日本でもG-SIBスコア削減が進捗

米銀大手行の第三四半期のG-SIBスコアが公表されてきているが、やはりどこもスコアを抑制しているのがわかる。ヘッジニーズが高まりデリバティブ取引が盛んになっているにも関わらず、デリバティブ取引の想定元本は第三四半期に減っている。JPMなどは債券のInventoryも減らしており、何とか今のBucketに留まろうとしているように見える。

マーケットでもG-SIB削減取引が頻繁にみられるようになってきているので、第四四半期にはさらなるスコア削減が予想される。

国別にスコアを見ていくとスコア上位には中国の銀行が並ぶようになってきた。同時に興味深いのは、欧米銀がスコア削減努力を続ける中、中国とともにスコアを伸ばしてきた邦銀勢のスコアが抑制されつつある点だ。邦銀も遅ればせながらコンプレッションなどを進め、スコア削減に取り組んでいるように見える。メガバンク3行とも、特に2022年の削減幅が大きい。中国の銀行は特に気にせずこれまで通り右肩上がりにスコアが上がっている。フランスの銀行があまり削減に熱心ではない点も興味深い。

これらはその国の規制を反映しているところもあるが、バーゼルなどの共通ルールで業務を行っている限りは、もはや大きいことは良いことではないのは明らかなので、極力効率的に業務を行っていく必要があるのは間違いない。

その意味では邦銀がようやく本気になっているように見えるのは心強い。なぜなら、市場でここまでG-SIB削減取引が出てくる環境においては、これをうまくコントロールしていかないと、余計なリスクを押し付けられてしまう可能性があるからである。一時期CVAやFVAでリスクを押し付けようとした市場参加者がいたのは事実なので、こうした動きに敏感になっておくのは極めて重要であろう。

米国債取引の清算集中規制はとん挫するか?

SECが米国債の清算集中義務化の議論を延期するという記事が出た。個人的にはCCPでの清算は望ましいと思っているのだが、これはデリバティブ取引やレポ取引のようなカウンターパーティーリスクを取る取引に関してのもので、国債のキャッシュ商品の売買に関して清算を義務付けるのが、市場の安定性と効率化につながるのかよくわからない。どちらかというとマージンや清算基金のコストが高すぎて全体としての効率が悪くなってしまうのではないかと思う。

年内には詳細がまとまると言われていた米国債の市場改革プランであるが、各方面から異論が噴出しているため、来年第一四半期に結論を先送りすることになったようだ。もともとのプランとしては、過去6か月のうち4か月において、米国債の取引量が$25bnを超えた場合は、一連の資本規制と報告規制をかけるというものだった。ある程度の取引を行うヘッジファンドなどが対象となるため、そうした会社が$25bn以内に取引を抑えようとすることにより、市場流動性に悪影響が及ぶと懸念されていた。

個人的にもこの懸念はもっともだと思っており、規制が強化されるのなら取引量を抑えようというのは当然の行動である。昨今はカウンターパーティーリスクや資本不足の懸念よりも、市場流動性が枯渇してることが最大のリスクだと思う。この状況下でさらに流動性を悪化するような規制は極力避けないと、米国債市場の価格変動がさらに大きなものになる可能性がある。昨今の価格急変はSVBショックを引き起こし、米国債の取引量の多い日本の機関投資家も痛手を被ったところが多いので、日本としても無視できない。

昨今の流れだと来年の第一四半期にルールの最終化ができるとは思えず、いったん仕切り直しになる可能性も高いと思っている。

日本ではなぜ社債市場が育たないか

これまで長年にわたる市場関係者の努力にもかかわらず、日本の社債市場はなかなか育っていない。この点に関して私見を。

銀行中心の資金調達

そもそも経済成長のためには必要なところにお金が流れることが不可欠だ。これが成功している国が成長率も高くなる。戦後の日本では、都市銀行、地方銀行、信金信組に加えて政府系金融機関が重厚長大産業に重点的に資金を融通し、奇跡の経済成長を成し遂げた。私が銀行員だった頃も、電力・ガス、海運・航空、自動車・鉄鋼といった分野毎に営業部が置かれ、こうした部門が当時は花形部門とされた。そして、インフラ系の投資が終わると、銀行融資が行き場を失い、バブル崩壊後の不良債権の増加に伴い、資金の流れが滞ってしまったのが、日本経済低迷の一つの理由なのではないかと思う。

