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某米系外資系投資銀行にて長年規制・市場動向を追っています。

社債担保の国債レポ

昨年9月のGiltショックで、多くのファンドが手持ちの英国債の売却を余儀なくされた。急激な金利上昇によって固定金利を受けていたファンドが金利スワップの負けポジションをカバーするために、現金担保の拠出を求められたからだ。

これを受けてファンド側では、担保契約であるCSAにおいて現金ではなく、国債や社債を担保に出せるようCSAの条件変更を銀行に依頼するところが増えた。だが、担保を変更すると取引自体のValuationが変わってしまうため、取引から損失が出たり、その後の取引のコストが上がってしまうというデメリットもあった。

今回BlackRock等が英国債のレポ取引の証拠金に社債を含むことを模索しているという報道があった。社債を担保に資金調達をする社債レポではなく、国債を担保に資金調達をする国債レポだが、その変動証拠金に社債を使えるようにしたというものだ。当然CSAでカバーされる金利スワップと同じようにレポについても担保条件が変わればValuationが変わるはずである。しかし、昔からレポ市場とデリバティブ市場の分断があったため、レポの担保に社債を使う方が受け入れられやすいのかもしれない。

当然理論的には全くおかしな話なのだが、当初CVAデスクができた頃は、通貨スワップや金利スワップからクレジットチャージの導入が進み、その後為替やコモディティなどの他の商品に拡がり、レポは蚊帳の外だった。レポの場合は、契約もISDAではなくGMRAで取引されており、別扱いされることが多かった。CVAトレーダーもレポに関してはコストをチャージするところは少なく、会計上もレポ取引にCVAなどの評価調整を入れているところは少なかった。当時は無担保取引にフォーカスが当たっており、ThresholdがゼロのCSAで行われる取引についてはCVAが無視されることも多かったので、レポについても同様の感覚だった。というよりはCVAトレーダーがレポ取引のリスクを取るところは少なく、レポトレーダーが自らリスク管理をしていたというのも大きな理由だろう。

その後CVAがXVAへと広がり、様々な取引についてXVAを考慮するのが一般的になり、当然レポ取引についても同じような扱いをするのが当然だろうということになり今に至っている。それでも、レポのヘアカットはデリバのIMより少なかったり、XVAを細かくプライシングする慣行がなかったりと未だに別扱いが継続しているところが多い。したがって、レポ取引の担保に社債を受け入れたからといって、Valuationを変えないところも多いのではないかと推測される。つまりISDA/CSAではできなかったことがGMRAなら若干の文言修正を入れれば簡単にできてしまうということである。BlackRockなどがこれを狙って社債の受け入れを進めているかどうかは定かではないが、意外と市場に拡がっていく可能性がある。

一応受け入れる社債にはA-以上といった格付制限があり、20%を超えるようなヘアカットが適用される。取引コストもそれなりに要求されるだろうが、それでも担保不足から突然資産売却を求められるよりはましである。社債レポによって直接ファンディングをするよりはコストが安いとのことである。市場が効率的であればこのようなことは起きないのだろうが、レポのXVA、当初証拠金の徴求(IM vs ヘアカット)、担保条件のプライシングなどが整合的に行われていないため、このような裁定機会が生まれてしまうのだろう。まあ短期だからValuationの違いは少ないため目をつぶってしまっても大きな影響はないというのが本音なのだろうとは思う。

G-SIBsスコアの計算方法のマーケットインパクト

7月28日に米国FRBから、G-SIBsスコアの計算に年末ではなく日々の平均を使うという提案がなされた。もともとレバレッジ比率などでは既に日々の平均が使われているので、これ自体は驚くことではない。これによって年末にレポが逼迫することがなくなるだろうが、常にレポのバランスを気にしなければならないため、全体としての流動性に対する影響を懸念する声も聞かれる。最速で2025年からの適用となるようだが、今後のマーケットインパクトにも注意が必要である。

特に気になるのが、金利スワップなどのデリバティブ取引に対する影響だ。金利指標がLIBORだったころはレポからの直接のインパクトはなかったが、現状ではRepoレートがSOFRのインプットになっているためレポ金利の変動はデリバティブにも波及する。金利変動が激しくなると、CCPのIMやSIMMのIMが増えることとなる。そしてその影響がしばらく続くことになるので、過度な金利変動は望ましくない。CCARなどのストレステストにも影響するので資本に対する影響もある。

最近のマーケットを見ていると、2020年春の米国債、昨年9月の英国債、各種コモディティの価格乱高下など、大きな市場変動が多発している。そしてこれらの市場変動が起きると、当初証拠金や銀行の資本充分性に対する懸念が高まる。証拠金の引き上げや資本規制強化をお行うと、更に銀行のマーケットメーキングが困難になり、市場流動性が枯渇し、更に市場変動が増幅するという悪循環になっているように思う。当然銀行破綻が起きてはいけないので、資本規制強化は避けられず、CCPの安全性が揺らいでもいけないので証拠金引き上げもやむを得ない。

なかなかこの問題には解決法が見つからない。個人的に考えられるのは以下のような策だろうか。

  • 価格統制(サーキットブレーカーや価格変動上限などによる市場変動の抑制)
  • 証拠金の負担分担拡大(銀行のコミットメントラインや保険会社の利用)
  • 介入(為替介入や日銀の国債買い入れなど)
  • 証拠金決済期間(MPOR)の短縮(ブロックチェーンなどを使った決済の高度化)

いずれも完璧な解決法ではないのだが、このまま証拠金や資本賦課を上げ続けていくと、どこかで限界が来るような気もしている。その意味では過度の市場変動を避けている日本というのは、優等生なのかもしれない。SIMMにおいても円金利は低ボラティリティに分類され証拠金負担が少ない。過去に過度な変動がないのがその理由だが、これが円金利スワップの取引コスト抑制につながっている。米国や英国と比べると市場変動に対する懸念と対策強化が進んでおり、これを市場操作と批判する声もあろうが、デリバティブ市場には好影響を与えているのは確かである。

あとは商業銀行や保険会社による負担の分散化である。そもそもデリバティブ市場参加者は何かあった時に巨額の現金を負担することに長けていない。こうした極端なマーケット変動に備えてコミットメントラインを持っておくのも重要な解決策の一つとなり得る。特にCCPなどでは銀行の信用状(LC、LOC)を適格担保にしているので、実際に現金を動かすことなく商業銀行が資金仲介の役割を果たすことになる。保険会社がこの支払いを保険でまかなうこともできるかもしれない。

