英国がボーナス上限を廃止

英国が明日10/31からボーナスキャップを外すと報道されている。2014年に基本給の2倍までとしていたボーナスの上限を廃止し、英国シティの競争力を高めようという狙いのようだ。そもそも英国は当初からこのEU案には反対だったので、Brexitによって独自のルールを作ることができるようになった。

英国当局はこのボーナスキャップが金融機関で働く人のMobilityの阻害要因になっていたと主張しており、業績悪化時に報酬を下げることが可能になるため、金融の安定につながると述べている。

昔はこのキャップがなかったので、金融機関の基本給は低く抑えられており、好調な年は報酬を大きく上げる一方、不調時には報酬を大きく下げることで、収益を安定化させることができていた。ただ、ボーナス上限がないと巨大なリスクを取って収益を上げようというインセンティブが働くという理論で、キャップを導入することになったと記憶している。

キャップが設けられてからは、報酬水準を保つために基本給の引き上げが行われたが、逆に収益低下時に報酬を下げることができなくなり、あらゆるところで弊害が生まれた。そもそもボーナス上限がないからといって、巨額のリスクを取ることなどは昨今の規制環境下ではほぼ不可能だ。キャップが廃止されても、ボーナスの一定割合を数年間にわたって支払ったり、業績悪化時には支払ったボーナスの返還を求めることができるため、それほど大きな影響があるとは思えない。

基本給を上げすぎると、報酬に差がつかなくなり、以前なら報酬を下げて人をキープすることもできた場合に、解雇せざるを得ないケースが増えたりといった弊害もあるだろう。英国だけの動きだが、特に上限廃止で問題がが生じることはないものと思われる。

米国の決済短縮化のインパクト

SECが米国株、債券の決済期間のT+1化を打ち出し、8月から隔週でテストが始まっているが、欧州ETFに関して懸念する声が大きくなっている。欧州では約40%のファンドが米国関連の資産を扱っているため、ETFの決済がT+2で行われる一方、米国証券の決済がT+1になると、マーケットメーカーがミスマッチを埋めるべくファンディングコストを負担しなければならなくなることが懸念されている。期限に遅れてペナルティを科されるケースも増えるかもしれない。

米国内では大きな問題は生じないだろうが、ESMAが10/5付のペーパーで示した通り、ETF業界のコスト高につながる可能性がある。アジアではあまり話題になっていないが、同じ問題が発生するはずである。

大手行は問題ないかもしれないが、すべてのオペレーションがT+2決済を前提に作られているため、中小金融機関において、米国証券のみT+1にするための準備ができているのかどうかは心もとない。

これを避けるにはオートメーション化を進めるしかないのだろうが、アジアの場合はこれも遅れている。欧州ではETFのみ免除を検討するという話も聞かれるが、アジアも何らかの準備をしなくて良いのだろうか。日本の場合はETFが少なく投資信託も特殊なフローになっているのであまり問題ないのかもしれないが。。。

FRTBの実務的な理解が遅れている

遅まきながらFRTB関連の作業が本格化してきた。まずはデータを集めるのに苦労しているところが多いという報道もあるが、今のところモデル担当やクオンツ、ITなどの部門が必死で作業をしている。若干懸念なのはフロントのトレーダーやシニアマネジメントがその影響を正しく理解できていない点である。誰もがFRTB対策が必要とは認めているものの、そのインパクトについて詳細を語れる人があまりにも少ないように思う。

以前もSA-CCRの時にも似たようなことがあったが、結局施行されて初めてその重大性に気づくことになり、市場インパクトが突然大きく顕在化するということになりかねない。

一方で、作業の煩雑さと、昨今の市場急変によるボラティリティの高まりから、内部モデルをあきらめ、標準法で資本を積んだ方が良いという意見が支配的になりつつある。あまりに標準法の資本コストが高い分野に絞って内部モデル方式の承認を求め、その他は標準法でという方針になっているところが多そうだ。しかし、内部モデルを使うデスクが少なくなると、全体的なDiversificationが効かなくなるので、内部モデル採用デスクの所要資本が大きく変動しやすいということになる。