新規事業への投資

アメリカでは、スタートアップ企業に対して資金を回す仕組みができ、新規産業が多数誕生したが、日本においては相変わらず銀行に資金が集まり続けたものの、それがこうした新規分野に回りにくかった。銀行員としての感覚としても、バブル崩壊後は不良債権問題もあったため、やはり伝統的な巨大優良企業に対する融資が優先され、業歴の浅い会社やスタートアップへの融資には積極的ではなかった。新規事業部門などを作ってスタートアップ融資をしようと試みたが、低金利で貸し出したにもかかわらずデフォルト率が高く、ビジネスとして成り立たなかった。

本来リスクの高い分野は上場益や高い金利を取って高リスク高リターンにしなければならないのだが、銀行間の競争もあり高い金利は取れなかった。こうした会社が社債発行をする環境も整備されておらず、ベンチャーキャピタルも少なかった。

貯蓄から国債へ

戦後復興を成し遂げた後も、個人の資金は銀行預金が増え続け、貯蓄から投資への掛け声も空しく、銀行に資金が吸収されていった。行き場を失った資金は国債投資に回り、政府債務が膨張していった。一部社債にも回っているが、日本の社債発行企業は優良企業がほとんどで、銀行の優良貸出先と重なっていた。国債投資によって国に集まった資金も、有効な使い方をされたとはいい難く、成長産業へは資金が行き届かなかった。90年代の銀行の中では、スタートアップ企業よりも、国や地方政府のバックアップのある第三セクターの方が融資先としては安全なのではないかという雰囲気すらあったと思う。

つまり結局大きなお金が集まった銀行と国が、効率的に資金を回せなかったので、新しいイノベーションが生まれず、以前からの大企業と効率性の低い国のプロジェクトにつぎ込まれてしまったのが日本低迷の原因ではないかと思っている。その意味では銀行が必要なところに資金を回せるのであれば、社債市場がなくても経済成長は可能なのかもしれない。

理系重視の米国と文系重視の日本

海外でも銀行は重要な役割を果たしているが、大きく違うと感じたのは、日本では商業銀行優位という点だ。半沢直樹でも取り上げられていたが、以前は銀行から証券子会社への出向を命じられて意気消沈している同期もいたくらいだ。一方アメリカでは、商業銀行と投資銀行との比較になると、投資銀行を志向する人が多かった。外資系投資銀行は日本に来るとJPモルガン証券、シティーグループ証券のように証券会社と呼ばれるが、なぜか証券会社というより投資銀行といった方が聞こえが良い。アメリカではこの垣根はなくなっているので、商業銀行も投資銀行業務を行っているが、商業銀行は事務をしっかりこなす文系、投資銀行は金融工学を駆使した理科系といったイメージも残っている。日本では銀行といえば文系の世界で、理科系人材が入ってきたのは90年代になってからだ。

NISAによる資金循環の変化

資産運用立国を目指して様々な取り組みが行われているが、来年からはNISAの拡充によって一定程度の資金が銀行から投資信託に流れることが予想される。こうなると、銀行経由ではなく、直接成長企業などへ資金が回るようになる。ただし、NISAの中身とNISA対象商品の中でどこに資金が回るかも重要になってくる。おそらくかなりの部分が全米株式インデックスや全世界インデックスに回ることになるだろうが、そうすると日本の産業には資金が回らない。ただ、NISAで個人が資産形成できれば、それが消費に回って国内が潤うという可能性はる。

国のNISAなのだから、一定程度国内投資にインセンティブを与えても良いと思うのだが、海外企業の方が成長性が高い現状では、ある程度海外に資金が流れるのは仕方ないだろう。また、NISAの対象商品の中で日本の社債に投資するファンドはあまりに少ない。そもそも優良企業ばかりで利回りの低い日本の社債では、信託報酬をカバーできるだけのリターンも得られないので社債ファンドは非常に難しい。

社債市場の活性化

まずは、社債発行会社のすそ野を広げ、リターンの高い社債が市場に流通する必要がある。A格以上がほとんどを占める日本の社債市場では、5%とか10%のリターンが期待できる社債はほとんどない。海外では、優良企業の社債を100で買うよりも、ディストレス債を30で買う方がリスク管理的にも安心感がある。なぜなら、100の社債は5年もたてば半分になるかもしれないが、今30の社債から30以上の損失は出ない。回収率が2割とか3割程度あるのが海外の標準なので、おそらく損失の可能性は極めて低い。一方社債が償還すれば100で返ってくる。倍以上になるということだ。日本はリターンが低いうえ回収率も10%程度と低くなることが多いので、社債投資家としては最悪の市場ということになる。