上場商品であればサーキットブレーカーや、ニッケル問題の後に導入されたLMEの日々の価格制限なども過度な市場変動を抑える効果はある。如何せんマーケットでは過剰反応やオーバーシュートが起きがちなので、ある程度の対応は正当化されよう。

最後の決済期間短縮は技術的な解決策である。現状のように10日分のリスクをベースに証拠金を決めたり、資本規制を強化するのではなく、担保決済やクローズアウトに至る期間を短縮化することによって、証拠金水準を下げようというものである。

いずれもかなりの紆余曲折がありそうだが、証拠金や資本規制強化による対応だけではそろそろ限界が来そうな気がする。

CDSのDC問題

以前から問題にはなっていたが、CDSのDC(Determination Committee)のバイサンド参加者が減っていることがニュースになっている。DCはCDSのBig Bangによって設置されたデフォルトの認定を行う決定委員会(Credit Derivatives Determinations Committee:DC)である。以前はこのクレジットイベントの認定は当事者間に委ねられていたが、これをDCの下で業界横断的にクレジットイベント認定するようになったものである

導入当初はメンバーになるべく働きかけを行っていたところもあったようだが、結局このような公の場で自分のポジションに有利な主張をするのは難しく、特に規制やコンプライアンスの厳しい銀行では、当然トレーディングポジションに基づいた発言ができないよう、法務部門担当者がDCに参加し、トレーディング部門との情報遮断も行われた。

初期の頃はフロント部門でも議論の内容に興味を持つものが多かったが、結局議論をするというよりは法律の解釈に従って決定するだけなので、次第に関心が薄れていった。コンプライアンス的に問題にならないよう慎重に外部弁護士と相談するところもあったが、結局これにはコストがかかり、業界のためにコスト負担をするという側面が強くなっていった。当初はCDS取引に詳しいフロントやオペレーション部門の担当者の参加もあったように記憶しているが、今ではほとんどが法務部門の参加者になっており、CDSの市場について議論をするというよりは法的な文言についての議論が大半を占めているものと思われる。

ここまでくると、各社から代表を送る意味があるのかという議論も持ち上がり、本音を言えば抜けたいというところが多くなっている。結局この情報を使って取引を行い利益を得ることは不可能であり、自分のポジションに有利なように議論を誘導することも不可能である。LIBOR問題などもある中、参加者間で結託して議論の方向性を変えようと思うところがあるとは考えにくい。一方準備や法的分析、社内コンプライアンス対応なでのコストは大きい。業界でコストを出し合い、法律事務所などにアウトソースしても良いのではないかと思う。

委員会の構成としては15人のうち5人がバイサイドとなっているが、今ではこのバイサイド席の2つが空席になっていると報じられている。公平性を期すためにバイサイドを加えたのだろうが、銀行ではないからといってポジショントークができるとは思えず、銀行のような大規模な法務コンプライアンス部門を持たないところにとっては、負担が大きすぎるのだろう。このような状況でバイサイドが法律主体の議論に参加できるとは思えず、参加自体に意味がなくなっているように思う。

そういう意味ではCCPの破綻管理委員会なども同じで、業界を支えるために銀行から出席者を送らざる得ず、税金や参加料のようなイメージになっているのだろう。昨今の規制環境下においては、レートを提出したり、市場にインパクトのある事柄に意見するようなことは極力避けたいというのが銀行の本音であり、そこで市場操作を画策することは不可能である。銀行サイドでは、こうした委員会への参加について厳しいポリシーを策定しており、その発言内容も細かく精査される。DCについても早晩見直しの議論が持ち上がることになるのだろう。

TPRM (Third Party Risk Management)

通信記録保持義務違反に関連してNFRの強化が図られているという記事を昨日Postしたが、同様に外注ベンダーなどのリスクを管理するTPRMもグローバルでは必要以上に厳しくなっているものの一つである。

コンサルティング、各種業務委託、会計、税務、IT、データー入力といった外注のほかに極端に言うと清掃、受付、警備など様々な外注が行われている。10数年前であれば、便利なサービスがあれば使ってみてその意義を検証するということが容易にできたが、昨今では、こうしたベンダーから膨大な資料の提出を求め、厳密な審査とレビューを行わなければサービスを利用することができない。

通常こうしたベンダーの中にはベンチャー企業も多く、膨大な資料提出に対応が難しいところも多い。たとえ手間とコストをかけて、その資料をすべて提出したとしても採用されるとは限らず、結局大手独占を助長してしまうように感じる。

リーマンショックやアルケゴスショックなどを経て、Finandcial Riskのリスク管理強化が行われるのは理解できるのだが、最近はありとあらゆることを規制で統率しようとしているため、技術革新の妨げになっているように感じる。NFRやTPRMを担当する人員も数多く採用しているので、当然担当者は真面目に仕事をしようとする。こうして社内の統制がどんどん厳しくなっていく。

まだ日本はましだと思うのだが、海外業務を手掛ける場合は、先日の通信記録保持違反の罰金のように影響を受けてしまう。

今回は6/6に米国当局からTPRMに関するガイダンスが出されており、特にフィンテックに関する締め付けが厳しくなりそうだ。今回のガイダンスは、最近の流行りではあるのだが、リスクベースアプローチが取れらているため、何が許容され、何が禁止されているかという細かい規定はない。銀行が自ら考えてコンプライアンスプログラムを作成し、問題が起きないように考えてほしいというガイダンスだ。

ある意味正しいやリ方なのだが、こういった場合に問題になるのはいわゆる「横並び」の必要性である。通常こうした新しい規制が始まるとコンサルティング会社などがアドバイザーとして入り、そしてコンサルには各社の対応状況が蓄積され、何となく業界スタンダードが出来上がっていく。しかしこうしたコンサルを使っていないと、いつの間にか自分だけがOutlierになっていまっているということもありうる。特に米国外の銀行の場合はなおさらだ。

米国では、これを受けてコンプライアンスプログラムのレビューが進んでおり、小規模のフィンテックが市場から締め出されているという報道も見られる。

リスクベースアプローチをとっていると、銀行によってはすべての点において保守的な対応をするところも出てくる。そうすると、これまでのように、革新的なサービスを思いついて起業したとしても、コンプライアンスの負担に耐えかね、どこからも契約が取れないということもありうる。いずれにしても、あらゆる規制が金融業界にInnovationを起きにくくしているように思える。とは言っても米国規制の影響は無視することはできないので、日本の金融機関もある程度の対応をしておかないと、突然罰金をかせられるということにもなりかねないので注意が必要である。