何とか内部モデルの承認を取ったとしても、実際に大きな市場変動が起きてモデルが不十分と判断された場合には、結局標準法を使うことになる。こうなると最初からすべて標準法を使った方が良いのでないかという話になる。FRTBの検討が始まったころは、ある程度の内部モデルの利用を想定していたため、若干楽観論が支配的だったが、結局すべて標準法ということになるとFRTBの影響は思ったより大きくなる可能性が高い。

そして、すべて標準法を使っていた方が、市場急変時に資本コストの変動とROEの急低下を避けることができ、プロシクリカリティを避けられるという効果もある。VaRではなく期待ショートフォール方式なので、Volatilityは高くないはずと言われていたのだが、ここまで市場変動が激しくなると、期待ショートフォールでもあまり変わりがなくなってしまう。特に株式やコモディティに関しては、昨今の市場変動だとあまり内部モデルに手間とコストをかけるのは割に合わないかもしれない。

昨今では、リスク管理にストレステストやシナリオ分析を多用するようになっており、極端な市場変動を想定して日々の業務を行うようになっている。したがって、市場ストレスを含んだ内部モデル方式を使うことによる資本削減効果は少なくなっており、これは今後もさらに少なくなっていくことが容易に想像できる。

最大手行ですらこのような議論をしているのだから、ほとんどの銀行において内部モデル方式は、あまり割に合わないのではないだろうか。とはいえ、そのような議論が現段階で詳細に行われているのかどうか定かではない。そろそろお勉強の時期を終えて、実際にどのように業務を行っていくのかを真剣に議論した方が良いのだろう。

英国当局レターから伺えるリスク管理高度化の方向性

英国中銀からのDear CROレターの内容についてもう少し考察してみる。Appendixには今後のリスク管理に重要な項目が列挙されているので、それを一つずつ見ていく。

カウンターパーティーリスクストレステスト

従来はポテンシャルエクスポージャー(PE)によるリミット管理が主流であったが、昨今の市場変動に際してPEでは不十分という意見が支配的となった。今回のレターで指摘されている通り、市場急変時の担保評価の変動によるリスクが十分に把握されていなかった。Adhocなストレステストや定期的なストレステストを行うところもあったが、それでは不十分とされている。こうなると日々数多くのストレステストを走らせる必要があり、それに応じてリミット管理を行うことがほぼ義務付けとなっている印象だ。2nd Line of Defenceがこれを管理すべきとあるので、信用リスク管理部等の第二線がこの役割を担っていくことになる。

集中リスク

顧客ごと、ポートフォリオごとの集中リスク管理が不十分と指摘されている。市場環境によっては流動性がないリスクについて適切なリスク管理やリミット管理ができるように、リスク管理を高度化させなければならない。

MPOR

古くて新しいトピックであるが、Margin Period of Riskがリスク管理上精緻に反映されていないという批判である。クローズアウトに時間がかかる場合、流動性に劣るポートフォリオの場合、非標準的な条項が入っている場合にはMPORを調整してそれが適切にPEなどのリスク管理指標に反映されていなければならない。

担保のヘアカット

担保の種類によって最低ヘアカット水準を2nd Lineが決めるプロセスができていない銀行があるとの指摘である。確かにレポのヘアカットなどは市場慣行で決まっている部分も多々あると思うので、フロントでヘアカットを決めてしまっているところもあるかもしれない。ここは以前から顧客交渉において非常に難しい部分はあったが、今後はある程度強く交渉していく必要があるのだろう。ただ、もう少し当局サイドからのPushがないと、大手アセマネやファンドの抵抗が予想される。少なくとも2nd lineが設定したヘアカットポリシーが必要とのことなので、銀行としては対応が必要となる。

顧客デューデリジェンス(新規、継続)

特に英国のLDIについての懸念なのだろうが、取引時にLDIファンドマネージャーの運用ファンドのリスクを、資産タイプごとに注意深く考慮していない銀行が多いとの批判である。ファンドのサイズやレバレッジ、流動性の違いに応じてリスクアペタイトを調整すべきとある。多くの銀行がこれができていないというのが若干驚きだが、特にLDIについてはこうしたリスク分類が不十分だったのかもしれない。運用資産の投資家にリコースがあるかどうかもきちんと把握すべきとあるが、これもファンドリスク管理の基本なので、もしかしたら中小銀行でこうしたプロセスがずさんなところがあったのかもしれない。

