TIBOR一本化実施は2024年12月末

全銀協TIBOR運営機関からTIBORの算出、公表に関する自己評価が公開された。特に目新しい内容はなかったが、以前から言われている日本円TIBORとユーロ円TIBORの一本化のスケジュールに触れられている。3月5日のFCAのアナウンスメントを受けてLIBORの公表停止時期が明らかになったことを受け、TIBORの一本化について2024年12月末と想定していると書かれている。

もともとTIBORには日本円TIBOR(DTIBOR)とユーロ円TIBOR(ZTIBOR)があったが、Zを廃止してDに一本化することで方向性が決まっていた。タイミングとしてはLIBOR改革の後18か月とか2年というスケジュール感であったが、今般5通貨のLIBORの全テナーが公表停止となる2023年6月から数えて18か月後という想定のようだ。円LIBOR自体は今年末までだが、USD LIBORが2023年6月なので、そこから18か月としているようだ。

2024年末というと、後3年9か月あるので、ずいぶんゆっくりな印象だ。円LIBORの新規取引停止が9月末になったため、引き続き二つのTIBORリスクを管理していく必要がありそうだ。

ターム物リスクフリーレートは主流になるのか

米国のLIBOR代替指標であるSOFRのターム物の流動性が上がらない。USD LIBORの公表が18か月延長された影響もあるのかもしれないが、ARRCが目標としていたスケジュールから大幅に遅れる見込みとなってきた。ARRCからもあきらめにも似たコメントが直近出されている。それでもUSではSOFRの先物が数千億円程度取引されているので日本よりはましかもしれない。CMEでは先物をベースに1,3,6か月物のターム物SOFRの取引を近日中に開始するとしている。

USDについては、日本と同じようにターム物RFRがローンや債券の推奨レートの中では上位に位置している。しかし、このままの流動性だと、ターム物RFR自体が実取引に基づかないレートになってしまい、市場操作の温床となったLIBORの二の舞となりかねない。

CCPにおけるディスカウント変更、3月5日のFCAアナウンスメントと、SOFRの流動性向上に資すると思われた重要イベントをこなしたが、SOFRスワップの流動性は一向に上がってこない。ユーロについても似たような状況でターム物€STRの取引は極めて少ない。日本のターム物のTOFRの確定値の公表がもうすぐ始まるのだろうが、海外がこんな状況の中日本だけが成功するとは思いにくい。

しかも米国では先物取引が増えているうえ、変動金利の米国債の発行等も見込まれている。SOFR参照債券の発行も進んでいる。米国ではターム物SOFR以外にもクレジットスプレッドを考慮したIceノBYI、BloombergのBSBY、Ameriborへのシフトも予想される。こうなるとやはり日本ではTIBORがしばらくは増えるのかもしれない。

一方英国ではターム物SONIAの使用に関する提案が公表されている。シンセティックLIBORのヘッジを含むあらゆるケースでの使用が想定されているようだ。ターム物RFRの使用は10%程度とする当初の提案からすると、よりターム物RFRを許容するようになっているように見える。3/5のFCAのアナウンスメントで、Synthetic LIBORの計算方法が、ターム物RFR+スプレッドとされていたのも関係しているのかもしれない。日本の9月より5か月早く4/1より新規LIBOR取引が原則停止になるので、英国の進展は今後の参考になろう。

結論からすると、いつかはターム物RFRの流動性が上がってくるのだろうが、現在の市場関係者の想定よりは大分遅くなりそうだ。




円LIBORスワップは9月末で新規取引停止

昨日、日本円金利指標に関する検討委員会第21回会合資料が公開された。公開と同時にBloomberg上で、9月末に新規円スワップ停止のヘッドラインが出てマーケットがざわついた。

遅くとも9月末までに新規取引を停止すること、前倒しが可能であれば9月末を待つことなく積極的な対応を進めることとある。気配値提示も7月末にはLIBORからTONAに移行すべきとされている。個人的には若干遅い感もあるが、時期が明確になったのは望ましいことである。