利回りが高ければ社債は売れる

日本で社債が売れないかというとそういう訳ではなく、PRDCなどは日本で最も盛んに取引され、CLNなども日本で結構売れている。高利の仕組債が金融庁から問題視されたのは記憶に新しいが、利回りが高ければそれに投資したいという投資家はかなり多い。つまり、日本の社債市場が活性化しないのは、国債と同じようなクーポンの低い投資対象しか存在していないことが問題なのであり、リスクの高い会社の社債が発行されれば、それに投資する人がでてきてもおかしくない。30年のPRDCとBB格の社債のどちらのリスクが高いかは考えてみれば明らかである。これがアジア開発銀行、世界銀行発行だからといって極端にレバレッジのかかった債券が売れている。この辺のリスク感覚も身に着けていく必要があるし、社内では世銀といった方が通しやすいといった異常な状態は正していかなければならない。

日本でも、今で言えばビックモーターなどのような問題を抱えた会社が社債を出していれば(一部銀行保証付私募債は出ている)、それが10とか20とかで売られているはずで、社債ファンドからすれば是が非でも買いたい銘柄となる。銀行ローンの売買も行われているが、大手金融機関の間の一部に限定されている。つまり社債発行体のすそ野が広がれば、あらゆるリターンを提供する社債が流通することになり、それによってリターンを上げようとする投資信託やファンドなどが組成されるはずである。そしてNISAの資金が流れ込めば、リスクの高いビジネスに対して資金が循環するようになる。銀行がリスクの高いところに資金を流せないのであれば、社債やクラウドファンディングでも何でも良いが、資金を回せるような仕組みを作らないと日本でイノベーションが起きにくくなる。

本来銀行貸し付けが受けられないところが、高いクーポンを出しても社債発行を考えるといった形にでもなれば、資金の流れがスムーズになるのだろうが、現在は銀行融資よりも社債発行の方がハードルが高い。これを補うものとして興味深いのは、クラウドファンディングである。最近も知人がクラウドファンディングで資金を集めて起業したが、こうした形で資金が循環すると経済の活性化につながる。クラウドファンディングのようなことを社債でできないかと考えると、小口化・デジタル化も一つの可能性なのかもしれない。

米国では、銀行が長期の資金を貸さないが、欧州や日本では、長期資金も借り入れで賄われることが多い。銀行の方が社債権者よりも優先してしまうという事情もある。JSDAの資料にある「銀行融資をやめるという話ではないが、そうすると社債市場はなかなか育たない」というコメントが興味深い。本来はオーバーバンキングが問題であり、銀行が少なくなれば健全な競争が生まれ、市場原理が働くという意見を持っている人は多いが、それを表立って言えない雰囲気が日本にはあったのかもしれない。

最近では銀行重視の風潮も和らぎ、銀行グループの中の証券会社の地位も上がってきた。特に銀行業のみを守ろうという意識もなくなってきたように思うので、業界を挙げて日本の経済に資金を循環させるにはどうしたらよいのかという議論が行われることが期待される。その中で社債市場の役割というものが見えてくるのだろう。

日本の社債市場活性化へ向けた取り組み

日本では、社債市場活性化のために長年検討が続けられてきたが、未だに社債市場の規模は海外に比べて格段に小さい。

この度JSDAから「社債市場の活性化に向けた今後の検討について」とう資料が公開されている。一方金融庁のホームページでも9月に社債市場の分析資料がポストされている。

以前は年間10兆円を下回っていた社債発行額だが、最近ではコンスタントに10兆円を超えるようになっており、多い年は15兆円を超えている。残高ベースでも100兆円を伺う水準にまで増えてきている。
ただし、米国の発行額は年間200兆円に近く、残高も1400兆円近いため、日本との差は歴然としている。レポートが示すように、日本の社債は9割以上がA格以上で、優良企業のみが発行するものになっている。投資する側から見ても、日本では株式ファンドばかりが選好され、債券ファンドはほとんど見られない。投資家層も銀行や保険、年金がメインで、個人が投資をする割合は極めて低い。

