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某米系外資系投資銀行にて長年規制・市場動向を追っています。

LIBOR移行に関するLCHの市中協議

LCHのLIBOR移行プランについての問い合わせが増えてきた。とは言え、現在行われている市中協議の詳細は、自分の知る限り公開されていないと思うので、ここで書くことはできないが、いくつか新聞報道やLCHのコメントから分かっている内容をまとめてみる。

まずは昨日1/15のBloombergの記事によると、本年末を控えたLIBORの公表停止前にLIBORから新レートへの切り替えを行うことについての意見募集と書かれている。この切り替えによって生じた損益はCCPを通じてやり取りするという案になっている。CMEも同様の意見募集を14日の木曜日に始めたとある。

別途Risk.netにも書かれていたが、スワップの切り替えの際に、ISDAプロトコルに基づくFallback Rate RFRに変更されるのではなく、マーケットスタンダードである、標準的RFRスワップに変更するというのが、今回の意見募集の趣旨である。

この二つのスワップを仮にStandard OISとFallback Rate OISと呼ぶことにすると、条件はほぼ同じだが、少しだけ性質が異なる二種類のスワップがCCPに存在してしまう。こうなると、流動性が分断され、参加者破綻時などにオークションを掛ける際も面倒なことになり、リスク管理上も望ましくない。その後のコンプレッションや解約のハードルも上がる。

特にFallback Rate OISは、Fallback発生時には一瞬取引量が増えるが、その後も継続的に取引が行われる可能性は低く、普通に考えればStandard OISにシフトしていくことになる。当然流動性がなくなれば、クローズアウト時のコストも大きくなるため、当初証拠金所要額も上げざるを得ない。

一時的にFallback Rate OISをクリアリングしても良いが、どうせ使われなくなるのであれば、Fallback Rate TONAができた瞬間にStandard TONAに変換してしまえば、二種類のスワップが併存する状況は避けられる。

CCPとしては、なるべく多くの商品を清算してサービス向上を図りたいというニーズもあるだろうが、流動性向上のためにメインの商品に絞ってマーケットスタンダードを作っていくという視点が求められると思う。その意味ではLCHの提案は個人的には賛成である。おそらく市中協議でも市場参加者からの支持が得られるのではないかと思われる。

次期SEC議長候補が市場にもたらすもの

先週Gary Gensler氏が次期SEC議長候補になっているとの報道が相次いだ。ゲンスラー氏と言えば金融業界の方であれば覚えている方も多いと思うが、オバマ政権でCFTC長官を務めたやり手で、ドッド・フランク法導入時に様々な金融規制強化を推進した人物である。

個人的には金融業界の方向を決める際に規制が果たす役割が増えたのは彼の功績?によるところが大きい。バイデン氏と近く、昨年11月から金融規制等に関してアドバイスを行っていたので、今回の報道はそれほど驚きではないものの、前議長が規制緩和を進めてきただけに、今後の流れが一気に変わる可能性がある。

近年はブロックチェーン技術や仮想通貨について大学で講義したりしていたので、ビットコイン等の市場について新しい規制が入ってくるかもしれない。もともとGS出身者で、デリバティブ取引を支持する立場だったのが、金融危機を受けて完全にデリバティブ市場を抑えに行ったことを考えると、仮想通貨市場に同様の規制をかけ始めたとしても不思議ではない。以前見せたようななりふり構わず突進する推進力を見せれば、ビットコイン市場暴落の可能性は捨てきれない。

その他のフォーカスとしては、天候リスクの開示、職場のダイバーシティ等が予想されている。いずれにしても、業務遂行能力が高く、極めて有能な人物であることは間違いないので、そのまま議長に就任すれば、良くも悪くもマーケットに対する影響は大きくなるだろう。

BREXITにもかかわらずLCHの躍進は続く

BrexitでEUの株取引が英国からEUに流れているという話をしたが、デリバティブ取引についてはやはり、それほどの変化はないようだ。先週のデータはまだ明らかになっていないが、2020年を通してみると、LCHのスワップのクリアリングは、極めて好調であった。

金利スワップをクリアするSwapClearの取引件数は、昨年640万件で想定元本ベースでは$1.1 quadrillionに上ったようだ。1000兆ドルとなると、もう何が何だかよく分からない数字だ。

同時にSwapAgentの取引量も二倍以上に増えているとのことである。このSwapAgentの内容は別途詳しく書きたいと思うが、要はCCPに清算するわけではないものの、CCPのプロセスを使って事務の効率化が図れるというものだ。CCPのようにカウンターパーティ―リスクを軽減することはできないが、担保管理や決済管理が効率的に行える。スワップションや通貨スワップ等、CCPで清算すると当初証拠金が莫大になってしまうような取引についても使えるという利点がある。

金利スワップのみならず、FXやCDSの世界でもLCHの地位は揺らぐ兆しはないようだ。やはり現物株とデリバティブは相当異なっており、先物になるともっと影響は少なくなるのだろう。

ビックバン2.0という話も英国では出ており、Brexit後の各種制約の中、金融センターとしての地位を保つために、様々な手を売ってくることが考えられる。ロンドンの金融センターとしての地位を危ぶむ記事を書いたばかりではあるものの、デリバティブや先物におけるプレゼンスを高めることによって、金融に革新を起こしてくれるかもしれないという期待もある。少なくともここまでの地位を確立したLCHの牙城を崩すのは、なかなか難しいものと思われる。

通貨スワップの取引量が増えている

通貨スワップ、特にドル円の通貨スワップがここ数年増えている。Clarusのブログによると特に昨年2020年のドル円通貨スワップが大きくなっているように見える。

特に最近はLIBOR改革もあるので、LIBOR建ての変動利付債の発行は少ないだろうから、ほとんどがドル建て固定利付債を円に倒す際に発生する通貨スワップだと思われる。これは別途説明した通り、ドル円ベーシスの縮小圧力となる。他にもUSDやAUD建てでJGBに投資するアセットスワップのフローも入っているものと思われる。ドル円ベーシスが拡大しないのは、こうしたフローの影響も少なからずあるだろう。