もともとローンと債券に関しては6月末で停止というガイダンスになっており、デリバティブ取引についても何らかの目安が示されるだろうというのはある程度予想されたことであったが、驚きをもって迎えた市場参加者も多かったようだ。いずれにしても来年1月からはLIBOR公表停止なので、たとえ時期についてガイダンスが出なかったとしても、今年後半には移行が始まるのは想定通りである。

マーケットでは、TONA vs SOFRの通貨スワップやTONAベースのSwaptionなどの取引もちらほら見られはじめ、いよいよ移行が本格化する。とは言え、この段階になってもシステム、オペレーション的に準備ができていないところもあるだろうから、一旦TIBORに流れる動きもあるかもしれない。ひょっとしたらTORFに期待していたのかもしれないが、今年中にTORFの流動性が急速に上がるとは個人的には思っていない。早急にOISスワップに移行すべきだろう。

新規取引がシフトしていくと、当然過去の取引とのミスマッチが生じてくるのでレガシー契約の移行作業も進んでいくことが想定される。各種統計データを見ていると、OIS Swapの取引量はこれまでほとんど増えてきていない。個人的な予想としては、来週以降一旦TIBORが活発化し、徐々にOISが増えていくという流れになると思っている。

会計上のCVA開示基準変更

後10日ほどであるが、2021/4/1より「時価の算定に関する会計基準」が導入される。金融機関においては、CVA算出をはじめとした各種対応が進んでいると思われる。日本においては、デリバティブ取引の相手先によって厳密には時価を変える必要がなかったが、これが大きい場合は何らかの形で財務諸表に開示する必要が出てくる。個人的にもようやくここまで来たかと感慨深いものがある。

これらの基準や則を読んでもCVAという言葉すら出てこないのでわかりにくいが、企業会計基準適用指針第19号(2011年3月改正)からの改正点(開示例)を見るとデリバティブ取引の評価技法の説明のところに以下のような文言が例示されている。

「取引相手の信用リスク及び当社自身の信用リスクに基づく価格調整を行っている。」

取引相手の信用リスクに基づく価格調整がCVA、当社自身の信用リスクに基づく価格調整がDVAということになるのだろう。そのままCVAとかDVAと書いてくれれば分かりやすいのだが、ざっと見る限りこれら一連の基準の中にCVAという言葉は出てこないように見える。

当然金融商品の時価について幅広くカバーされているもので、CVAにフォーカスしたものではないので仕方ないが、あまり目立たず残念な気分だ。

いずれにしてもこうしたカウンターパーティーリスクが正式に価格調整に含まれる慣行が広がるのは望ましいことである。今後の各企業のディスクロージャーの仕方に注目したい。

SLRの条件緩和措置の打ち切り

最後の最後までどちらに転ぶかわからなかった米SLR(Supplemental Leverage Ratio、補完的レバレッジ比率)の緩和措置延長だが、FRBから当初予定通り3/31で打ち切りとなることが発表された。昨年4月に感染拡大を受けた市場混乱への対応策として、米国債と中銀準備預金をSLRの計算から除外していた。

実際にこの免除規定が銀行のSLRに無視できない恩恵を与えていたので、この打ち切りが銀行の行動に与える影響は大きいだろう。JPMが全四半期決算で公開したように、この免除がなければSLRは6.9%から5.8%へと1.1%悪化していた。Citiの場合は7%が5.9%へと悪化との予想だった。基準の5%は下回らないものの、レバレッジ比率にして1.1%の下落幅は馬鹿にできない。しかし、銀行株は軒並み1%弱の下落にとどまっており、米金利上昇幅も小さく、思ったよりマーケットインパクトが出ていない。

同時に、今後SLRの微修正に関して市場の意見を求めるとしたのがある程度影響したのかもしれない。銀行資本に関しては厳しい意見を言う議員も多く、この見直しが銀行資本の頑健性を失わせることのないよう努力するというコメントもあるので、それほど大きな緩和は期待できないとも思えない。しかし、市場が思ったより落ち着いていたのを見ると、この見直しに対する期待も高かったのだろう。

