米国債の現物の清算集中規制施行開始を控えて、銀行などのFCM経由ではなく、自らCCPのメンバーとなることを検討する市場参加者が増えている。銀行であれば、レバレッジ比率規制やG-SIB規制などに従うため、相応の資本コストを要求されるが、新たなメンバーにはこうした規制がかからないことが多く不公平ということで、当然既存のFCMである銀行からは、不満の声が聞かれる。同じことをしているのだから、新規参入をするマーケットメイカーやバイサイドに対しても同様の規制をかけるべきだという議論だ。

至極もっともな主張であるが、そもそも顧客のためにクリアリングをする際にグロスの想定元本で資本賦課をするレバレッジ比率規制や、顧客のために拠出した担保に応じて資本コストがかかる現行規制が実態に即していないように思う。もともとすべてのOTC取引を中央清算するというのが狙いだったのに、それに従って清算すれば、大きな資本コストがかかるというのも無理筋な話だ。銀行の主張も理解できるが、そもそも保守的すぎる規制を銀行以外にも適用するのは、少し厳しすぎるのかもしれない。

しかもこうした資本コストは清算取引に限ってデザインされたものではなく、大きな資本規制の中の一項目に過ぎない。CCPの直接参加者が銀行以外にも広がっている現状に鑑みれば、本来銀行規制というよりは、各CCPのルールで公平性を担保していくものだと思われる。特にIMや清算基金などのCCPのリスク管理ツールは商品ごとに異なるはずであり、一律の資本規制よりは、リスクに即した細かな対応を取ることができる。

その意味では、米国債の清算にはそれほど大きな資本は必要ないかもしれないが、レポであればギャップリスクをカバーするためにより資本コストがかかるのは当然だ。CCPサイドでは商品ごとのリスクの大きさに応じて当初証拠金(IM)を取っており、いざデフォルトが発生すれば、多くの場合そのIMで損失をカバーできるようになっている。確かにIMが足りず、清算基金にまで手を付けるケースが散見されるが、リーマン破綻時などにもリーマンの拠出したIMで損失がすべてカバーできたのも事実である。

本来はリスクに応じたIMをしっかり取っておき、清算基金に対して資本賦課をかけるというのが筋なのだろう。ただし、G-SIBスコアは影響の大きな銀行に対して計算されるものなので、クリアリングのサイズに応じてある程度考慮されるのは仕方ないだろう。ただし、想定元本に依存したスコアの計算方法は改めても良いかもしれない。

こうすれば、CCPに参加するメンバー間での不公平感はなくなり、メンバーも着実に増え、金融全体の効率化に資するものと思われる。実際、バイサイドがデフォルトオークションに参加したことにより、ポジション解消がスムーズに行えたケースもある。

あとは、日中に大きなリスクを取って日の終わりにはポジションがフラットになるため清算基金がかからないRelative Value Fundのエクスポージャーであるが、これは日中のリスクをリアルタイムでモニタリングし、拠出されたIMに対して一定の上限を設けるなどの仕組みが必要になるのだろう。

デリバティブ取引のみならまだしも、米国債のような巨大なマーケットの清算集中が始まると、CCPの直接参加者が増えてくるのは必然の流れかと思う。それに応じて規制やCCPのルールも進化していかなければならないのだろう。

AMERIBORのAFXをICEが買収

年末年始が日本ほど長くない海外では、この時期でも様々な動きがみられる。今年はICEのAFX買収のニュースが飛び込んできた。AFX(American Financial Exchange)は日本でそれほど知名度が高いわけではないが、LIBOR改革時にクレジットセンシティブレートの代表格であるAMERIBORのレートが話題になった。一時はAMERIBORを参照するスワップなども増え始め、米国地銀のローン金利として一定の支持を得ていた。

LIBOR改革でリスクフリーレートはSOFRやTONAに移行したが、こうしたリスクフリーレートで貸し出しを行っていると、銀行に何らかのショックがあった場合に、銀行の貸出金利に比べ調達コストが上がってしまうため、銀行の経営環境が一気に悪化するとして、銀行の信用コストを反映したレートが求められた。AMERIBORは、1000行以上の米国銀行の無担保借り入れコストを反映した金利インデックスとなっているので、銀行危機が起きればレートが必然的に上昇する。それにつれて貸出金利も上昇すれば、銀行の収益に与えるダメージを軽減することができる。

