの盛り上がりについて書いたが、実際のデータを確認してみたくなった。米国のようなSDRが充実していない日本では、公開されている情報としてはJSCCのデータが最も充実している。早速各指標のシェアを見るグラフを作ってみたところ以下のような結果となった。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

データの略称は以下の通り

  • L: LIBOR(含むLIBOR6/3)
  • Z: ZTIBOR
  • D: DTIBOR
  • LZ: LIBOR vs ZTIBOR
  • DZ: DTIBOR vs ZTIBOR

これだけ見ると、Lの部分がここ数か月急速にシェアを落としており、実はLIBORからの移行が進んでいるように見える。特に5月のOISは昨年の秋を超えて、13%のシェアとなっている。そしてTL(グラフのLZ)が8%へと増えている。4月以降LZが増えているが、同時にDの割合も増え、これまであまり見られなかったDZがみられるようになった。これまでほぼ同じものとされていたところ、あまりに動くのでヘッジのフローが入っているのかもしれない。

4月はOISというよりはTIBOR移行の様相を呈していたが、5月にOISが巻き返しを見せている。Quoting Conventionも来月には変わるので、ようやく動きが見えてきたということか。

全体の取引量を見てみると以下のようになる(単位:百万円)。4、5月は取引量自体が極めて少なかったが、四半期末にあたる6月には少しは取引量が戻るだろうから、6月のデータに注目したい。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

日本全体では固定受けニーズが強いというのはよく言われることである。そうするとここ最近のTLベーシスの縮小はLからDまたはZへの移行の結果なのかもしれないが、今度はOISに移るとなると、TLが反転し、今度はOISが下がるということになるのだろうか。

FSBからLIBOR移行ロードマップが公開された

FSB(金融安定理事会)からLIBOR移行のロードマップが示された。中銀によって推奨されるRFRへ早急に移行すべきと書かれている。デリバティブ取引については、LIBORに類似した代替レートを望んでいる節があるとして懸念が表明されており、そのようなものを待望するよりはRFRへの移行を進めるべしと書かれている。

米国のAmeriborやBSBYのようなレートのことを言っているのかもしれないが、字面だけ見ていると、RFRではないという意味ではTIBORも該当するように読めてしまう。現状日本の取引を見ていると、RFRというよりは、一時的にTIBORに移行しているのではないかと思える日もあるが、FSBはOvernightのRFRをメインにすべしという立場を明確にしている。

ActiveでLiquidなオーバーナイト金利にリンクしているためRFRは頑健であるとして推奨しているが、これを読めば日本でもTONAに移るべきというのは明らかであろう。システム的な準備の遅れから、一時的にTIBORに行くことはあっても最終的にはTONAというのは明確なのだが、円金利が膠着する中、あまりにもTIBORだけが動いているので、TIBORスワップの取引量も増えている。

FSBロードマップでは、Accounting PracticeやAccounting Processも含めて問題を洗い出しプランを策定済であることが求められているが、未だに日本ではヘッジ会計が障害になっているという話が聞かれるのが不思議だ。

移行タイミングについては、やはりGBPについてのタイムラインが多く、JPYについては、以下の2つが示されている。

  1. Q2末のローンとボンドの新規取引停止
  2. Q3末の新規IRS停止(及び7/31のTONAのQuoting ConventionのTONAへの変更)

1については早くから目標が決まっていたが、2についてはその公表が若干遅れた。一応ローンと債券についてシステムの準備完了の目途(Q1末)も示されている。ロードマップを見ればわかる通り、他の通貨は多くのタイムラインが決められている。

以前も紹介したJSCCの統計を見ていると、JPYについてはTIBORスワップが増えており、LIBORからTIBORへの移行が進んでいるのではないかとも思える様相を呈している。こうして固定受けのTIBORスワップが増えているためか、TIBOR-LIBORベーシスのタイトニングが止まらない。10年などは、初めてマイナス圏に突入し、さらにこの動きが続いている。

そうは言っても、日本はLIBOR改革によってLIBORからTIBORに移行しましたなどと言うと、全世界から疑問の声が上がる。ここはTIBORへのシフトは一時的なもので、ヘッジ会計やシステムの問題が解決すればTONAに移っていくと考えるのが自然だろう。もちろんローンヘッジニーズのTIBOR Swapは残るが、今のLIBORとTIBORという関係がOISOISとTIBORに変化するのだと思う。ZTIBORについては、当然恒久停止に備えて、ISDAフォールバックスプレッドに収斂し、2024年12月からはDTIBOR一本になるというのがメインシナリオである。

あとはいつTONAへの移行が起きるかだが、今月後半から急速にTONAスワップが増えるかどうかが重要である。