ファンドマネージャーの情報開示

こちらはアルケゴスに絡む問題なので理解しやすいが、NAV、流動性バッファ、レバレッジ、投資戦略などファンドの最新情報が常に把握できていないという批判である。担保が入ってこなかった時に迅速な意思決定を行えるように普段から情報収集を怠らないようにするのは基本である。通常はNAVトリガーをつけて定期的なディスクロージャーを義務付けているだろうが、ポジションが大きい先については頻繁な会話が必要となる。

オペレーション制約

ここからはオペレーションに関する問題になるが、まずは決済や担保プロセスのオペレーションについてである。ここでミスのないようにオペレーションの人材を増やすと書かれているわけではなく、オートメーションが重視されている点に注意が必要である。日本では、人員を増やしたり、ダブルチェック、トリプルチェックをすることによってミスを無くそうという考え方が支配的だが、海外ではすべてSTP化など、システム化によってミスに対応しようとしている。当然顧客によってゴールデンウィークにマージンコールを免除するなどといった特殊処理は不可能である。こうしたInefficiencyを極力なくしていくようにと主張しているようにすら読める。

マージンコール

担保コールやDisputeなどのプロセスがHighly Maualであることが問題視されている。ここでもAutomationが重視されている。市場急変によってマージンコールが増えれば、全てのリクエストを捌くことができなくなることが懸念されている。日本やアジアでは、巨額のマージンコールに応える場合には役員クラスの決済が必要といった話が聞かれる。当然データエラーがあるなら精査する必要はあろうが、マージンコールに決済が必要というプロセスは当局から見ればナンセンスである。本項目は「We expect firms to continue to focus on the automation of these margining processes.」 という一文で結ばれている。

担保に関する代替手段

市場急変時に緊急的にその他の担保を受け入れられるようにすべきという主張である。ここはおそらく手配済のところが多いだろう。

通貨スワップに対するリスクアペタイト

この後のいくつかの項目は省略するが最後にこの通貨スワップに関するコメントがある。ストレス時に対応できないほどの大きな通貨リスクを抱えている銀行があると書かれている。特にGeneral Wrong Way Riskを抱えた銀行に対する懸念が大きいようである。期間ミスマッチによりクローズアウト時にポジション解消ができないリスクが懸念されている。日本の顧客に対するドル調達の通貨スワップはまさにこれに当たるので、このポジションがあまり大きくならないように注意が必要というようにも読める。

このように、今回のレターはアルケゴスとはほぼ関係なく、銀行がさらにリスク管理の高度化をする際の指針が示されている。既に多くの銀行が対応を終えているか、進行中なので、アジアでも後れを取らないよう、リスク管理の高度化を加速させる必要があろう。

英国のDear CROレターが日本市場に与えるインパクト

10月5日に英国中銀から大手行のChief Risk Officer宛にカウンターパーティーリスクに関するレターが送られている。これは2021年のDear CEO Letterに続くものだが、Dear CROレターとでも言うのだろうか。英国中銀のフラストレーションが表れているのか、「前回伝えられたメッセージへの対応が完全になされていないのは遺憾である」と辛らつなコメントが見られる。

前回はアルケゴス破綻の後ということで、ファミリーオフィスやヘッジファンド向けのカウンターパーティーリスク管理やプライムブローカーサービスに関するリスク管理の高度化に各行とも力を入れていたが、どうやらそこが懸念の中心ではなかったという書きぶりだ。Bank of Englandが期待していたのは、アルケゴス破綻を受けて、それをその他の商品やビジネスへのRead across、つまり同じ検証をその他の分野でも行うことだったようだ。そしてその中心になっているのはアルケゴス破綻の原因となったEquity Financingではなく、債券部門の証券貸借取引やその他関連取引とされている。つまりレポや通貨スワップがやり玉に挙げられている。

たまたまアルケゴス破綻という事件はあったものの、当局が求めていたのは、それに対応する業務改善ではなく、カウンターパーティーリスク管理全般に亘るより大きなリスク管理の高度化であり、今になって考えてみるとそれはレポと通貨スワップだったと言っているように読める。

