米国債の清算集中規制への準備

年末に米国債とレポ取引の清算集中規制の最終案が出たが、そろそろ金融機関サイドの準備が始まりつつある。レポについては対象先が広いが、米国債の売買については例外規定があり、対象外となるところも多い。特にヘッジファンド、プライベートエクイティファンド、プライムブローカークライアントとの取引が対象外になっているのが興味深い。ただし、トレーディングプラットフォームを使って売り手と買い手を結び付けた場合は対象となっている。

レポについては、CCPの直接参加者によって取引されたレポがすべて対象となっているため、大手の金融機関の取引についてはかなりの割合がカバーされることになる。現状CCPはFICCのみが対象だが、今後増えていく可能性もある。

ここからのスケジュールとしては、まず今年の5月下旬から6月上旬にCCPがルールブックの改正が行われることになっている。内容的には概ね予想ができるため今からでも準備は可能だが、現状では担当者を決めてプロジェクトの計画を策定し、本格的な作業はおそらく6月くらいからということになろう。

そしてこの変更に基づいてディーラーの自己ポジションと顧客ポジションの分割などを完了させるのが来年3月末までくらいとなろう。実際の規制施行は米国債売買が来年末(2025年12月末)、レポが再来年2026年6月末となる。

資本規制やネッティング効率を考えると、早めにCCPに移行しておく方が望ましいことから、海外大手金融機関は今年から徐々にポジションをCCPに移していくことになるかもしれない。内部取引に関する適用除外規定もかなり限定的に読めるので、遅れないように準備を進めておく必要がある。

こうしてCCP取引が標準となってくると、CCPを介さない取引のプライスが悪くなったり、取引量に制限がかかる可能性があるので、米国債を取引する日本の市場参加者はある程度の準備をしておく必要があるだろう。特にCCPへのOpen Accessを確保するよう求めらていることから、多くの市場参加者がCCPに参加していくことが予想される。ある程度の取引量があるのなら、直接参加も検討に値するのかもしれない。

規制強化が市場変動を激しくする

お金が回らなくなると経済活動が停滞するというのが個人的な経験測だが、米国でも資金の流れが悪くなってきているように感じる。日本では、個人が銀行預金にお金を回し、銀行が重厚長大産業にその資金を回していたころは良かったが、国債や外債に回り始めてから経済が停滞した。

一方、米国では、商業銀行の資産に占める現金の割合は約10%程度であったが、最近では15%を超えるようになってきている。通常金融危機やコロナショック時には現金を潤沢に準備しようという意識が働くのでこれが高くなるのは当然なのだが、シリコンバレーバンクなどの危機が去った今でも現金比率が高止まっている。規制強化もあり、現金がないと不安という心理が働いているように感じる。

12月末に短期金融市場でSOFRが急上昇して市場を驚かせた。期末に資金がひっ迫するのは珍しいことではないが、それでも今回の上昇幅には危機感を覚えた人も多かったものと思われる。何もイベントがなくてもここまでマーケットが動きうるというのは、何か構造的な問題があるように思えてならない。

これで米国債の清算集中規制が始まると、さらに証拠金ニーズが高まり、現金がひっ迫する可能性も高まるため、引き続き注視しておく必要があるだろう。米国債の発行も増え、銀行が手元にリザーブしておく現金も増え、規制により証拠金が増えると、現金が経済活動に回らず、カストディアンやFEDに滞留するということが起きる。国債に回った資金が成長資金に回ればまだましだが、この資金がどこまでうまく使われるかは政府にかかっている。

いずれにしても銀行サイドは、貸出に慎重な姿勢を続けることが予想される。資金を集めるために、預金金利を高めに保とうとするところも出てくるだろう。投資面でも極力現金比率を上げようとするため、マーケットメークにも消極的になるかもしれない。そうすると当然市場のボラティリティが上がる。

急激な市場変動は昨今あちこちで起きているが、今年も何らかのきっかけで市場がクラッシュする可能性は高いと考えた方がよさそうだ。

日本円金利スワップの躍進

日銀政策変更を期待する海外勢の取引増もあり、日本円金利スワップの取引量が急増している。現場の感覚としても昨年はかなり取引が活発だった印象があるが、
JSCCの統計で確認してみる。月次の債務負担金額をグラフにしてみると以下のように一目瞭然だ。個人的にも、グラフを描くまでは、ここまではっきり出るとは思っていなかった。

当初は月50兆円程度だった債務負担金額は、たまに100兆円まで届くようなこともあったが、LIBOR改革の辺りで若干取引が減っていた。LIBORからOISに移行した後は順調に取引量が増え始め、昨年一気に急増し、月間200兆円を超えるようなレベルになっている。

これは単なる想定元本なので、短期の取引が増えれば元本が増えるのだが、特に短期シフトが起きているわけではなさそうだ。昨年11月と12月は2年未満の取引が増えており、若干元本の増加に寄与しているが、それでも全体のトレンドは変わらない。

もう一つの要因としては、LCHからのシフトであるが、現状の債務負担残高がJSCCが61%を占めている。以前見た時は50%程度で拮抗していたと思うのでJSCCへのシフトは確実に起きているようだ。これまでの蓄積である残高でみて61%なので、最近の取引だけを見れば70%を超えているときも多いだろう。

外資系証券の取引量が増えているというニュースもあったことから、やはり海外勢の円金利スワップの取引量が増えているのだろう。これまで、日本円金利スワップの取引量は他通貨に比べてあまり増えてこなかったが、ここへ来て一気に盛り返している感がある。

日本円の金利にはCCPベーシスがあるので、LCH金利とJSCC金利が存在しているが、最近ではJSCC金利を使って取引をしたいというところがほとんどになっている。通貨スワップのディスカウントなどもJSCCを好む人が表れているので、市場慣行としてはJSCC金利が円金利スワップの標準になったといっても過言ではないだろう。

いずれにしても日本円においても、遅ればせながら他通貨並みに金利スワップの利用が増えてきた。これからますますデリバティブ取引の重要性は日本でも高まっていくことになるのだろう。海外に比べて遅れているデリバティブリスク管理に通じた人材の育成も急務である。