米国では社債発行が2020年に急増したが、これに投資したい日本の機関投資家が通貨スワップでドル調達を行ったというフローもあるだろう。こちらはベーシス拡大要因になるが、米金利が上昇していけば、引き続きこの方向の通貨スワップや短期の為替スワップが増えていくものと予想される。

ここで注目されるのは、今年後半に通貨スワップがLIBORではなくRFRに変更されるかどうかという点である。海外ではRFRを両方のLegに使った通貨スワップも見られ始めており、HKEXでは、2021からHKDとUSD、CNYとUSDなどのRFR通貨スワップのクリアリングまで計画している。USDのLIBOR消滅が18か月延期されたからといって、新規取引にLIBORを使うことはできなくなるため、今年のどこかで、おそらく第三四半期くらいにはRFRの通貨スワップが主流になっていかないといけない。2020年12月時点での報道ではRFRの通貨スワップは21取引しかDTCCに報告されていなかった。

Fallbackのタイミングも例えば円Legが先にLIBORからRFRになり、その後ドルLegがSOFRになるといった二段階Fallbackになると事務的に煩雑である。一方がLIBORでもう一方がRFRというスワップもあまりにも面倒だ。個人的には両方のLegを同時に変更した方が望ましいと思うが、この辺りも業界のコンセンサスを取っていかなければならない。本年末までにはRFR同士の通貨スワップがマーケット標準となってなけれならないからだ。固定vs固定で取引をする発行体や投資家にはあまり影響がないのかもしれないが、裏で標準的なMTM条項付スワップを行うディーラーにとっては重要な問題である。

日本の投資家や発行体にとっては通貨スワップは必須であり、今後もニーズが高まっていくのは間違いない。ドル円通貨スワップのCCPクリアリングはハードルは高いだろうが、日本の金融の発展のためには、この通貨スワップの使い勝手は重要な問題である。例えば、米銀が日本の投資家と取引した場合、まずは日本時間で円を払って、NY時間でドルを受け取るというケースがある。反対の場合は問題ないが、日本の企業の信用力が低い場合は、この数時間の決済リスクが問題になる。これをスワップの元本交換をCLS決済にするような変更ができれば、このような決済リスクの制約はなくなる。

SLRやCCARなどの制約によって通貨スワップのコストが高くなったり、制限がかけられることも多いが、日本としては通貨スワップの流動性を下げる規制変更には注意を払っていく必要がある。おそらく通貨スワップの制約が金融経済活動に与える影響が最も大きいのが日本だと思われるからだ。本来なら、決済システムを何とかしてクリアリングできれば良いのだが。

米金利は上昇を続けるのか

米上院選ジョージアの2議席を民主党がともに獲得したことにより、上院は民主共和で50/50となった。これにより積極的な財政政策が打てるということで、米10年金利は1%を超えるところまで上昇した。多くの市場参加者が予想した通りイールドカーブのスティープニングは加速し、5y30yは2016年以来の幅に広がっている。

インフレ期待も高まり、インフレの指標に使われる10年のBreakevenは一気に2%を超えた。このような金利のベアスティープニングを予想する投資家は多かったので、恩恵を受けたヘッジファンドも多いのではないだろうか。そして、国債増発が既定路線となり、このトレンドはしばらく続くとの予想がマーケットコンセンサスとなっている。

とは言え、日本だって国債増発を続けてきても金利はずっと下がってきた。日銀が国債を吸収したというのもあるが、最近では他の国でも国債増発が金利上昇につながるという証拠はない。国の債務を増やしてもお金を擦り続ければ、結局は金利が低くても債券に資金が回り、金利上昇が抑えられる。例えば、金利が1%でもあれば日本や欧州の機関投資家からすると、魅力的な水準に見えるだろう。

米国でも国債購入を減らすテーパーリングが懸念されているが、実際は既に購入額は減少傾向にある。購入額を増やせば金利上昇を抑えることは可能だろう。

また、特に日本のケースがそうなのだが、金利が上がってしまうと、国債の利払い費用が大きくなってしまう。財政破綻を避けるためにも金利はある程度低位安定を続けた方が政策的には望ましい。

こうした状況を総合すると、このまま金利が一方方向に上がっていくとは考えにくいと思ってしまうのは、自分が日本にいるからなのだろうか。米国のみが突出して2%、3%のような金利上昇を続けていくとはとても思えない。まずはせいぜい1.25%を目指すだろうが、その後1.5%を超えていくかは個人的には疑問である。

金融センターとしての英国の地位が揺らぎ始める?

Brexitにより2021年始より、株式のトレーディングが英国からEUに大きく流れた。1月初日の英国における取引はほぼ半分になったという報道もみられる。もしかしたら本当に英国は金融センターとしての地位を失っていくのかもしれない。基本的にEUの投資家は、英ポンド建て以外のEU株式はEU域内で取引をしなければならない。EUで取引をした方が流動性もあるようだ。こうなるとEUの株式をわざわざロンドンで取引をしようというインセンティブはなくなる。これまでは、Brexitによる雇用減も1万人程度で、大きな影響はないと言われていたが、これが7万5千人になるのではとう報道もあった。

英国の年金資産は6兆ポンドを超えるとも言われており、引き続き重要な市場であることは明らかだが、従来のような地位を享受し続けられるかは定かではない。スイス株の取り扱い、英国におけるソブリンウェルスファンド創設の話もあるが、ロンドンの地位を保つには、80年代に行ったような大規模な改革が必要になるだろう。

デリバティブ取引については2022年6月までの免除規定があるためすぐに変化があるとは思えないが、現物株がEUに完全に映ってしまえば何らかの影響があるかもしれない。EUサイドもEU域内CCPへの誘致を加速させるだろうし、EU域外の資産運用会社にポートフォリオ管理を任せることは禁止されていないものの、昨今のコンプライアンス重視にかこつけて、よりEU域内で完結させるような動きを見せる可能性も高い。