12月までにはさらなる改善プランを示さなけれはならないので、おそらくどこの銀行もこのレターへの対応に追われているものと思われる。そしてこのレターに書かれていることを考慮することが、今後のリスク管理に不可欠になっていくのは間違いない。海外ではコンサルティング会社も含めてかなりの作業を進めているようであり、業界スタンダードが確立されつつあるように思う。過去にも同じようなことが何回かあったが、その都度日本やアジアの銀行の対応が遅れ、いつの間にかインダストリースタンダードが出来上がってしまっていた。したがって、日本でもこの内容に注意を払っておく必要がある。

例えば、日本では長年カレントエクスポージャー方式に近い想定元本×%でデリバティブのリミット管理をするところが多かったが、海外ではPEによって枠管理をするのが標準となっていた。日本だけ信用リスク管理の手法が異なってしまったのだが、規制のグローバル化にも注意を払っておく必要がある。今回のレターでは、PE方式の不十分性を強調しており、何らかのストレステストを枠管理に導入することを提唱している。といってもこれは最初のDear CEO Letterにも書かれていたので、すでに大手行の間では主流になっており、すでに導入を終えているところが多いものと思われる(ただし日本ではあまり聞かれない)。MPORの厳格管理もすでにモデル変更を行っているところが多いだろう。

今回フォーカスとなったレポについては、昨年後半から海外ヘッジファンドによるJGBショートに絡む取引が多くなり、流動性がひっ迫した。日銀が国債買い入れを増やしたため、レポ市場も激しくひっ迫した。通貨スワップについては、ドル調達が常に日本の当局からの懸念事項として挙げられているが、そのサイズも無視できないサイズになっている。その意味ではグローバルバンクでも日本のリスクについての注目が高まっている。集中リスクについても重要な課題とされているが、日本のJSCCに集中したレポ取引はかなりのサイズになる。

また、通貨スワップについては、今回のLetterでも誤方向リスクについて言及されているが、日本の市場参加者がドル調達をする場合にグローバルバンクと行う為替スワップや通貨スワップは、グローバルバンクから見るとGeneral Wrong Way取引となる。したがって、状況によっては、そのキャパシティに制約がかかる事態が容易に想像できる。

このように、英国当局からのレターは、日本のマーケットについても極めて重要な内容を含んでいるため、詳細な内容については後ほど別記事でさらに詳しく見ていきたい。

日本も資本効率重視に舵を切るか

JPMが資本規制強化に対応するためにローンの証券化を増やしている。住宅ローンやオートローン、クレジットカードローンなどを含むリテールローンのエクスポージャーを積極的に落としに行っている。新しく最終化されるバーゼルIIIでは、$100ドルのRWAに対して$2の資本を積まなければならない。

JPMのローン残高は$1.3tn兆を超えるが、米国証券化市場は$0.5tnに満たない。JPMが取り組んでいる証券化ディールのサイズは$62.5bnとの報道もあったので、全体に占める割合はそれほど大きくないように見えるが、今後規制強化が進むにつれ、この割合を増やしていくことは間違いない。

こうした証券化は確かに若干の資本コスト削減につながるだろうが、ここまで資本規制が厳しくなると、当然ローンの出し手は銀行から、ノンバンクやプライベートファンドに移っていくことになるのだろう。だからこそ最近では、ノンバンクに対する規制強化が叫ばれているが、巨大銀行に対する規制に比べれば、まだまだ序の口といった感じだ。

ここからは、いかに資本を効率的に使うかというCapital Optimizationが重要になっていくだろうが、不思議と日本ではあまりこういった意見は聞かれない。ROEが海外ほど重要指標となっていないのと、ノンバンクが海外ほど大きくないからかもしれないが、外資系のトレーディングの現場で毎日のように資本コストという言葉が使われている中、日本だけが別世界になっているようにすら感じる。証券化市場のサイズも小さい。

しかし、後5年もすれば日本でも資本効率向上を目指す銀行が増え、さまざまな資本コスト削減ツールが使われるようになっていくものと予想する。やはりそのためには、企画部門が全社的に号令をかけるというやり方よりは、資本コストを各トレーディングデスクに分配し、トレーダーやセールス誰もが資本コストを意識するようにしていくことが重要だろう。