したがって、投資家保護の観点も株式に比べると注目度合いが低く、プロ向け市場となっている。そもそも優良企業による発行が主なので、利回りも低く、デフォルトなどしない前提で取引されているので、いざという時の想定外の損失が大きくなる。個人的な社債トレーディングの経験からも、低金利のクーポンの社債を買って最後まで持ち切るというのはあまり面白い取引ではない上、何か信用不安が発生した際には突然時価評価額が急落して損失を被るため、非常に取引しにくい商品であった。

今回は投資家保護の観点から、コベナンツ強化が課題として挙げられている。社債権者の権利保護を主眼に投資家保護をしようという方向性は正しい。しかし、だが、コベナンツ条項を入れたからと言ってすぐに社債取引が増える訳ではないので、複数の改革を同時に進めていく必要がある。

最近デフォルトが発生し投資家が損失を被った事例を下にJSDAが「近時のデフォルト事例に見る我が国社債市場の課題について」を公表している。なぜか企業名が伏せられているのでここでも書かないが、久しぶりの社債デフォルトであり、社債権者の権利の弱さを認識する事例だったのは確かである。個人的にも、いつも銀行などの方が情報を持っているだろうし、発行体ともつながっているから、情報は入ってこないし、きっと銀行には劣後してしまうんだろうなと思いながら投資をしていたが、確かに海外では銀行と少なくとも同列であるべく様々な手当てがなされている。

今後もJSDAで以下のような点を中心に議論していくとのことなので、社債市場の今後の発展に期待したい。

  1. コベナンツ付与のあり方
  2. 社債管理補助者に期待する役割
  3. 社債権者への適時適切な情報提供
  4. その他、社債権者保護に関する事項

ARRC解散

ARRCから11/8のミーティングが最後になったとのメールが来た。LIBORからの移行が終了し、ARRCもその役割を終えることになったようだ。数年するとLIBORって何?という人が増えてくるのだろう。

2019年から議長を務めたTom Wipf氏がUBSに移ったタイミングでARRCから退いており、6月末のUSD LIBORの公表停止も無事完了したため、当然といえば当然なのだろう。とはいえ、ターム物SOFR等の利用制限などは、ARRCのベストプラクティスガイダンスによって規定されており、今後ARRCという会議体がなくなることに若干の不安を覚えたのは私だけではないだろう。クレジットセンシティブレートの議論もARRCで行われていたので、今後はどのように議論を進めていくのかに注目が集まる。


ARRCからのアナウンスによると、今後は官民協力のもと、その他のメカニズムが作っていくことになろうと書かれているが、規制絡みの話は直接当局との交渉になるのかもしれない。


いずれにしても、金利と言えばLIBORだった世界から、全ての取引をスケジュール通りに移行させるのは並み大抵の作業ではなかった。個人的にもここまでスムーズに移行できるとは正直思っていなかった。
自らの利益のためだけではなく、業界のために膨大な時間を費やして作業をされた関係者の方々の努力に敬意を表したい。

SOFRベーシスの内部取引ヘッジ

ターム物のSOFRとオーバーナイトのSOFRのベーシスリスクヘッジができないことが問題になっていたが、銀行のグループ内でこれをヘッジする動きが活発になってきたようだ。

Ameriborなどのクレジットセンシティブレートが広がらない中、タームSOFRがローンの金利指標として幅広く使われるようになり、そのヘッジでターム物SOFRの固定受けの金利スワップニーズが増えてきた。しかし流動性に劣るターム物SOFRをメインにしたくない当局サイドの意向で、銀行がターム物SOFRの金利スワップを限定的にしか取引できないため、通常のオーバーナイトSOFTとターム物SOFRのベーシスポジションが大きくなってしまった。

このポジションをヘッジするために、銀行の中でローンを提供したり、ALMによってターム物SOFRの反対方向のニーズがあるグループ会社と取引をするという方法があるが、最近になってこのような内部ヘッジが増えてきたとのことである。当初このアイデアは当局から否定されていたと思っていたのだが、昨今ではこれが容認されいているようである。

ARRCのベストプラクティスでも、脚注でグループ内ヘッジの可能性についても触れられていたので、規制上の懸念点はクリアになっているようである。とはいえ、これが可能になるのは一部の大手銀行に限られ、しかも国によってはこのようなヘッジが認められない可能性があるので、問題の根本的解決にはならないようだ。やはり流動性の向上にしたがって、銀行がターム物SOFRを自由に取引できるようにしていくしかないのだろう。

