最後の貸し手論争

シリコンバレーバンク(以下SVB)破綻を受けて、規制当局の間では、様々な議論が行われている。最後の貸し手である中銀がもっと積極的に介入すべきという意見もあるが、それでもまずはそのような事態に陥らないように銀行の監督を厳しくするという論調が多い。

確かに危機時には中銀の窓口貸出(以下Discoujnt Window)によって資金提供をするという制度はあるのだが、これに手を付けてしまうと「危ない銀行」とみなされるリスクがあるので、その利用をためらう銀行が多い。これはいわゆるStigma問題と言われ、古くから起きている問題である。Stigmaは、「烙印」、「汚名」、「不名誉の印」などと辞書上では訳されているが、金融の世界においては、つぶれそうになった時に政府や中銀に泣きつくことが、信用不安を煽ることになるため、なかなか使えないという状況でよく使われる。

日本でもコロナショックにおいて、ドル供給のプログラムができたが、このStigma問題のため、本当に使ってよいのかという疑念が各行で渦巻いていたと報じられていた。

米国SVBもこの利用を躊躇したのか、Discoujnt Windowの申請をしたのは破綻の前日であった。これとは他に米国ではBTFP(Bank Term Funding Program)という銀行緊急借入制度がある。SVBショックもあり昨年新設された制度であるが、米国債や政府機関債を担保に最長1年まで借り入れをすることができる。金利は直近でOIS+10bpとなっており、Discoujnt Windowよりも安い上、Stigma問題も小さいため、その利用が急激に伸びている。担保にかかるヘアカットもゼロなので、かなりお得な資金調達である。特に満期保有で国債を保有していた地銀にとっては、国債を売却せずに資金を得られるので、まさに銀行危機時に効果を発揮するプログラムとなっている。

他にも、昨年破綻した米地銀の多くは、FHLB
Federal Home Loan Bank)からの資金を借り入れていたが、これには資産の30%までという上限がついている。SVBはこの上限に達していた。FICCのSponsored Repoも使えるが、地銀の間ではこのセットアップができているところが少なかったようである。この辺りは米国債の清算集中規制導入によって変わってくるかもしれない。

昨年の経験を踏まえると、Discount Windowは、やはりStigma問題がかなり大きな要素になっているように感じる。一方、BTFPを使ったとしてもすぐにそれが表に出ることはない。最長1年のローン終了後から1年後の公表なので約2年程度の猶予がある。もちろん、Discount Windowでは、商業ローンなどの流動性に劣る資産も担保として使えるというメリットがあり、BTFPでは対象外となっている地方債も使える。

ただし今の制度では、その利用をためらう銀行が多く、何らかの制度改革が必要なのだろう。Group of 30 からもDiscount Windowの改革案についての提案が出されているが、昨年成功したBTFPからも学べることは多いだろう。信用危機時にこうしたプログラムが市場に与えるインパクトも大きいため、一応注目しておいた方が良さそうだ。