中国から日本への資金シフト

中国当局が自国民の海外投資を制限しようとしているという報道があった。国内投資家がオフショア口座を新たに開設するのをブローカーに禁止するという内容だ。同時に中国政府が支配する中央匯金投資有限責任公司が8年ぶりに4大銀行への巨額投資をしたと報じられてい。今後6カ月にわたってこの投資は続けられるようだ。確かにこれを受けて株価は上昇している。

何とか中国の株式市場を支えようという動きの一環のようだ。逆に言うとそれほどまでに海外投資家が中国から資金を引き揚げているということのようだ。7月から9月までに海外投資家は中国A株を110億ドル程度売り越している。来年の企業収益予想は11.6%増とそれほど悪くないにもかかわらず、政治的リスクもあるので慎重な投資家が多い。GDP成長率も5%超えが予想されているので、経済データと投資家行動にギャップがあるように見える。

一方日本ではNISAの資金のかなりの部分が海外へ流れているものの、資金流入も続いている。中国と日本がこのような状況になるのは20年ぶりくらいではないだろうか。中国に回っていた資金の移動先としてインドと並んで日本が重要な候補先の一つになっている。日本に対する海外からの問い合わせも増えており、関心が高まっている。直近ではJapan Weeksも開催され、資産運用特区に関する検討も急ピッチで進められているようだ。ここまで盛り上がっているのは久しぶりなので、今後の動きに期待が集まる。

バーゼルIIIの最終化タイミング

バーゼルIIIの最終案施行に向けて欧州の銀行はすでにかなりの資本を積んでおり、2028年の期限までにあと6億ユーロのTier 1資本を追加すればよいだけだというコメントが欧州当局から出されている。これは2022年末時点でEUの157行を対象にしたモニタリング調査の結果によるものである。

欧州のバーゼルIII最終案の施行は2025年1月からとなっており、2028年までの移行期間が設けられている。米国は6カ月遅れで施行開始となるが、移行期間が短いため最終期限はEUと同じタイミングになる。英国の銀行は施行開始を米国と同じように半年遅らせることを提案しているが、最終的な結論は2024年中に出されると予想されている。世界全体でみると、約2/3の国において2024年末までにほとんどのルールが施行され、残りは2025年に適用されると予想されている。

同じくバーゼル委員会からは、資本の不足額は以前予想した78億ユーロより少なく、約30億ユーロとなるとのコメントもあった。

当初はかなり大騒ぎになったが、各銀行における分析も進み、若干落ち着きを見せている。それでも一部のビジネスにとっては大きな資本コストとなるため、さらなるレビューが必要となる。

一つ懸念なのは、今回の変更がどれくらいのインパクト及ぼすのかが簡単には把握しずらいという点である。業界内では誰しもがBasel IIIのEnd gameについて話題にしているが、その影響について詳細に理解している人が極めて少ない。このままだと実際の計算をしてから始めて思いもよらない影響が明らかになり、市場流動性に支障をきたすということもありうる。ルールをあまりにも複雑にしたため、余計混乱を招くという典型例にならないことを願うばかりである。

中国から日本へのシフトは起きるか

世界の株式市場のシェアは、米国43%、EU11%、中国11%、日本5%、香港4%、UK3%となっており、中国や香港のプレゼンスが拡大してきたが、近年は中国、香港からの資金流出が著しい。過去を振り返ると、日本から中国へのシフトがかなりの勢いで続いてきたが、それが逆転しそうな勢いになってきた。

香港の株式市場は2000年には1兆ドルに満たなかったが、それがピークで6兆ドルを超えた。そこから過去3年で急速に規模を縮小し、今では4兆ドルちょっとになっている。中国企業の株式が3/4程度を占めるため、政治的緊張から欧米投資家がかなりの資金を引き揚げていることが明らかになっている。証券会社に置く最低残高や現状0.13%の印紙税引き下げなど、各種防衛策を打ち出しているようだが、この流れは止まらない。

以前は、アジアの拠点と言えば日本だったが、2000年代に入ってほとんどが香港に移っていった。現在は香港からシンガポールへと人が流れている。方や日本は資産運用立国を目指し、様々な改革を進めようとしている。

