プライベートクレジットの危機が銀行規制緩和を後押し

プライベートクレジット市場の変調がリーマンショック直前に似ているという指摘が、頻繁に聞かれるようになってきた。確かに、ファンドの解約制限などの事態は、かつての「パリバ・ショック」を想起させる。現在の市場環境は間違いなく火種の一つではあるが、証券化市場に比べればプライベートクレジットの市場規模は5分の1程度であり、当時ほどの過度なレバレッジもかかっていない。そのため、金融システム全体を揺るがすような危機にまで発展する可能性は低いようにも思える。何よりも、今回は銀行部門の健全性が高く、直接的な痛みが少ないという点が決定的だ。

そもそも、プライベートクレジット市場への資金集中は、皮肉にも「規制強化の産物」と言える。リーマンショック以降、銀行に対する規制は継続的に強化され、マーケットメイク(市場流動性供給)機能への制約から流動性の低下を招いた。その結果、融資においても銀行の代替としてノンバンクやシャドーバンキングの占める割合が上昇した。当局もシャドーバンキングへの監視を強めようとしているが、銀行ほどコントロールは効きにくい。そうであれば、銀行規制を適正化し、本来の融資機能を呼び戻すのが最も現実的な解決策となる。

その意味で、直近の米国バーゼルIII最終化案の修正は、この考え方に沿ったものと解釈できる。今回のERBA(拡張リスクベース方式)による企業融資のリスクウェイト(RW)引き下げにより、大手銀行が追加で提供可能となる融資枠は4,410億ドルに達すると試算されている。

具体的には、投資適格(IG)企業向け融資のRWが従来の100%から65%へ引き下げられる。これにより企業融資のRWA(リスクアセット)が3,600億ドル減少し、理論上4,410億ドルの融資余力が生まれる計算だ。このRW変更の対象は、当初案では上場企業に限定されていたが、最終的には「非上場でもIG相当であれば適用可能」と緩和された。ERBA適用行のエクスポージャーの約53%がIG向けとされる中、この引き下げが与えるインパクトは極めて大きい。

また、地方銀行(中堅銀行)に対しても、企業融資のRWが100%から95%へ引き下げられ、約2,260億ドルの追加融資余地が創出される。

さらに、このRW引き下げが非上場企業にも適用されるようになったことで、ファンド向け融資も恩恵を受ける。IGファンドに対して65%のRWが適用可能になれば、従来の「非上場プレミアム(高い資本コスト)」がなくなり、銀行による貸し出しが容易になる。また、ファンドへの出資についても、資産特定が困難な場合に1250%へと跳ね上がるとされていたRWが現行の600%に据え置かれるなど、随所に緩和が見られる。

こうした一連の修正により、銀行はプライベートクレジット市場においてノンバンクに対し強力な競争力を取り戻すことになるだろう。いわば、米国のバーゼルIII緩和は、プライベートクレジット市場の不調を逆手に取る形で「大義名分」を得た格好だ。事実、米国では「規制強化が市民の生活(住宅ローンや中小企業融資)を脅かす」といった趣旨のテレビCMが流れるほどの激しいロビー活動も展開された。

以前議論した「SFT(証券金融取引)とデリバティブ取引のクロスプロダクト・ネッティング」のような市場機能維持に資する緩和と併せれば、米銀の収益向上余力は格段に高まったと言える。今後は自社株買いや配当増額を背景に、米銀の収益性向上と株価上昇が続く可能性は高い。

今後の焦点は、米国のこうした動きに他国がどう呼応するかだ。米国案がこのまま実現すれば、相対的に厳格な規制を残す欧州系銀行が不利になる場面も出てくるだろう。一方、日本は国際規制に対して世界で最も忠実な国の一つであり、米国のようなドラスティックなルール変更は期待しにくい。とはいえ、日本には詳細な明文化を避けつつ、日々の監督によって「匙加減」を調整する独自の柔軟性がある。それはそれで、極めて現実的かつ賢明な対応なのかもしれない。