社債担保を使ったDirty CSAの広がりと日本のデリバティブプライシング

欧州で適格担保を広げる動きが拡大している。昨年のGiltショックを受けて社債担保を適格担保に入れて欲しいという要望が多い。適格担保に社債が入るとデリバティブ取引のプライシングが変わってしまうので本来は望ましくないが、手持ち債券を売却して現金化を迫られた経験から、極力適格担保を広げるニーズがさらに高まっている。

現金担保のみでプライシングへの影響がなく、極力標準的な条件にしたCSAをClean CSAというのに対し、社債を担保に取ったり、非標準的な条件が入ったCSAをDirty CSAと呼ぶが、こうしたDirty CSAのもとで行う取引は、プライシングや価格評価の方法が不透明になってしまう。

ディーラーによってプライシングが異なるので、Novationや解約時に問題が発生することも多い。社債が入ることによってディスカウントカーブが変わるという影響のみならず、レバレッジ比率規制などによる資本コストも取引に織り込む必要もあるので、さらに透明性が低くなる。

社債のディスカウントカーブについては、Forwardのレポスプレッドを考慮してCheapest to Deliverの担保を決めるという手法を取るところも多い。つまり5年までは円がCheapestだが、それ以降はEURというように、フォワードカーブによって複合的なカーブを引くところが、主流ではないかと思う。

ディスカウントだけを見ても、長期のフォワードのレポ市場の動きを考慮して社債のファンディングカーブを引くのは極めて難しい。せいぜい手前の数カ月くらいのマーケットは観測可能だが、それ以降の長期になると、ある程度の前提を置いた上でカーブを引くしかない。特に日本などは社債のレポ市場がほぼ存在していない。

日本の場合は、取引の時価にあたる変動証拠金(VM)に対しても債券が出せることになっており、VMが現金のみに限定されている海外とは事情が異なるが、これまではプライシング上の差が大きな問題になることはなかった。というより、そこまで精緻にプライシングする人が少ないということなのだろう。

通常年金ファンドは固定金利を受けることになるので、ディーラーとしては金利上昇にReceivableが経ちエクスポージャーが増える。これを銀行間やCCPとヘッジをすることになるのだが、このヘッジに対してはVMとIMを拠出する必要がある。海外ではVMは現金のみなので、社債を受け取ってしまったディーラーは、それをレポに出して資金調達をする必要がある。そして顧客向けと銀行間のヘッジに対して資本コストがかかることになる。顧客の方でレポを行って現金担保を拠出しても良いのだが、レポ市場へのアクセスが限られているとこれが難しい。

また、通常社債担保については、信用力やテナーを考慮したヘアカットが科されるのが一般的である。ヘアカットが10%であれば、社債をレポ市場に出しても90%しかファンディングできない。昨今では当局サイドで最低ヘアカットを決めようという動きもある。

こうした様々なコストを反映させると、スワップの価格が5-10bpずれることも頻繁に起きる。日本でもようやく金利が上昇しつつあるため、ディスカウントカーブが重要になってくるのではないだろうか。欧州の議論を見ていると、そろそろ精緻なプライシングについて検討を始めた方が良い気がする。

Volume Discountは悪か

先月SECから出されたVolume based Exchange Transaction Pricingに関するガイダンスが話題になっている。証券会社を通じたオーダーに関して取引量に応じた手数料体系を禁じるというものだ。理由としては、エージェンシーとなるブローカーの公平な競争を促すためとのことだ。つまり、Volume baseにすると、巨額の取引を扱う大手銀行が有利になっており、中小ブローカーが支払う手数料が割高になっているという主張だ。また、月間の取引量などによって事後に価格が決まることもあるため、取引執行時にFeeが確定しないという点も問題視されている。

そもそもこうしたVolume Discountはかなり広範囲に使われており、OTCのCCPの料金体系でも幅広く使われている。金利スワップなどのブローカーに支払う手数料にも一部使われており、業界では幅広く受け入れられてきた慣行である。これは何も金融に限らず、まとめ買いをすればそれにかかるコストも少なくなるので、一般的な小売でも頻繁にみられる慣行だ。こうした慣行を認めるガイダンスも過去に出されていることもあり、一貫性にかけるメッセージが出されている点について業界からの批判が大きくなっている。

