中国の金利スワップ市場

中国の金利スワップクリアリングであるSwap Connectが5月に稼働して2か月が経過したが、相変わらず取引量が伸びていない。相対取引に使う中国版ISDAのNAFMIも結構交渉が面倒で、全てをISDAのコンセプトに置き換えて現地の法律事務所を使って精査しなければならないので時間がかかる。仕方がないのだろうが、単純にISDAを使ってくれればどれほど楽になることか。

クリアリングが伸びない問題点の一つとして、金利先物のように満期がある程度決められており、取引解約がしにくい点が挙げられている。事業会社のように長期でヘッジする場合には問題ないだろうが、こうした会社がSwap Connectを利用するとは思えず、メインのユーザーは年金基金、資産運用会社などの頻繁に取引をする市場参加者が中心となる。

こうした市場参加者は、一旦取引をすると、ある程度の収益が確定したところで同じ満期、同じ固定金利で反対方向の取引を入れる。そして、完全にオフセットする取引が二つ残るが、それがCCPの日々のプロセスによって解消されるのが一般的である。もともとの取引を解約しても良いのだが、取引のブッキングプロセス上、新規の反対取引を入れてから消した方が新規取引と同じプロセスが使えるため、オペレーション的に容易であるためである。JSCCもLCHもこのプロセスを採用している。

しかし、中国の場合は10年固定受け金利スワップといった決まった年限の取引のみが可能なので、半年後に解約しようとしたら10年の固定払い金利スワップを行うことになり、その時点では9.5年固定受けと10年固定払いの二つが残ってしまい、それを打ち消すことができない。コンプレッションの高度化などによってこれを消滅させることも可能かもしれないが、基本的にはこれらのスワップが10年間残り続けることになるため資本効率が悪く、9.5年と10年のベーシスリスクも負い続けることになる。

とは言え、以前の日本も似たような状況で、スワップを頻繁に受け払いして金利リスクをマネージするヘッジファンドのような市場参加者は少なく、資本コストに無頓着ということも相まって、コンプレッションのニーズも理解されなかった。MACスワップなどの利用も、ほとんどが海外ファンド系で、国内参加者のなかで、これを真剣に取引しているところは少ない。それでも円金利を取引する海外投資家が多かったため、何とかグローバル並みの仕組みができており、最近少しづつ増えてきた国内系ファンドや金融機関などもこの恩恵にあずかっている。

おそらく中国においても、早晩こうした問題は解消されていくことになるのだろうが、JSCCを含む他のCCPに比べると、ユーザーのニーズにタイムリーに応えながら柔軟に仕組みを変えていくという点においては、今一つといった感はある。それでも、2国にまたがるCCPの相互接続を成し遂げ、以前に比べると格段に金融市場の進歩が進んでいるので、今後の進展に期待が集まる。

Basel III End Game

米国当局がバーゼルIII最終案を木曜に公表したが、これによって米銀大手行のRWAが20%増加するだろうというアナリストレポートが出ている。当初は12%程度の増加と言われていた記憶があるので、想定外に膨らんでいるということなのかもしれない。

この資本賦課の増加を賄うために、3から4年の収益を積んでおかなければならないとの分析だ。特にトレーディング業務の比率の高いGSやCitiに影響が大きいとコメントされている。JPMやバンカメは資本蓄積にかかる期間が2年未満とされており、影響は少なくなっている。FRB副議長のスピーチの中では2年というコメントがあったので、それほど大きな違いはない。

Bloombergニュースでも、米銀大手8行の資本増が19%と報じられており、20%との乖離は少ない。また、シリコンバレーバンクなどの地銀ショックを踏まえて、規制対象範囲が総資産1000憶ドルを超える銀行に拡大されおり、こちらの資本増加は16%と報じられている。FDICも対象となる銀行持株会社のティア1資本について、全体で16%の資本増強が求められるとコメントしている。先週別のニュースでも、この新規制によって、米銀6行の余剰資本が1180億ドル失われると報じられており、米国では大きな関心を集めている。

