事業会社はスワップ取引に対して担保を出すようになるか

事業会社のデリバティブ担保契約についてのニュースがRisk.netに出ていた。海外では事業会社も担保契約であるCSAを締結するようになっているようだ。Vodafoneの担保金額についての記述があったので、財務諸表を見てみると、確かに27頁にCash Collateral Liabilitiesという項目があり、これが19年度末のEUR2bnから、20年度末にはEUR5.3bnに増えている。脚注2を見るとデリバティブカウンターパーティーである金融機関から受け取った現金担保とある。返却しなければならない資金なので、借りている金額、つまり負債として計上されている。EUR以外で調達した社債をEURに倒す通貨スワップを行っていると記載されているので、こうした通貨スワップか、昨年の金利低下でIn the moneyになった金利スワップから来ているのだろう。

また、Mark to market derivative financial instrumentsという項目もEUR1.2bnからEUR4.4bnに増えており、デリバティブ契約のMTM Adjustmentと説明されている。そのまま読むとデリバティブ取引の勝ちポジションかと思うが、MTM Adjustmentと書かれているのでCVAやFVAを含めているのかもしれない。

その下にShort Term InvestmentsがEUR5.2bnあるが、独、英、日の国債や政府保証債のEUR1.7bnを含むとあり、そのうちEUR1.1bnは銀行に担保として拠出しているとある。

これを見ると事業会社であったとしてもかなりのデリバティブ取引を使っており、そのポジションも5000億円を超える水準になっている。ここまでくると、財務に与える影響は相当なものであることがわかる。担保オペレーションも整備し、CVAなどの影響も管理しているようなので、一部の一般事業法人の財務部門はデリバティブ取引に対しても相応の知識を持つまでに洗練されているように見える。

他の会社の例としてAppleの財務諸表P48を見てみても、金利スワップ、通貨スワップをヘッジに使っており、Master Netting AgreementとCollateral Security Agreementを締結していると書かれている。おそらくISDA/CSAとレポの契約を総称してこのように表現しているのだろう。

Microsoftの財務諸表P72にも、OTCデリバティブの標準的慣習に似た担保を出すことを求められているという表現があるので、何らかの担保拠出がされていることが伺われる。欧米では事業会社の大手になると、意外とCSAの締結が進んでいるのかもしれない。

リーマン後の取引先リスク削減の動きによるところもあるが、やはり大きいのはCVA、FVA、KVAなどのデリバティブ取引にかかるコストだろう。特に昨今の証拠金規制、清算集中規制、資本規制強化の流れの中、無担保取引は金融機関にとってもかなりのコストになる。顧客獲得のためにある程度優良企業には譲歩せざるを得ないとは思うが、それによってROEが下がってしまっては元も子もないので、一定程度のチャージをせざるを得ない。このコストを聞けば通常の大手企業であれば担保契約締結に向かうのは当然の結果だと思う。おそらくヘッジコストが半分とか1/4にまでなることは珍しくないからだ。

日本ではOver bankingもあり銀行がROEを下げてでも取引をするという傾向は残っているためなのか、事業会社の担保契約締結はそれほど進んでいないように思う。しかしCVAやROEを気にするようになると、欧米のようなプライシング慣行が導入される日も遠くない。そのためには、即時決済や同時決済など、日本の決済システムの高度化が急務であり、人手を介してミスがないようにダブルチェックをするようなやり方から、システム化と自動化を進めていく必要がある。事業会社向けにこうした決済関連のサービスを提供する会社が増えても良いだろう。