CCPへのアクセスとPorting

欧州の年金基金に対しては長年清算集中規制が免除されてきたが、その免除期間が終わりCCPへのアクセスが重要な問題になってきた。金融危機後にCCPへのシフトによるカウンターパーティーリスクの削減が進み、CCPが金融の安定に資する役割を果たしたことは間違いない。

だが、このブログでも何度か述べてきたように、CCPへのシフトを進む一方で、CCPに顧客をつなぐ役割を果たすブローカーに対する資本チャージが大きくなり、クリアリングブローカーの撤退が相次いだ。ここまでCCPで取引を清算する市場参加者が増えてくると、ブローカーサイドのキャパシティに限界が来ているように思えてならない。

IOSCOもESMAも、どんな市場環境下にあってもCCPへのアクセスが安定的に供給されることが重要と強調しているが、果たしてこれが確保されているかどうかというと大いに疑問だ。ブローカー破綻時には顧客ポジションがほかのブローカーに移せるようにポーティングという仕組みがあるが、これが機能するとは全く思えない。

アルケゴス以降のリスク管理は本来のリスクというよりは、サイズに偏ってきている。ポジションが小さければ新聞紙上を賑わす事件にならないからか、たとえリスクが小さくても、とにかく大きな取引に躊躇するところが増えてきた。CCP取引はそのサイズが大きなものになりがちであり、CCP自体がToo Big To Failである。そして担保のファンディングコスト、流動性リスク、資本コストがますます大きくなってきている。ロシア問題を受けてCountry Riskへの注目が高まる中、CCPへのリスクについて懸念する声も大きくなりつつある。

Non Financial Riskへの懸念の高まりにより、口座開設にも慎重になるところが増え、大手金融機関が破綻したときにその顧客の巨大なポジションを2日といった短期間で受け入れるのは、どう考えても不可能だろう。すべてのCCPがこのポーティングを前提に制度を作っているだろうが、危機時の対応については、何らかの対策をしないと、ポジション移管ができず、CCPとしては顧客ポジションを解約せざるを得なくなる可能性は極めて高い。

欧州では、顧客がブローカーを経由せずCCPにアクセスするIndirect Clearingも検討されているが、OTC取引でこれを大規模に行っているところはない。EUではクリアリングブローカーサービスが、Frandt(Fair, Reasonable, non-discriminatory and transparent)であることを求めているが、これは顧客保護の観点からの提案である。しかし、クリアリングブローカーのキャパシティが減少していく中、ブローカーに対する負担軽減を少し検討した方が市場全体の安定性が増すように思う。

FMI原則では、Portingが確実に行えるような仕組みを準備するようCCPに求めているが、バクアップブローカーを準備していない顧客もあるだろし、ブローカーにはそれをRejectする権利もある。EMIRのように事前にバックアップブローカーにPortingを約束する契約を締結することを求めない限り、実際にPortingが確実に行えるかは定かでない。そもそもブローカーにバックアップのサポートを提供するインセンティブが少ない。おそらくそれを約束してしまうとその分の資本チャージがとられることになる可能性もあるし、実際にPortingが起きた時にどのくらいの流動性が必要なのかを常に把握しておく必要がある。とはいえ、このサービスに大きな利益をチャージできるはずもない。

唯一ワークしそうなのは、緊急時にはKWCの要件を一時的に緩めたり、資本チャージを免除したりといった方策だろう。または米国のように裁判所の決定をもとに強制的にPortingを行うという方法だろう。というより、実際に事が起きた時は強制的なPortingが行われる可能性は極めて高い。

いずれにしても、今のままでは、次の危機に耐えられないだろう。これを解決するにはCCPサイドの自助努力だけでは難しく、当局からの何らかのサポートが必要になるのではないだろうか。