中国投資家の動向と日経平均

株価の急落を受けて中国の資本規制が厳しくなってきた。中国の個人投資家はファンドを通じて海外資産にも投資ができるのだが、最近こうした海外投資を行うファンドに対して追加投資を停止させたり、上限を設けるようなInformalな通知があったとFTに報じられている。もともとファンドごとに上限が設定されていたのだが、その枠を使い切るところが増えてきているうえに、枠が残っている場合でもそれを減らすような通達があったとのことだ。

背景には中国株の下落の他、海外投資のニーズが急速に増えたこともあるようだ。日本株への資金が多く流れたという報道も頻繁になされているが、この海外投資の中には日本株も含まれる。

中国にはQDII(Qualified Domestic Institutional Investor)スキームというものがあり、これによって銀行、証券会社、資産運用会社は、中国の厳しい資本規制の枠の外で取引が可能になっている。これは中国の個人投資家にとっては海外資産にアクセスできる唯一の方法である。

公表書類によると、中国のQDIIファンドは79本が個人投資家への販売を停止し、53本が上限を設定している。これらは、海外市場を対象とするQDIIファンド全体の約30%を占める。

FTの記事では、QDIIスキームを通じて個人投資家にファンドを販売している中国の複数の証券会社が、規制当局が外国株式に投資する上場投資信託の「異常取引」を取り締まっていることを明らかにしたとのことだ。特に、MSCI USA 50、ナスダック100、日本のNikkei225に連動するETFの取引停止を要請したという。

別途日本の新聞紙上でも紹介されたが、日経平均連動型のETFの売買は数日間停止された。売買過熱で価格が基準価格を大幅に上回り、投資家に損失リスクがあるためとのことだ。

とは言え、中国上海市場で上場している日経平均連動のETFは最大のものでも135億円程度なので、巷で言われているように、中国投資家のニーズが日経平均を押し上げたというのは何となく直感に合わない。むしろQDIIの制約があるため、それほど大きな資金が日本に流れているとも思いにくい。ただし、香港経由やその他何らかの方法で資金が流れている可能性は否定できない。

翻って日本の状況を見ると、新NISAに流入した資金が流れている投信を見てみるといわゆるオルカン(All Country)と米国がかなりの割合を占めている。日本株に対するインセンティブを付与するということもなく、海外への資金流出にも何の制限もない。極めて自由な国という点では喜ばしいのだが、もう少し日本への投資が増えてくれれば良いのだが。。。

CDSマーケットは復活するか

昨年3月のSVBショック時に一時的にCDS市場が活発になったが、その後はまた取引量が落ち着いてきてしまった。やはり何か危機が起きると一時的に取引量が増えるが、平常時にはあまり取引が行われないという状況には変わりないようだ。

そう考えると、金融危機前のCDOの需要はすさまじかった。CDO組成に伴いシングルネームCDSの取引量が拡大し、取引残高は今の6倍ほどに達していた。個人的にもあの頃は頻繁に取引を行い、CDSのオプションなどの取引を検討したりして、将来のCDS市場が大きく膨らんでいくことを期待していたものだ。

規制改革によりCDO組成が難しくなると同時に、急速にCDSの流動性が低下し、取引量が急減していった。その後取引量が増えたのは2020年のコロナショック時と、2023年の米地銀ショックだ。地銀ショック時の第一四半期には、取引量が$1.1tnを超え、過去5年で最大となった。その意味では、通常期はニーズが少なかったといっても、危機時にはリスクを適切にヘッジするために、CDSはやはり重要だということだ。

だが、一日に10回以上取引されるシングルネームCDSは、グローバルで通常期で一桁程度のことが多い。これは全体の3%に満たない。ISDAのマーケットアップデートによると、過去5年、四半期に最低一回取引された銘柄は1169しかない。

これが日本となると更に流動性が低くなる。BISの統計とJSCCの統計情報を比べてみると、日本のJSCCの取引量はグローバルの1%にも満たない。当然OTCのものもあるから日本のシェアはもう少し多いだろうが、それでも流動性が低下するグローバルの中でのシェアは極めて少ない。

