店頭デリバティブ取引のリスク削減要件

店頭デリバティブ取引に関しては、可能な限りCCPで清算し、それが不可能な店頭デリバティブ取引に関しては証拠金規制をかけるというのが基本方針だ。しかし、証拠金規制だけでカバーできないリスクもあることから、別途IOSCOからガイダンスが出ている。これは、Legal Certainty、つまり取引の法的有効性を確保し、カウンターパーティーリスク管理を容易にし、金融システム全体を安定化するために導入された。米国、欧州、香港、シンガポールなどでは、規制やガイダンスが出されている。

Valuationなど日本でも似たようなガイダンスは出ているが、日本ではあまり注目されていない。オペレーションの高度化とか、システム化、自動化、効率化という日本が最も不得意とする部分のように思える。ポートフォリオ照合、Disuputeの管理、コンプレッションの努力など、オペレーションが面倒だという理由からか、海外ほどこれらを推進しようという動きも見られない。規制で厳しく求められたり資本コストが上がるわけでもないので、システム投資をしようというインセンティブがない。人権費が安いからシステム投資をしようというインセンティブがないという理由もあるかもしれないが、ここ10年くらいの間に日本のテクノロジー化がかなり遅れてしまったように思う。

Trading Relationship Documentation

取引に際して契約を締結し、取引の法的有効性を確保する。店頭デリバティブ取引の実行前(または実行と同時)に、契約を締結する方針や手続きを準備し、その通り実施しなければならない。今となっては当然のことではあるが、以前はISDAなどのマスター契約を締結することなく取引を行ったがために、トラブルにつながることもあった。

Trade Confirmation

マスター契約を締結した後に、個々の取引の内容を規定したコンファメーションを取引直後に交わす必要がある。取引を執行したら、直ちにコンファメーションを送付し、当事者同士で取引内容を確認しなければならない。以前は、このコンファメーションの送付と確認に数日かかったりすることもあったが、国によっては、これに期限を設けるようになった。

Valuation and Counterparties

マージンコールに使われる時価評価手法を確立しておかなければならない。取引の実行から終了、満期、失効といったいかなる際にも、その価値を決定するプロセスを合意し、それにしたがって時価評価が行われなければならない。時価評価自体に合意できないと、マージンコールが行えず、金融システム全体の不安定化につながってしまう。日本においてもValuationに関しては注意深くモニタリングすることが求められるようになっている。

Reconciliation

取引相手との間で、取引の内容や時価評価に相違が発生すると、前項同様金融システム全体のリスクになる。したがって、取引を行った後も、定期的に取引の照合作業を行うべきである。

Portfolio Compression

オフセットする取引を減らすべく、コンプレッションを定期的に行わなければならない。TriOptimaやQuantileといったベンダーのサービスを使った複数社間のMultilateralコンプレッションと、相対で個別に行うコンプレッションがある。コンプレッションを行えば想定元本ベースの取引量が減るため、レバレッジ比率を向上させたり、G-SIBスコアを下げたりすることができる。

Dispute Resolution

取引時価にDisputeが発生すると、担保授受が行われなくなる。それをそのまま放置しておくと、担保の効果が損なわれてしまう。したがって、Disputeの解決プロセスを決め、タイムリーに担保授受が行われるようにしないと、証拠金規制自体の効果に問題が発生する。また、米国や欧州では、一定のDisputeが継続して発生した場合は、資本賦課が上がるため、これを放置しておくと収益圧迫要因になる。

このような店頭デリバティブ取引に関する規制強化については、国ごとの進捗がFSBによって報告されている[2]。IOSCOのガイダンスにもあるように、デリバティブ取引はクロスボーダーで取引されており、現地法人などを通じてブッキング拠点を移すことも可能である。こうしたなか、規制アービトラージが起きないよう、当局同士が密接に連携することにより、国による違いが大きくならないようにしなければならない。FSBのレポートにも示されているように、日本の規制はほぼグローバル並みの基準を達成している。

しかし、細かい規制を比較していくと、たとえば執行した取引を即時に公開するリアルタイムレポーティング、取引を電子的にブックする電子取引規制、約定から決済に至るプロセスを人手を介さずに行うSTPガイダンスなど、システム化、標準化、オートメーション化においてスタンスが異なっている。電子取引などはETPによって規制は整備されているものの、米国のSEFなどと比べると対象取引範囲がかなり狭い。グローバルな金融業界は、自らの効率化努力と規制からのシステム化要請によってIT産業化しているのに比べると、日本のIT予算は各段に少ない。アジアの金融機関が急速にキャッチアップしているなか、日本の金融が世界から取り残されないよう、テクノロジーや金融インフラの高度化努力を推進すべきだろう。