個人的には国債のレポマーケットを大幅に縮小し、リスクが高いからというよりは単にバランスシートを使う理由で、短期市場の機能が制約されてしまったので、SLRがそれほど意味がある指標とは思えない。逆に銀行がきちんとリスク管理をしようというインセンティブを削がれてしまっているようにさえ思う。安全資産である国債を持っても、デフォルトの危険性の高いハイイールド債を買っても、同じようにレバレッジ比率が悪化してしまうからである。

本来であれば、SLRのようなバックストップとして使われる指標より、バーゼル3先進的手法のような精緻な指標を見ていく方が望ましい。金融危機時に、複雑なモデル等を使って銀行が資本規制を逃れることができたという批判が大きくなったため、簡単に計算のできるSLRが最大の制約条件になってしまったが、SLRができてから7年の間に銀行のリスク管理が高度化されたとは思えず、米国債市場の変動は逆に大きくなってしまったように思う。特に感染拡大を受けた経済パッケージを大量に発動している中、国債発行額は増え続けているため、国債市場を混乱させるのは当局としても望ましくないはずである。

中銀準備金の供給と財務省証券の発行が最近増加していることから、SLRが経済成長の制約となったり、金融の安定性を損なうことになるのであれば、SLRの見直しを検討する必要があるかもしれない」とFRBは声明で述べているので、ある程度問題の認識はしているようだ。結局延期をしてもいつかはそれを終えなければならないので、抜本的見直しを匂わすことで市場混乱を抑えようということなのだろう。

レバレッジ比率が原因で銀行が国債取引を手控えるようになり、今や中央銀行が銀行の穴を埋めるような形になっている。これは米銀の財務諸表や各種統計データを見れば明らかである。この発表を受けて、銀行の行動にも変化が起きることは明らかであり、米金利に対しては上昇圧力として働きやすい。

また、金余りの中預金が集まりすぎると、銀行としてはそれを中銀預金や米国債に回さざるを得なくなるが、それに資本が必要ということになると預金は欲しくないということになる。貸し出せば良いではないかと言われるかもしれないが、相応の引当金が必要になり、それが銀行決算に大きな影響を与えているのは昨今の決算を見れば明らかだ。

SLRが本当に正しく見直されるには、もう一度米国債ショックが起きる必要があるのかもしれない。

BREXITによって欧州から米国への取引シフトが起きている

Brexitが金融機関に与えた影響は意外と大きかったようだ。欧州の銀行のデリバティブ取引シェアが減少し、収益にも影響が出始めているという報道があった。今回もっとも恩恵を被っているのは米銀のようだ。

EUの銀行は英国の取引基盤(Trading Venue)へのアクセスを持てなくなってしまったので、英国の機関投資家や銀行との取引から締め出されてしまった。これを解決するにはEUの銀行は英国に現地法人を設立しなければならなくなる。

結局は多くの取引が、同等性がある程度確保されたUSのSEF(Swap Execution Facilities)に流れている。ディーラー間取引について言えば、US SEFの取引は今年1月に10倍以上に伸びている。確かにUKとEUとの争いに巻き込まれ、それぞれの取引Venueに接続するよりは、すべてUS SEFに持っていた方が簡単だ。

金利スワップは半数以上がこうした取引Venueで取引されておりCDSのインデックス物などは、ほぼすべてが取引Venue上の取引である。ちなみに日本はETP(電子取引基盤)なのだが、こちらはSEFを参考にして作られたが、同等性を確保するためだけに作られた感が否めず、取引に占めるシェアは極めて低い。

アセマネや年金などもUS SEFに移す傾向がみられるようだが、英国のリアルマネーはそのまま英国で取引を継続しており、ここにはEUの銀行がアクセスできなくなっている。UK VenueのシェアはEUR IRSについては未だ11%、GBP IRSでは21%、USD IRSで6%とそれなりのシェアを占めている。