また、一銘柄をカバーできるディーラー数もかなり落ち込んでいる。DTCCのカバーする銘柄をカバーするディーラー数は平均4.7社と、以前よりかなり少なくなっている。92%の銘柄が10社以下のディーラーカバー、約半数が5社以下となっている。流動性を提供できるディーラーが減るとb/oコストがかさみ、ヘッジコストが増え、収益が減る。とはいえ、ここまで資本規制が強化されると、ディーラーだけを責めるのも酷ではある。

例えば、トヨタなどのCDSを買っても、せいぜい100bpを超えるほどにワイドニングすれば良い方で、b/oを払った後で収益が残ることは少ない。そうすると思い切ってCDSを売り、満期まで保有しプレミアムを稼ぐしかなくなる。やはり400とか500bpまで動くような銘柄でないと、株式のようにトレーダーが利益を上げるのが難しい。それだけならIndexで十分である。資本賦課を減らす効果が認められたこともあり、シングルネームよりもIndexの方が取引量が増えている。特に流動性の低い日本ではこの傾向が顕著だ。

海外では最近Skew取引とBondとCDSのベーシスがそこそこに盛り上がっている。SkewはiTraxxのようなインデックスとその構成銘柄をすべて取引するパッケージとのスプレッド差を取りに行く取引であるが、かなりのレバレッジをかけることが多いので、取引サイズは大きくなる。

日本では、そもそも社債マーケットが大きくないので、社債とCDSのベーシス取引が行いにくい上、インデックス構成銘柄の中にほとんど取引されないものが多いため、Skewの取引もあまり見られない。そう考えると、日本においてはCDS市場のみを盛り上げようとしてもダメで、社債市場の活性化が先に来なければならない。通常CDS市場で活発に取引されるのはハイイールド銘柄だ。日本では楽天やソフトバンクがこのセクターに該当するのかもしれないが、海外ではこの辺りのスプレッドの銘柄は非常に多い。

また日本では新NISAのマーケットインパクトが注目されているが、投資先は株式投信ばかりで、日本では債券ファンドを考える人はあまり聞いたことがない。海外ではCDSのメインプレーヤーがPimcoとPGIMであることはよく知られた事実であるが、社債市場の厚みと、それを組み入れたファンドの発展がCDSの発展のカギとなるのだろう。そして、超優良企業だけでなく、ミドルリスク、ハイリスクのスプレッドを提供できる企業の社債発行が増えてくる必要があろう。

CCPの清算基金が上昇している?

Risk.netに、最近CCPがVaRモデルに移行したため、清算基金(GF:Guarantee Fund)が上昇しているという記事が出ている。VaRモデル移行に伴って当初証拠金(IM:Initial Margi)が減ったため、GFが上がったという趣旨だ。若干個人的な直観に反するが、もしかしたら自分がみている日本の市場では起きていないが、海外ではこうした動きが加速しているのかもしれない。大手金融機関のGF拠出額は昨年前半に14.2%、約$14bn増えたとのことだ。

IMが増えると、Defaulters Payといってデフォルトした参加者の当初証拠金で損失の多くが賄われるので、不足分を全員で負担し合うGFが減る。逆にIMが減るとGFが増える。自己責任原則からすると、すべてをIMで賄った方がフェアではある。

しかし、IMが増えれば、これが極端に増えないよう、参加者がポジションを自主的に減らそうというインセンティブが生まれる。CCPでは極端にポジションが偏った場合、ポジションが巨大になった場合は、IMを徐々に増やすConcentration Chargeを導入している。

デフォルトしたとしても、自分の出した担保ではなく、銀行が代わりに出してくれたお金で処理できるとなると、クライアントクリアリングの顧客がどんどんリスクを増やしてしまうというモラルハザードが起きる。

そもそもSpanマージンからVaRへの移行は当初証拠金を減らすために行われた訳ではないはずなので、これによってIMが急減してGFが増えたというのは若干不思議ではある。大手ディーラーも、特にクライアントクリアリングビジネスを行っていれば、このIMとGFのバランスにはかなりセンシティブなはずである。

