PRAのSIMMレビュー

英国当局のPRAから、SIMMについて出されたレターが話題になっている。PRAとしては、コロナショック、ロシアのウクライナ侵攻、アルケゴス破綻などを考えるとSIMMベースのIMが不十分ではなかったかということなのだが、これらのリスクをすべてSIMMでカバーしようとすると、かなりのIMが必要になる。

アルケゴスレベルのリスクをカバーするためには元本の40%程度のIMが必要だったとも言われているが、全てにおいてそこまでのIMを取る必要があるかどうかはよく分からない。そもそもアルケゴスは証拠金規制対象外であり、SIMMに基づいて担保を取っているところはなかった。また、IMを40%取っていたわけでもないのに、アルケゴス破綻に際して損失を被らなかった銀行もあった。これをもってSIMMが機能しなかったと結論づけるのは早急とRisk.netでも指摘されている。

PRAのレビューを読んでみると、いくつかのカウンターパーティーに対しては、SIMMが当局が求める99% VaRのリスクをカバーするのには不十分であり、特にフェーズ6で証拠金規制の対象となるファンド等はリスクプロファイルが若干これまでの大手市場参加者と異なることから、SIMMの見直しが必要とされている。

また、SIMMのモデルガバナンスにはいわゆる「3+1バックテスト」が使われている。これは直近3年と1年のストレス期間をベースにストレステストをするという手法である。これだとサンプルデータに偏りがあり、モデル化できないリスクファクターを考慮できないということが問題視されている。

現場では、SIMMというよりは、当局が設定した標準法であるグリッドの扱いに苦慮しているという声もよく聞かれる。SIMMで計算されたIMとグリッドのIMだと、本来グリッドを使った方が保守的になるべきなのだが、SIMMを厳格化すると、グリッドを使いたいというファンドが増えてくる。特にグリッドは40年などの長期の取引になると、IM所要額がSIMMよりかなり小さくなる。アルケゴスで問題になったトータルリターンスワップでも、グリッドのIMは元本の15% にしかならない。

ウクライナ侵攻を受けたコモディティ取引の市場変動も、VaRなどでは測れるものではなく、極地理論でも援用しないとカバーできないリスクである。これをすべてSIMMで解決しようというのには無理があるのではないだろうか。むしろ担保だけ取っていれば大丈夫というよりは、どの程度のポジションまでを許容するのかという視点が、近年のカウンターパーティーリスク管理には重要なのではないかと思う。