EURの金利スワップに関しては、Brexit後に何とか英国LCHからEurexにシェアを移したいということで政治的な駆け引きを続けてきたが、ここにNasdaqが参入してくることになった。Nasdaqといっても、欧州ビジネスを強化するためにスウェーデンのストックホルムに設立された清算機関なので、欧州当局からはサポートが得られやすい。
欧州ではEMIR 3.0策定が最終段階に入っており、EURスワップの一定割合を欧州域内のCCPでクリアすべきという規制が導入される。おそらくこの規制によって英国LCHから移さなければならなくなる取引を狙ってのことなのだろう。清算開始は今年の第二四半期をターゲットとしているとのことだ。
ESMAでは、商品ごとに一定の閾値を設け、想定元本60憶ユーロ超を保有する会社がその閾値を超えた場合は、最低6か月に1回の取引を大陸のCCPで清算することを義務付ける。1000億ユーロを超える会社の場合はこれが最低月に一回となる。
これまでは、欧州企業は想定元本が、クレジットと株式デリバティブで10億ユーロ、金利と外国為替で30億ユーロ、コモディティで40億ユーロを超えると、清算義務がかかっていた。現在これをどう変更するかの議論が続けられているようだが、かなり混乱しているようだ。
ここまで国境を越えて行き来する金融取引の流れを、規制によって止めようとするのが、本当にマーケットのためになるのかよくわからないところである。確かに欧州当局としては、自分の監督権限が及びにくい英国の清算機関で、自らの地域のメインであるユーロ金利スワップが取引されているのが懸念なのかもしれない。しかし、ここまでクリアリング業務が確立されてくると、流動性を分断させることのデメリットの方が大きいように思える。
日本円金利スワップでも、米国規制によって米国のファンドなどがJSCCにアクセスできなくなってるが、自分で自分の首を絞めているようにしか見えない。何かあった時に流動性が高い日本のCCPに参加できず、解約やヘッジができなくなるというのは、米国のファンドにとっては極めて不利だ。
その意味では今回のNasdaq Clearingの動きは、どこまで市場に受け入れられるか非常に不透明だ。既存のCCPよりも優れた仕組みを作るのは後発組には難しく、何より、IMを下げて顧客を獲得するという安売り競争ができない。北欧のいくつかの市場参加者が細々と使っていることになるのだろうか。もしかしたら見落としている何かがあるのかもしれないが、今一つ狙いが良くわからない。
何とか自国保護主義に走らず、全体としての流動性が向上できるように、国際協調はできないものなのだろうか。