このIMとGFの比率はIM・GFまたはIM・CF比率などと言われ、リスク負担を議論する際には頻繁に参照される指標である(CFはClearing Fundの略)。個人的には通常の金利商品であれば、IMに対するGFは10%以下、できれば一桁台に抑えるべきだと思っているが、テイルの大きな商品の場合はある程度GFに以降しないと、証拠金負担が持続不可能なくらいに増加したり、プロシクリカリティを招いたりしてしまう。

適当なGuessではあるが、何となく金利スワップなら5%で良いが、為替なら10%、CDSなら20-40%といった感じだろうか。こう考えるとSwaptionなどはテイルが大きくなるのでCCPでの清算は極めて難しく、CDSも本来ならかなり困難な商品なのではないかと思う。これにCCPの負担分が加わり、3者でどうやって負担を分担するかが焦点となる。

この分担は誰がリスクをどのくらい負担するかという問題の他に、どのくらいのIMまでなら妥当なのかという問題が加わる。いくら自己負担原則が良いといっても、取引想定元本の半分の証拠金が必要などと言われたら、ヘッジなどしない方が良いということになってしまい、逆に金融市場が不安定になる。その意味ではクリアリングをしない方が良い商品というものも存在する。新たなToo big to failを作っても意味がないからだ。

昨今の金利や為替変動なら、市場の安定性を損なわず証拠金を集めてクリアリングするのが可能な範囲となっている。特に円に関してはそうだが、一時の米金利や英金利のような動きが常態化するとこれが難しくなってくる。リスク管理が重要だからといって極端に保守的な市場変動に備えるためにIMを増やし続けると、逆に市場流動性に支障が生じる。為替も何とかクリアリングできると思うのだが、大きな資金決済が発生するため決済リスクをどうするかが問題となる。CDSは、一たび危機が発生すると、IMでカバーできなくなる可能性が高いので、IMを上げるか、普段からGFを多めに取っておく必要がある。

現状の仕組みでは、IMはリスクを取る参加者自らが負担するが、GFはディーラーが拠出することになっている。したがって、その分IMに対するGFの比率が高いCDSのような商品はクリアリングブローカーが顧客に課すクリアリングフィーが高くなるべきであろう。ただし、市場変動やポジションの集中度合いなどによりIM・GF比率が変動すると、クリアリングフィーを調整する必要があるが、これは現実には困難である。

したがって、IM・GF比率の変動が激しい商品は、クリアリングブローカーにとっては、非常に扱いが難しい商品となってしまう。この辺りを国の保証、保険などによって損失負担ができれば、市場流動性に悪影響が及ぶほどIMやGFを増やさずに、クリアリングが可能になるのかもしれない。

クロスマージンスキームの対象範囲が拡がってきた

米国債の清算集中規制導入を来年末に控えて、米国CCPであるCMEとFICCの複数商品にわたる拡張版クロスマージンスキームが今度の月曜日から始まる。あらゆる取引のCCPへの移行が進むと、当然証拠金所要額が大きくなるが、クロスマージンはその効果を和らげる重要なツールとなる。

国債を買ってそれを先物でヘッジしているような場合、クロスマージンができると必要証拠金が大きく減ることになる。つまり、クロスマージンを提供できるCCPの競争力が格段に上がり、参加者としては、当然マージンのオフセットが大きいところで清算したいと思うので、CCPにとってはなくてはならないツールになりつつある。そして、自らオフセットする商品をすべてカバーできていない場合などは、今回のような複数のCCPにまたがるクロスマージンが効力を発揮する。。中国と香港のCCPが一部マージンを融通しあうスキームを始めたが、今後も複数のCCPにまたがるこういった取り組みは増えていくものと思われる。

日本ではほとんどすべての商品がJPX傘下のJSCCで行われているので、それほどフォーカスにはならないかもしれないが、スワップと国債先物のクロスマージンは実現できているものの、確かレポが対象になっていなかったと思うので、今後はここが課題になるかもしれない。特に英国中銀のDear CROレター移行レポのヘアカットを上げる動きが見られ始めているので、クロスマージンのニーズは高まっている。といっても実際に危機が起きた時は相関関係が大きく崩れ、思ったよりリスクのオフセットが得られないことも多いので、制度設計は慎重に行うべきである。