バーゼルIII Endgameと題されるこの一連の改革が施行されるのは2025年1月からだが、一定の移行期間があるため完全移行は2028年7月1日とされている。今回の最終案のコメント期限は11月30日になっているため、詳細な分析をしてコメントをまとめる作業が必要になる。日本でも資本対比の収益性に対する関心がようやく高まってきたように思うが、日本の金融機関への影響も予想される。金融機関の将来像を占ううえで非常に重要な変更なのだが、今一つ内容が分かりにくいためか、専門家が少ない。SA-CCR導入時もそうだったが、あまりよくわからないまま施行開始に突入し、それから突然プライシングが変わるということになるかもしれない。

米国FedNowのアナウンスメント

先週木曜日、米国FRBが即時資金決済のFedNowシステムの立ち上げを発表した。これを使えば、24時間いつでも企業向け、個人向けの送金が瞬時に可能になる。FRBの発表によると当初参加者は一部の銀行に限ら、完全に利用が拡大するには数年かかる見込みである。

PayPayやLine Payなどで友人に送金をすれば、瞬時に送金が行われるため、すでに実現しているのではないかと言われるかもしれないが、実際に銀行に資金を入金し、それを現金として使うには時間がかかる。結局中小企業の資金繰り問題は、こうしたスマホ送金では完全には解決することができない。

この米国のプロジェクトは8年をかけて議論されてきたそうだが、これにより、給料日支払いなどの事前決済やつなぎ資金を提供する金融サービスの必要性がなくなる。大手銀行間の決済システムもあるが、中小銀行などの参加が限定的であり、完全にすべての決済がここを通っているわけではない。

メキシコやブラジルなど、他の国でも同様の即時決済システムの構築は進んでいる。これが可能になれば、金融危機時の即時資金供給なども可能になる。

何よりもこれがデリバティブ市場の決済にも使えるようになれば、金融システミックリスク軽減につながる。現在のカウンターパーティーリスク管理の仕組みは、資金の不払いがあってからポジションを完全にクローズするのに2週間程度もかかるという前提で構築されている。当然少し保守的にはなっているのだが、前日末のマーケットをもとに時価評価し、マージンコールを掛ける。そしてその金額が確認できたら送金支持をして次の日の夜中が期限となる。それで送金が確認できなければ潜在的デフォルトの通知を行い、その後の猶予期間を経てデフォルト通知となる。

本来であれば時価評価を共通業界プラットフォームの中で瞬時に把握し、即時決済を行えば、ここまでの時間は必要ではなくなる。当初証拠金などもこうした時間を考慮して決められているので、即時決済が確保されるのであれば証拠金削減も可能になる。これはCCPなどで決済されている取引についても同様である。

日本もRTGSの仕組みがあるが、金融システミックリスク削減のために、決済周りの高度化をもっと推し進めても良いと思う。

JSCCのシェア拡大が確実なものとなってきた

円金利スワップマーケットでは、LIBOR改革後にJSCCのシェアが高まっている。以前は50/50だったマーケットシェアが、LIBOR改革後に70/30くらいでJSCCが優勢となった。一時的なシェアの変化という声もあったが、ここのところ70%で安定している。

米国CFTCが米国顧客のJSCCへの参加を認めるのではないかという報道も以前からみられるが、これが本当に可能になれば、JSCCの優位性は更に拡大する。直近では、2023Q2のJSCCのシェアは72.1%に上昇しているが、ここからさらに加速する可能性がある。

日本はLCHのシェアが低い数少ない国の一つとなる。実質的にLCHが日本顧客向けの清算を行えないので当然といえば当然なのだが、ここまでくれば、この制限を外したとしてもJSCCの優位は揺るがないだろう。

トレーダーとしては、流動性のあるマーケットで取引したいと思うのは当然であり、プライスもタイトに出せる。先物とのクロスマージンもあるので、JSCCで清算したいというニーズは揺るがない。

こうなると次のフォーカスは当初証拠金や資本コスト削減に移る。金利スワップについてはほぼマーケットが安定し、昨今の規制環境下においても取引も非常にやりやすくなった。しかし、スワップション、通貨スワップは引き続き相対で取引されており、カウンターパーティーリスクが存在しているため、資本コストも高い。特に通貨スワップについては、元本交換部分がSIMMに含まれていないため、グローバルでストレスロスや超過リスク量の多いところを並べるとどうしても日本のプレーヤーが多くなる。

