SPACが変えた株式市場とそのメリット

昨年から急増したSPACを通じた上場について、自らも多くのIPOを手掛けたGSのCEOが警鐘を鳴らした。SPACとは特別買収目的会社と訳され、未公開会社の買収を目的として設立される法人だが、近年投資銀行の株式収益のかなりの部分を占めるようになってきている。かなり昔からあった手法だが、昨年突然金融の表舞台に出てきた。米銀大手5行が2020年第四四半期に軒並み前年比30%程度の収益増を果たした裏ににはSPACの影響もあると思う。

2021年のこの流れが続くかどうかは定かではないが、1月の出だしを見る限り、勢いは衰えていないようだ。今月のIPOによる資金調達額のうち、実に70%以上がSPAC経由となっており、GSのCEOが心配になるのももっともである。既に200億ドルを超える資金を集めているというから驚きだ。テクノロジー会社、電気自動車といったいかにも投資家の興味を引きそうな会社にとっては、非常に資金調達が容易になる。

上場といってもいわゆるブランクチェック会社という空箱への投資で、その後買収企業が決まるため、いろいろと利益相反もあるだろうし、情報開示についても通常のIPOとは異なるものとなる。前SEC議長のJay Clayton氏も昨年SPACの調査をしているとコメントしていたが、金融危機時に名をはせた、あのGery Gensler氏がSEC議長に就任したことから、今後はSPACをめぐる規制が強化されることが予想される。

とは言え、スタートアップ企業に迅速に資金が回るこの仕組みは完全に悪とは言い切れないメリットがあるのも確かである。日本ではなかなか実現にはハードルが高いが、特にベンチャー企業の少ない日本でもこうした工夫がなされても良いかと思う。昨年2020年にモビリティやテクノロジー分野の26社がSPACに買収されたが、そのほとんどは利益を上げていないにも関わらず時価総額が1000憶ドルを超えている。

あまりにも市場が過熱しているので、今後は規制や制度整備で一旦このバブル状態が落ち着くことになる可能性は高いが、それでも一定のルールが定められれば、企業の資金調達手段の一つとして存続していくことになるだろう。日本でもこうした革新が起きることが期待される。

事業会社はスワップ取引に対して担保を出すようになるか

事業会社のデリバティブ担保契約についてのニュースがRisk.netに出ていた。海外では事業会社も担保契約であるCSAを締結するようになっているようだ。Vodafoneの担保金額についての記述があったので、財務諸表を見てみると、確かに27頁にCash Collateral Liabilitiesという項目があり、これが19年度末のEUR2bnから、20年度末にはEUR5.3bnに増えている。脚注2を見るとデリバティブカウンターパーティーである金融機関から受け取った現金担保とある。返却しなければならない資金なので、借りている金額、つまり負債として計上されている。EUR以外で調達した社債をEURに倒す通貨スワップを行っていると記載されているので、こうした通貨スワップか、昨年の金利低下でIn the moneyになった金利スワップから来ているのだろう。

また、Mark to market derivative financial instrumentsという項目もEUR1.2bnからEUR4.4bnに増えており、デリバティブ契約のMTM Adjustmentと説明されている。そのまま読むとデリバティブ取引の勝ちポジションかと思うが、MTM Adjustmentと書かれているのでCVAやFVAを含めているのかもしれない。

その下にShort Term InvestmentsがEUR5.2bnあるが、独、英、日の国債や政府保証債のEUR1.7bnを含むとあり、そのうちEUR1.1bnは銀行に担保として拠出しているとある。

これを見ると事業会社であったとしてもかなりのデリバティブ取引を使っており、そのポジションも5000億円を超える水準になっている。ここまでくると、財務に与える影響は相当なものであることがわかる。担保オペレーションも整備し、CVAなどの影響も管理しているようなので、一部の一般事業法人の財務部門はデリバティブ取引に対しても相応の知識を持つまでに洗練されているように見える。

他の会社の例としてAppleの財務諸表P48を見てみても、金利スワップ、通貨スワップをヘッジに使っており、Master Netting AgreementとCollateral Security Agreementを締結していると書かれている。おそらくISDA/CSAとレポの契約を総称してこのように表現しているのだろう。

Microsoftの財務諸表P72にも、OTCデリバティブの標準的慣習に似た担保を出すことを求められているという表現があるので、何らかの担保拠出がされていることが伺われる。欧米では事業会社の大手になると、意外とCSAの締結が進んでいるのかもしれない。

リーマン後の取引先リスク削減の動きによるところもあるが、やはり大きいのはCVA、FVA、KVAなどのデリバティブ取引にかかるコストだろう。特に昨今の証拠金規制、清算集中規制、資本規制強化の流れの中、無担保取引は金融機関にとってもかなりのコストになる。顧客獲得のためにある程度優良企業には譲歩せざるを得ないとは思うが、それによってROEが下がってしまっては元も子もないので、一定程度のチャージをせざるを得ない。このコストを聞けば通常の大手企業であれば担保契約締結に向かうのは当然の結果だと思う。おそらくヘッジコストが半分とか1/4にまでなることは珍しくないからだ。

日本ではOver bankingもあり銀行がROEを下げてでも取引をするという傾向は残っているためなのか、事業会社の担保契約締結はそれほど進んでいないように思う。しかしCVAやROEを気にするようになると、欧米のようなプライシング慣行が導入される日も遠くない。そのためには、即時決済や同時決済など、日本の決済システムの高度化が急務であり、人手を介してミスがないようにダブルチェックをするようなやり方から、システム化と自動化を進めていく必要がある。事業会社向けにこうした決済関連のサービスを提供する会社が増えても良いだろう。