ただし、特にデリバティブ取引や先物取引になると、取引の場所の重要性が低くなる。日本の日経平均先物にしても、株価指数の中では世界3位で、夜間取引で膨大な取引量があり、日本に住んでいなくても取引が可能である。デリバティブ取引も日本で日本時間であったとしてもロンドンの会社として取引が可能であり、あまり地域を考えながら取引をすることがあまりない。

唯一考えなければならないのが規制とライセンスである。日本で取引をする際には金商法に従わなければならないとか、米国ではDodd Frank法、EUではEMIRといった具合に異なる規制によって取引拠点が影響を受ける。つまり、EUが規制を変えてしまえば英国を締め出すことは容易にできてしまう。今でも米国参加者は日本のCCPで円金利スワップを清算できないし、日本の市場参加者が海外のCCPで円金利スワップをする際にも制限がある。

こうした制限は利用者の利便性というよりは、顧客資産保護に対する当局の考え方や、国同士の政治的交渉によって決まる。つまりすべては政治で決まるということだ。現在の欧州の交渉状況を見ていると、英国に不利に動き始めているように見える。一定のEUシフトはこれからも続く可能性がある。

SURE(Temporary Support to mitigate Unemployment Risks in an Emergency)とは

欧州委員会が2020年4月に提言した景気対策の一つである。欧州各国の失業給付金支給や雇用維持のため、100bnユーロまで加盟国に低利融資をするものだ。緊急時の失業リスクを軽減するための一時的支援とでも訳すのだろうか。

2020年には、5年、10年、15年のEU SUREソーシャルボンドが39.5bnユーロ発行されている。投資家の需要もそこそこ集まったようだ。10年のSURE債は-0.42%でドイツ国債よりは利回りが高いが、イタリアのプラス0.5%よりはかなり低い。残りの60.5bnユーロのSURE債発行は2021年の早い段階で発行される見通しである。Temporaryという言葉が表すようにもともと一時的な措置として導入されたのだろうが、今後はこれが恒久化されると予想する声が多い。

他にも、欧州周辺国などで雇用をサポートするための財源がない場合でも、EUを通じて支援が得られるリカバリーファンドのフレームワークが作られた。EUは一つの国ではないため、従来は共通の税金などの財源がなかったが、このフレームワークによって、EUメンバー諸国のために債券発行ができるようになった。そしてこの債券の償還は、一部EU自身が集めた税金によって返済されることになる。税金の財源としては、プラスチックごみにかかる新たな環境税、デジタル課税が中心のようだが、将来的には金融取引税の導入も予想される。

750bnユーロがリカバリーファンドとして準備され、そのうち312.5bnユーロが加盟国に返済義務がないもの、つまりEU自身の集めた税金で賄われる。ひょっとするとこれがEUの統合を一歩進める重要なステップになるのかもしれない。2021年は約150bnユーロの発行が見込まれている。

ドイツと同じようなリスクでありながら、利回りがある程度乗っているので、一定の投資家需要が見込まれる。ただし、かなりの割合が中央銀行によって購入されているようだ。これがある程度ユーロ高に寄与している。そうすると、今後共通債の発行が増えるということは、ユーロ高の圧力がかかり続けるということなのかもしれない。そしてEUの債券購入プログラムは、今後も減ることなく継続されるということなのだろう。問題はいつそれが止まるか、そしてそれがどのような影響をグローバルマーケットに与えるかということである。

金利低下が株式上昇を促す

米国金利上昇とイールドカーブのスティープ化はほぼマーケットコンセンサスになっている。短期金利は中央銀行の政策によってゼロ近辺に抑えられるだろうが、ワクチンの広がりによる景気回復、インフレ懸念、国債発行増などの理由から、長期金利の上昇を見込む投資家が多い。

こうした金融政策や景気刺激策は米国以外でも行われているが、金利上昇の見通しが強いのは米ドルだけのようにも見える。当然日本ではイールドカーブコントロール(YCC)により金利が低く抑えられており、欧州でもほぼYCCに近い金融政策が取れらているといって良いだろう。

こうなると金利がゼロに近い日欧の投資家は米国債の購入を進めるだろうし、社債の投資意欲も高まる。これによって米金利の上昇がある程度抑えられるだろう。また、金利がなくなってしまったことから、株式やその他の資産に投資資金をシフトさせる動きも見れられる。これはおそらくインフレが制御不能になるまで続くのだろう。ということになると、米金利上昇、スティープ化は市場コンセンサスではあるものの、10年金利で1.25%とか1.5%といった水準がせいぜいということになる。

2020年は感染拡大にもかかわらず、株価は軒並み上昇したが、中央銀行の政策によって金利が抑えられ、資金が消去法で株式市場に流れたからなのだろう。そうすると金利が上昇すれば債券市場に資金が戻り、株価下落というシナリオもあるのかもしれない。

また、パッシブファンドの急増により、優良企業を選別して資金が流れるというよりは、インデックスのウェイトに従って自動的にお金が流れるようになっている。もしかしたらこれまで債券のようなFixed Income商品に投資をしてきた投資家が、金利低下によってインデックスファンドをFixed Income商品の代わりに購入するようになっているのかもしれない。いずれにしても、しばらくは金利が急上昇することはなさそうなので、既に割高な株式市場もこのままのペースで上昇するということになるのだろうか。

気になるのはインフレだが、各国が食糧備蓄を増やす中、食料価格が上昇の兆しを見せている。農産物先物やオプション取引において年後半の価格上昇を見込んだ取引が投機筋からも増えてきている。先進国というよりは、新興国や欧州周辺国においてインフレが発生し、それが何らかの形でグローバルに波及した時が市場の転換点になるかもしれない。

このような市場の異変によって一旦マーケットが動いたときにすべてが逆流して株価下落というのが最もあり得るシナリオだが、それが起きるまでにはまだしばらく時間はありそうだ。

