MVAとは

MVAはMargin Valuation Adjustmentの略で、IMを拠出するコストを反映するものである。CVAやFVAのように取引時価の一部として会計計上しているところは少ないが、プライシングに含める銀行が多くなっている。清算取引と相対取引の両方に適用される。

CCPでは、VMの金利とIMの金利が異なったり、IMの金利にはマイナス金利を適用しないという条件になっている場合もあるので、厳密な計算は複雑になる。VMを受け取れば、それを他のカウンターパーティーに対する担保に使えるが、IMは証拠金規制によって分別管理を求められるので、担保の再利用ができない。ただし、証拠金規制の対象となっていないカウンターパーティーとの取引では、再利用が可能な場合もあるので、この辺りの計算も複雑だ。IMとして流動性のない仕組債などを拠出できる契約もあるので、その場合は当初証拠金拠出コストが低くなる。

また、CCPに対するIMが偏りやすいので、相対取引であったとしても、CCPと行う反対ヘッジにかかるMVAが大きくなることが多い。これは、特にLCHとCMEにIMが偏るドルスワップにおいて影響が大きくなっている。つまり相対取引そのものにかかるMVAのほかに、ヘッジ取引にかかるMVAも考慮しなければならないということだ。

ヘッジ会計適用スワップなどは、その取引が満期まで解約されないという前提でMVAを計算すればよいが、途中で解約される可能性の高いスワップの場合は満期までのコストをMVAに含める必要はない。スワップションなどでは、権利行使時にCCPに移るため、相対のIMがCCPに対するIMに変わる。このようなVelocityについても一定の前提をおいてMVAの計算をする必要がある。最近では、コンプレッションベンダーが当初証拠金の最適化サービスも影響し始めているので、MVAを減らせる可能性もでてきた。

以上のように、MVAの計算は非常に複雑であり、厳密にこれという数字が計算される訳ではない。マーケットでも、一定のMVAを取る慣行はあるが、ディーラーの既存ポジションにもよってMVAも異なるため、その他のXVAに比べると厳密な計算手法が確立しているとはいえないように思う。一方で、このコストがかなり大きくなることもあるので、完全に無視するわけにはいかない。また、IMを多くとると、CVAやFVAが減るうえ、資本の計算手法に資本コストを削減できることもある。資本規制、ポストトレード処理、適格担保の拡大など、今後更なる発展が見込まれる分野である。

Dirty CSAのニーズが高まっている

証拠金規制が定着しCSAの条件も標準化されてきたが、ここへきて現金以外の資産を適格担保に含めるいわゆるDirty CSAが増えているという報道があった。市場変動が激しくなり、必要なVMが大きくなってきたため、現金が足りなくなるバイサイドが増えたとのことだ。

通常はレポやストックローンなどのSFTによって、債券や株式を現金に換えて担保拠出をするのだが、昨今のバランスシート規制の強化により、レポのコストが著しく上がっている。ここまでコストがかかるのなら、少しくらいプライスが悪くなったとしても、CSAの適格担保に現金以外の担保を入れた方が良いのではないかということだ。ここでプライスが悪くなると言ったのは、社債などの非現金担保を受け入れてしまうと、レバレッジ比率規制上、エクスポージャーと担保をオフセットできないため、銀行のROEが低下してしまうからだ。他にもNSFRを悪化させるという効果もあるため、銀行サイドとしてはできるだけClearn CSAを入れておきたいニーズがある。

特にポートフォリオが大きい場合は、このCSA変更のコストはかなり大きくなる。銀行サイドとしては、将来にわたって資本コストが上昇するのでKVAをチャージすることになるが、これが思ったより大きくなることが多い。とはいえ、どうしても担保がないという場合には、現金以外であったとしてももらっておいた方が得策である。特に市場変動が激しく担保がいくら必要になるかわからないようなケースでは、現金に固執してカウンターパーティーリスクを取ってしまっては元も子もない。

一部では、こうした場合に1か月から3か月だけ一時的に担保条件を緩めるということが行われている。CSAの適格担保には通常Catch All条項が入っていることが多いので、おそらくそれを使っているのだろうと思われる。Catch all条項とは、適格担保に「その他両者が合意した担保」といった形でいざというときに何でも取れるようにしておく条項だ。この条項は、あまり頻繁に使うと適格担保の意味がなくなってしまうので、デフォルトの危険性が高いとき、極度な市場変動が起きた時に限定的に使われるべきものである。