一方、こうしたクロスマージンは多くの商品を大規模に取引するディーラーに有利であり、一方向のポジションしか持たない中小規模の参加者に対するメリットが少なくなる傾向があるので注意が必要である。また、ヘッジファンドなどは国債、先物、レポのみならず、金利スワップを多用するので、CMEとFICCもSwapをどう取り込んでいくかが課題となる。

CMEのプレゼンテーションによると、CME Cleared Swapについても将来的なMargin Optimizationの対象となっている。こうなるとLCHからSwapをCMEに移す参加者も出てくるかもしれない。また、Approximately 30 Membersが対象となると書かれているが、30となるとほぼ大手の金融機関に限られているようだ。米国では分散化されたポートフォリオを持つファンドも多いことから、これをいかに顧客ポジションに拡大していくかが重要になる。日本では、ヘッジファンドが少なく一方向に傾いたポートフォリオを持つ顧客が多いと思われることから、海外よりはクロスマージンの効果は限られてしまうかもしれない。

日本で最もクロスマージンの効果があるのは、JSCC-LCHベーシスだろう。JSCCとLCHでオフセットしあう取引を持っていると、両CCPに対してマージンを払う必要があるが、リスク自体は極めて小さい。JSCCとLCHが共同してクロスマージンなんてことになると、かなり大きなニュースになるのは間違いない。しかし、現状では両CCPに参加できる海外参加者のみがメリットを受けるので、LCHに日本の参加者に対する円金利スワップが開放されてからの話になるのだろう。

G30の連銀窓口貸出改革提案

前ニューヨーク連銀総裁のWilliam Dudley氏を中心としたGroup of 30から、銀行破綻時の最後の貸し手機能の改善策についてのレポートが出ている。最後の貸し手とは、Lender of last resortの訳だが、頭文字をとってLoLRと呼ばれている。SVBが連銀のDiscount Windowに迅速にアクセスできずに破綻したことは別記事に書いたが、これを防ぐため、事前に担保拠出をしてはどうかという提案がメインとなっている。

確かにこの方法であれば、担保拠出などの手続きに時間がかかって資金が得られないという事態は避けることができる。また、普段からリスクに応じて担保を積み増すことになるので、SVBのように大きなリスクを抱える前に、何らかのストップがかけられた可能性もある。

その他、貸し出しのコスト引き下げ、ローンの期間延長、Discount Windowの利用を24/7にするという提案も含まれている。24/7とは24時間7日間ということで、つまり、365日いつでも利用可能ということになる。

当然預金保険の対象拡大や、LCRのパラメーター変更なども議論されているが、担保の事前拠出の方が効果が大きいと主張している。

米国債のクリアリング義務化の方向性も決まったばかりだが、レポについては、相対からクリアリングに移行すれば、カウンターパーティーリスクが少なくなり必要担保も減る。もしかしたら、これでクリアリングへのインセンティブを上げようということなのかもしれない。

また、リスクが増えた時に迅速に担保を動かす必要があるため、連銀サイドでのシステム変更も必要になる。そして、連銀が対応すれば、すべての金融機関に対してもシステムの高度化プレッシャーが強くかかってくることになる。金融がますます装置産業化していく中、日本でもそろそろシステムコストを渋らず、思い切った投資をしていく必要性が高まっている。

最後の貸し手論争

シリコンバレーバンク(以下SVB)破綻を受けて、規制当局の間では、様々な議論が行われている。最後の貸し手である中銀がもっと積極的に介入すべきという意見もあるが、それでもまずはそのような事態に陥らないように銀行の監督を厳しくするという論調が多い。

確かに危機時には中銀の窓口貸出(以下Discoujnt Window)によって資金提供をするという制度はあるのだが、これに手を付けてしまうと「危ない銀行」とみなされるリスクがあるので、その利用をためらう銀行が多い。これはいわゆるStigma問題と言われ、古くから起きている問題である。Stigmaは、「烙印」、「汚名」、「不名誉の印」などと辞書上では訳されているが、金融の世界においては、つぶれそうになった時に政府や中銀に泣きつくことが、信用不安を煽ることになるため、なかなか使えないという状況でよく使われる。