Non Financial Riskの重要性の高まり

海外の金融機関においては、様々な仕組みが業界横並びで導入されることが多く、以前であればXVAデスクなどの構築が業界全体で進められたが、昨今ではNFR(Non Financial Risk)に関する部門を作るところが増えてきた。特に米国では、ある程度当局の指導が入るのと、転職が多いため同じような部門が同時期に作られたりすることが多いが、最近はNFRリスクマネジャーの募集広告なども数多く見かけるようになってきた。

NFRとは文字通りNon Financialなので、市場リスクやカウンターパーティーリスクなどのようにVaRやストレステストなどによって計量的に分析するリスクではなく、もう少し定性的な要素が大きくなる。もともとバーゼルでオペレーショナルリスクの定量化の流れの中で、定性的管理と定量的管理を分離した上て定性的なリスクを一元的に管理するようになってきており、これを担当するのがNFRということになっている。

日本語では非財務リスクと訳されるのだが、何となくこの訳はしっくりこない。市場リスクやカウンターパーティーリスクを財務リスクとしてまとめることに違和感があるからだと思う。いずれにしても、このNFRはこれまでのオペレーショナルリスクとは異なり、コンダクトリスクやコンプライアンスの側面が大きくなる。

別の記事に書いたWhatsAppを使った通信記録保持違反などもこのNFRの範疇となる。これが100億円ちかくの罰金につながることがあるので、無視できない水準になってきたため、それを専門的に管理する部署を作ろうということだ。その意味では当局の規制が作り出した部署と言えなくもない。このほかにサイバーリスクや、危機管理に関するリスクもNFRの範疇となる。

このNFRを3線管理と結び付け、フロントの1線にNFR担当を置くところが多くなってきた。2線は特に新たな部署を作るというよりは、リーガル、コンプライアンス、2線のオペレーショナルリスク担当がカバーするところが多い。このように外資系ではNFRの認知度が上がりつつあるが、日本の罰金がそれほど大きくないので、わざわざ日本ではリソースを割くまでもないかもしれない。しかし、ここまで規制がボーダレスになってくると今回の通信記録の件のように海外現地法人が巨額の罰金を科せられることにもなりかねない。過去の流れを見ていると今後は日本の金融機関でもNFRというファンクションの拡充が図られていくことになるのかもしれない。

個人携帯利用に対する当局の温度差

個人用携帯で顧客とやり取りをすることがグローバルで禁じられてから5年くらい経つが、さらなる制裁金のニュースが出ており、今回はSMBC Nikkoやみずほ証券の米国法人も罰金の対象となっている。

5年前にグローバルで指導が入った時は、ここまで厳しく規制されるとは思っておらず、現場でも禁止命令を重く受け止めない風潮もあり、顧客からWhatsAppやインスタントメッセージで連絡が来てしまうから仕方がないではないかという反発も強かったと報じられていた。

しかし、そのうちに多くの金融機関従業員がこれを理由に解雇されるというニュースが増え、疑わしい行為は避けるという意味で、個人用携帯の利用は全面禁止としているところが多くなった。日本では営業担当と顧客がLineでつながることも多く、長年の顧客になると友人と顧客の区別もあいまいになり、今度飲みにでも行きましょうか、ゴルフでも行きましょうかという連絡が入ってしまうこともあるが、これも完全にアウトとしているところが多いだろう。

最初のうちは、顧客からLineが来てしまった場合は、会議に少し遅れますといった業務外の内容ならOKとか線引きをしていたが、これをいちいち判定する方も面倒で、そのうち顧客から仕事関係の内容が来てしまうこともあるので、今では全面禁止としているところが多いと思われる。それほど米国では通信記録が残せないというのは一大事として扱われている。日本では規制でここまで問題視されるという雰囲気はあまり感じられず、金融機関のみならず業務にLineなどを使っているところはかなり多いものと推測される。

インスタントメッセージを会社で記録できるようにしたりという努力も行われてきたが、日本は通信事業業者に通信記録保持の義務がないため、実質的には不可能である。

この辺りは、国の仕組みに応じた柔軟な対応をしてもらえると良いのだが、こと通信記録に関しては米国のやり方がスタンダードになりつつあり、日本人的には信じられないような他愛のない会話が大問題に発展してしまう。罰金の金額も日本の罰金に比べると格段に大きい。

電話の録音ももちろん、Zoomなども海外金融機関では記録できるようなカスタマイズをしているところも多い。それを何か問題があった時はすぐに当局に提出できるようにしておかなければならない。日本の金融機関でも、特に海外ビジネスを手掛けるところは、こうした仕組みを構築しておいた方が得策だろう。

レポ取引のヘアカット問題

CVAの黎明期は、金利スワップ、通貨スワップなどのデリバティブ取引を中心にチャージを計算しており、その後為替、コモディティと対象を広げてきた。その中でレポについては歴史的にCVAという概念がなかった。したがって、レポのカウンターパーティーリスク管理のみ担当部門が異なっていた銀行が多いものと思われる。

昨今ではすべてのプロダクトを扱うようになったため、スワップのIMに相当するレポのヘアカットも同じような計算をした方がよいという話が出てきている。しかし、レポに関しては昔からの慣行で国債のレポは2%とか5%のように単純に決まっており、金利スワップのように、年限毎に異なるIMを取ることが難しいことも多い。また、証拠金規制のように双方が担保を出すというよりは、一方のみが担保を出すような形になっている。

とはいえ、10年スワップのリスクと10年Underlyingのレポのリスクはほぼ似たようなものなので、本来はスワップのIMと10年債参照のレポのヘアカットは同じようなレベルになるはずなのだが、相対取引だと過去の経緯もありこれがなかなか難しい。

一方CCPでクリアリングする取引の場合は、同じようなVaR方式を使っているため、IMは同じくらいになっている。したがって、レポをクリアリングすると必要担保額が増えてしまうので、相対で取引をしたいという市場参加者が増えてくる。レポに清算集中規制がないのでなおさらである。資本コストを気にする銀行サイドとしては相対でレポを行うとバランスシートを使い、レバレッジ比率の悪化を招くので取引がしずらい。こうして世界で最も流動性があるはずだった国債のレポの使い勝手が悪くなり、ひいては国債の価格変動や流動性低下を招くことになってしまう。

特に、昨年大きな金利変動のあった英国債のレポの担保が著しく引き上げられている。長期の物価連動国債のIMに至っては25%にも達すると言われている。相対でレポをすればヘアカットは2%なので、極力クリアリングを避けようという市場参加者が増えても不思議ではない。

