英国の決済期間T+1化が確実になった

米国の決済期間T+1化を受けて、英国でも決済期間短縮化のためのタスクフォースが設立され議論が続けられてきた。そのタスクフォースの提案に対する政府コメントが先週3/28に出されている。遅くとも2027年までにT+1化を実現すべきというタスクフォースの意見に対して政府サイドも全面的に支持するという内容だ。同時にT+1化を推進する新たなTenchinical Groupの設立もアナウンスされている。

今回の提案では、2025年の運用変更と2027年末までの完全移行という2段階アプ ローチが推奨されている。まずは2025年に向けて運用の一部変更を義務付け段階的に移行準備ができるようにするというものだ。ただ、当然EUとの平仄を合わせるべきという意見もあるので、同時移行も検討すべきとコメントされている。どうやらT+1化を進めること自体はコンセンサスが取れているようだが、米国とどの程度のラグを設けるか、EUとの平仄をどう取るかといった、タイミングを巡って色々と意見が分かれ、報告が当初より3か月遅れになったようだ。

先週ESMAも、決済サイクルの短縮に対して寄せられたパブリックコメントに関する報告書を公表した。T+1を飛び越えてT+0へ移行することは否定したが、引き続き検討を進め、来年2025年1月17日までに別の報告書を発表することとしている。

これで時期的には少しずれるものの、決済期間短縮化はグローバルで進められる方向性になった。おそらく将来的にはT+0化の話も出てくることが予想される。日本も決済システムの高度化、自動化に対する投資を怠らないようにしておいた方が良いだろう。

資本規制における標準法の広がりと金融リスク管理の将来

米国の本格施行を来年に控えて、Basel III Endgameの話があちこちで聞かれるようになってきた。今回の変更によってかなり大きなインパクトが出るという報道も多いため、どのビジネスが最も割を食うのか、縮小せざるを得ない商品はあるのだろうかという憶測が飛び交っている。ただし、その影響をロジカルに説明している人は少なく、いつものように、Exoticな商品やコモディティなどが厳しい扱いになるのではないかといった、ぼやっとして議論に終始している。

また、市中協議で数多くの批判が寄せられたことから当局も大幅な見直しに言及している。このため、ビジネスミックスの見直しなど、具体的な行動に移せず戸惑っているところが多いように思う。保守的な銀行などでは、これが明らかになるまではリスクを増やさないよう様子見の姿勢を貫くところもあるのではないだろうか。

そんな中で去る一月に適用が始まったカナダでは、内部モデルを使う大手銀行がゼロで、すべて標準法を適用していると報じられた。ただ、少なくとも一行は内部モデル適用に向けて準備をしているということなので、単に準備期間が短かったという可能性もある。とはいえ、内部モデルを構築するコストに照らして、標準法のみを使うという判断をするところも多いものと思われる。

リスクマネージャーとしては、実際のリスク管理手法と資本計算に使われるリスク計測方法が異なるというのは、あまり望ましくない。本当のリスクを見るのではなく、単に想定元本が大きいからといった理由で取引を控えることになる可能性がある。そして、標準法を重視するあまり、本来のリスクを見落としてしまうことが危惧される。

金融業界の中にも、以前のようなデリバティブリスクに詳しい担当者が減り、すべてローンと同じようにリスクを見る傾向が強くなってきているような気がする。当然銀行のトップは複雑な取引に精通しているわけではないので、誰にでも理解がしやすいローンのサイズでリスク判断をしてしまうところも多くなっているのではないだろうか。

2年ほど前に、欧州でも大手行の1行が内部モデルをあきらめたという報道があったが、その後その数は3行に増えている。欧州の内部モデルに関する規則は193ページにも及び、これを満たすには相当のコストがかかるため、コスト増を嫌うところもあるだろう。加えて、内部モデルによる資本削減が制限されるOutput Floorの問題もある。米国のCollins FloorはOutput Floorよりも厳しいため、米国でも標準法を使うところが増えても不思議ではない。

金融市場は、いつもダイナミックに変化している。こうした変化をとらえて標準法をタイムリーに変更できるのだろうか。標準法の弱点を突くような取引が出てこないとも限らず、標準法がリスクカルチャーを醸成する妨げになってしまわないか心配である。標準法が正しくリスクをとらえていない商品などで、巨額損失が出る危険性がないとも言い切れない。コスト削減要請の中、リスクモデルに対する投資が減らされたり、リスクマネージャーを減らす動きが出てくることも予想される。当然銀行自らリスク管理を高度化していかなければならないのだが、単純化された標準法がこうしたインセンティブを削がないよう願うばかりである。