一時期はICEのBank Yield indexやBloombergのBSBYなど複数のクレジットセンシティブレートが存在していたが、IOSCOからのサポートが得られず、最近はあまり話が聞かれなくなっていた。SOFRに代わるメインインデックスとして使うのは難しくても、何らかの金融ショックが起きた時にのみ代替として使う道も模索していたようだ。

このままクレジットセンシティブレートは下火になっていくと思っていたが、数々の金融指標を持つICEによる買収により、AMERIBORが若干延命されるかもしれない。とは言え、米国の一部のマーケットで使われるのみで、成功したとしてもTIBOR程度の地位に収まるように思う。

それにしても欧州で同じような銀行の信用リスクを織り込んだ指標の話が活発になされなかったのが興味深い。欧州では、€STRのようなリスクフリーレートの貸し出しが増えているのだろうか。その点日本はグレーな部分も使いながらうまく対応していると言えるのかもしれない。

住宅ローン金利などを見てもそうだが、TONAなどに連動している訳ではなく、一般的な金利指標とは異なる動きをしているが、それほど大きな不満が出ているわけではない。おそらく日本の銀行危機が起きれば、円金利が上がらなかったとしてもローン金利を上げられるような仕組みになっているのだろう。とは言っても銀行が多いので、あまり極端なことを行えば借り換えが起きてしまう。

米国だとすぐに透明性だとか公平性ということが言われるが、どのようなモデルが望ましいのかはよくわからないところである。

信用リスク移転マーケットの発展に必要なこと

Credit Risk Transferについて耳にすることが多くなってきた。当初は証券化商品を担当する部門から、ローンのリスクトランスファーに関連するディールの話を聞くことが多かったが、そこからデリバティブへの応用という形で話が進んできた。以前からデリバティブ取引のRisk Transferに携わってきた身としては若干不可解に思えてしまうが、もしかしたら、ずっと下火だったリスク移転の話がここから盛り上がりを見せるのかもしれない。

昨年後半にFRBがリスク移転についての要件をQ&Aの中で明確にしたことから、SRT(Synthetic Risk Transfer)の形で米国で注目が集まった。これをデリバティブ取引にも広げて、資本削減やG-SIBスコアの削減などを図る動きが欧州でも活発化してきたのが昨年の初めくらいからである。

デリバティブ取引のリスク移転についておさらいすると、金融危機前後にCDSとともにCCDSがいくつか取引され、こうした取引が技術的に難しいという場合は、保証やRisk Participationが使われた。昨今でもコモディティの世界では普通にFourth Trigger CDSが取引されている。これは通常の3CE(3つのクレジットイベント)に加え、ISDA上のデフォルトを4つ目のクレジットイベントに加えるというものだ。

昔は信用枠をリリースしたり、リスク集中を避けるためにクレジットリスクを減らそうという動きが中心だったが、近年ではリスクを減らすというよりは資本コストを減らすためにこうした取引が行われることが多くなってきた。当然厳しい資本規制下にあるのは大銀行になるが、こうした規制の影響を受けない保険会社やアセマネなどのバイサイドやヘッジファンドなどがリスクを取れば、Win Winとなる。または国際基準行などのように厳しい資本規制の対象とならない地銀など、その他金融機関がリスクを取ってリターンを上げることもできる。

リスク移転の最も簡単で確実な方法は、取引をそのまま移してしまうNovationだ。しかし、通常は相手方に知られずにヘッジしたいというニーズが多く、CDS、CCDSなどサイレントでできるリスク移転が好まれる。本来であれば、より取引を継続的に行い長期的に顧客サービスを提供するために、一部リスクを外したいと言えば、顧客である事業会社なども理解してくれそうなものだが、銀行の営業としては、大事な顧客にリスクを他に移すということはなかなか言いずらいというのが現状だろう。

また、リスク移転は相対での取引となることが多く、なかなかお互いのニーズがマッチするような状況を見つけるのが難しい。何かオークションのようなプロセスや、いくつかの投資家のマッチングをするようなサービスがあれば、マーケットが膨らむかもしれない。そして、マッチング後もMTMの計算支援、デフォルト時の判定等まで弁護士と協力して公平なプロセスを確立できれば、金融の発展に資するものと思われる。