通常はProcyclicalityの観点から、IMが急激に上がったり下がったりするのは望ましくない。そのため、Volatiltyにフロアを設けたり、過去最大の市場変動や架空のシナリオを追加することにより、市場が落ち着いた時にもIMが下がらないような仕組みが検討されてきた。今回は全く逆で、Giltショックによって上がりすぎたIMを何とか早くもとに戻せないかということでLCHが何らかの変更を検討しているとのことだ。

ただ、あまりにIMの水準を低くすると99.99%のように決めたバックテストの基準を下回ってしまうので、バランスを取るのが難しい。だが、25%のIMというのはかなり大きく、クリアリングを使うインセンティブがなくなってしまうことから、これを引き下げるような変更が行われると予想される。やはりリスク管理の基本に立ち返って、Expected LossまではCVAでカバーし、99%などのテイルまでは担保でカバーし、それ以外は資本(CCPの場合は清算基金)でカバーするというのが王道なのかもしれない。

中国の金利スワップ市場

中国の金利スワップクリアリングであるSwap Connectが5月に稼働して2か月が経過したが、相変わらず取引量が伸びていない。相対取引に使う中国版ISDAのNAFMIも結構交渉が面倒で、全てをISDAのコンセプトに置き換えて現地の法律事務所を使って精査しなければならないので時間がかかる。仕方がないのだろうが、単純にISDAを使ってくれればどれほど楽になることか。

クリアリングが伸びない問題点の一つとして、金利先物のように満期がある程度決められており、取引解約がしにくい点が挙げられている。事業会社のように長期でヘッジする場合には問題ないだろうが、こうした会社がSwap Connectを利用するとは思えず、メインのユーザーは年金基金、資産運用会社などの頻繁に取引をする市場参加者が中心となる。

こうした市場参加者は、一旦取引をすると、ある程度の収益が確定したところで同じ満期、同じ固定金利で反対方向の取引を入れる。そして、完全にオフセットする取引が二つ残るが、それがCCPの日々のプロセスによって解消されるのが一般的である。もともとの取引を解約しても良いのだが、取引のブッキングプロセス上、新規の反対取引を入れてから消した方が新規取引と同じプロセスが使えるため、オペレーション的に容易であるためである。JSCCもLCHもこのプロセスを採用している。

しかし、中国の場合は10年固定受け金利スワップといった決まった年限の取引のみが可能なので、半年後に解約しようとしたら10年の固定払い金利スワップを行うことになり、その時点では9.5年固定受けと10年固定払いの二つが残ってしまい、それを打ち消すことができない。コンプレッションの高度化などによってこれを消滅させることも可能かもしれないが、基本的にはこれらのスワップが10年間残り続けることになるため資本効率が悪く、9.5年と10年のベーシスリスクも負い続けることになる。

とは言え、以前の日本も似たような状況で、スワップを頻繁に受け払いして金利リスクをマネージするヘッジファンドのような市場参加者は少なく、資本コストに無頓着ということも相まって、コンプレッションのニーズも理解されなかった。MACスワップなどの利用も、ほとんどが海外ファンド系で、国内参加者のなかで、これを真剣に取引しているところは少ない。それでも円金利を取引する海外投資家が多かったため、何とかグローバル並みの仕組みができており、最近少しづつ増えてきた国内系ファンドや金融機関などもこの恩恵にあずかっている。

おそらく中国においても、早晩こうした問題は解消されていくことになるのだろうが、JSCCを含む他のCCPに比べると、ユーザーのニーズにタイムリーに応えながら柔軟に仕組みを変えていくという点においては、今一つといった感はある。それでも、2国にまたがるCCPの相互接続を成し遂げ、以前に比べると格段に金融市場の進歩が進んでいるので、今後の進展に期待が集まる。

Basel III End Game

米国当局がバーゼルIII最終案を木曜に公表したが、これによって米銀大手行のRWAが20%増加するだろうというアナリストレポートが出ている。当初は12%程度の増加と言われていた記憶があるので、想定外に膨らんでいるということなのかもしれない。

この資本賦課の増加を賄うために、3から4年の収益を積んでおかなければならないとの分析だ。特にトレーディング業務の比率の高いGSやCitiに影響が大きいとコメントされている。JPMやバンカメは資本蓄積にかかる期間が2年未満とされており、影響は少なくなっている。FRB副議長のスピーチの中では2年というコメントがあったので、それほど大きな違いはない。

Bloombergニュースでも、米銀大手8行の資本増が19%と報じられており、20%との乖離は少ない。また、シリコンバレーバンクなどの地銀ショックを踏まえて、規制対象範囲が総資産1000憶ドルを超える銀行に拡大されおり、こちらの資本増加は16%と報じられている。FDICも対象となる銀行持株会社のティア1資本について、全体で16%の資本増強が求められるとコメントしている。先週別のニュースでも、この新規制によって、米銀6行の余剰資本が1180億ドル失われると報じられており、米国では大きな関心を集めている。

バーゼルIII Endgameと題されるこの一連の改革が施行されるのは2025年1月からだが、一定の移行期間があるため完全移行は2028年7月1日とされている。今回の最終案のコメント期限は11月30日になっているため、詳細な分析をしてコメントをまとめる作業が必要になる。日本でも資本対比の収益性に対する関心がようやく高まってきたように思うが、日本の金融機関への影響も予想される。金融機関の将来像を占ううえで非常に重要な変更なのだが、今一つ内容が分かりにくいためか、専門家が少ない。SA-CCR導入時もそうだったが、あまりよくわからないまま施行開始に突入し、それから突然プライシングが変わるということになるかもしれない。

米国FedNowのアナウンスメント

先週木曜日、米国FRBが即時資金決済のFedNowシステムの立ち上げを発表した。これを使えば、24時間いつでも企業向け、個人向けの送金が瞬時に可能になる。FRBの発表によると当初参加者は一部の銀行に限ら、完全に利用が拡大するには数年かかる見込みである。

PayPayやLine Payなどで友人に送金をすれば、瞬時に送金が行われるため、すでに実現しているのではないかと言われるかもしれないが、実際に銀行に資金を入金し、それを現金として使うには時間がかかる。結局中小企業の資金繰り問題は、こうしたスマホ送金では完全には解決することができない。

この米国のプロジェクトは8年をかけて議論されてきたそうだが、これにより、給料日支払いなどの事前決済やつなぎ資金を提供する金融サービスの必要性がなくなる。大手銀行間の決済システムもあるが、中小銀行などの参加が限定的であり、完全にすべての決済がここを通っているわけではない。