昨今の為替相場の変動により、CSAの評価時点によっても担保コール額が変化し、Disputeも多くなる。日本以外では、Disputeを減らさないと資本コストが上がるので、極力時価評価がそろっていた方がよいのだが、これがなかなか難しい。LCHのSwapAgentを利用すればこれが一気に解決するのだが、他国に比べて日本では今一つ普及していない。

東証のPBR改革によって収益性に対する注目が高まったのは望ましいことであるが、同じような意識改革がデリバティブ市場でも起きることが期待される。

カナダでターム物の銀行間取引が認められる可能性

米国では、LIBORの二の舞とならないよう、オーバーナイトのSOFRに流動性を集中させるべく、タームSOFRの銀行間取引が実質的に制限されているが、カナダではターム物の利用が許されるかもしれない。

カナダのリスクフリーレートはCORRA(Canadian Overnight Repo Rate Average)と呼ばれるが、カナダでベンチマークについて協議をするCARR(Canadian Alternative Reference Rate ) Commiteeから、ターム物のの利用を広く認めても良いのではないかというコメントが出されている。

カナダのマーケットの特性を考慮すると、ARRCのガイダンスに従う必要はなく、ターム物の銀行間取引はむしろ望ましいことなのではないかとのことだ。これが先例となると、他の通貨についてもターム物の利用が拡大するかもしれない。日本でもターム物の利用を制限すべきという意見は少なく、当局サイドからも利用を促進するようなコメントも聞かれることがあるので似たような状況なのかもしれない。

そもそもここまで流動性が上がってくれば、LIBORで起きたようなことがSOFRで起きるとは考えにくい。何よりも金融機関内部の雰囲気が10年前とは全く異なる。わざわざ刑務所に行くリスクを冒してまでターム物周りで不正を働こうという人は少ないうえ、金融機関内部でもそれを取り締まる人員が10年前の数倍に膨らんでおり、システム的にも不正を防ぐ仕組みが整備されている。

カナダには、信用リスクを含んだレートであるCDOR(Canadian Dollar Offered Rate)というものもあるが、これもあと一年で公表停止となるが、CORRAへの移行は順調に進んでいる。したがって、カナダの金利指標はCORRAに集中されていくことになる。将来の方向性としては、オーバーナイトのリスクフリーレートを中心としつつ、先物とターム物が使われるという方向性になるのだろう。そして米国のAmeriborやBSBYのようなクレジットセンシティブレートが細々と使われ、TIBORも同じような位置づけになるのだろう。

リサーチアンバンドリング規制緩和に向けた動き

英国がリサーチアンバンドリングの規制緩和を行うと報道されている。来週月曜には何か正式な発表がある模様だ。もともと欧州MiFID IIによって施行された規制だが、リサーチサービスを提供することによって取引を取るという慣行を不透明とし、この二つを完全に切り離すという規制だった。

当時このブログでもこの規制の問題点について書いたが、そもそもこれが本当に金融取引の健全性と透明性の向上に資するのかはよく分からない規制であった。日本でも、欧州顧客に対してうっかりリサーチを提供してしまうと規制違反になるのではないかということで、リサーチ提供を止めるところも多かった。欧州の投資資金が入っているファンドや、欧州銀行のアジア支店など、どこまでが欧州規制の対象になるのか、かなりの議論をしたことが思い出される。結局誰も規制違反はしたくないので、保守的にリサーチ提供先を限定し、結局不利益を被ったのは顧客という状況になってしまった。

利益相反の問題は少ないのかもしれないが、無料で情報提供をすることによってビジネスを取ってくるコンサルや法律事務所も多い。当然取引があるからと言ってリサーチの内容を恣意的に変えてはいけないが、ここは手数料を別にするよりは、検証をして必要があれば行政指導や罰金を科すという方法でも問題ないように思う。

そもそもリサーチを無料で受け取ることに慣れてきた投資家が、喜んで手数料を払うようになるかというと無理がある。結局手数料がなければアナリストへの給料も払えなくなるので、あまりニーズのない小型株などのリサーチが廃止されるという、当たり前の結果となった。投資家がリサーチに払うコストも1/5に減ったという報道もあったが、各金融機関ではリサーチアナリストのリストラが進み、業界全体のアナリストの数が減ってしまった。結局情報が少なくなり、顧客がアクセスできるリサーチの数も減り、金融マーケットに対してプラスのインパクトがあったとは思えないという結果になっている。