SEF導入の時もそうだったが、SECトップのGensler氏は中小金融機関やブローカーも含めて、アクセスを大きく広げ、競争を促すことを重要視しているように見える。今回のガイダンスの是非については色々と議論があるだようだが、日本では、ある程度の資本を持ったところがサービス提供をした方が安全という雰囲気があり、あまりこうした話は聞かれない。特にCCPへの参加者に関しては、より安定を志向し、一定の規模の資本とリスク許容度を持った参加者がその仕組みを支える制度となっている。

確かにあまりに行きすぎたVolume Discountを与えるのは良くないのだろうが、実際に大きな取引を一括して行う方がコストは低くなるので、それに応じて手数料を変えるというのは、極めて自然な考え方だろう。今後の議論の行方が注目される。

CCPへのアクセスとPorting

欧州の年金基金に対しては長年清算集中規制が免除されてきたが、その免除期間が終わりCCPへのアクセスが重要な問題になってきた。金融危機後にCCPへのシフトによるカウンターパーティーリスクの削減が進み、CCPが金融の安定に資する役割を果たしたことは間違いない。

だが、このブログでも何度か述べてきたように、CCPへのシフトを進む一方で、CCPに顧客をつなぐ役割を果たすブローカーに対する資本チャージが大きくなり、クリアリングブローカーの撤退が相次いだ。ここまでCCPで取引を清算する市場参加者が増えてくると、ブローカーサイドのキャパシティに限界が来ているように思えてならない。

IOSCOもESMAも、どんな市場環境下にあってもCCPへのアクセスが安定的に供給されることが重要と強調しているが、果たしてこれが確保されているかどうかというと大いに疑問だ。ブローカー破綻時には顧客ポジションがほかのブローカーに移せるようにポーティングという仕組みがあるが、これが機能するとは全く思えない。

アルケゴス以降のリスク管理は本来のリスクというよりは、サイズに偏ってきている。ポジションが小さければ新聞紙上を賑わす事件にならないからか、たとえリスクが小さくても、とにかく大きな取引に躊躇するところが増えてきた。CCP取引はそのサイズが大きなものになりがちであり、CCP自体がToo Big To Failである。そして担保のファンディングコスト、流動性リスク、資本コストがますます大きくなってきている。ロシア問題を受けてCountry Riskへの注目が高まる中、CCPへのリスクについて懸念する声も大きくなりつつある。

Non Financial Riskへの懸念の高まりにより、口座開設にも慎重になるところが増え、大手金融機関が破綻したときにその顧客の巨大なポジションを2日といった短期間で受け入れるのは、どう考えても不可能だろう。すべてのCCPがこのポーティングを前提に制度を作っているだろうが、危機時の対応については、何らかの対策をしないと、ポジション移管ができず、CCPとしては顧客ポジションを解約せざるを得なくなる可能性は極めて高い。

欧州では、顧客がブローカーを経由せずCCPにアクセスするIndirect Clearingも検討されているが、OTC取引でこれを大規模に行っているところはない。EUではクリアリングブローカーサービスが、Frandt(Fair, Reasonable, non-discriminatory and transparent)であることを求めているが、これは顧客保護の観点からの提案である。しかし、クリアリングブローカーのキャパシティが減少していく中、ブローカーに対する負担軽減を少し検討した方が市場全体の安定性が増すように思う。

FMI原則では、Portingが確実に行えるような仕組みを準備するようCCPに求めているが、バクアップブローカーを準備していない顧客もあるだろし、ブローカーにはそれをRejectする権利もある。EMIRのように事前にバックアップブローカーにPortingを約束する契約を締結することを求めない限り、実際にPortingが確実に行えるかは定かでない。そもそもブローカーにバックアップのサポートを提供するインセンティブが少ない。おそらくそれを約束してしまうとその分の資本チャージがとられることになる可能性もあるし、実際にPortingが起きた時にどのくらいの流動性が必要なのかを常に把握しておく必要がある。とはいえ、このサービスに大きな利益をチャージできるはずもない。

唯一ワークしそうなのは、緊急時にはKWCの要件を一時的に緩めたり、資本チャージを免除したりといった方策だろう。または米国のように裁判所の決定をもとに強制的にPortingを行うという方法だろう。というより、実際に事が起きた時は強制的なPortingが行われる可能性は極めて高い。

いずれにしても、今のままでは、次の危機に耐えられないだろう。これを解決するにはCCPサイドの自助努力だけでは難しく、当局からの何らかのサポートが必要になるのではないだろうか。