CCPの清算基金が上昇している?

Risk.netに、最近CCPがVaRモデルに移行したため、清算基金(GF:Guarantee Fund)が上昇しているという記事が出ている。VaRモデル移行に伴って当初証拠金(IM:Initial Margi)が減ったため、GFが上がったという趣旨だ。若干個人的な直観に反するが、もしかしたら自分がみている日本の市場では起きていないが、海外ではこうした動きが加速しているのかもしれない。大手金融機関のGF拠出額は昨年前半に14.2%、約$14bn増えたとのことだ。

IMが増えると、Defaulters Payといってデフォルトした参加者の当初証拠金で損失の多くが賄われるので、不足分を全員で負担し合うGFが減る。逆にIMが減るとGFが増える。自己責任原則からすると、すべてをIMで賄った方がフェアではある。

しかし、IMが増えれば、これが極端に増えないよう、参加者がポジションを自主的に減らそうというインセンティブが生まれる。CCPでは極端にポジションが偏った場合、ポジションが巨大になった場合は、IMを徐々に増やすConcentration Chargeを導入している。

デフォルトしたとしても、自分の出した担保ではなく、銀行が代わりに出してくれたお金で処理できるとなると、クライアントクリアリングの顧客がどんどんリスクを増やしてしまうというモラルハザードが起きる。

そもそもSpanマージンからVaRへの移行は当初証拠金を減らすために行われた訳ではないはずなので、これによってIMが急減してGFが増えたというのは若干不思議ではある。大手ディーラーも、特にクライアントクリアリングビジネスを行っていれば、このIMとGFのバランスにはかなりセンシティブなはずである。

このIMとGFの比率はIM・GFまたはIM・CF比率などと言われ、リスク負担を議論する際には頻繁に参照される指標である(CFはClearing Fundの略)。個人的には通常の金利商品であれば、IMに対するGFは10%以下、できれば一桁台に抑えるべきだと思っているが、テイルの大きな商品の場合はある程度GFに以降しないと、証拠金負担が持続不可能なくらいに増加したり、プロシクリカリティを招いたりしてしまう。

適当なGuessではあるが、何となく金利スワップなら5%で良いが、為替なら10%、CDSなら20-40%といった感じだろうか。こう考えるとSwaptionなどはテイルが大きくなるのでCCPでの清算は極めて難しく、CDSも本来ならかなり困難な商品なのではないかと思う。これにCCPの負担分が加わり、3者でどうやって負担を分担するかが焦点となる。

この分担は誰がリスクをどのくらい負担するかという問題の他に、どのくらいのIMまでなら妥当なのかという問題が加わる。いくら自己負担原則が良いといっても、取引想定元本の半分の証拠金が必要などと言われたら、ヘッジなどしない方が良いということになってしまい、逆に金融市場が不安定になる。その意味ではクリアリングをしない方が良い商品というものも存在する。新たなToo big to failを作っても意味がないからだ。

昨今の金利や為替変動なら、市場の安定性を損なわず証拠金を集めてクリアリングするのが可能な範囲となっている。特に円に関してはそうだが、一時の米金利や英金利のような動きが常態化するとこれが難しくなってくる。リスク管理が重要だからといって極端に保守的な市場変動に備えるためにIMを増やし続けると、逆に市場流動性に支障が生じる。為替も何とかクリアリングできると思うのだが、大きな資金決済が発生するため決済リスクをどうするかが問題となる。CDSは、一たび危機が発生すると、IMでカバーできなくなる可能性が高いので、IMを上げるか、普段からGFを多めに取っておく必要がある。

現状の仕組みでは、IMはリスクを取る参加者自らが負担するが、GFはディーラーが拠出することになっている。したがって、その分IMに対するGFの比率が高いCDSのような商品はクリアリングブローカーが顧客に課すクリアリングフィーが高くなるべきであろう。ただし、市場変動やポジションの集中度合いなどによりIM・GF比率が変動すると、クリアリングフィーを調整する必要があるが、これは現実には困難である。

したがって、IM・GF比率の変動が激しい商品は、クリアリングブローカーにとっては、非常に扱いが難しい商品となってしまう。この辺りを国の保証、保険などによって損失負担ができれば、市場流動性に悪影響が及ぶほどIMやGFを増やさずに、クリアリングが可能になるのかもしれない。