LIBOR改革後の金利商品

米国では国債先物へのシフトが続いており、CMEの昨年のInterest Rate Futures Liquidity Updateの以下のグラフは業界でも注目を集めた。

グラフから分かるように現物の米国債の日中取引量はそれほど大きくは変わっていない。一方水色で示されている先物の取引量は急速に伸びており、現物に比した先物の割合は2018年には100%を超えた。つまり先物の方が現物より取引高が大きくなったということである。

日本国債でも似たような先物シフトが起きているのだろうが、おそらく100%を超えるところまでは行っていないものと思われる。ただし、海外投資家だけのフローを見ると、先物の方が圧倒的に取引量が多いのだろう。

CMEの分析にあるように、この先物取引量の急増は取引参加者の増加を伴っており、HFTなど高頻度に取引をする参加者のプレゼンスが高まっているものと思われる。

特に米国ではSLR(Supplemental Leverage Ratio)の影響によってバランスシート制約がかかったので、これが先物へのシフトを促したとしても不思議ではない。一時期米国債のフェイルの多さが問題になったが、先物は決済前に閉じることが多く、実際の受け渡しにFailは許されない。

金利を扱う商品の中では、おそらく現物と先物の取引量は、現状ほぼ同等で、金利スワップが若干少ないくらいだと思われる。そしてLIBOR改革によってこのバランスに変化が起きるかにも注目が集まる。流動性に難のあるOISへの移行が難しいのなら先物を使えばよいではないかとも思うが、SOFR先物も今一つ盛り上がっていない。とは言え、ヘッジ会計を適用するためにキャッシュフローを完全に合わせたい投資家より、金利のデルタをヘッジすればよいという投資家の多い海外では、先物も重要な選択肢のひとつになる可能性がある。

先物の利便性向上に努めてきたCMEの功績も大きいが、現状の規制の下では、日本においてもさらなる先物シフトが起きても良いのかもしれない。

米国株式オプション取引の急増が意味するもの

ソフトバンクの取引もあり、2020年は米国で株式オプション取引が大きく注目を集めた。11月の大統領選後もその勢いは衰えず、CBOEにおけるコールオプションの買いはプット買いに比べ、過去5年で最高レベルにまで増えている。株式の買いが株価上昇をもたらすのは当然として、コールオプションの買いは必ず株価上昇につながるのだろうか。

一時期はコールオプションの買いが増えればそれを売った証券会社がヘッジのために現物株を買い、株価が上昇すると言われていた。しかし、感染拡大を受けて家で時間を持て余す個人投資家がオプション市場になだれ込んでいるため、この上昇が持続的なものなのかは定かではない。

オプションの取引量はここ数年ほとんど変化がなかったが、感染が始まってからの取引急増には目を見張るものがある。何らかのきっかけでこの流れが逆流すると、一気に流れを変えてしまうかもしれない。日本のバブル期にも先物取引で大損をした投資家が後を絶たず、先物のイメージを悪化させた。

かといって中央銀行が巨額の金融緩和を続ける中、国債に投資するよりは株式という投資家が多くなるのも無理はない。2021年の中銀のバランスシート増は2020年の半分くらいだろうという予想もあるが、それでも金利上昇のシナリオは当面描きづらい。

2020年に業績が落ち込んだことから、2021年のS&P500の一株当たり利益は2割増を超えるだろうという予測もある。コストカットやバイバック、配当制限もあったので、業績がこれより良くなっても不思議でない。とは言っても株価収益率等の指標でみると、現在の株価水準はかなりOver-Valueされていると言えるので、かなりの収益アップが必要となる。

一方で社債の利回りは最低水準に落ち込み、すぐにはインフレになる気配もない。こうなるとやはり一定水準の資金が株式に流れるのだろう。問題はそれがどこまで続くかだが、特にこの株式のコールオプション買いの急増だけは、何かしっくりこない。オプションの買い手からすると、株価が急落してもプレミアムを失うだけで、大きな損を抱える訳ではない。だが、これまで続いてきたオプション取引が急減すれば、何らかの影響を与えるかもしれない。しばらくはCBOEのデータにも注目したい。

多すぎる円金利指標が市場流動性を損なう

金融庁が米国CFTCと米国顧客のJPY SwapのJSCCクリアリングを交渉しているとRisk.netに書かれていた。Exempt DCOの立場でクリアリングできるような方向を模索してきたものの、なかなかまとまらないようだ。これが難しい場合はDCO登録をすることによって解決を図りたいというコメントも紹介されている。

確かにシンガポールのSGXはDCO登録をしていたと思うが、これは相当なハードルかと思う。かといって、倒産法制が異なる中Exempt Statusで米国顧客のJSCCクリアリングを認めるのも困難が伴う。以前から米国顧客の清算許可を巡っては様々なコメントが出され、その都度JSCC-LCHスプレッドが動いてきた。最近では、このスプレッドがかなり縮まり、市場の関心も低くなってしまったように感じる。

とは言え、日本のデリバティブ市場においては、国内投資家と海外投資家のフローを結び付けられないことが、市場の流動性向上の妨げになっているように思えてならない。その意味では、JSCCが米国顧客の清算を行う、あるいはLCHが国内市場参加者の縁切りスワップ清算を行うことによって、JSCC金利とLCH金利が収斂していくのが本当は望ましい。

先日海外投資家主導のJGB先物市場と国内投資家主導の現物市場が分断されているのではないかと書いたが、海外投資家主体のLCH金利とJGBの利回りやJSCCスワップ金利にも同じようなことが起きている。これにDTIBOR、ZTIBORの分断も加わり、もともと流動性が少ないマーケットがさらに非効率になってしまっている。国債の利回りが動かない中、LCHの円金利だけが海外投資家の動向によって動いてしまい、アセットスワップが思わぬ方向に動いてしまうことも増えたように思う。