特に今年の資産運用高度化プログレスレポートは、業界関係者にとっても、ついにここまで踏み込んで提案したかという内容になっている。奇しくも中国に振り向けられていた資金の振り替え先を探すところが多く、日本とインドが良く候補に挙げられる。その中でも日本への投資は政治的リスクが少ないため、今後も資金流入が続く可能性がある。

政治的不安から香港を離れる人も多くなっているが、話を聞いてみると、やはりシンガポールが圧倒的に強い。ただ、日本のことを聞いてみると、「考えもしなかった」という答えが返ってくる。色々とメリットを説明すると、「なるほど、日本もありかも」という人も多い。税金が高いという認識があるようだが、最高税率は高いものの、住宅コスト、物価などを考えると、ミドルクラスに対してはそれほど大きな違いはない。海外にはあまり知られていない各種税制優遇もある。

金融庁の「拠点サポートオフィス」もかなりの成果を上げつつあり、ヘッジファンド業界の間で話題に出てくることも多くなった。資産運用特区の検討も進んでいるが、香港の状況に鑑みても今が絶好のチャンスと言えよう。生活の不安を口にする人が多いが、六本木あたりに特区を作ってニセコのような英語をメインとするようなEnglish Townでも作れないのだろうか。海外の大学や病院、研究所を誘致して、English Speakerに対する職を増やし、英語で生活できる地域が日本に一つくらいあっても良い気がする。いずれにしても中華街やコリアンタウンなどは既に存在している。

他国から移民を受け入れるとなると様々な問題がからむが、こと金融に関しては、海外の高度人材を一定程度呼び込むくらいはどこの国も推進している。特に日本に移住する人が増えれば、日本のお金を巻き上げてやろうというよりは、一緒に日本を盛り上げようという雰囲気になるはずだ。政府のイニシアティブはマスコミで叩かれることは多いが、今回は是非成功して欲しいものである。

短期金利市場が次のクラッシュを引き起こす

米国債の現物と先物のベーシスを取る取引が増えている。デュレーションをロングにするには様々な方法があるが、米国では、現物国債を買う、金利スワップの固定金利を受ける、先物をロングするといった選択肢の中で先物ロングのコストが安くなっている。現物を買うとバランスシートを使ってしまい、金利スワップにもCCPへの当初証拠金、あるいは相対取引のSIMMによる証拠金がかかる。先物も証拠金が必要なのだが、相対的なバランスシートコストや資本コストが安い。

こうして先物のニーズが極度に高まると、今度は逆に、バランスシート制約の少ないヘッジファンドが現物を買って、先物をショートするという取引が成り立つようになる。こうしたヘッジファンドは現金を潤沢に持っているわけではないので、国債を買う資金をレポで調達することが多い。

なんだか堂々巡りをしているように見える取引だが、市場のDislocationを見つけて裁定取引を行うこと自体は昔から行われていることである。ただし、最近はタームレポのコストが上がっているので、くOvernightで日々ロールする投資家が増えている。こうなると、レポ市場が動いてレポコストが上がった場合に一斉に取引解約が起きて市場変動が加速するリスクがある。

昔は安かったレポコストも規制強化によって上昇し、ディーラーのリスク許容度が落ちた今では、レポ市場が混乱する可能性は以前より高くなっている。ここが震源地になって市場がクラッシュする可能性は極めて高くなっている。市場がクラッシュした時にディーラーがレポのロールを断ることが目に見えているからだ。特に年末にかけてはディーラーのリスク許容度は極端に落ちる。

そもそもタームレポとオーバーナイトレポのコストがここまで異なってきているのは、オーバーナイトだとヘアカットを取らないという不思議な市場慣行に起因しているように思う。その意味では最低ヘアカットを決めようという一連の議論にはある程度の正当性があるのかもしれない。金利スワップなどほかの同じようなリスクを持つ商品に比べ、レポだけには当初証拠金がないというのはおかしい。

レポレートは貸出金利、金利スワップやその他の商品にも波及する。LIBOR改革によってSOFRへの移行が行われたが、SOFRの計算のインプットにはレポレートが含まれているからだ。

