G-Sib(グローバルなシステム上重要な銀行)リストの変化

毎年誰がG-Sibリストに入るかが話題になる。G-SibになってしまうとCapital add-onが課されるため、追加の資本コストが必要になる。TLACや追加の当局による監督も加わるため、金融機関にとっては無視できない問題である。G-Sibサーチャージを避けるために、バランスシートを縮小させる動きがマーケットの攪乱要因となったりもする。

バーゼルが定める算定式によって一定の水準(最近は130)を超えるとG-Sib認定がされるが、この130近辺にあり最近話題になっているのが、中国のBank of Communication、そして日本の野村證券と農林中金だ。今年は、ついにカナダのTD BankがG-Sibカテゴリ1に入った。三菱はカテゴリ2、みずほと三井住友がカテゴリ1となっている。

G-SibになってしまうとRWAの1%の追加資本が必要になるため、その影響は小さくない。サイズ、相互連関、複雑性、クロスボーダーの活動、持続可能性という5つのカテゴリのうち、野村證券の場合は、複雑性スコアが高くなっており、農中はサイズを表すスコアが近年上昇している。

各銀行とも、この分類を下げるよう何等かの努力をしていると思われるが、それによってマーケットが変動するのはあまり望ましくないように思う。シンプルな方が望ましいので仕方がないのかもしれないが、一定の水準を超えたら急に資本賦課を上げるのではなく、徐々に負担を上げるような仕組みはできないのだろうか。

担保管理、流動性管理の外注化

JPMがCCP向けの担保管理業務をスタートアップであるBatonに外注というニュースが出ている。Batonとの話は他のディーラーを含めて以前から話があったが、カストディアンに近い業務を手掛けていたこともあるJPMが採用したとなると、こうした動きが一気に加速するかもしれない。複数のCCPに拠出している担保を効率良くほぼリアルタイムで決済することが可能になる。

JPMはこれによるコスト削減効果を公表していないが、Batonによるとコストが半減してもおかしくないとのことだ。また、コスト削減以外にも、効率的に現金を動かすことにより、利子収入が20-25bp上昇するとのコメントもBatonはしている。

確かに、規制により流動資産の重要性は増しており、米国レポ金利急騰に際しては、JPMトップが規制を批判するコメントも出していた。流動性の重要性を痛いほど理解している銀行としては、こうしたところで流動性負担を軽減できるのであれば、単なるコスト削減以上の効果があると見込んだのかもしれない。

CCPに対する担保拠出額が急上昇している中、LCH、Eurexを含めた10にも上るCCPをつないで流動性確保をするというのは、確かにメリットが大きいかもしれない。

こうした動きは日本では遅れがちだが、今後の金融の行方を考えると、早めに対策を立てておいた方が良い分野かもしれない。

LIBOR改革は当局主導で進む

英国当局のFCAが先週木曜に来年第一四半期からはLIBORベースのスワップの提供を止めるべきと述べたレターを公表した。

ヘッジ等の明確な理由がある場合はそれを妨げるものではないが、標準スワップはLIBORではなくSONIAに持って行きたいとのことだ。確かにSONIA参照のスワップを行うことは現時点でも不可能ではなく、業界がその気になればできないことはないということなのかもしれない。というよりは、こうした当局の強いPushがない限りは、なかなか一気に移行させるということが難しいのだろう。

レターで述べられている通り、新規の変動利付債や証券化商品等でSONIAを参照するものが多くなってきており、SONIAを使うローンも増えてきた。しかし、既存のスワップについては、あまり移行が進んでいない。

また、各銀行に対して、LIBORの移行に関して法的に責任を有する取締役クラスを選任するよう求めている。日本でも来年どこかで似たような話になる可能性が極めて高くなってきた。そろそろ移行作業を本格化させなければならない時期がきたようだ。

LIBOR改革が一歩前進

今しがたISDAからLIBOR改革に関連したレポートが公開された。

参加者からの意見をまとめているが、過去5年間のHistorical Median Approachを大部分の参加者がサポートしたとのことだ。スプレッドの計算に経過期間を含めず、外れ値を除外せず、マイナスのスプレッドも除外しないという方向になりそうだ。計算期間に関しては、2営業日のいわゆるBackward Shiftを選好する参加者が多かった。