今後後決め複利やTORFなどの金利指標へ以降していく中、あまりにも複数の金利が存在しているのはあまりにも非効率だ。日本の場合は後決め複利のConventionにシステムがついていけていない市場参加者も多いことから、TORFに期待する声も多いが、流動性がついて行っていない。何と言ってもStandardなOIS取引の利用者が海外投資家と大手金融機関に偏っているというのも問題だ。

今後のLIBOR改革の流れを考えるとLCH-JSCCベーシスはOISの違いになっていく。一時的にFallback Rate TONAができるだろうが、これは将来的にStandard TONAに変わるだろうから、なるべくStandard TONAかあるいはTORFに統一していく努力が必要なのだろう。システム、オペレーション対応を考えると最終的にはTORFが望ましいのだろうが、そのためにはOISの流動性がまず上がってこなければならない。

こうした混乱を終わらすためには、業界の強力なコンセンサス、または当局のガイダンスが必要なのかもしれない。

日本の国債先物市場の行方

先物取引、オプション取引というと日本では何となくイメージが悪いが、流動性、資金効率、カウンターパーティーリスク等を考えると非常に使い勝手が良い。日本国債先物を例にとると、YCCを導入した2016年以降は、海外投資家の割合が6割を超えることが多くなっており、証券会社が約3割、銀行が約1割となっている。実質的に海外投資家が牛耳るマーケットと言ってよいだろう。海外投資家が多いことからナイトセッション比率は20%近くになって夜間の流動性も高くなってきている。

最近現物と先物の相関が崩れることが多いように感じるが、先物は海外、現物は国内と分かれてしまっているからかもしれない。通常トレーダーは、例えば10年国債を売買すると、ひとまず先物でヘッジしたりするので、7年10年のポジションが溜まる。3月のコロナショック時にはこの先物と現物の値動きの相関が崩壊したが、米国で感染が拡大した海外投資家がパニックになり先物が急変動し、比較的反応の鈍かった現物と全く異なる動きを見せたように思う。高速取引を行う投資家のフローが先物の変動を激しくしているという要因もある。

日本では、一度国債や社債を買ったらそれを長期で保存し続けるという投資家が多く、海外はスワップや先物でヘッジをしながらリターンを上げようという人が多い気がする。そうなると現物を買って長期で保有し、会計上も時価変動がない方が望ましい。取引頻度が少ないということは流動性も上がらないということなので、特定の回号だけが動いたり、銘柄間の価格差をいかに管理するかということが重要になる。

とは言え、資産運用の割合が高まってくると、適切にヘッジをしたいという投資主体が増えてくるはずなので、先物取引に国内投資家が参加したり、海外のアセマネが日本における先物取引を増やしたりする余地は十分にあるのではないか。

米国債は様々な年限の先物取引があるが、日本では長期国債先物一本となっている。一応中期、超長期先物も存在はしているが、取引所の努力にもかかわらず、ほとんど取引はされていない。30年債とかを買って先物でとりあえずヘッジして全体のデルタを枠内に収めるということもあるが、あまりヘッジにはなっていない。

YCCで10年が動かないことを考えると、本来であれば20年の超長期国債先物が増えると、使い勝手が向上するのだが。そうすれば電子取引、アルゴ取引に使えるツールも増え、流動性が高まるように思う。

超長期国債先物に関しては2014年くらいの取引再開直後は若干の取引がみられた。市場を育成しようという市場参加者の努力によるものだと思うが、もう一度Tryできないものだろうか。海外の先物取引を見ていると、日本の先物市場の利便性向上が金融市場の流動性向上には欠かせないのではないかという気がしてくるのは私だけだろうか。

取引所の事業継続に関する規制強化

金融取引の電子化、オートメーション化によって、金融業界のテクノロジー依存度は急速に高まった。ここまでくるとシステム障害や停電、ハッキング等が金融市場を大混乱に陥れる可能性が高まってくる。

日本では東証のトラブルが大きなニュースになったが、実は海外取引所においても似たようなトラブルが今年は発生している。今年の後半だけでも日本のほかにドイツ、ニュース、イギリス、オーストラリアで障害が発生している。

BISでは独自の基準の策定を進めていると報道されており、各国当局も取引所のみならず、決済機関、クリアリングハウス、銀行に対する新たな基準を設けようとしている。

日本では私設取引所の利用促進を目指しているように見えるが、おそらく米国のように複数の取引所で取引継続ができる方法が望ましい。2015年にNYSEで数時間取引不能になったときも、NasdaqやCBOEなどで取引が継続され、大きな問題にならなかった。日本は東証一極集中なので、Singaporeで取引できる一部の先物を除けば、東証が止まればすべての取引が止まってしまう。また、危機時にヘッジができるよう先物の利便性を高めるのも重要かと思われる。

4月以降の緊急事態宣言以降、国債先物などの取引量が日本では激減した。市場変動から取引量が拡大した海外とは大きな違いである。国債先物の海外投資家の割合が6割を超える中、海外投資家までもが取引量を減らしたのが特徴的である。

また、今後資産運用ニーズが高まってくことを考えると、引け値を使って時価を把握するニーズが高まるので、クロージング取引が重要になる。複数の取引所を使って取引をしたとしても引け値取引だけはメインの取引所で行うことになり、取引が集中してしまう。流動性がないときなどは一日のほとんどの取引が一定の時間帯に集中してしまう。そして、この引け値取引は、ディーラーが前もってその時間で取引をするのがわかっているので、フロントランニング等の不正の懸念もある。この辺りは明確なルール作りが必要だろう。

今後数か月の間に各当局から様々なガイドランが出てくると思うが、日本でもこれに後れないよう目を配っていく必要がある。

不動産マーケットに起きている変化

米国のシェアオフィスの空室率上昇がニュースになっていた。日本ではシェアオフィスの利用はまだ少ないが、近年利用度が高まっている米国ではこれが先行指標となるかもしれない。

通常のオフィス契約は5年リースなどになっているので、在宅勤務が多くなったからと言って契約解除は困難だが、シェアオフィスの場合は契約期間が数か月から1年程度なのでキャンセルが容易である。