数年前にも書いたことだが、海外でビジネスをする際の拠点は支店と現地法人のどちらが望ましいのかという問題がここでも重要になってくる。現在の規制環境下においては、支店形式は好まれず、自分の国でビジネスをするのであれば、その国の規制を遵守し、資本もその国の中に置いた現地法人が有利なのは当然である。EUの銀行は現地法人ではなく支店形式で海外進出をしているところが多いので、こちらも状況の悪化に拍車をかけている。

一方米銀や英銀は、現地法人形式で海外拠点を作る傾向があるので、かなり有利である。Brexitで英国を締め出そうとしたEUが、実は不利になるという皮肉なことが起きている。ただし、これによって英国にも交渉力が生まれるので、規制の同等性を認め欧州全体の利益を考えるような方向に進むかもしれないという期待も生まれる。

国際金融ハブを目指す日本にとっても、この辺りの動きは非常に参考になる。簡単に国境をまたいでしまう金融取引は、すぐに最もオープンな場所に流れてしまうということは、今回の例を見れば明らかだからだ。

LCHのLIBOR移行プラン

先ほどLCHからもLIBOR移行に関するアナウンスメントがあった。年末までに行われるスワップの一括コンバージョンに関してタイミングが示され、JPY、CHF、EURについては2021/12/3、GBPについては12/17という提案となっている。12月はクリスマスの時期を除くと週末が3回なので、他のCCPが似たような時期に変換を行うとなると毎週末忙しい年末になりそうだ。

なお、6/30からフォールバックフィーとコンバージョンフィーというものが課されることになる。これらのフィーによって早期コンバージョンのインセンティブを与えたいとしている。

変換に際しては元のLIBORスワップと同じRoll dateと計算期間を保ちたいとしている。また、3s6sのようなベーシススワップについては、3month OISと6month OISのようなスワップに変換するのではなく、3m OIS vs 固定金利、6m OIS vs 固定の二つのスワップに分けるとのことだ。この方がコンプレッションがやりやすいからなのかもしれない。

細かい詳細はこれから詰めていくものと思われるが、これで海外主要CCPのプランが公開された。JSCCも同じような方向性になっていくものと思われる。

BISのドル調達関連レポート

昨年2020年の今頃に感染拡大から現金回帰が強まり、ドル資金のひっ迫が発生した。その後中央銀行のドル供給オペレーションによって落ち着きを取り戻したが、この辺りの市場の変化について、BISがレポートをまとめている。結論から言うと以下の3点に集約される。

  • 米国外銀行は、米国内からまたは、オフショアのMMFファンドからドル調達を行っていたが、2020年にはこれがその他の銀行以外からの調達にシフトした。
  • 通常MMFからのドルの最大の取り手である日本の銀行とカナダの銀行のドル調達が2020年3月以降減ったが、これは2020年末までに回復しておらず、最大の減少となっている。
  • 社債発行市場においてはドル債発行のニーズは衰えておらず、2020年3月の市場混乱以降、ドル債のシェアが伸びている。

2020年第三四半期末時点における米国外の銀行のドル負債は、以下のような構成になっている。ここ数年の動きを見ると、米国外のドル預金とドル債が増えてきている。これ以外は米銀や中銀に対する負債である。MMFから銀行以外への調達シフトが起きていはいるが、これが構造的なのかは現時点では不明とされている。

米国内のドル預金24%
米国外のドル預金49%
ドル債23%

この中でドル債調達が過去5年の間に増え続けており、全通貨の社債に占めるドル債のシェアは、2015年末の38%から2020年末には44%に増えている。2020年に関していうと、邦銀と独銀の発行が減っている。2020年末に残存するドル債の総額でいうと英国に本拠を持つ銀行がトップで15.8%のシェア、次いで中国(9.5%)、日本(8.7%)と続く。

これを見る限り、ドル調達ニーズは引き続きあるが、ドル債の発行は今後も増えていくことが予想される。ドルニーズの高まりは2020年3月のような混乱を引き起こす可能性もあるので、今後の動向にも注目したい。特にSLR(Supplemental Leverage Ratio)の免除が3月末以降も継続されるかどうかに注目が集まっているが、この延長が却下されると、米国債市場への混乱、ドル資金に対するニーズの拡大、ドル円ベーシスの拡大といった形でマーケットにインパクトが波及することもあるので注意が必要である。