日本でもコロナショックにおいて、ドル供給のプログラムができたが、このStigma問題のため、本当に使ってよいのかという疑念が各行で渦巻いていたと報じられていた。

米国SVBもこの利用を躊躇したのか、Discoujnt Windowの申請をしたのは破綻の前日であった。これとは他に米国ではBTFP(Bank Term Funding Program)という銀行緊急借入制度がある。SVBショックもあり昨年新設された制度であるが、米国債や政府機関債を担保に最長1年まで借り入れをすることができる。金利は直近でOIS+10bpとなっており、Discoujnt Windowよりも安い上、Stigma問題も小さいため、その利用が急激に伸びている。担保にかかるヘアカットもゼロなので、かなりお得な資金調達である。特に満期保有で国債を保有していた地銀にとっては、国債を売却せずに資金を得られるので、まさに銀行危機時に効果を発揮するプログラムとなっている。

他にも、昨年破綻した米地銀の多くは、FHLB
Federal Home Loan Bank)からの資金を借り入れていたが、これには資産の30%までという上限がついている。SVBはこの上限に達していた。FICCのSponsored Repoも使えるが、地銀の間ではこのセットアップができているところが少なかったようである。この辺りは米国債の清算集中規制導入によって変わってくるかもしれない。

昨年の経験を踏まえると、Discount Windowは、やはりStigma問題がかなり大きな要素になっているように感じる。一方、BTFPを使ったとしてもすぐにそれが表に出ることはない。最長1年のローン終了後から1年後の公表なので約2年程度の猶予がある。もちろん、Discount Windowでは、商業ローンなどの流動性に劣る資産も担保として使えるというメリットがあり、BTFPでは対象外となっている地方債も使える。

ただし今の制度では、その利用をためらう銀行が多く、何らかの制度改革が必要なのだろう。Group of 30 からもDiscount Windowの改革案についての提案が出されているが、昨年成功したBTFPからも学べることは多いだろう。信用危機時にこうしたプログラムが市場に与えるインパクトも大きいため、一応注目しておいた方が良さそうだ。

米国債の清算集中規制への準備

年末に米国債とレポ取引の清算集中規制の最終案が出たが、そろそろ金融機関サイドの準備が始まりつつある。レポについては対象先が広いが、米国債の売買については例外規定があり、対象外となるところも多い。特にヘッジファンド、プライベートエクイティファンド、プライムブローカークライアントとの取引が対象外になっているのが興味深い。ただし、トレーディングプラットフォームを使って売り手と買い手を結び付けた場合は対象となっている。

レポについては、CCPの直接参加者によって取引されたレポがすべて対象となっているため、大手の金融機関の取引についてはかなりの割合がカバーされることになる。現状CCPはFICCのみが対象だが、今後増えていく可能性もある。

ここからのスケジュールとしては、まず今年の5月下旬から6月上旬にCCPがルールブックの改正が行われることになっている。内容的には概ね予想ができるため今からでも準備は可能だが、現状では担当者を決めてプロジェクトの計画を策定し、本格的な作業はおそらく6月くらいからということになろう。

そしてこの変更に基づいてディーラーの自己ポジションと顧客ポジションの分割などを完了させるのが来年3月末までくらいとなろう。実際の規制施行は米国債売買が来年末(2025年12月末)、レポが再来年2026年6月末となる。

資本規制やネッティング効率を考えると、早めにCCPに移行しておく方が望ましいことから、海外大手金融機関は今年から徐々にポジションをCCPに移していくことになるかもしれない。内部取引に関する適用除外規定もかなり限定的に読めるので、遅れないように準備を進めておく必要がある。

こうしてCCP取引が標準となってくると、CCPを介さない取引のプライスが悪くなったり、取引量に制限がかかる可能性があるので、米国債を取引する日本の市場参加者はある程度の準備をしておく必要があるだろう。特にCCPへのOpen Accessを確保するよう求めらていることから、多くの市場参加者がCCPに参加していくことが予想される。ある程度の取引量があるのなら、直接参加も検討に値するのかもしれない。

