Back to Back取引とポジションの集中管理が重要になってきた

ECBが今般市中協議を行っているoptions and discretions policiesの修正が、Brexit後の金融機関の内部取引慣行に変化をもたらすことが懸念されている。焦点は、金融システミックリスクを防ぐために設けられたLarge Exposure Limitの対象から内部取引を外すかどうかだ。

Brexit後の激変緩和措置として、英国法人とEU法人の間でリスク移転のための内部取引を行ったとしても、これまではリミットの対象外だったが、この免除措置を巡って議論が続いているようだ。ECBが英国締め出しのためにこのような変更を画策しているかどうかは定かではないが、内部取引がリミットの対象になると、英国法人とEU法人との間の取引が困難になり、事実上英国が締め出されることになってしまう。

EUの資本規制であるCRR IIの下では、一取引先に対するエクスポージャーは、ティア1資本の25%内にすべきとされている。またG-Sibs同士では15%がリミットだ。ケースバイケースでの免除も可能となっているため、急に取引が止められる可能性は低いと思われるが、いつでもその準備があるということは、EUが交渉上一枚カードを握ったことになる。そしてその裁量権はかなり大きい。こうなるとロンドンからリスク管理を行っている場合は、それをEUに移す検討を始める必要があるかもしれない。

特にリスクの少ないCCPとの取引や、当初証拠金を取った上で行っている有担保取引などは、厳格なリスク管理を行っているという理由で免除が継続される可能性が高くなる。問題は無担保で行っているデリバティブや、流動性の少ない長期のインフレスワップ等ではないだろうか。

リスク移転を行う内部取引はBack to Back Swapとも呼ばれ、金融機関のリスク管理の中心となっている。例えば日本法人が日本の顧客とGBP IRSを行った場合は、裏で日本法人と英国法人との間でBack to Back Swapを入れることにより、日本法人はGBPの金利リスクから解放される。

そして世界中から集められたGBP金利のリスクはマザーマーケットである英国で管理される。日本法人にはクレジットリスク、カウンターパーティーリスクは残るもののマーケットリスクは存在せず、市場リスク資本もかからない。カウンターパーティーリスクを移転することも可能である。

メリットはこれだけにとどまらない。様々なトレーダー、部署が行った取引をBack to Backによって集約すると、コンプレッションや当初証拠金の最適化、資本の最適化までが容易に行えるようになる。Back to Back Swapは、今や金融機関のリソース管理の中心となっている。ポジション集約が効率的に行われているからLIBOR改革やCSA変更などを行う際にも話が早い。

翻って本邦では、海外エクスポージャーが少ないというのもあるが、一部の先進行を除いて、あまりこうしたことは行われていないようである。したがって、部署が異なるとそのポジションには触ることすらできなくなり、同じネッティングセットの中にあるにもかかわらず、全体最適を考えるのが困難になる。人の部署のポジションには触れないし、中央で管理する部門もない。あったとしても現場に気を使うためか、アクティブなポジション管理は難しい。海外とのBack to Backまでは必要ないかもしれないが、あらゆる部署のポジションの全体最適を考える部門は必須である。

昨今の資本規制、流動性規制強化の流れの中で、こうしたポジション管理はますますその重要性を増していく。これを変えるだけで英国とEUの金融規制が大きく影響を受けるようにすらなっている。日本でも、高度なポジションの集中管理を進めないと世界から取り残されてしまうことが懸念される。

OISへの移行状況アップデート

引き続きLIBOR移行状況を追ってみる。JSCCの統計データによると、LIBOR関連取引の割合は徐々に減少し、5から6割程度の日が増えてきた。7月1日から始まったOIS取引へのシフトも、加速はしていないものの一定程度みられる。一時的にTIBORからOISのシフトの様相を呈していたが、引き続きTIBOR関連取引もみられる。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

LCHがTIBORスワップをクリアリングしていないという点と、TIBORの適格清算取引はZTIBORが30年、DTIBORが20年までという点にも注意が必要である。ちなみにOISは40年まで清算可能である。したがって、TIBORがJSCCに集中することからTIBOR取引のシェアが実態より高く感じるかもしれない(JSCCの適格商品はJSCCのWebを参照)。

また、20年超のDTIBORがクリアリングされていないことから、長期TIBORの取引量が実態より少なく見えているかもしれない。または、30年のDTIBORスワップがクリアリングできないのでZTIBORでクリアリングして、30年のDZベーシスが溜まっているという可能性もある。この辺りは将来的にDTIBORの適格対象年限が拡大されるときには何らかの影響があるかもしれない。

Clarusの分析を見ても、DV01ベースでみると、TIBOR取引の50%以上が長期となっている。確かにJSCCのデータを確認してみるとLIBORよりはTIBORの方が長期の割合が多い。

TIBORはLIBORとは異なり今後も存続するベンチマークであるため、DとZがどのように一本化されているかも含めて興味深いマーケットである。ただデリバティブマーケットを見ている限り、ディーラー間取引の主流はOISに移る気配があり、月末のQuoting Convention変更に向けて、更に移行が加速していくことになるだろう。

一部監査法人の問題なのかもしれないが、ヘッジ会計の継続を巡ってOISに移れないという声が一部で聞かれるが、さすがにLIBOR公表停止まで半年を切った今、そんなことも言っていられなくなる。そうなるとTIBORは10%程度で残りはOISということになっていくのだろう。