こうなると、比較的変化の少なかった不動産価格が変動するようになるかもしれない。また不動産融資に対する銀行の見方も変わってくる。

特に近年海外ではシェアオフィスの割合が着実に上昇しており、このトレンドが続けば、シェアオフィスを含めた空室率が不動産市況に影響を与えるようになる可能性がある。

仕事の仕方一つを取ってみても、膨大な紙やファイルがなくなり、すべてデータ化されてクラウドに保存されるようになっている。紙を配る代わりにタブレット等に情報を表示することが増え、プリンターの使用頻度も急速に減っている。どこからでもリモートアクセスできるようになっているのでPCの物理的な場所も問わない。海外では、頻繁なクリーニングをするため、私物を卓上に置くということもなくなり、極力机の上を整理するようになってきている。つまりリモートアクセスさえできれば、オフィスはどこにあっても構わない。

銀行ですら、部門ごと別の場所に移しても通常業務ができるようになっている。セキュリティ対策を不安視する声が日本では聞こえてきそうだが、リモートアクセスさえ完璧に制御していれば、実際の紙やデータの入った会社用PCを持ち歩くよりはよっぽど安全である。さすがに1から2割の出社体制が1年近くも続くと、これが常識にすらなってきている。おそらくシェアオフィスに移動したとしてもすぐに通常業務ができるだろう。

日本のオフィスは少しレイアウトを変えるだけで何故か海外とは比較にならないほどのコストがかかるが、こういったところも改めていかなければならない。シェアオフィスのコンセプトももっと広がってもよいだろう。特に日本の場合は地震や災害でオフィスが使えなくなる可能性もあるのだから、各所にシェアオフィスを確保するだけでBCP対策にもなる。シェアオフィスを前提としたオフィスビルの建築なども進んでいくと、競争力のあるビルと旧来型のビルの差も大きくなることが予想される。

Uberなどのライドシェア、Airbnbなどのルームシェア、WeWorkのようなオフィスシェアと、シェア経済はますます進んでいく。副業によって社員をシェアしたり、昼は洋食ランチ、夜はバーといった飲食用物件のシェアは日本でも増えている。

全般的には不動産市況が大きく崩れるというよりは、不動産の効率的活用ができるようになるような気がする。そのためには時代の変化に合わせて常に物件の魅力を高めたところが躍進し、何も準備をしていないところが没落していくという二極化が起きるのではないだろうか。

STM(settled-to-marketとCTM( collateralised-to-market )

スワップの時価分である変動証拠金を担保としてみる方法をCTM、決済としてみる方法をSTMという。

通常スワップなどのデリバティブ取引は、日々値洗いされ、その勝ち負けが変動証拠金によってやり取りされる。つまり時価が変わるたびに担保を授受することによって、カウンターパーティーリスクが最小化される。これが一般的なマージンコールのやり方であり、CTMと呼ばれる。というよりは、STMが生まれる前はCTMという言葉が使われることもなく、極めて標準的な方法だった。

日々相手方のリスクを取らないようになっているという意味では、スワップの時価がゼロになるように調整しているのと経済的には同義になる。実際、スワップの時価が大きく変動した時にクーポンを変更して時価をゼロにするリクーポニングは以前から行われていた。通貨スワップの時価を四半期ごとにゼロにするNotional Resetも似たようなコンセプトに基づくものだ。

このようなスワップの場合、たとえそれが30年スワップだったとしても、満期が1日のスワップを行っているようなものであり、30年のリスクを取っているわけではない。つまり、日々証拠金をやり取りするスワップというのは、日々クーポンをリセットしてスワップの時価をゼロにしているのと同じことになるので、リスクに応じた所要資本も少なくて良いのではないかということである。

実務的にはCTMと全く変わらず、日々時価の変動分について担保授受をしているだけなのだが、会計的にその担保を担保ではなく、スワップの時価を調整するための決済として扱うのがSTMである。

オペレーション的にやっていることは何も変わらないが、30年スワップを1日のスワップとして扱うことが可能になり、所要資本が削減されるというマジックのようなものだ(厳密には、1日まで短縮することはできず、取引タイプごとにフロアが定めれらている)。

LCHやCMEなどの海外CCPで採用が始まり、日本のJSCCでも使われている。強制適用か選択制かはCCPによって異なる。適用対象も、CCPへの直接参加者のみか、クライアントクリアリングの顧客ポジションも含むかはCCPによって異なる。

レバレッジ比率を計算するときに、例えば30年金利スワップであれば掛け目は1.5%だが、STMにした瞬間にこれを短期に適用される0.5%にまで下げられる。実際は1年以下の0%を適用してもよさそうなものだが、フロアによって0.5%までの引き下げとなる。ここだけでもリスク量が1/3になるので相応の変化になる。2016年くらいには欧米の銀行各社がSTMの適用によって、かなりの資本削減を達成したことをアナウンスしていた。

最近では、LCHのSwapAgentでもこれが適用にできるようになるとか、相対取引でも適用できる可能性があるのではないかという議論も出ている。そしてこれがSA-CCR適用によってどうなるかといった議論も盛んに行われている。

最近も、OCC(米国通貨監督庁)が、SA-CCRのもとでは、CTMのポートフォリオとSTMのポートフォリオのネッティングを認めないというニュースが市場関係者を驚かせた。これまでバーゼルやFEDからのコメントから得られていた印象とは全く異なる立場を示したからだ。

クライアントクリアリングによって清算された取引は”Cleared Transaction”ではないという趣旨のコメントがあったようなのだが、極めて不思議なコメントである。CCPに顧客から拠出された当初証拠金の資本規制上の扱いにしても同様だが、一部の米国当局は、クリアリングの仕組みを本当に理解していないのかとさえ思えてしまう。

一方でCCPへの清算集中を義務付けておいて、いざ清算すると、それはリスクがあるので資本賦課が必要と言われると、何が何だかわからなくなる。米国当局間で意見が割れているのも混乱を増幅している。