国際金融都市ロンドンは復活するか

英国財務省が、ブレグジット後のロンドン凋落を防ぐため金融関連規則の見直しに着手していると報じられた。

BrexitによりEU規制の範囲から外れるため、EUのMiFID IIをターゲットにしているようだ。確かに米国ドッド・フランク法と比べ、MiFID IIは規制遵守の手間がかかり、本当に市場のためになるのかわからないようなものも含まれている気がする。

国際金融都市として海外から金融関連サービスの誘致を狙う日本にとっても参考になるだろう。英国自身、これまでの経験からEUよりも効率的かつ効果的に市場を監督規制できると考えている。

英国財務省では、夏には改革案についての意見募集を行い、年末までの法律策定を目指している。法律が絡む内容としてはかなりのスピード感を持って進めているように見える。LIBOR改革にしてもそうだが、英国当局はかなり市場に関する知見を持っており、指導力を発揮している。ひょっとしたら巻き返しも可能かもしれない。

EUには現地取引規制のようなものがあり、EUの株式取引を英国でできなくなったことを受け、オランダ等への取引シフトが起きたが、こうした取引場所に関する規制への対処も視野に入れているようだ。

そのほかにも、取引所を通さずダークプールを経由する取引の上限撤廃や、一つの商品に対するポジションリミットの撤廃のほか、株や債券取引の透明性向上のための制約も見直したいとのことだ。

そして、FCAがいちいち議会での法律策定をすることなしに、自らの権限でルール変更をできるようにすることも検討されている。変化の激しい金融ビジネスにおいては、すべて国会にで議論をして立法化するという手続きを踏んでいては遅きに失する。特に金融専門家の少ない日本ではいつも後手後手に回ってしまうことが多いので、こうした英国の動きは参考になる。

デリバティブ取引は場所を問わないため、どこに拠点があるかはあまり重要ではない。一定のビジネスが英国から、EUではなく米国に移っているのもその証拠である。日経225先物は海外取引所で取引されていることも多いが、世界中あらゆる時間帯で取引できるという利点がある。先物やデリバティブは、取引所は意識する者の、金融機関の取引場所は意識しなくなってきている。日本時間に日本の企業ととりひきをしたとしても、それをロンドン法人につけたり、米国法人につけたりすることは可能だ。当然ドッド・フランク法やMiFID IIに対する注意は当然必要だが、あまり場所自体は重要でなくなりつつある。

この計画は3月上旬の予算案の中で示されたもので、より広範な資本市場改革にも拡大して、さらなる計画を近々発表されることになっている。どのような案が出てくるか注目したい。

CMEのLIBOR移行プラン

EUREXに続いてCMEのプランを見てみる。概ね同じようなプランだが、FallbackでできるフォールバックRFRスワップと標準RFR Swapの違いが分かりやすかったのでまず紹介しておく。リンクにつけたプレゼンの2頁目にある以下の図だが、1がこれまで何度か説明してきたFallbackでできるスワップ、2が標準スワップである。

現在のLIBORは一番上で、Fが金利が決まる日、Pが金利支払日となる。つまり、例えば今後3か月間の金利は今日決まり、それを計算期間の最終日である3か月後に払うというスケジュールである。

ISDAのLIBORプロトコルでできるスワップは金利が後決めなので、FがPの直前に来ている。そして計算期間が前倒しになっている。金利が決まってその日に払うことはできないので、計算期間を2日程度全体的にずらす形だ。

一方市場標準のOISは、計算期間はずれないが、金利支払日を後ろにずらす。金利決定日のFが計算期間の最後に来ているので後決めと言われる。一方LIBORは前決めである。つまり、LIBOR移行によってこれまで前決めだった金利が後決めに変更されるため、資金決済のオペレーションのシステム化が遅れる日本ではこれがネックになっている。TORFなどのターム物RFRでは前決めが使えるので、TORFの流動性向上を待ちたいという市場参加者がいるのかもしれない。