これによって2006年版のISDA定義集が変更されることになるが、今年中の最終化と来年実施が予定されている。

概ね予想通りの結果であまりマーケットインパクトは少ないものと思われるが、週明けの動きに注目したい。

LIBORからRFRへのシフトを加速するには

あらゆる場面で何度も議論はされているが、実際にはなかなか具体的な動きにはつながらないのがLIBOR改革である。だが、そろそろ当局がしびれを切らす時期に入りつつある。既に各国でLIBORを参照する取引のデータを当局が求めているだろうが、今後は定期的にこの割合が減っているかを示していく必要が出てくるものと思われる。

こうした移行を加速させるにはいくつかのやリ方があるが、最も簡単なのは、LIBORにリンクした商品の残高に対して資本賦課を行うというものがある。またはLIBORにリンクした商品を適格担保から外してしまうとか、LCR上のHQLAから外してしまうという方法も考えうる。

ほかにもLIBORリスクをいつまでも過大に抱えている会社に対してスプレッド上乗せを義務付けCVAを積み増してしまうという意見も報道されていたが、CVAは公正価値なので、おそらくCVA Capitalに手を加える方が現実的だろう。

その他は、通常の銀行検査で指導を加えていく方法で、日本ではこちらの方がなじみがあるのかもしれない。

来年は海外のCCPでの割引率の変更も予定されており、実際に行動を起こさなければならない時期に入ってくる。欧米の金融機関の場合は資本賦課を導入すれば一気に経営層が動き出し、急速にシフトが進むことが予想される。

まずはLIBOR参照資産の正確な把握を今年中には進め、それがどの程度減っているのかを月次程度で示せるようにしておかなければならない。来年これが全く減っていないとなると、LIBOR改革に非協力的と思われても仕方がないだろう。

Sponsored repoが米国レポ市場を変える

今年3月にFICCのSponsored repoのメンバー基準が緩和されたこともあり、FICCが米国レポ市場に占める割合が着実に拡大している。

そもそもSLRの影響で米系はレポ市場におけるプレゼンスを格段に落としているのは既に紹介した通りだが、このSponsored repoを使えば、MMF等の資金の出し手と行うレポと、反対方向のヘッジファンド等と行うリバースレポがネットできるため、バランスシートを使うことなく取引ができることになる。いわばレバレッジ比率規制がその拡大を促した仕組みと言えるだろう。

Sponsored repoは、OTCのクライアントクリアリングのようなものと捉えるとわかりやすいかもしれない。クリアリングブローカーたるSponsoring Memberが顧客のためにCCPで取引を清算することにより、実際の取引はすべてFICCを通したものとなり、オフセットする取引のネッティングが可能になる。このためレポ取引の最大の取引主体はFICCということになっている。

このSponsor Bankが少数の銀行に集中してしまっていることが、9月17日のレポレートの急騰を招く一要因となったと言われてもいるが、直近になってSponsor Bankの数が増え続けているようだ。

これまでは、四半期末が近づくと欧州銀行がバランスシートを縮小させることによりレポ市場が逼迫し、それをFEDが補うという形が続いていたが、欧州系がBaselのWindow Dressingとの批判を受けて四半期末のみにバランスシートを縮小する慣行を諦めつつあるように思えるため、こうなるとやはりSponsored repoに対する期待は高まる。またEBAのストレステストの変更も欧州系の行動に影響を与えることになるだろう。

レバレッジ比率規制の緩和は見込みにくいことから、今後もこの傾向には拍車がかかると思われ、ほとんどがFICC経由になる日も近いのかもしれない。Sponsored repoを使う場合とそうでない場合の資本コストの差はあまりにも大きいので、米国債投資を行う日本の投資家も早めに準備を進めていくことが必要だろう。

レバレッジ比率が短期金融市場を麻痺させている

一部の欧州系銀行のレバレッジ比率に対するバッファが減り続けているとの報道があった。平均的には、3%の最低比率を満たすために必要なティア1資本よりは約1.7倍程度の資本を確保しているようだが、ドイツ銀行、BNP、ABN Amro、SocGen等の余裕が少なくなっているとのことである。