メキシコやブラジルなど、他の国でも同様の即時決済システムの構築は進んでいる。これが可能になれば、金融危機時の即時資金供給なども可能になる。

何よりもこれがデリバティブ市場の決済にも使えるようになれば、金融システミックリスク軽減につながる。現在のカウンターパーティーリスク管理の仕組みは、資金の不払いがあってからポジションを完全にクローズするのに2週間程度もかかるという前提で構築されている。当然少し保守的にはなっているのだが、前日末のマーケットをもとに時価評価し、マージンコールを掛ける。そしてその金額が確認できたら送金支持をして次の日の夜中が期限となる。それで送金が確認できなければ潜在的デフォルトの通知を行い、その後の猶予期間を経てデフォルト通知となる。

本来であれば時価評価を共通業界プラットフォームの中で瞬時に把握し、即時決済を行えば、ここまでの時間は必要ではなくなる。当初証拠金などもこうした時間を考慮して決められているので、即時決済が確保されるのであれば証拠金削減も可能になる。これはCCPなどで決済されている取引についても同様である。

日本もRTGSの仕組みがあるが、金融システミックリスク削減のために、決済周りの高度化をもっと推し進めても良いと思う。

JSCCのシェア拡大が確実なものとなってきた

円金利スワップマーケットでは、LIBOR改革後にJSCCのシェアが高まっている。以前は50/50だったマーケットシェアが、LIBOR改革後に70/30くらいでJSCCが優勢となった。一時的なシェアの変化という声もあったが、ここのところ70%で安定している。

米国CFTCが米国顧客のJSCCへの参加を認めるのではないかという報道も以前からみられるが、これが本当に可能になれば、JSCCの優位性は更に拡大する。直近では、2023Q2のJSCCのシェアは72.1%に上昇しているが、ここからさらに加速する可能性がある。

日本はLCHのシェアが低い数少ない国の一つとなる。実質的にLCHが日本顧客向けの清算を行えないので当然といえば当然なのだが、ここまでくれば、この制限を外したとしてもJSCCの優位は揺るがないだろう。

トレーダーとしては、流動性のあるマーケットで取引したいと思うのは当然であり、プライスもタイトに出せる。先物とのクロスマージンもあるので、JSCCで清算したいというニーズは揺るがない。

こうなると次のフォーカスは当初証拠金や資本コスト削減に移る。金利スワップについてはほぼマーケットが安定し、昨今の規制環境下においても取引も非常にやりやすくなった。しかし、スワップション、通貨スワップは引き続き相対で取引されており、カウンターパーティーリスクが存在しているため、資本コストも高い。特に通貨スワップについては、元本交換部分がSIMMに含まれていないため、グローバルでストレスロスや超過リスク量の多いところを並べるとどうしても日本のプレーヤーが多くなる。

昨今の為替相場の変動により、CSAの評価時点によっても担保コール額が変化し、Disputeも多くなる。日本以外では、Disputeを減らさないと資本コストが上がるので、極力時価評価がそろっていた方がよいのだが、これがなかなか難しい。LCHのSwapAgentを利用すればこれが一気に解決するのだが、他国に比べて日本では今一つ普及していない。

東証のPBR改革によって収益性に対する注目が高まったのは望ましいことであるが、同じような意識改革がデリバティブ市場でも起きることが期待される。

カナダでターム物の銀行間取引が認められる可能性

米国では、LIBORの二の舞とならないよう、オーバーナイトのSOFRに流動性を集中させるべく、タームSOFRの銀行間取引が実質的に制限されているが、カナダではターム物の利用が許されるかもしれない。

カナダのリスクフリーレートはCORRA(Canadian Overnight Repo Rate Average)と呼ばれるが、カナダでベンチマークについて協議をするCARR(Canadian Alternative Reference Rate ) Commiteeから、ターム物のの利用を広く認めても良いのではないかというコメントが出されている。

カナダのマーケットの特性を考慮すると、ARRCのガイダンスに従う必要はなく、ターム物の銀行間取引はむしろ望ましいことなのではないかとのことだ。これが先例となると、他の通貨についてもターム物の利用が拡大するかもしれない。日本でもターム物の利用を制限すべきという意見は少なく、当局サイドからも利用を促進するようなコメントも聞かれることがあるので似たような状況なのかもしれない。

そもそもここまで流動性が上がってくれば、LIBORで起きたようなことがSOFRで起きるとは考えにくい。何よりも金融機関内部の雰囲気が10年前とは全く異なる。わざわざ刑務所に行くリスクを冒してまでターム物周りで不正を働こうという人は少ないうえ、金融機関内部でもそれを取り締まる人員が10年前の数倍に膨らんでおり、システム的にも不正を防ぐ仕組みが整備されている。

カナダには、信用リスクを含んだレートであるCDOR(Canadian Dollar Offered Rate)というものもあるが、これもあと一年で公表停止となるが、CORRAへの移行は順調に進んでいる。したがって、カナダの金利指標はCORRAに集中されていくことになる。将来の方向性としては、オーバーナイトのリスクフリーレートを中心としつつ、先物とターム物が使われるという方向性になるのだろう。そして米国のAmeriborやBSBYのようなクレジットセンシティブレートが細々と使われ、TIBORも同じような位置づけになるのだろう。

リサーチアンバンドリング規制緩和に向けた動き

英国がリサーチアンバンドリングの規制緩和を行うと報道されている。来週月曜には何か正式な発表がある模様だ。もともと欧州MiFID IIによって施行された規制だが、リサーチサービスを提供することによって取引を取るという慣行を不透明とし、この二つを完全に切り離すという規制だった。

当時このブログでもこの規制の問題点について書いたが、そもそもこれが本当に金融取引の健全性と透明性の向上に資するのかはよく分からない規制であった。日本でも、欧州顧客に対してうっかりリサーチを提供してしまうと規制違反になるのではないかということで、リサーチ提供を止めるところも多かった。欧州の投資資金が入っているファンドや、欧州銀行のアジア支店など、どこまでが欧州規制の対象になるのか、かなりの議論をしたことが思い出される。結局誰も規制違反はしたくないので、保守的にリサーチ提供先を限定し、結局不利益を被ったのは顧客という状況になってしまった。

利益相反の問題は少ないのかもしれないが、無料で情報提供をすることによってビジネスを取ってくるコンサルや法律事務所も多い。当然取引があるからと言ってリサーチの内容を恣意的に変えてはいけないが、ここは手数料を別にするよりは、検証をして必要があれば行政指導や罰金を科すという方法でも問題ないように思う。