後決めだと、例えばローンを借りた時に、今後3か月の金利は最後に決まりますよと言われるようなもので、しかも決まった日から二日後にそれを振り込んでくださいと言われるようなものである。資金決済がオートメーション化されている海外ではそれほど問題ないが、決まった金利の通知を受けて、それを振り込み指示するという手作業を行っていると、2日後に着金が間に合わないということも起きる。担当者が休暇の時に対応できないとか、祭日に対応できないという問題もある。

とは言え、後決めが主流というのは特にデリバティブの世界では一般的になっており、これを覆すのは困難だと思われるので、後決めのシステム対応を進めるしかない。

さて、話をCMEの移行プランに戻そう。他のCCP同様、CMEでも一括変換の検討は行われているが、それが望ましいのか結論づけてはいない。他のCCPとの調整も必要であり、Duratrionや割引率変更のリスク、ヘッジ会計や税務面への考慮が必要としている。

それぞれの変換手法についての課題が以下のように整理されている。

ISDA Fallback

  • 後決め等から発生するオペレーション面やリスク管理面の懸念
  • 業界で広く認知された方式
  • LIBOR移行後のSwaption行使によって発生したスワップが清算可能

標準OIS

  • 上と同じオペレーション面、リスク管理面の懸念
  • Swaption行使後のスワップが清算できない

Observation Period Shiftを行ったOIS

  • リスク管理面での懸念に対応
  • 支払日がISDA Fallbackと同じ
  • Swaption行使後のスワップが清算できない。

これらの点を明確にした上で、市場参加者への意見を求めている。これだけ見ると3番目の観測期間シフト方式を選好しているような印象を持ってしまうが、おそらく他のCCPの動向を踏まえて2の方向になるのではないかと個人的には予想している。

方向性は3月末までには決めるとしており、そこから30日のコメント期間に入る。詳細な計画は4月か5月上旬に公表するようだ。タイミングやオペレーションの詳細については、具体的な言及はない。いずれにしてももう少しすれば様々な情報が出てくるものと予想される。

EUREXのLIBOR移行プラン

各CCPのLIBOR移行の詳細が明らかになってきた。一昨日3/11にEUREXからもプランが公開されている

2021年12月31日以前にCHF、GBP、JPY、USD LIBOR取引をRFRにコンバートする予定となっており、他のCCPと概ね同じようなやり方になりそうだ。RFRは当初のLIBORスワップと同じ計算期間(Observation Period)で決済日が後ろにずれる標準RFR取引となり、ISDAのFallbackで発生するスワップのようなObservation Period Shiftがない。

変換時のスプレッドは、過去5年間のヒストリカルスプレッドの中央値で、価値評価がずれる場合は現金受け渡しによって決済する。ただし、LIBOR vs LIBORのベーシススワップについては、コンバージョンをせずに現金決済をするとある。つまり3か月LIBORと6か月LIBORのような取引は3m RFRと6m RFRのベーシススワップに変えるのではなく、そのまま解約する方法を導入するということのようだ。

そしてLIBORスワップはその後清算非適格となる。このコンバージョンのタイミングや手法、そして法的な解釈等の詳細は今後アナウンスされるとある。これについては、2020年12月の市中協議の結果も踏まえてなされる。

これはEURについての市中協議だが、EONIAから€STR flat(つまりスプレッドを加えない単なる€STR)への一括変換で、価値変化分は現金決済するという案が支持されている。変換日は2021/11/19が提案されているが、大多数がこれに賛同したとある。とは言え、それより早いタイミングを望む意見も多かったようで、結局2021/10/15金曜とその後の土日という提案になっている。当然他のCCPとの調整みあるだろうが、円についても10月から11月くらいのタイミングを意識しておく必要があるだろう。その他、円も含めたFRAを清算非対象とし、短期のスワップとして存続させることについても触れられている。

詳細については更なるアナウンスを待つ必要があるが、各CCPで変換の手順や変換後のスワップに違いが発生すると混乱が生じる。通常CCP同士で調整をすることはあまりないのかもしれないが、ここまでの大きな業界全体の変更となると、やはりCCP間で調整し、極力同一の方法で変換できるように調整をしてもらうのが望ましいだろう。

