レバレッジ比率が短期金融市場を麻痺させている

一部の欧州系銀行のレバレッジ比率に対するバッファが減り続けているとの報道があった。平均的には、3%の最低比率を満たすために必要なティア1資本よりは約1.7倍程度の資本を確保しているようだが、ドイツ銀行、BNP、ABN Amro、SocGen等の余裕が少なくなっているとのことである。

バーゼルの分析によると、欧州銀大手行にかかる資本規制の中で最大のものがレバレッジ比率で、約6割の銀行がレバレッジ比率によって最大の制約を受けている。レバレッジ比率規制は、本来であればリスクベースで見た規制のバックストップとして導入されたものなので、これが最大の制約となっているというのは当初の意思に反すると思うのだが、米国でも同様の事象が起きている。

つまり、リスクの高い取引を減らしてもレバレッジ比率は向上せず、レポやJGBなどの安全資産を減らさないとこの状況は改善しないということになる。

ロジックは単純で、100億円のJGBを受け取って資金を貸し出すレポを行うと、レバレッジ比率によって3億円の資本を積まなければならなくなる。この資本に対して税引き後で10%を超えるようなリターンを上げるためには、5-6000万円近い収益が必要となる。米国の場合は5%が基準なので、1億円程度の利益が必要になる。レポでこのような収益を上げることは不可能なので、もし取引毎にハードルレートを計算して取引承認を行えば、レポビジネスからは撤退するのが経済的には得策ということになる。したがって、米国の大手銀行はほとんどレポ取引を行っておらず、総合採算で取引が継続できる銀行のみが市場に残る形になっている。

しかし、いくら短期の資金繰りが危険だからっといって、リスクの少ない取引をここまで規制する必要があるかには若干疑問が残る。お金を循環させるのが金融の役割であるはずなのに、資金の流れを止めてすべて中央銀行が資金供給をするようになってきている気がする。

米国レポ市場の混乱が政治問題化

9月に起きた米国レポマーケットの混乱について政治家が規制緩和を巡る議論の応酬を始めた。年末に向けた混乱を避けるため、FEDは$120bnものオーバーナイトの資金供給と$45bnの2週間タームレポの供給をコミットしているが、長期の解決策が必要というのは誰の目にも明らかだ。

JPMのダイモン氏の規制批判コメントはこのブログでも紹介したが、先週ムニューシン財務長官が金融危機後に導入された資本、流動性規制の緩和の可能性について言及した。しかしFRBのパウエル長官は水曜日にこれを真っ向から否定し、最近支持率を上げてきている民主党大統領選候補のウォーレン氏は、銀行出身のミュニューシン長官が、レポ市場の混乱に乗じて銀行規制を緩めようとしていると批判している。

日本では首相候補がレポ市場の話で議論を戦わせることなどあり得ない気もするが、それほど米国では金融規制が重要事項になっているということなのだろう。

しかしウォーレン氏がトランプ大統領に代わって当選した場合は、明らかに株式市場はネガティブに反応し、経済にとってマイナスという論調が増えてきている。今後の市場の波乱要因になるかもしれない。