FRTBの実務的な理解が遅れている

遅まきながらFRTB関連の作業が本格化してきた。まずはデータを集めるのに苦労しているところが多いという報道もあるが、今のところモデル担当やクオンツ、ITなどの部門が必死で作業をしている。若干懸念なのはフロントのトレーダーやシニアマネジメントがその影響を正しく理解できていない点である。誰もがFRTB対策が必要とは認めているものの、そのインパクトについて詳細を語れる人があまりにも少ないように思う。

以前もSA-CCRの時にも似たようなことがあったが、結局施行されて初めてその重大性に気づくことになり、市場インパクトが突然大きく顕在化するということになりかねない。

一方で、作業の煩雑さと、昨今の市場急変によるボラティリティの高まりから、内部モデルをあきらめ、標準法で資本を積んだ方が良いという意見が支配的になりつつある。あまりに標準法の資本コストが高い分野に絞って内部モデル方式の承認を求め、その他は標準法でという方針になっているところが多そうだ。しかし、内部モデルを使うデスクが少なくなると、全体的なDiversificationが効かなくなるので、内部モデル採用デスクの所要資本が大きく変動しやすいということになる。

何とか内部モデルの承認を取ったとしても、実際に大きな市場変動が起きてモデルが不十分と判断された場合には、結局標準法を使うことになる。こうなると最初からすべて標準法を使った方が良いのでないかという話になる。FRTBの検討が始まったころは、ある程度の内部モデルの利用を想定していたため、若干楽観論が支配的だったが、結局すべて標準法ということになるとFRTBの影響は思ったより大きくなる可能性が高い。

そして、すべて標準法を使っていた方が、市場急変時に資本コストの変動とROEの急低下を避けることができ、プロシクリカリティを避けられるという効果もある。VaRではなく期待ショートフォール方式なので、Volatilityは高くないはずと言われていたのだが、ここまで市場変動が激しくなると、期待ショートフォールでもあまり変わりがなくなってしまう。特に株式やコモディティに関しては、昨今の市場変動だとあまり内部モデルに手間とコストをかけるのは割に合わないかもしれない。

昨今では、リスク管理にストレステストやシナリオ分析を多用するようになっており、極端な市場変動を想定して日々の業務を行うようになっている。したがって、市場ストレスを含んだ内部モデル方式を使うことによる資本削減効果は少なくなっており、これは今後もさらに少なくなっていくことが容易に想像できる。

最大手行ですらこのような議論をしているのだから、ほとんどの銀行において内部モデル方式は、あまり割に合わないのではないだろうか。とはいえ、そのような議論が現段階で詳細に行われているのかどうか定かではない。そろそろお勉強の時期を終えて、実際にどのように業務を行っていくのかを真剣に議論した方が良いのだろう。