為替取引を行う際に、ヘッジファンドなどが、大手銀行の与信を利用して、複数の金融機関と有利な条件で取引できるFXPBがある。銀行としては、重要顧客のビジネスを囲い込み、担保資産も全て集中させるというメリットがある一方、想定外の市場変動が起きた時に巨額の損失を発生する可能性がある。なおかつ為替という取引の性質上、リスクに見合った収益性があるかという問題もある。
日本でも個人にFXサービスを提供するオンラインブローカーがPBに取引を集中させることがあるが、これもリスクリワードの観点から誰でも提供できるサービスではない。これを解決するために、一部外資系では、CSAの条件を極限まで厳格化し、ほぼリアルタイムでマージンコールを行い、担保不足に陥ったら強制終了させるというモデルが存在していた。確かに担保をリアルタイムで徴求し、担保不足になったら強制アンワインドすれば、理論上は、カウンターパーティーリスクは極限まで抑えられる。
しかし、ブッキングや担保送金の事務ミスなどのオペレーショナルリスクもあり、このリスク管理を担当する身としては、全くワークしないと思った記憶がある。夜中に起きた為替変動により、強制終了を告げるメールが来て、一瞬で判断を迫られたことがあったが、単なる送金ミスなのか、夜中の2時にわかるはずもない。確かに法律上は強制終了をさせる権利はあるものの、それを行使することによって起きるインパクトは計り知れない。
しかし、現在のテクノロジーをもってすれば、これはすべて解消できる可能性がある。特に米国では、昨年12月にクリアリングブローカーを介さない直接清算モデルに対するパブコメ募集が行われた。同時にビットコインやステーブルコインを担保としてい受け入れることをCFTCが実質的に承認し、その後も着々と検討を進めている。
規制サイドが前向きになっているのであれば、冒頭に紹介したリアルタイムマージンシステムが構築可能である。現在では一定の条件に基づいて行動を起こすスマートコントラクトが実現しており、ポジションの自動清算も容易になっている。そして、デジタル資産の決済が24/7で行える土壌が整備されつつある現在では、為替変動があれば24時間、休日でも担保を決済させることが可能になっている。
そもそもクリアリングブローカーは、顧客のリスクを保証し、清算基金を拠出するという役割があったのだが、顧客の担保が自動拠出が可能になり、担保不足時に強制終了ができるのであればブローカーは不必要となる。そもそも当初証拠金(IM)も、2週間などのクローズアウト期間に損失が拡大するリスクをカバーするものなので、担保の即時拠出が可能になればMPORは0となり、IMは必要なくなる。そして、カウンターパーティーリスクに起因する清算基金の理論的には不要になる。
また、発生しうる最大限のリスクを常にIMとして取っておくというコンセプトは以前から存在していたが、とりあえずこの担保をフルに取っておいて、後はスマートコントラクトによる自動マージンや自動清算を行えば、現代版FXPBのビジネスが完成する。
これを実現させるのが、スマートコントラクトによるリアルタイムマージン、リアルタイム自動清算、24/7の担保決済である。極端な話、24/7決済が可能であればデジタル資産を担保に使う必要もない。
既にKalshiEX、Polymarket US、Nadex、Gemini Titan、ForecastExなどはクリアリングブローカーを介さない自己清算型のモデルの提供を始めている。この点米国はやはり進んでいて、法整備とともに新たな新興企業が金融においても続々参入している。
いずれもトークン化担保と結びついた文脈で語られることが多いが、実はトークン化しなくても即時決済が可能であれば、自己清算モデルは実現可能である。どうしてもデジタルとかトークン化というと注目を集めやすいのだが、実はトークン化資産の担保化を進める以前に、FXPBや自己清算型のクリアリングモデルの構築は可能なのではないだろうか。
もちろん、こうした自己清算型モデルは、すべての資産に適用するとうよりは、株式や国債などの現物資産、為替などのレバレッジの低い資産により適しており、高レバレッジの商品に関しては既存のブローカーを介する方式の方が望ましいかもしれない。
どうも最近は、AIとかデジタル資産、ステーブルコインなどの新しい用語を使えば資金が付きやすい傾向があり、ビジネスの実態から離れてしまっているような気がしてならない。規制当局、中央銀行、大手銀行もこうした流れに取り残されないよう、様々なInitiativeを立ち上げているが、もう少し既存のビジネスに結び付けた議論が出てくることが、ひいては新しい分野の発展にもつながるように思う。