中国から日本へのシフトは起きるか

世界の株式市場のシェアは、米国43%、EU11%、中国11%、日本5%、香港4%、UK3%となっており、中国や香港のプレゼンスが拡大してきたが、近年は中国、香港からの資金流出が著しい。過去を振り返ると、日本から中国へのシフトがかなりの勢いで続いてきたが、それが逆転しそうな勢いになってきた。

香港の株式市場は2000年には1兆ドルに満たなかったが、それがピークで6兆ドルを超えた。そこから過去3年で急速に規模を縮小し、今では4兆ドルちょっとになっている。中国企業の株式が3/4程度を占めるため、政治的緊張から欧米投資家がかなりの資金を引き揚げていることが明らかになっている。証券会社に置く最低残高や現状0.13%の印紙税引き下げなど、各種防衛策を打ち出しているようだが、この流れは止まらない。

以前は、アジアの拠点と言えば日本だったが、2000年代に入ってほとんどが香港に移っていった。現在は香港からシンガポールへと人が流れている。方や日本は資産運用立国を目指し、様々な改革を進めようとしている。

特に今年の資産運用高度化プログレスレポートは、業界関係者にとっても、ついにここまで踏み込んで提案したかという内容になっている。奇しくも中国に振り向けられていた資金の振り替え先を探すところが多く、日本とインドが良く候補に挙げられる。その中でも日本への投資は政治的リスクが少ないため、今後も資金流入が続く可能性がある。

政治的不安から香港を離れる人も多くなっているが、話を聞いてみると、やはりシンガポールが圧倒的に強い。ただ、日本のことを聞いてみると、「考えもしなかった」という答えが返ってくる。色々とメリットを説明すると、「なるほど、日本もありかも」という人も多い。税金が高いという認識があるようだが、最高税率は高いものの、住宅コスト、物価などを考えると、ミドルクラスに対してはそれほど大きな違いはない。海外にはあまり知られていない各種税制優遇もある。

金融庁の「拠点サポートオフィス」もかなりの成果を上げつつあり、ヘッジファンド業界の間で話題に出てくることも多くなった。資産運用特区の検討も進んでいるが、香港の状況に鑑みても今が絶好のチャンスと言えよう。生活の不安を口にする人が多いが、六本木あたりに特区を作ってニセコのような英語をメインとするようなEnglish Townでも作れないのだろうか。海外の大学や病院、研究所を誘致して、English Speakerに対する職を増やし、英語で生活できる地域が日本に一つくらいあっても良い気がする。いずれにしても中華街やコリアンタウンなどは既に存在している。

他国から移民を受け入れるとなると様々な問題がからむが、こと金融に関しては、海外の高度人材を一定程度呼び込むくらいはどこの国も推進している。特に日本に移住する人が増えれば、日本のお金を巻き上げてやろうというよりは、一緒に日本を盛り上げようという雰囲気になるはずだ。政府のイニシアティブはマスコミで叩かれることは多いが、今回は是非成功して欲しいものである。

短期金利市場が次のクラッシュを引き起こす

米国債の現物と先物のベーシスを取る取引が増えている。デュレーションをロングにするには様々な方法があるが、米国では、現物国債を買う、金利スワップの固定金利を受ける、先物をロングするといった選択肢の中で先物ロングのコストが安くなっている。現物を買うとバランスシートを使ってしまい、金利スワップにもCCPへの当初証拠金、あるいは相対取引のSIMMによる証拠金がかかる。先物も証拠金が必要なのだが、相対的なバランスシートコストや資本コストが安い。

こうして先物のニーズが極度に高まると、今度は逆に、バランスシート制約の少ないヘッジファンドが現物を買って、先物をショートするという取引が成り立つようになる。こうしたヘッジファンドは現金を潤沢に持っているわけではないので、国債を買う資金をレポで調達することが多い。

なんだか堂々巡りをしているように見える取引だが、市場のDislocationを見つけて裁定取引を行うこと自体は昔から行われていることである。ただし、最近はタームレポのコストが上がっているので、くOvernightで日々ロールする投資家が増えている。こうなると、レポ市場が動いてレポコストが上がった場合に一斉に取引解約が起きて市場変動が加速するリスクがある。

昔は安かったレポコストも規制強化によって上昇し、ディーラーのリスク許容度が落ちた今では、レポ市場が混乱する可能性は以前より高くなっている。ここが震源地になって市場がクラッシュする可能性は極めて高くなっている。市場がクラッシュした時にディーラーがレポのロールを断ることが目に見えているからだ。特に年末にかけてはディーラーのリスク許容度は極端に落ちる。

そもそもタームレポとオーバーナイトレポのコストがここまで異なってきているのは、オーバーナイトだとヘアカットを取らないという不思議な市場慣行に起因しているように思う。その意味では最低ヘアカットを決めようという一連の議論にはある程度の正当性があるのかもしれない。金利スワップなどほかの同じようなリスクを持つ商品に比べ、レポだけには当初証拠金がないというのはおかしい。

レポレートは貸出金利、金利スワップやその他の商品にも波及する。LIBOR改革によってSOFRへの移行が行われたが、SOFRの計算のインプットにはレポレートが含まれているからだ。

この辺りは日本とは状況が大きく異なっている。日本の場合は先物と現物のベーシスリスクは、7年の先物と10年国債といった7y‐10yの取引で表現されることが多いが、このベーシスはたまに思いもよらない変動を見せる。そして、その都度何人かの円金利トレーダーが突然市場から姿を消すということが起きる。そもそも流動性のある先物の年限が一つしかない。レポについては「もの」がないので、そもそも歪んだ価格形成になっており、日銀の政策変更を見込んだ国外からのショートニーズが混乱に拍車をかける。TONA先物も徐々に取引が増えてはいるものの米国の比ではない。

日本では米国のような経路で危機が発生することはないだろうが、米国でショックが起きればそれが日本にも何らかの形で波及することになる。少し頭の体操が必要のようだ。