通貨スワップの取引量が増えている

通貨スワップ、特にドル円の通貨スワップがここ数年増えている。Clarusのブログによると特に昨年2020年のドル円通貨スワップが大きくなっているように見える。

特に最近はLIBOR改革もあるので、LIBOR建ての変動利付債の発行は少ないだろうから、ほとんどがドル建て固定利付債を円に倒す際に発生する通貨スワップだと思われる。これは別途説明した通り、ドル円ベーシスの縮小圧力となる。他にもUSDやAUD建てでJGBに投資するアセットスワップのフローも入っているものと思われる。ドル円ベーシスが拡大しないのは、こうしたフローの影響も少なからずあるだろう。

米国では社債発行が2020年に急増したが、これに投資したい日本の機関投資家が通貨スワップでドル調達を行ったというフローもあるだろう。こちらはベーシス拡大要因になるが、米金利が上昇していけば、引き続きこの方向の通貨スワップや短期の為替スワップが増えていくものと予想される。

ここで注目されるのは、今年後半に通貨スワップがLIBORではなくRFRに変更されるかどうかという点である。海外ではRFRを両方のLegに使った通貨スワップも見られ始めており、HKEXでは、2021からHKDとUSD、CNYとUSDなどのRFR通貨スワップのクリアリングまで計画している。USDのLIBOR消滅が18か月延期されたからといって、新規取引にLIBORを使うことはできなくなるため、今年のどこかで、おそらく第三四半期くらいにはRFRの通貨スワップが主流になっていかないといけない。2020年12月時点での報道ではRFRの通貨スワップは21取引しかDTCCに報告されていなかった。

Fallbackのタイミングも例えば円Legが先にLIBORからRFRになり、その後ドルLegがSOFRになるといった二段階Fallbackになると事務的に煩雑である。一方がLIBORでもう一方がRFRというスワップもあまりにも面倒だ。個人的には両方のLegを同時に変更した方が望ましいと思うが、この辺りも業界のコンセンサスを取っていかなければならない。本年末までにはRFR同士の通貨スワップがマーケット標準となってなけれならないからだ。固定vs固定で取引をする発行体や投資家にはあまり影響がないのかもしれないが、裏で標準的なMTM条項付スワップを行うディーラーにとっては重要な問題である。

日本の投資家や発行体にとっては通貨スワップは必須であり、今後もニーズが高まっていくのは間違いない。ドル円通貨スワップのCCPクリアリングはハードルは高いだろうが、日本の金融の発展のためには、この通貨スワップの使い勝手は重要な問題である。例えば、米銀が日本の投資家と取引した場合、まずは日本時間で円を払って、NY時間でドルを受け取るというケースがある。反対の場合は問題ないが、日本の企業の信用力が低い場合は、この数時間の決済リスクが問題になる。これをスワップの元本交換をCLS決済にするような変更ができれば、このような決済リスクの制約はなくなる。

SLRやCCARなどの制約によって通貨スワップのコストが高くなったり、制限がかけられることも多いが、日本としては通貨スワップの流動性を下げる規制変更には注意を払っていく必要がある。おそらく通貨スワップの制約が金融経済活動に与える影響が最も大きいのが日本だと思われるからだ。本来なら、決済システムを何とかしてクリアリングできれば良いのだが。