この英国の動きを受けて欧州規制がどう変わるかに注目が集まる。くしくも米国ではこの欧州規制の域外適用の免除期限が間近に迫っているので、世界的な影響がある。欧州でもリサーチアンバンドリング規制緩和に向けた議論が加速するのではないだろうか。

信用リスク移転はクレジット市場を活性化させるか

Basel III最終化によって米国においてCredit Risk Transfer(CRT)の一部としてCLNが認められるようになるのではないかという期待が高まっている。これまでは、米国のRegulation Qに明確にCRTとして定められているのはCDSヘッジと保証であった。それ以外のリスク移転が不可能ということではないのだが、CLNがこれに該当するとは明確には書かれていない。

CDSヘッジと似たようなものなので実質的には全く問題ないはずだが、昨今の規制環境下において無理してリスクを冒す必要はないという風潮があるのだろう。大手銀行は特にリスク削減効果を狙ってCLNを増やすということは行っていない。したがって、実質的にはリスク削減が行われているのだが、その効果をRWAに反映させることはできていない。

一方地域ごとにはこれが認められているところもあるため、地銀がこれによってリスク削減効果を享受している。大手銀行に対する規制を強化し、中小銀行に対する規制を緩和してしまったことからSVBショックが起きたのだが、ここでも同じような構図になっている。

しかしこれがBasel IIIの最終化の中で可能になれば、CLNマーケットのすそ野が広がり、CDS取引の拡大にもつながる可能性がある。リスクが高いとされる商業用不動産担保ローンなどは、ポートフォリオ全体の12.5%だけでもヘッジすればリスクウェイトを100%から20%に下げられる。これは極めて大きな資本削減につながるので、このルールの明確化の効果は大きい。また、ローンポートフォリオのクレジットリスクを担保付で投資家に移転すれば、Credit Substitionが可能になる。担保が国債ならウェイトが10%に、現金であれば0%になるため、こちらの削減効果も大きい。

長年の規制強化と罰金によって、大手金融機関は君子危うきに近寄らずという状態になっている。少しでもリスクがあるなら諦めるという風潮が支配的になっている。一方で中小金融機関やヘッジファンドなどの銀行以外の市場参加者のプレゼンスが上がってきており、リスク量も増えている。今後の金融革新はこうした大手銀行以外の投資家や、スタートアップからでないと起きにくくなってきているようにも思う。

Term SOFRのクリアリングに向けた動きが見られ始めた

CMEがTerm SOFRとOvernight SOFRのベーシススワップのクリアリングを銀行と検討していると報道された。これまではOvernightのSOFRに取引流動性を集中させるために、Term SOFRの取引には制限がついており、クリアリングもできていないため、コスト高となっていた。これが可能になると、これまでエンドユーザーとのTerm SOFR取引のヘッジに苦戦していた銀行が、容易に取引できるようになり、市場の流動性と効率性向上に資することとなる。

しかし昨日も書いたように、当局はSOFR以外のベンチマーク取引を拡大することには慎重になっているため、BSBYやAmeribor同様、Term物SOFRに対して厳しい立場を取るのではないだろうか。そもそもディーラーマーケットがない取引をCCPでクリアリングするのが望ましいのかという問題も残る。

銀行の信用リスクを織り込んでいるCSRがIOSCO準拠と認定されないという問題の他に、信用リスクは含まれていないものの、ローンなどで幅広く使われ始めているターム物金利のクリアリングもできないということで、米金利市場はあらゆる市場分断が起きている。その分のコストは銀行やエンドユーザーが負担している状況であり、早晩何らかの対策が必要となる。

日本円のターム物金利であるTORFは未だ取引がそれほど多くないためこのような切迫した状況にはなっておらず、欧州でも同様である。利用者が多いからか米金利だけが特殊な状況となっているが、この流れはもうしばらく続きそうだ。個人的にはターム物のクリアリングは歓迎すべきであり、その分のリスクは流動性チャージなどによってIMを多めにとって対応すれば良いと思う。そして流動性が上がってくればその流動性チャージを減らして徐々に正常に近づけていけばよい。