資本コスト増から、顧客向けのクライアントクリアリングサービスから撤退する銀行が相次いだのは記憶に新しいが、サービスプロバイダーがあまりにも減ってしまうと、それが新たなシステミックリスクを作り出す。ここまで清算取引が増えてくると、参加者破綻時に、ポジションを他のディーラーに移すことも困難になり、金融ショックを引き起こしかねない。金融安定化にCCPが果たす役割が大きいのは十分証明されているので、CCPへの移行を促進させ、使い勝手を向上させることは金融の安定化には不可欠だと思う。

LCHがフォールバックスワップの一括変換を提案

LCHがLIBOR移行によって生じたフォールバックスワップについての扱いについて市中協議を行っていると報じられている。

単純にLIBOR移行後のRFR(リスクフリーレート)スワップと言っても、将来的には二つの異なるスワップが発生してしまう。レート自体は同じなのだが、計算時期等に数日のズレが発生するため完全には一致しない。リスク量はほぼ変わらないのに、キャッシュフローのタイミングが異なるので、コンプレッションもできない。

日本円スワップだと、ISDAのFallback文言によって発生したスワップはFallback Rate TONA、既に存在する標準的なスワップはStandard TONAと呼ばれることがある。フォールバックレートTONAと標準TONAの二種類が存在してしまうと、流動性が分断され、コンプレッションができず、CCP参加者のデフォルト時にはオークションで異なるスワップを処分しなければならない。

LCHの提案は、Fallbackによって生じたスワップが発生した瞬間にそれをStandardなRFRスワップに自動変換してしまうというものだ。個人的にはFallbackスワップができてしまった後期限を切って標準スワップに変換することになるかと思っていたのだが、もしオペレーション的に可能なのであれば、LCHの提案のように一気にやってしまった方がClear-cutである。

そもそもFallbackによって生じたスワップは、一時的に発生してしまったスワップであり、長らく存在させるべきものではない。複数種類のスワップを清算可能としてしまうと、市場参加者の中にはFallbackスワップを新規で取引したいという人が出てきてしまうかもしれない。LIBOR移行後の標準的スワップはFallback Rate TONAだと思っている人もいるからだ。

この提案に驚いた市場参加者もいるようだが、よくよく考えるとこの方がすっきりすることに皆気づくのではないだろうか。おそらく多くの参加者の支持を得て、提案通りに決まることになるのだろう。

そうなるとLCHと他のCCPでやり方が異なるのも問題なので、円も含めて世界的にLCHのやり方が標準になっていくものと思われる。

円のシンセティックLIBORは必要か

GBPのみならずUSD LIBORにおいてもSynthetic LIBORの話が持ち上がり、ではJPYはどうなのかという質問が増えている。確かにLIBOR移行は想像を絶する作業であり、期限内にすべての契約が移行できるかどうかは定かでなく、移行が困難なタフレガシー契約は一定程度残ってしまうことは確実だろう。

これに関しては、FCAがベンチマークをNon-representativeと判断すれば新規取引に対する利用を禁じることができる(Article 23A)。また、Article 23Dによれば、FCAは10年以内でベンチマークの公表を続けさせる権限を持っている。この権限は英国の市場参加者、英国法準拠の契約のみに及ぶように見えるが、最終的にはJPYにも影響を与えるのだろう。

通常日本などでは、LIBORといったら民間で利用しているものであり、当局が細かく指示をするものではないと言われそうだが、LIBORに関しては、FCAにかなりの権限が与えられているような印象を受ける。ただし、この新たな権限を用いて方法論の変更を行うかどうかについては、市場参加者の意見を考慮し適宜協議するとされている。

USDについては、FRBのクオールズ監督担当副議長が、移行の困難なタフレガシー契約への対応についてFCAと協議しているとのコメントがあった。

2020/11/30の一連のアナウンスメントによって、LIBORパネル行が、USDに関しては2021年末以降もレートの提示を継続できる見込みが高まった。そして、市中協議の結果次第ではあるものの、GBPについては予定通り2021年末でのLIBORの公表停止と、シンセティックLIBORによるタフレガシー契約対応という方向性が固まりつつある。おそらくEUR、CHFも同じタイミングで公表停止となろう。

ここで、最も不透明なのはJPYである。JPY LIBORのパネル行の中に日本の銀行は4行しかなく、他の外資系がJPYだけレート提示を続けるとは考えにくい。1月末にコメント期間の終わる市中協議の結果次第ではあるものの、やはりJPY LIBORは2021年末以降は存在しないと考えておくのが無難だろう。市中協議でいくら日本円も延期してほしいという意見が多かったとしても、パネル行がレートを出さなければ元も子もない。

では、日本円のシンセティックLIBORが必要かという話になるのだが、おそらくデリバティブ取引については、プロトコルへの批准が進んでいることから、何とか移行が完了するのではないかと思われ、ローンについてはTIBORがある。一番困難なのはキャッシュ商品、つまり社債だが、債権者集会開催等のハードルが高いので、シンセティックLIBORが使われるとしたらここである。あとは、2021年末を超える変動金利の社債がどの程度残っているかということになるのだろう。

ただし、JPYのシンセティック LIBORを作る努力をするほどの社債残高が2021年以降残っているとも思えないので、ここさえ何とかなればJPYのシンセティックLIBORは必要ないということになる。

プロトコルへの批准を遅らせようという市場参加者が出てくるとの懸念もあるが、FCAからも、ここで批准をしないところは、当局からLIBOR移行リスクにどのように対処するかSeirous Questionを受けることになるとのコメントも出ている。そしてSynthetic LIBORが作られるかどうかは、プロトコルの批准状況も関係していると述べられている。