そもそもリサーチを無料で受け取ることに慣れてきた投資家が、喜んで手数料を払うようになるかというと無理がある。結局手数料がなければアナリストへの給料も払えなくなるので、あまりニーズのない小型株などのリサーチが廃止されるという、当たり前の結果となった。投資家がリサーチに払うコストも1/5に減ったという報道もあったが、各金融機関ではリサーチアナリストのリストラが進み、業界全体のアナリストの数が減ってしまった。結局情報が少なくなり、顧客がアクセスできるリサーチの数も減り、金融マーケットに対してプラスのインパクトがあったとは思えないという結果になっている。

この英国の動きを受けて欧州規制がどう変わるかに注目が集まる。くしくも米国ではこの欧州規制の域外適用の免除期限が間近に迫っているので、世界的な影響がある。欧州でもリサーチアンバンドリング規制緩和に向けた議論が加速するのではないだろうか。

信用リスク移転はクレジット市場を活性化させるか

Basel III最終化によって米国においてCredit Risk Transfer(CRT)の一部としてCLNが認められるようになるのではないかという期待が高まっている。これまでは、米国のRegulation Qに明確にCRTとして定められているのはCDSヘッジと保証であった。それ以外のリスク移転が不可能ということではないのだが、CLNがこれに該当するとは明確には書かれていない。

CDSヘッジと似たようなものなので実質的には全く問題ないはずだが、昨今の規制環境下において無理してリスクを冒す必要はないという風潮があるのだろう。大手銀行は特にリスク削減効果を狙ってCLNを増やすということは行っていない。したがって、実質的にはリスク削減が行われているのだが、その効果をRWAに反映させることはできていない。

一方地域ごとにはこれが認められているところもあるため、地銀がこれによってリスク削減効果を享受している。大手銀行に対する規制を強化し、中小銀行に対する規制を緩和してしまったことからSVBショックが起きたのだが、ここでも同じような構図になっている。

しかしこれがBasel IIIの最終化の中で可能になれば、CLNマーケットのすそ野が広がり、CDS取引の拡大にもつながる可能性がある。リスクが高いとされる商業用不動産担保ローンなどは、ポートフォリオ全体の12.5%だけでもヘッジすればリスクウェイトを100%から20%に下げられる。これは極めて大きな資本削減につながるので、このルールの明確化の効果は大きい。また、ローンポートフォリオのクレジットリスクを担保付で投資家に移転すれば、Credit Substitionが可能になる。担保が国債ならウェイトが10%に、現金であれば0%になるため、こちらの削減効果も大きい。

長年の規制強化と罰金によって、大手金融機関は君子危うきに近寄らずという状態になっている。少しでもリスクがあるなら諦めるという風潮が支配的になっている。一方で中小金融機関やヘッジファンドなどの銀行以外の市場参加者のプレゼンスが上がってきており、リスク量も増えている。今後の金融革新はこうした大手銀行以外の投資家や、スタートアップからでないと起きにくくなってきているようにも思う。

Term SOFRのクリアリングに向けた動きが見られ始めた

CMEがTerm SOFRとOvernight SOFRのベーシススワップのクリアリングを銀行と検討していると報道された。これまではOvernightのSOFRに取引流動性を集中させるために、Term SOFRの取引には制限がついており、クリアリングもできていないため、コスト高となっていた。これが可能になると、これまでエンドユーザーとのTerm SOFR取引のヘッジに苦戦していた銀行が、容易に取引できるようになり、市場の流動性と効率性向上に資することとなる。

しかし昨日も書いたように、当局はSOFR以外のベンチマーク取引を拡大することには慎重になっているため、BSBYやAmeribor同様、Term物SOFRに対して厳しい立場を取るのではないだろうか。そもそもディーラーマーケットがない取引をCCPでクリアリングするのが望ましいのかという問題も残る。

銀行の信用リスクを織り込んでいるCSRがIOSCO準拠と認定されないという問題の他に、信用リスクは含まれていないものの、ローンなどで幅広く使われ始めているターム物金利のクリアリングもできないということで、米金利市場はあらゆる市場分断が起きている。その分のコストは銀行やエンドユーザーが負担している状況であり、早晩何らかの対策が必要となる。

日本円のターム物金利であるTORFは未だ取引がそれほど多くないためこのような切迫した状況にはなっておらず、欧州でも同様である。利用者が多いからか米金利だけが特殊な状況となっているが、この流れはもうしばらく続きそうだ。個人的にはターム物のクリアリングは歓迎すべきであり、その分のリスクは流動性チャージなどによってIMを多めにとって対応すれば良いと思う。そして流動性が上がってくればその流動性チャージを減らして徐々に正常に近づけていけばよい。

CSRについては未だ方向性を見極めるための時間をとっても良いが、Term SOFRの方はそれほど不正リスクなども大きくないものと思われる。相対で取引が残るのもリスクなので、クリアリング自体はそれほど問題視する必要はないのではないだろうか。

いずれにしてもOvernight SOFTとTerm SOFRのベーシスを安定させないと不効率である。そしてこの市場を分断しておくメリットはあまりなく、当局が気にするようなLIBORの二の舞にもなりにくいのではないかと思う。

日本でもJSCC-LCHベーシスリスクをヘッジするためにSPVを使ってStructured Notesに仕立て上げてEnd Userに売るケースが見られるが、同様のスキームを使って、このOvernight SOFTとTerm SOFRのベーシスをヘッジしようという動きもみられる。このベーシスは流動性の問題から広がることがあるが、結局最終的にはゼロ近辺に収斂するというViewを持つ投資家が多いため、若干のレバレッジを掛ければ、おそらく取引が可能だろう。もちろん当局やARRCの判断も重要だが、ここまで市場取引を制限する理由があるかどうかは、デメリットも含めて議論する必要があろう。

LIBORの終焉と今後の金利指標

昨日ついにUSD LIBORが終焉を迎えた。もちろんSynthetic Liborで一部残るものもあるが、一般的には昨日2023年6月30日がLIBOR最後の日として記憶されることになるだろう。JPYやGBPなどの他の通貨はすでに2021年に移行を終えているので、日本ではあまり大きなニュースにはなっていないが、それでもYahooトップニュースにLIBORのことが出ていたのが興味深かった。

