Basel III緩和について

Basel III endgameに関して、G-SIB surchargeを緩和するというCFTC議長のコメントがRisk.netで紹介されている。これは今週三日間に渡って開催されたISDAの年次総会でのコメントだが、こうやって報道されるとかなり市場関係者に期待を与える内容となっている。

実際に会場で発言を聞いていた時には、ここまで強く発言したような印象は受けなかったのだが、確かに報道されたような発言はあった。やはり発言の一部を文字にすると若干印象が異なるということを再認識した。

クリアリングが望ましいことであることには疑問の余地はなく、それを推し進めて行きたいというのは本音だろう。クリアリングのエージェントモデルがこれまでと同様の扱いになるのであれば、クリアリングブローカーにとっては朗報である。

規制がここまでクリアリングへのシフトを促しており、米国債やレポの清算集中規制も導入されるが、その一方でクリアリングの資本チャージを増やすというのは矛盾している。質問の仕方がうまかったのかもしれないが、さすがにクリアリングをリスキーなものとして資本チャージをかけるという論理はなかなか説明が難しい。

今後2、3ヶ月の間に最終修正案が固まるとの発言があった。この記事よりは若干悲観的にみているものの、少なくとも何らかの緩和策は出てくるだろうから、今後の動向に注目が集まる。

それにしてもISDAの年次総会は相変わらず活況であり、デリバティブの世界ではやはり一年に一度の一大カンファランスと言ってよいだろう。円安の影響もあるが参加費もISDAメンバーで25万円程度、メンバー外で30万円近くと高額になり、スポンサーに求められる金額も相当なものである。その分内容は充実しており、業界関係者のネットワーキングもできるので非常に有意義であった。色々とコストが厳しい世の中だが、長く続けてもらいたいものである。来年はアムステルダムだが、できれば参加してみたいものだ。

担保のための流動性確保に関するFSBレポート公表

先週4月17日に、マージンコールに備えた流動性確保に関する市中協議文書がFSBから公表された。昨今急激な市場変動により巨額のマージンコールが発生し、それによって危機が増幅したため、その対応策を主に8つにまとめての提案している。いずれも理にかなっており、市場参加者が直ちに対応しなければならないことばかりだ。ただし、それをどのように達成するかは、当然ながら各参加者の創意工夫に委ねられている。

今回の分析はNBFIにフォーカスを当てているが、このセクターは様々な種類の参加者がおり、規制も銀行のように一律でかけにくいので、その対応にもばらつきが生じがちである。

ここで問題になるのは比較的規模の大きなバイサイドだと、銀行にプレッシャーをかけて適格担保の種類を広げたり、IMを引き下げたりできてしまうという点である。今や大手バイサイドの交渉力はますます強くなっており、SIMMなどの規制IMが適用される場合を除き、IMの引き下げ交渉も頻繁に行われる。しかしこうしたプレッシャーがアルケゴスのような事件を引き起こしたのは確かなので、こうしたrace to bottom が起きないように注意していく必要もある。

今回の提案によってバイサイドは、マージンコールに備えた流動性ストレステストや、突発事象が起きた時のコンティンジェンシープランを策定しなければならない。ここで問題になるのは、5番目の提案にあるextreme but plausible scenariosである。これは言うは易しだか、どの程度かPlausible なのかは非常に難しい問題である。

一昨年のニッケルショックをPlausible なものとして準備していた市場参加者がどのくらいいただろうか。大抵は誰もが想定していなかったような極度な変動が起きるのか常である。では保守的に極端なショックを前提にすると、常日頃からそのための現金担保を用意しておかなければならず、そのためには多大なコストがかかる。過去に起きたほとんどのマーケットショックは、後で振り返ってみればPlausibleだったという人もいるが、過去にはありえないとされたシナリオばかりである。

したがって、Plausible ではない極端なショックが発生した時に何ができるかを考え、ツールを準備しておくことが重要である。これはある意味、火事や地震に備えた保険のような範疇に入るのかもしれない。地震リスクに備えて、全員が海外脱出をしたり、核攻撃に備えて核シェルターを全員が作るのは現実的ではない。

銀行のコミットメントラインや、いざという時に在庫や売掛金を担保に資金調達ができるようにアレンジしておいたり、レポやストックローンのセットアップを作っておくといったことが考えられる。

もちろんバイサイド側もストレステストやシナリオ分析をディーラーやサードパーティのみに頼るのではなく、自ら理解してプランを作っておく必要はある。

昨今では、CCPなどでも当初証拠金のシミュレーションモデルを提供したり、ストレス時の証拠金の情報を提供したりするところが増えてきたが、こうした情報提供も有用だ。

いずれにしても、このFSBのペーパーを見る限り、すべての問題を解決するウルトラCはないというのが正直な感想だ。担保流動性問題について書かれたペーパーは、どれも至極もっともなのだが、特に目新しい提案はないというようにとらえられがちである。危機に備えて流動性ストレステストを行ったり、流動資産を準備したりといった、至極当然のRecomendationに終始してしまうのはある意味仕方がないのかもしれない。

本来であれば、先物やCCPに多くのマーケットを移していき、その取引所なりCCP内で急激な市場変動を抑えるということをしても良いのではないかと思う。例えばサーキットブレーカーなどは頻繁に使われているのだが、これがあれば、マージンコールの金額が急増するのをある程度防ぐことができる。数日間でも時間の余裕があれば、流動性を確保することも可能になる。どうしてもマーケットというのは過剰反応することがあるので、それに対して担保を無限につぎ込んでいくのではなく、こうした市場変動を抑える方策を考えるべき時期に来ているのかもしれない。

以下今回の8提言をリストアップしておく。

  1. 市場参加者は、マージンコールに起因する流動性リスクの評価を、流動性リスク管理およびガバナンスの枠組みに組み込むべきである。
  2. 市場参加者は、マージンコールに起因する流動性リスクに対するリスクアペタイトを決め、極端だがありうるストレス環境下でもマージンコールから生じる流動性ニーズを確実に満たすことができるよう、コンティンジェンシー・ファイディング・プランを策定すべきである。
  3. 市場参加者は、マージンコールに起因する流動性リスクが、特に極端だがありうるストレスシナリオにおいても頑健に管理されることを確保するために、 定期的に流動性リスクの枠組みを見直し、更新すべきである。
  4. 市場参加者は、マージンコールに起因する潜在的な流動性ひっ迫の原因を特定し、決められた流動性リスクアペタイトに合う回復力を確保するために、流動性ストレステ ストを実施すべきである。ストレステストの結果は、適切かつ多様で信頼性の高い担保の水準を決めるために使用されるべきである。
  5. 頑健なストレステストは、市場参加者の全体的な流動性ポジションと同様に、証拠金および 担保コールの変化によって引き起こされる、極端だがもっともらしい流動性ストレスの範囲を 分析すべきである。
  6. 市場参加者は、強靭で効率的なオペレーショナル・プロセスと担保管理プロセスを持 つべきである。
  7. 市場参加者は、十分な水準の現金及び容易に入手可能な資産並びに多様な流動資産を維持し、マージンコールに対応するための適切な担保フローを確立すべきである。
  8. 市場参加者は、ストレス状況下におけるマージンコールの急増に対する十分なオペレーショナル・レジリエンスを確保するため、担保取引におけるカウンターパーティおよび第三者サービス・プロバイダーと積極的かつ透明性のある定期的なやり取りを行うべきである。