Dirty CSAが増加し始めた

金融危機後、大手銀行は担保の種類を取引のプライシングに織り込むようになり、特にVM(変動証拠金)については、現金担保がほぼ標準となった。ほとんどのCCPでは、VMとして取引通貨建ての現金のみを認めている。米国の証拠金規制でもVMは現金に限定されているが、日本では現金以外の担保も認められている。しかし、特に欧州中心に、証券などに適格担保を拡大するという慣行が拡がり始めている。

一時期、Standard CSAというアイデアが検討されていた。これは、たとえ円を担保として差し入れた場合でも、ドルのディスカウントカーブを適用できる仕組みである。結局、計算やオペレーションがあまりに複雑で実現には至らなかったが、これが実現すれば、少なくとも日本の通貨スワップ市場にとっては朗報となる。つまり、円担保を差し入れた場合でも、マーケット標準のドルディスカウントカーブを適用してドル円通貨スワップを取引できるようになる。

現状、円担保で通貨スワップを行う場合、ディーラーはクロスガンマヘッジを行う必要があるため、流動性がどうしても低下してしまう。特に長期のスワップでは、円担保の取引にプライスを提示しないグローバルディーラーもいる。顧客とのスワップであれば、こうしたコストを何とか織り込んでクォートすることも可能だろうが、ディーラー間取引でそこまでの対応をする理由は乏しい。コストについては、EUR対USDの取引で40%にも上ることがあると報じられたこともある。

一方、SwapAgentでは、KfWがEUR担保を差し入れながら、ドルディスカウントのメリットを享受できるようになったと報じられている。これは、Standard CSAで検討されていたTransport Currencyを利用した仕組みとのことだ。この仕組みが今後どこまで普及するかは不明だが、日本でも利用できるようになれば、まさにゲームチェンジャーとなるだろう。

また、最近の調査では、現金担保に限定せず、適格担保の範囲を拡大する動きも報じられている。英国のGiltショックでは、金利の急上昇を受けて、国債を現金化して担保に充てるニーズが急拡大し、市場の混乱を引き起こしたことは記憶に新しい。現金化に苦労した年金基金などが、大手ディーラーに対して適格担保の拡大を求めるケースも増えた。標準的でクリーンなCSAに対し、こうした非標準的な条件を含むCSAは「Dirty CSA」と呼ばれるが、その割合がここ数年で増加しているとのことだ。

トレーダーにとって、こうした条件はできれば避けたいものだった。Giltショックの際には、緊急避難的な対応として、3か月間に限り国債をVMの適格担保とするなど、暫定的な条件変更で乗り切ろうとしていた。しかし、ここにきて顧客側のニーズがかなり強まっており、5~10bpのコストをプライスに織り込みながら、こうした条件を受け入れる銀行も出てきたようだ。顧客によっては、さらに大きなチャージが課されるケースもあるという。

特に欧州でこの動きが顕著に見られる。理論上は、こうした条件をプライシングモデルに反映させることも可能だが、いまだに多くの銀行で実装されていないようだ。そのため、実際にはかなり大まかなプライシングが行われているとみられる。顧客側には相応のコストを負担させられているケースも多いだろうが、証券担保を差し入れられるのであれば、コストを許容するという判断なのだろう。また、ローカルの中堅銀行などには、こうしたコストを上乗せせずに取引しているところもあるように思われる。

いずれにしても、適格担保の拡大については、業界全体として何らかの解決策が必要である。SwapAgentはその一つとなり得るが、レポ市場の流動性を高めてコストを引き下げ、現金のファンディングを容易にすることも重要だ。ブロックチェーンを活用したオンチェーンレポによってファンディングコストを引き下げることも、検討に値するかもしれない。また、担保最適化やネッティングを通じて、必要となる担保自体を削減する取り組みも継続していく必要がある。

高度なプライシングモデルを持たないローカル銀行や小規模銀行が非標準的な担保を多く受け入れ、市場が急変した際に、思わぬところから巨額の損失が発生することは、金融システムの安定という観点から望ましくない。もっとも、適切なプライシングができない以上、財務上は損失が発生しないという意見もある。しかし、それは単に損失が表面化していないだけであり、実質的には隠れ損失にすぎない。金融市場が相互につながっている以上、リスクを適切に価格付けできない金融機関にリスクが集中するという、逆選択が生じる危険性は常に存在するのである。