CSRについては未だ方向性を見極めるための時間をとっても良いが、Term SOFRの方はそれほど不正リスクなども大きくないものと思われる。相対で取引が残るのもリスクなので、クリアリング自体はそれほど問題視する必要はないのではないだろうか。

いずれにしてもOvernight SOFTとTerm SOFRのベーシスを安定させないと不効率である。そしてこの市場を分断しておくメリットはあまりなく、当局が気にするようなLIBORの二の舞にもなりにくいのではないかと思う。

日本でもJSCC-LCHベーシスリスクをヘッジするためにSPVを使ってStructured Notesに仕立て上げてEnd Userに売るケースが見られるが、同様のスキームを使って、このOvernight SOFTとTerm SOFRのベーシスをヘッジしようという動きもみられる。このベーシスは流動性の問題から広がることがあるが、結局最終的にはゼロ近辺に収斂するというViewを持つ投資家が多いため、若干のレバレッジを掛ければ、おそらく取引が可能だろう。もちろん当局やARRCの判断も重要だが、ここまで市場取引を制限する理由があるかどうかは、デメリットも含めて議論する必要があろう。

LIBORの終焉と今後の金利指標

昨日ついにUSD LIBORが終焉を迎えた。もちろんSynthetic Liborで一部残るものもあるが、一般的には昨日2023年6月30日がLIBOR最後の日として記憶されることになるだろう。JPYやGBPなどの他の通貨はすでに2021年に移行を終えているので、日本ではあまり大きなニュースにはなっていないが、それでもYahooトップニュースにLIBORのことが出ていたのが興味深かった。

こうなると当然CSR(Credit Sensitive Rates)がどうなるかということに注目が集まるのだが、最終レポートが出ると言われていた昨日を迎えても、当局サイドからのアナウンスは見つからない。協議に時間がかかっているのかもしれないが、IOSCOから適格ベンチマークとして認定される可能性は極めて低いものと思われる。

このCSR問題は、シリコンバレーバンクなどの米地銀破綻を受けて米国では大きな問題になっている。そもそもLIBORの代替レートであるSOFRだと、基本的にリスクフリーレートであるため、銀行の信用力を反映していない。つまり、リスクフリーレートで貸付をしているところに銀行危機が起き、ファンディングコストが上がってしまうと、銀行としては損失になってしまう。

これを解決するためにBSBYやAmeriborなどのCSRが出てきたのだが、そのレート決定の裏付けとなる実取引が少なく、いわゆる逆三角形問題が起きている。EYなどの独立監査によるとIOSCO準拠とのことなのだが、結局LIBORと同じような不正につながるのではないかと当局が懸念するのは至極当然と言える。

それでもBSBYの場合裏付けとなる現取引は1日$600bnを超える日もあり、SOFRには及ばないとはいえかなりのボリュームになっている。Euriborの参照取引などに比べると遥かに取引量が大きい。SECのゲンスラー氏がこれを認めるとは全く思えないが、パウエルFRB議長からはAmeriborについて肯定的なコメントも出ている。こうした状況に鑑みると、IOSCOがTIBORのレビューを行い、その透明性に疑義を示していないことはラッキーなのかもしれない。そのため、日本では海外のようなCSRの問題が起きていない。そもそもIOSCOはベンチマークを認定する団体ではなく基準やBest Practiceを示すだけなので、今後どのような議論になるかはよくわからない。

結局銀行のファンディングコストの急上昇に対する懸念は強いものの、実際はSOFRをベースとした取引がメインとなっている。英国などでは、そもそもCSRの話もほとんど聞かれない。EURもEuriborからESTRへのシフトは起きるかもしれないが、CSRの議論は盛り上がっていない。本当に銀行危機が起きたら大変なことになるのだろうが、当局としてはそんなことが起きないよう規制を強化するというのがメインシナリオなのかもしれない。日本の場合はもう少し金利に関しては融通が利くというかFlexibleな印象があるので、本当に銀行危機が起きれば、金利を上げられる余地は他の通貨に比べて大きいような気がする。

まずはIOSCOの出方に注目したい。