規制強化が市場変動を激しくする

お金が回らなくなると経済活動が停滞するというのが個人的な経験測だが、米国でも資金の流れが悪くなってきているように感じる。日本では、個人が銀行預金にお金を回し、銀行が重厚長大産業にその資金を回していたころは良かったが、国債や外債に回り始めてから経済が停滞した。

一方、米国では、商業銀行の資産に占める現金の割合は約10%程度であったが、最近では15%を超えるようになってきている。通常金融危機やコロナショック時には現金を潤沢に準備しようという意識が働くのでこれが高くなるのは当然なのだが、シリコンバレーバンクなどの危機が去った今でも現金比率が高止まっている。規制強化もあり、現金がないと不安という心理が働いているように感じる。

12月末に短期金融市場でSOFRが急上昇して市場を驚かせた。期末に資金がひっ迫するのは珍しいことではないが、それでも今回の上昇幅には危機感を覚えた人も多かったものと思われる。何もイベントがなくてもここまでマーケットが動きうるというのは、何か構造的な問題があるように思えてならない。

これで米国債の清算集中規制が始まると、さらに証拠金ニーズが高まり、現金がひっ迫する可能性も高まるため、引き続き注視しておく必要があるだろう。米国債の発行も増え、銀行が手元にリザーブしておく現金も増え、規制により証拠金が増えると、現金が経済活動に回らず、カストディアンやFEDに滞留するということが起きる。国債に回った資金が成長資金に回ればまだましだが、この資金がどこまでうまく使われるかは政府にかかっている。

いずれにしても銀行サイドは、貸出に慎重な姿勢を続けることが予想される。資金を集めるために、預金金利を高めに保とうとするところも出てくるだろう。投資面でも極力現金比率を上げようとするため、マーケットメークにも消極的になるかもしれない。そうすると当然市場のボラティリティが上がる。

急激な市場変動は昨今あちこちで起きているが、今年も何らかのきっかけで市場がクラッシュする可能性は高いと考えた方がよさそうだ。

日本円金利スワップの躍進

日銀政策変更を期待する海外勢の取引増もあり、日本円金利スワップの取引量が急増している。現場の感覚としても昨年はかなり取引が活発だった印象があるが、
JSCCの統計で確認してみる。月次の債務負担金額をグラフにしてみると以下のように一目瞭然だ。個人的にも、グラフを描くまでは、ここまではっきり出るとは思っていなかった。

当初は月50兆円程度だった債務負担金額は、たまに100兆円まで届くようなこともあったが、LIBOR改革の辺りで若干取引が減っていた。LIBORからOISに移行した後は順調に取引量が増え始め、昨年一気に急増し、月間200兆円を超えるようなレベルになっている。

これは単なる想定元本なので、短期の取引が増えれば元本が増えるのだが、特に短期シフトが起きているわけではなさそうだ。昨年11月と12月は2年未満の取引が増えており、若干元本の増加に寄与しているが、それでも全体のトレンドは変わらない。

もう一つの要因としては、LCHからのシフトであるが、現状の債務負担残高がJSCCが61%を占めている。以前見た時は50%程度で拮抗していたと思うのでJSCCへのシフトは確実に起きているようだ。これまでの蓄積である残高でみて61%なので、最近の取引だけを見れば70%を超えているときも多いだろう。

外資系証券の取引量が増えているというニュースもあったことから、やはり海外勢の円金利スワップの取引量が増えているのだろう。これまで、日本円金利スワップの取引量は他通貨に比べてあまり増えてこなかったが、ここへ来て一気に盛り返している感がある。

日本円の金利にはCCPベーシスがあるので、LCH金利とJSCC金利が存在しているが、最近ではJSCC金利を使って取引をしたいというところがほとんどになっている。通貨スワップのディスカウントなどもJSCCを好む人が表れているので、市場慣行としてはJSCC金利が円金利スワップの標準になったといっても過言ではないだろう。

いずれにしても日本円においても、遅ればせながら他通貨並みに金利スワップの利用が増えてきた。これからますますデリバティブ取引の重要性は日本でも高まっていくことになるのだろう。海外に比べて遅れているデリバティブリスク管理に通じた人材の育成も急務である。