こうなると当然CSR(Credit Sensitive Rates)がどうなるかということに注目が集まるのだが、最終レポートが出ると言われていた昨日を迎えても、当局サイドからのアナウンスは見つからない。協議に時間がかかっているのかもしれないが、IOSCOから適格ベンチマークとして認定される可能性は極めて低いものと思われる。

このCSR問題は、シリコンバレーバンクなどの米地銀破綻を受けて米国では大きな問題になっている。そもそもLIBORの代替レートであるSOFRだと、基本的にリスクフリーレートであるため、銀行の信用力を反映していない。つまり、リスクフリーレートで貸付をしているところに銀行危機が起き、ファンディングコストが上がってしまうと、銀行としては損失になってしまう。

これを解決するためにBSBYやAmeriborなどのCSRが出てきたのだが、そのレート決定の裏付けとなる実取引が少なく、いわゆる逆三角形問題が起きている。EYなどの独立監査によるとIOSCO準拠とのことなのだが、結局LIBORと同じような不正につながるのではないかと当局が懸念するのは至極当然と言える。

それでもBSBYの場合裏付けとなる現取引は1日$600bnを超える日もあり、SOFRには及ばないとはいえかなりのボリュームになっている。Euriborの参照取引などに比べると遥かに取引量が大きい。SECのゲンスラー氏がこれを認めるとは全く思えないが、パウエルFRB議長からはAmeriborについて肯定的なコメントも出ている。こうした状況に鑑みると、IOSCOがTIBORのレビューを行い、その透明性に疑義を示していないことはラッキーなのかもしれない。そのため、日本では海外のようなCSRの問題が起きていない。そもそもIOSCOはベンチマークを認定する団体ではなく基準やBest Practiceを示すだけなので、今後どのような議論になるかはよくわからない。

結局銀行のファンディングコストの急上昇に対する懸念は強いものの、実際はSOFRをベースとした取引がメインとなっている。英国などでは、そもそもCSRの話もほとんど聞かれない。EURもEuriborからESTRへのシフトは起きるかもしれないが、CSRの議論は盛り上がっていない。本当に銀行危機が起きたら大変なことになるのだろうが、当局としてはそんなことが起きないよう規制を強化するというのがメインシナリオなのかもしれない。日本の場合はもう少し金利に関しては融通が利くというかFlexibleな印象があるので、本当に銀行危機が起きれば、金利を上げられる余地は他の通貨に比べて大きいような気がする。

まずはIOSCOの出方に注目したい。

TONA先物がまずまずの取引量となっている

TFXが3月31日にTONA先物の取引を開始してからもうすぐ3か月となるが、そこそこの取引が行われているようである。日々の取引量や取引価格はTFXのウェブサイトで公表されている。OSEが取引を始めたのは5月29日だが、こちらも取引が見られている。

日銀の政策変更をめぐる不透明感も取引増加の背景にあるのかもしれないが、TFXとOSEの価格差を取るような裁定取引をするヘッジファンドまであると報じられていた。ディーラー以外の参加者も見られることから、ほとんど取引されないのではないかと疑問視する向きも多かった中では、まずまずの出だしといったところなのだろう。

金利スワップについても取引量が増えており、特にLCHに対するJSCCの優位が鮮明になってきている。これでUSクライアントのクリアリングが可能になれば、さらに流動性が上がってくる。TONA先物と金利スワップのクロスマージンが可能になれば、OSEのTONA先物の取引量も上がってくる可能性がある。

海外では為替でも先物やCCPでの清算を行うケースが増えてきた。資本規制が緩和される可能性は極めて低いため、ROEを向上させるためには先物やCCPへのシフトは今後も必然の流れとなるだろう。これまで日本ではあまり意識されてこなかった分野ではあるが、ここへ来て資本効率にフォーカスが当たり始めている。今後もさらに取引手法に変化が起きていくことが予想される。

理想のカウンターパーティーリスク管理とは

欧州ECBがカウンターパーティーリスクに関するガバナンスとリスク管理についてのコメント募集を行っている。募集が始まったのが6/2で、期限が7/14なので、比較的短期間の市中協議となるが、内容的にはそれほど大きな意見の相違がある内容でもなさそうだ。

対象となっている報告書はSound practices in counterparty credit risk governance and managementというもので、カウンターパーティーリスク管理のベストプラクティスのような形となっている。カウンターパーティーリスク管理のガバナンス、リスク管理手法、ストレステスト、WWR、デフォルトマネジメントなどの項目について、現行のベストプラクティスがまとめられている。

ガバナンス面では3線管理の重要性が強調されている。フロントオフィスの1st line of defenceと、独立したリスク管理部門である2nd line of defence、監査を行う3rd line of defenceのガバナンスと役割分担の重要性が強調されている。大手銀行はフロントに専門のカウンターパーティーリスクチームを設置しているものの、あまり効果を発揮していないというコメントも見られる。CCRに関する詳細な報告がシニアマネジメント層に報告されていないとも書かれている。マージンコールを始めとする詳細なリスク管理に対するトップマネジメントの関与不足も指摘されている。

確かに担保管理プロセス、WWRの管理、ストレステストなど、すべてのツールは揃っているが、トップマネジメントの関与があるかというと、このレポートがコメントしている通りなのかもしれない。定期的にリスク管理委員会などで報告はなされるが、トップマネジメントが、この深く突っ込んだ質問をしてくることは少ないのだろう。本来は、複雑でかなりの細部にわたるリスク報告書を平易な言葉で報告をしていくことと、CROだけでなくトップマネジメントがリスクに対して関心を持つことが必要なのだろう。

とはいえ、この10年の間にリスク管理に関しては大きな進歩が見られているのも確かである。以前であれば、ビジネスを推し進めたい現場と、それを抑えようという2線が対決するのが当然だったが、最近では、2線が承認した取引でさえも、ビジネスサイドのトップが否認するというケースもあるようだ。特に海外大手銀行では、アルケゴスのような大きな損失が発生すると、現場のマネジメント層も責任を負うことが増えてきたため、収益サイドに偏っていた現場のマネジメントのフォーカスが、若干リスク寄りに変化している。

最も効果を発揮しているのは、こうした損失が発生した時に現場のマネジメント層が個人的に責任を負うというプラクティスである。これは当初英国で始められた規制だが、米国でも似たような議論が出始めている。この場合の「責任を負う」とは、過去に支給されたボーナスが没収される可能性があることを意味する。こうなると、いくら収益が重要といってもリスクを気にせざるを得なくなる。だが、これが正しいリスク管理なのかどうかはよくわからない。

