LIBORとANTITRUST

反トラスト法の関係でISDAのLIBOR Fallback Protocolのプロセスが遅れるのではないかという趣旨の記事が出ていた。確かにLIBORから新レートへの切り替えに際しては、様々な市中協議が行われており、銀行のインプットも重要な役割を果たしたと思われる。そして、実際にレートが切り替わると、当然その時点で損益が発生する可能性がある。実際に先月のFCA高官のWebinarでのコメントがわずかとはいえマーケットにインパクトを与えたという事例もある。とは言え、これでプロトコルが遅れるとなると、2021年末の期限に影響が及ぶ。

この規制環境下で、自分のポジションに都合の良い方向に議論を引っ張る人など存在しないと思うが、慎重な見方をする米国司法省などにとっては、やはり懸念が発生するということなのだろう。

そもそもISDAは銀行等のメンバーが理事を派遣している業界団体であり、規制当局ではないため、メンバーの意見を代表することも多い。市中協議に参加しているのもメンバーだし、意見を出しているのも銀行などのメンバーである。これを避けるためには当局が全て決めるしかないのだが、やはりかなりの専門知識が必要になる上、マーケット参加者ではないとわからないところも多いものと思われる。

こういう懸念が出てくると、社内で情報をシェアしないようにとか、LIBOR改革関連のミーティングに関わる人を制限するという動きがより強くなるかもしれない。もちろん、今でもこうした情報のウォールがあるところがほとんどだろうが、どこまでシェアして良いかという明確なルールはない。ただし、おそらくポジションを持っているトレーダー等に対する情報共有はかなり慎重にやっているものとは思われる。

つくづくベンチマーク、価格指標を作成するのは困難な仕事だと思われるが、ここまで来ると、業界団体ではなく、当局が協議体を設置してルールを決める方が良いのかもしれない。そこで決められた質問にのみ専門家が答えるという方法だ。規制を強化すれば、中央銀行、当局、政府の役割が拡大するのは当然の帰結なのだから。

業界の専門家が、業界のためと思って知恵を絞って時間を使っても、ダウンサイドしかないと良いものができなくなる。今この作業に関わっている人たちは、コロナの状況の中かなりの労力を割いて頑張っていると思うのだが、そうした人たちが報われないような形にだけはならないことが望まれる。