LIBOR移行の今後の予定

ISDAのガイダンスから、備忘録的に今後のスケジュールを記載しておく。

LIBORの種類最終公表日Index Cessation Effective Dateスプレッド調整決定日Synthetic LIBORの使用可能期間(案)
EUR LIBOR2021/12/312022/1/12021/3/5なし
GBP LIBOR2021/12/312022/1/12021/3/52022/1/1 –
(1,3,6month)
JPY LIBOR2021/12/312022/1/12021/3/52022/1/1 -2022/12/31
(1,3,6month)
USD LIBOR
(O/N, 12m)
2023/6/302023/7/12021/3/5なし
USD LIBOR
(1w, 2m)
2021/12/31
その後2023/6/30まで線形補間
2023/7/12021/3/5なし
USD LIBOR
(1,3,6m)
2023/6/302023/7/12021/3/52023/7/1 –

こうしてみると通貨ごとに少し扱いが異なるのがよく分かる。GBPについてはもともとSynthetic LIBORの議論がされていたので驚きはないが、来年以降もSynthetic LIBORが使える形になっており、現行の案だと期限が明示されていない。EURについてはそもそもSyntheticレートは必要ないという判断になっている。円についてはSynthetic LIBORの検討はされるものの1年以内と期限を区切っている。

USDは18か月延長があったため、Index Cessation Effective Dateはすべて2023/7/1となっているが、1, 3, 6monthについては、その後もSynthetic LIBORでの対応となり、こちらも期限は明示されていない。1 weekと2monthについては、基本的に他の通貨と同じように年末までの命だが、その後近接するテナーのレートから補間して計算されるため、Index Cessation Effective Dateは2022/1/1ではなく、2023/7/1ということになる。Synthetic LIBORの期限についてはGBPと同じように明示されていない。

日本円についてもSynthetic LIBORの可能性を検討する余地が残されたのは歓迎されるが、なぜ日本だけが1年の期限付の提案となったのだろう。まあ確かに永遠にSynthetic LIBORに頼るということだと、日本の場合移行が進まなくなってしまうので、その方が良いのかもしれないが。

買い控えの反動により経済回復が加速する

感染拡大を受けたロックダウンにより増えた貯蓄額が、主要国で2.9兆ドルに上り、一旦これが消費に回ると経済回復が加速するという分析が報道されている。そのうち半分くらいは米国だが、日本も10%近い32.6兆円くらいと推計されている。

確かに自分の行動を振り返ってみても、旅行や外食を一切せず、特に大型の買い物をしようという気もなかった。使うものがないので株式投資に回したという人も米国では特に多かったようだ。そうなると飲食、旅行、スポーツ観戦やコンサートなどのイベントに戻ってくる資金はかなりあるだろう。

そうなると米国の経済成長率は現在の予想の4.6%から倍の9%になるとの分析だ。当然コロナの時期に増えた負債返済に回す動きもあるだろうが、米国に比べると日本ではこの影響は少なそうだ。米国ですら家計負債総額はそれほど増えていないというデータもある。この点ではリーマンショック時とは全く異なる。欧州でも貯蓄額の上昇がみられる。フランスなどではロックダウン解除後にすぐに飲食に対する消費が急増したという経験もある。

そのうち巨額増税があるだろうが、しばらくは各国政府も経済支援を続けるだろうから、それまでは少し時間があると思われる。あとは、失業率とインフレ懸念だが、雇用に関しては明るい兆しが見えつつある。

ここまで思い切った政府支出が正当化されるとなると、今後は、何らかの危機があった時の方が株式等の資産価格が上昇し、何もない時の方が株価上昇のペースが抑えられるということになるのかもしれない。

2021年末のLIBOR公表停止発表

昨日3/6、待ちに待ったLIBORの公表停止予定の公表がFCAからあり、ISDAからも矢継ぎ早にアナウンスがあった。日本の新聞でも報道されているくらいなので重要性は認識されているだろうが、最重要ポイントは、これでLIBORと新RFR(Risk Free Rate)の差が決定し、言わば二つのレートの交換レートが決まったということである。