退職を控えたマネジメントなどが、すべてのリスクを避けるという行動にでることもありうるからだ。一方転職してきたばかり、着任したばかりのマネジメントにはこうしたインセンティブがなく、両者のせめぎあいとなる。だが、これが本当に金融機関の経営として健全と言えるのだろうか。やはり個人の生活とビジネスディシジョンは別に分けておいた方が良いと思う。そもそもこうした規制が海外で導入されるのは、上級管理職の報酬が極端に高すぎるからなのかもしれない。

とはいえ、現場のマネジメントがリスクに注意を払うのは良いことである。日本の場合はリスクはリスク管理部門、ファンディングコストは財務部門、資本コストや規制コストは企画部門のようにサイロに分かれていて、現場のトレーダーが資本コストやファンディングコストを気にしながら取引をすることが少ない印象がある。海外モデルが正しいとは言えないが、海外と日本の中間のようなところに正しい姿があるような気がする。

Non Financial Riskに対する資本規制強化

大手銀行の資本コストが20%アップというニュースが今月初めに大きな話題となった。資本コストの変更によって大きなビジネスの転換を余儀なくされた米系にとっては、こうしたニュースは個人レベルまで影響が及ぶ大問題であるため、各所から問い合わせが寄せられた。当然シリコンバレーバンクなどの銀行破綻を受けた資本規制の変更であり、トレーディング業務の割合の大きい大手銀行に対する影響も大きいと言われた。

これまでこうした資本規制の変更に翻弄されてきた債券ビジネスに関わる担当にとっては、またかという感じだったのだが、報道によると今回は少し様相が異なっていた。というのは、これまでは安全とみなされていたウェルスマネジメントに対する資本コストの増加が見込まれると報道されたからだ。

2007-2009年の金融危機では、トレーディング業務が狙い撃ちされ、それに対応するためにいくつかの銀行がウェルスマネジメントに舵を切った。こうした銀行の収益は安定し株価も右肩上がりとなり、従来巨額の収益をトレーディングから上げてきた銀行との差を広げていった。今では猫も杓子もウェルスマネジメントという風潮になっているのだが、今回の変更がこの傾向に待ったをかけるのかに注目が集まる。

こうした手数料収入にフォーカスしたビジネスは、確かにトレーディングから収益を上げるビジネスよりはリスクの振れ幅が少ない。しかし、今回注目されたのは、カウンターパーティーリスクやマーケットリスクではなく、不正や人的システムエラー、サイバー攻撃のようなオペレーショナルリスクに対する資本賦課の増加である。

金利ポジションの管理に失敗したSVBを始めとする地銀や中小銀行に対する規制強化は誰もが予想していたが、ウェルスマネジメントのような手数料ビジネスにまで規制強化の影響が及ぶとは思っておらず若干唐突感がある。確かに、昨今では虐待疑惑のかかる富豪と取引をしていたことから罰金を科される事件なども起きており、金融機関は、より社会的な責任を負うようになってきている。日本でも反社会勢力との取引が銀行を危機に追いやることもあるため、同じように状況にある。

虐待、環境破壊など、社会的に望ましくないとされる業界とビジネスを行っていることが、金融機関を危機に追いやることがあるので、確かにリスクとはいえる。つまり資金融通をするという金融仲介機能以外に、社会的公器としての役割が金融機関には求められるようになってきたということである。

従来は、カウンターパーティーの財務的健全性の検証にフォーカスしていたDue Deligenceが、それ以外のNon Financialな部分に及び始めたということである。日本では、こうしたリスクに対する罰金の額は少ないが、米国エプスタイン事件ではJPMは160億円にも上る罰金を支払っている。こうしたリスクはリスクの高いトレーディングビジネスを行っているとか、アルケゴスのような集中リスクを抱えるという伝統的なリスクとは性質が異なってくる。

今後はデフォルト損失やトレーディング損失にフォーカスするリスク管理者のほかに、KYC(Know Your Client)や顧客の社会的行動についても注意を払う担当が必要になってくる。そしてそのリスクを数値化し、資本コストとして割り当てていく必要がある。これはトレーディングビジネスのみならず、ありとあらゆるビジネスに関係してくる。

日本では反社会勢力に対する取引という観点で、もしかしたらこの分野では一日の長があるのかもしれないが、海外ビジネスを行う際には、日本とは異なり、巨額の罰金が科せられる可能性があることを考慮しながら、新たなプロセスを設けていかないと、日本の銀行だけが罰せられるということにならないよう、注意していかなければならない。

欧州CCPの利用の義務付けは欧州のためになるのか

EMIR3.0の一部であるActive account要件が物議を醸している。これはEUR金利スワップの一定程度を英国LCHではなく、EUのEurexでクリアリングするように定めたルールだ。LCHに比べると流動性に劣るEurexでクリアリングするということは、それだけ追加コストを払わざるを得なくなるということだ。LCH/EurexのCCPベーシスは、LCH/CMEベーシスとは異なり、10年で4bp程度にまで開くことがある。年金基金やアセマネなどで最良執行義務があるところなどは、コストの高いEurexでのクリアリングを義務付けられると、顧客との間で問題が起きるのではないかという懸念もある。

まだ具体的な数値が確定した訳ではないが、この要件が課されるのは2024年からなので、適用開始に向けて議論が大きくなる可能性がある。

Risk.netによるとドルスワップの80%は米国参加者によるものである一方、ユーロスワップの場合は、24%が欧州参加者によるものらしい。直感的にはわかりにくいが、ドルの場合は、米国参加者による取引がかなりの部分をカバーしている、つまり受けも払いもバランスよく含まれているということのようだ。したがって、CCPベーシスが拡大しにくい。一方ユーロの場合は、EUの参加者の取引がマーケット全体のバランスを表しているというよりは、70%の取引がEU外のグローバルプレーヤーによるものとなっている。つまり、EUの参加者にEurexの参加を義務付けても、一部のフローが移るだけで、結局CCPベーシスの縮小にはつながらない。

米国の場合は、CMEにおいて先物と金利スワップのクロスマージンによる証拠金の削減が可能になっていることからCMEでクリアリングするメリットもある。一方Eurexの先物は取引量が少ないため、クロスマージンのメリットが少ない。こうなると異なる通貨間の相殺効果があるLCHの方がマージンが少なくなり、コストが下がる。

また、年金基金に認められている清算集中義務の免除の期限が来週から切れることから、一方向(長期の固定受け)の取引が更に増え、ベーシスの拡大につながるのではないかという懸念がある。週明け以降のマーケットには注意したい。