いずれにしても、まずは市中協議でどのような意見が出されるかに注目したい。

MiFID II リサーチアンバンドリング規制の一部緩和

MiFID IIのリサーチアンバンドリングが一部緩和されるというニュースが飛び込んできた。無料でリサーチレポートを提供して取引につなげるというBundlingが公平性を欠くということで導入された規制だったが、逆に小型株のリサーチが減少するなどの副作用が出てきて3年間様々な議論が行われてきた。

日本でも欧州にある支店や、欧州のリサーチ等が対象になるのではないかということで混乱が生じ、保守的にリサーチを受け取るのを止めようという動きすらあった。激安商品や特売品によって、顧客を店舗に呼び込むのと同じようなものだと思うのだが、金融となるとがぜん規制が厳しくなる。

今回は感染拡大によって疲弊した経済を活気づけるためとの大義名分がついているが、本音を言えば、そもそもやりすぎだったというところなのかもしれない。BrexitによってUnbundlingを強くプッシュしていた英国の影響が少なくなったことも理由の一つなのだろう。

これで、時価総額が10億ユーロ未満の株式リサーチに関しては、バンドリングが可能となり、無料でリサーチを提供することが可能になる。これで中小型のリサーチが復活することが期待される。

短期金利低下のインパクト

政府中央銀行の刺激策により、現金が溢れかえり短期の米国債の利回りが低下を続けている。このままだと短いところの金利はマイナスになっていくだろう。そうするとこれにある程度連動するSOFRなどもマイナスになる可能性がある。

LIBORの代替指標とされているSOFRがマイナスになるというのは、かなりのインパクトがあるように思えてしまう。ただし、おそらくFRBはリバースレポなどによって、これがマイナスにならないようにするのだろうが、そうするとSOFRがゼロ近辺に張り付くことになってしまう。

そしてこれが1年、2年、5年といった年限にも波及すればイールドカーブのスティープ化が起きる。日本でも短期国債の増発が続き、今後の平均年限の長期化が課題となっているが、同じことが世界的に起きている。

特に米国の場合はいつも話題になる債務上限の話があるから、なおさら厄介だ。FRBの負債項目である財務省一般口座(TGA:Treasury General Account)の残高は現状1兆5000億ドルと報道されているが、昨年夏に採用された予算上の債務上限によれば、これは来年8月までに1/10以下の1330億ドルに下げなければならなくなると報じられている。

現状の短期米国債が満期を迎えていくと、巨額の現金が市場に放出されることになる。イエレン新財務長官は、国債発行計画に関して難しいかじ取りを迫られる。債務上限を上げて巨額の刺激策が導入される可能性もある。

欧州でも周辺地域の信用スプレッドは、堅調な需要に支えられて下がり続けている。ポルトガルの10年物利回りは先週初めてゼロを下回った。スペインやイタリアの金利も最低水準に近づいている。

ECBは1兆3,500億ユーロの緊急資産購入プログラムをさらに5,000億ユーロ拡大すると予想されていることから、市場の安心感も強い。

こう考えると、今や世界中の中央銀行が、実質的には日本と同じイールドカーブコントロールを行っているように思えてしまう。実際は否定しているものの、現実的には短期金利を下げて長期をプラスに保ちたいという行動に見えてしまうからだ。

そしてインフレは低く抑えられ資産価格が上がるので、しばらくは株価上昇も続くのだろう。ただし、このような緩和を永遠に続け債務を増やし続ければどこかで限界が来るので、その瞬間に突然インフレが起き、すべてが崩壊するということになるのかもしれない。

データを制する者は金融を制す

ロンドン証券取引所がRefinitivの買収に関して、反トラスト法の観点から承認を取り付けたとの報道があった。S&PのIHS Markitの買収のニュースも同じく報じられている。これで、Bloomberg、LSE/Refinitiv、S&P/Markitといったデータプロバイダーの勢力図がはっきりしてきた。他にもIntercontinental ExchangeによるEllie Mae買収、ドイツ証取によるInstitutional Shareholder Servicesの買収などもある。

MarkitWireと言えば日本の金融業界の方もなじみがあるかもしれないが、Markitも急速に成長したものである。

金融取引が急速に電子取引に移行し、そのデータをもとにアルゴ取引等を行うようになってきたため、取引データは金鉱のようなものである。金融マーケットデータに使われるお金は2019年には$32bnというコンサル会社の調査も報じられていたが、その金額も年々増加している。COVIDの影響も受けず引き続き業容拡大が見込まれる分野であり、IHS Markitなどの情報プロバイダーの株価も軒並み上昇基調にある。

あまり日本ではこの分野での成長がみられないが、今後可能性があるとすれば東証やJSCC、ブローカー、Quick社などが候補になるだろうか。銀行系やシステム系の会社の子会社も様々な試みをしているが、海外の動きとは若干異なる方向を志向しているように見える。

海外では、SDR(Swap Data Repository)報告、取引の即時報告であるリアルタイムレポーティング、取引プロセスのSTP化についてのガイドライン、SEF(Swap Execution Facility)などの電子取引規制によって、取引のデータ化が進んでいる。

日本でも同様の規制はあるのだが、ETP(電子取引基盤)規制は中途半端な感が否めず、米国SEFのような広がりは見せていない。電子取引というよりは、単なるデータ入力規制という気もする。集めたデータの利用もほぼ行われていないと予想される。

取引報告規制も、米系または米国スワップディーラー登録をしている銀行が関係している取引であれば、各種分析が可能だが、日本の金融機関の取引データはなかなか手に入らない。こうした分野の発展にはやはり規制サイドの後押しも欠かせない。

COVIDにより、米国債や米国社債の電子取引が急速に加速しているが、Yensai.comというものはあるものの、日本国債の電子取引はかなり限定的なものにとどまっている。社債に至っては流通市場がかなり限定的で、ショートもできない。

国際金融ハブ構想もあるが、税金や英語サービスの強化だけを語っていても片手落ちで、そもそもこうした金融市場の流動性を高めることが最も肝要だと思う。ここから相当奮起しないと、または日本の金融は世界から取り残されてしまうことになるのではないだろうか。