つまりLIBOR = RFR + spreadという計算になり、この数字は過去5年の中央値から簡単に計算できるし、情報ベンダーの端末から得ることもできる。このスプレッド調整を巡っては、過去にもこうしたアナウンスが市場を動かしたことがあったが、今回は3月にはアナウンスがあることがある程度予想されていたこともあり、特に大きなマーケットインパクトはなかった。それでもLIBOR-OISのマーケットは、昨日の夕方は神経質な動きを見せたようだ。

3m GBPの場合はスプレッドが11.93bp、6mだと25.66bp、ドルはそれぞれ26.16bp、42.83bpと報じられている。ドルの3s6sベーシスは結構動いたようだ。

FRBのRandal Quarles氏からは、今後数か月当局は残ったTransiction Riskの管理を、企業がきちんと行うかに焦点を当てると述べている。TつまりLIBORからきちんと移行作業を行っているかを監督当局がモニタリングするということだ。

さらにFCAがJPYのSynthetic LIBORについて言及したのも興味深い。第二四半期に、1m、3m、6m JPY LIBORについて、Syntheticなレートを一年間使うことについての市中協議を行うとしている。日本の報道では、円について参考値の公表を1年間続ける仕組みを検討しているとされていた。仕組みの検討と言っているので誤りではないが、これはLIBORの公表が継続されるというよりは、RFRにスプレッドを乗せたSyntheticレートのことを言っているので、従来のLIBORの公表が継続されるという訳ではない。ただ、タフレガシー契約と言われる移行困難な商品が存在しているのは明らかであったので、これは望ましい結果と言えよう。

また、年末までにLIBORが指標性を喪失することはないというコメントもあったようで、年末まではLIBORが存続することが確認されたことになる。不確実性がなくなるという意味では歓迎だ。

これで特に海外では事前移行に弾みがつくことが予想される。日本の場合はもう少し様子見の期間が続くだろうが、夏からは急速に移行が進むことになるだろう。

レバレッジ比率規制緩和継続が危うくなってきた

昨年感染拡大を受けてレバレッジ比率規制緩和が行われたが、その期限がもうすぐ到来する。この期限延長が認められるかどうかにマーケットの関心が集まっており、もしこの時限措置が延長されなければ、マーケットインパクトも心配されている。

銀行トップからはこの期限延長を求める声が多く聞かれ、それがマーケットの安定につながるという主張がなされていた。個人的にもその通りだと思うが、世論的には銀行の主張に屈したくないという雰囲気があるのも理解できる。

やはり今回も銀行規制緩和反対はのエリザベスウォーレンが反対の声明を発している。この資本規制緩和の継続は、金融危機後に導入された厳格な規制のフレームワークをSubstantiallyに弱めるものだとコメントしている。

銀行にとってみれば米国債を保有するだけでレバレッジ比率の悪化を招くため、当然米国債を保有するインセンティブがなくなる。したがって、米国債の取引を避けるのは当然のことで、これによって米国債の流動性が悪化した。レバレッジ比率自体がリスクを増やすとは全く思えず、FEDがこれだけ流動性を供給し続ける中、それを銀行が吸収できないのは問題だと思うのだが、やはり銀行支援をすると政治的には望ましくないのだろう。

延期を求める議員も多数いるのだが、ウォーレンのような実力者が発言するとやはり影響は大きい。このような憶測によってマーケットは若干神経質になっているが、やはり規制緩和延長は難しいのかもしれない。日本の年度末に向けて米国金利市場においては更なる混乱が予想されるが、これだけ何度も流動性ショックが起きてもレバレッジ比率重視の傾向が変わらないということだと、もっと大きな流動性危機が必要なのかもしれない。

公表されている声明によると、銀行は感染拡大を規制をなし崩し的に緩和する「言い訳」として使っているという辛辣なコメントで批判している。なぜそこまでレバレッジ比率を重視して、その他のリスク管理手法を中止しないのか理解に苦しむところである。