短期金利市場が次のクラッシュを引き起こす

米国債の現物と先物のベーシスを取る取引が増えている。デュレーションをロングにするには様々な方法があるが、米国では、現物国債を買う、金利スワップの固定金利を受ける、先物をロングするといった選択肢の中で先物ロングのコストが安くなっている。現物を買うとバランスシートを使ってしまい、金利スワップにもCCPへの当初証拠金、あるいは相対取引のSIMMによる証拠金がかかる。先物も証拠金が必要なのだが、相対的なバランスシートコストや資本コストが安い。

こうして先物のニーズが極度に高まると、今度は逆に、バランスシート制約の少ないヘッジファンドが現物を買って、先物をショートするという取引が成り立つようになる。こうしたヘッジファンドは現金を潤沢に持っているわけではないので、国債を買う資金をレポで調達することが多い。

なんだか堂々巡りをしているように見える取引だが、市場のDislocationを見つけて裁定取引を行うこと自体は昔から行われていることである。ただし、最近はタームレポのコストが上がっているので、くOvernightで日々ロールする投資家が増えている。こうなると、レポ市場が動いてレポコストが上がった場合に一斉に取引解約が起きて市場変動が加速するリスクがある。

昔は安かったレポコストも規制強化によって上昇し、ディーラーのリスク許容度が落ちた今では、レポ市場が混乱する可能性は以前より高くなっている。ここが震源地になって市場がクラッシュする可能性は極めて高くなっている。市場がクラッシュした時にディーラーがレポのロールを断ることが目に見えているからだ。特に年末にかけてはディーラーのリスク許容度は極端に落ちる。

そもそもタームレポとオーバーナイトレポのコストがここまで異なってきているのは、オーバーナイトだとヘアカットを取らないという不思議な市場慣行に起因しているように思う。その意味では最低ヘアカットを決めようという一連の議論にはある程度の正当性があるのかもしれない。金利スワップなどほかの同じようなリスクを持つ商品に比べ、レポだけには当初証拠金がないというのはおかしい。

レポレートは貸出金利、金利スワップやその他の商品にも波及する。LIBOR改革によってSOFRへの移行が行われたが、SOFRの計算のインプットにはレポレートが含まれているからだ。

この辺りは日本とは状況が大きく異なっている。日本の場合は先物と現物のベーシスリスクは、7年の先物と10年国債といった7y‐10yの取引で表現されることが多いが、このベーシスはたまに思いもよらない変動を見せる。そして、その都度何人かの円金利トレーダーが突然市場から姿を消すということが起きる。そもそも流動性のある先物の年限が一つしかない。レポについては「もの」がないので、そもそも歪んだ価格形成になっており、日銀の政策変更を見込んだ国外からのショートニーズが混乱に拍車をかける。TONA先物も徐々に取引が増えてはいるものの米国の比ではない。

日本では米国のような経路で危機が発生することはないだろうが、米国でショックが起きればそれが日本にも何らかの形で波及することになる。少し頭の体操が必要のようだ。