この辺りは日本とは状況が大きく異なっている。日本の場合は先物と現物のベーシスリスクは、7年の先物と10年国債といった7y‐10yの取引で表現されることが多いが、このベーシスはたまに思いもよらない変動を見せる。そして、その都度何人かの円金利トレーダーが突然市場から姿を消すということが起きる。そもそも流動性のある先物の年限が一つしかない。レポについては「もの」がないので、そもそも歪んだ価格形成になっており、日銀の政策変更を見込んだ国外からのショートニーズが混乱に拍車をかける。TONA先物も徐々に取引が増えてはいるものの米国の比ではない。

日本では米国のような経路で危機が発生することはないだろうが、米国でショックが起きればそれが日本にも何らかの形で波及することになる。少し頭の体操が必要のようだ。

Eurex EUR Swap Outright Curveの公表開始

BGCがEurexで清算されるEuro Swapレートカーブの公表を開始した。これまではLCHのカーブにスプレッドを加える形で取引が行われていたが、これがダイレクトにEurex レートで取引できるようになる。

これによって現在10年で3-4bpある、EurexスワップとLCHスワップのCCPベーシスがなくなるかもしれないという意見も聞かれるが、Eurexのメインユーザーである欧州リアルマネーは固定受けのニーズが多いため、結局フローは偏ったままになり、特にベーシスには変化はないものと思われる。

欧州当局者としては、EURスワップが、英国のLCHにリンクされたLCH金利+αでQuoteされるのは望ましくないのだろうが、この一連の自国保護政策がうまくいくかどうかはよくわからない。ある程度は無理やり欧州に移行することはできているが、結局米国や日本などの市場参加者からすると、わざわざ流動性に劣るEurexを使う必要性は低い。

国内プレーヤーのプレゼンスの大きい円とは若干様相が異なる。日本ではJSCCのシェアが7割を超え、市場参加者は流動性の高いJSCCプライスで取引をすることを選好している。日本円金利スワップについては、海外の市場参加者がJSCCに参加したいという声が強く、LCHに対する制限をなくしたからといって、JSCCの優位は変わらないものと思われる。

CFTCが米国顧客のJSCC参加に前向きになりつつあるコメントがいくつか見られるが、同時にLCHにも門戸開放し、バランスの取れた透明性の高い円金利スワップマーケットが構築されるのが、市場参加者としては最も望ましい。やはり人為的に市場の流れを操作しようというのは、健全な市場育成の観点からは望ましくないものと思われる。

ノンバンクに対する中銀特別融資

英国中銀が銀行以外のノンバンクセクターに対する緊急融資プログラムを創設する予定だと報道された。これはコロナショックなどの市場ショック時の一時的措置ではなく、恒久的措置として導入される予定だ。

NBFI(Non Bank Financial Intermediation)という新たなセクターの存在感が増し、金融危機が銀行以外から発生するのではないかということでNBFIに対する規制強化が叫ばれて久しいが、今回はNBFIにも銀行と同じようなショックアブソーバーを用意しようというものだ。銀行に資金を供給するだけでは危機を抑えることができないので、それ以外にも直接資金を供給しようということだ。

ここでいうノンバンクとしてはICPFsが想定されている。個人的にあまり聞いたことのない言葉だったが、Insurance Companies and Pension Fundsの略のようだ。つまり生命保険会社と年金基金、従来のリアルマネーがこれに該当する。まずはICPFsから始めて、他のノンバンクにも対象を広げるかどうか検討する予定とのことだ。この資金供給は国債を担保にした融資の形態で行われるが、適格担保を国債以外にも広げる可能性がある。英国中銀は、これと同時に銀行や保険会社に対する規制緩和を計画していると述べている。

確かに昨年9月のGilt Shockでは、金利上昇によって国債売却を余儀なくされたのは銀行ではなく、こうしたICPFsだった。金融危機以降このICPFsのバランスシートはほぼ倍増しており、銀行の成長率をはるかに凌いでいる。ノンバンクのバランスシートは市場全体のほぼ半分のシェアを占めるほどに成長しており、今後は銀行ではなく銀行以外が金融の中心になっていくことは間違いない。資産運用立国を目指す日本でも同じような動きがみられることになるだろう。