バーゼルの分析によると、欧州銀大手行にかかる資本規制の中で最大のものがレバレッジ比率で、約6割の銀行がレバレッジ比率によって最大の制約を受けている。レバレッジ比率規制は、本来であればリスクベースで見た規制のバックストップとして導入されたものなので、これが最大の制約となっているというのは当初の意思に反すると思うのだが、米国でも同様の事象が起きている。

つまり、リスクの高い取引を減らしてもレバレッジ比率は向上せず、レポやJGBなどの安全資産を減らさないとこの状況は改善しないということになる。

ロジックは単純で、100億円のJGBを受け取って資金を貸し出すレポを行うと、レバレッジ比率によって3億円の資本を積まなければならなくなる。この資本に対して税引き後で10%を超えるようなリターンを上げるためには、5-6000万円近い収益が必要となる。米国の場合は5%が基準なので、1億円程度の利益が必要になる。レポでこのような収益を上げることは不可能なので、もし取引毎にハードルレートを計算して取引承認を行えば、レポビジネスからは撤退するのが経済的には得策ということになる。したがって、米国の大手銀行はほとんどレポ取引を行っておらず、総合採算で取引が継続できる銀行のみが市場に残る形になっている。

しかし、いくら短期の資金繰りが危険だからっといって、リスクの少ない取引をここまで規制する必要があるかには若干疑問が残る。お金を循環させるのが金融の役割であるはずなのに、資金の流れを止めてすべて中央銀行が資金供給をするようになってきている気がする。

米国レポ市場の混乱が政治問題化

9月に起きた米国レポマーケットの混乱について政治家が規制緩和を巡る議論の応酬を始めた。年末に向けた混乱を避けるため、FEDは$120bnものオーバーナイトの資金供給と$45bnの2週間タームレポの供給をコミットしているが、長期の解決策が必要というのは誰の目にも明らかだ。

JPMのダイモン氏の規制批判コメントはこのブログでも紹介したが、先週ムニューシン財務長官が金融危機後に導入された資本、流動性規制の緩和の可能性について言及した。しかしFRBのパウエル長官は水曜日にこれを真っ向から否定し、最近支持率を上げてきている民主党大統領選候補のウォーレン氏は、銀行出身のミュニューシン長官が、レポ市場の混乱に乗じて銀行規制を緩めようとしていると批判している。

日本では首相候補がレポ市場の話で議論を戦わせることなどあり得ない気もするが、それほど米国では金融規制が重要事項になっているということなのだろう。

しかしウォーレン氏がトランプ大統領に代わって当選した場合は、明らかに株式市場はネガティブに反応し、経済にとってマイナスという論調が増えてきている。今後の市場の波乱要因になるかもしれない。

私設取引所が金融サービスの価格破壊を加速させる

ディーラーやベンダーが集まって取引所(MEMX)を設立しようという動きが1月くらいに報道されていたが、木曜に当局に対する登録申請を行った。これまで当局との対話を進めてきたと予想されるため、ある程度一定の目途がついたということなのかもしれない。来年の中頃にはサービス開始を目指しており、これが承認されると米国15番目の取引所となる。BofA、UBS、Virtu Financial、Morgan Stanley、Fidelity、Citadel Securities等の連合となっており、既存のNasdaq、NYSE等にとっては脅威になる可能性があり、手数料引き下げが起きるかもしれない。.

Nasdaq、NYSEがデータサービスの手数料引き上げをしようとした際にSECがストップをかけたことがあったが、EMEXは取引所への接続とデータサービスには当面課金しないという方針を打ち出している。クラウドにデータを保存し、ユーザーが少ないフィーでデータにアクセスできるようにする計画もあるようだ。

最近手数料をゼロに引き下げたオンラインブローカーのCharles Schwab、E*Trade、TD Ameritradeなどもメンバーに名を連ねていることから株式取引に関するサービスの値下げ競争はこれからも激化していきそうだ。

最近の金融サービスの価格破壊は止まるところを知らない。これからは、ブローカー、銀行の役割がさらに縮小し、テクノロジー会社がメインプレーヤーになっていくことになるのだろう。