社債におけるLIBOR移行

LIBOR問題はデリバティブの移行が先行しており、業界の動きとしても今のところデリバティブ周りの準備が着々と進んでいる一方、社債については比較的記事や話題になることが少ない。しかし、社債については一般企業が発行するので、その扱いについては今後徐々に問題が認識されていくことになることが予想される。

円建て社債については日本でも各種委員会で議論されているが、ドル債を発行するところも多いため、海外動向にも注目しておく必要がある。各国法制も考慮しなければならないので、かなり面倒な作業になることが予想される。特に社債にフォールバック条項を導入するには、例えば日本であれば原則社債権者集会の開催が必要になり、そのための時間的余裕も必要になる。集会の招集、通知、実際の決議、裁判所の認可を限られた時間のなかで行うのは簡単ではない。

海外の新規発行債については、SONIA(Sterling Over Night Index Average)参照債券の新規発行が先行しており、SOFR(Secured Overnight Financing Rate)参照の社債も増えつつある。SONIA参照の新発債については、これまでのところ、デリバティブ同様後決め複利方式が使われることが多そうだが、SOFRについては、複数の方式が使われているように見える。

ただし、これまで発行されたSONIA/SOFR債の多くは金融機関発行のものであり、金融機関以外がいつ頃新レートにシフトするかは、ターム物のSONIA等の流動性がどこまで上がってくるかにもかかってくるのかもしれない。問題は既発債の扱いだが、何もしなければ、前の金利期間に適用される最後の利用可能金利を参照してしまう、つまり固定利付債になってしまう可能性がある。

最も簡単な対応方法は、繰上償還、買入消却を行って、LIBOR参照社債を減らし、新レートで新たな発行をするというものである。これが不可能な場合は、債権者に同意を求めた上で既存の条件を変更し、参照金利をLIBORから代替レートに変える必要があるが、これが現在海外で懸命に行われている作業である。この修正は両社にとって望ましい変更のはずなので、通常は手数料なしで変更が行われているようである。後は、既発債を新レート参照の新発債に交換するという方法も考えられる。

通常はここで話が終わるはずなのだが、それでも移行できないTough Legacy契約の議論が最近盛り上がっており、Synthetic LIBORの話もここから出てきている。社債保有者から必要な同意が得られない、同意を得るまでに時間がかかる、あまりにも多くの契約があると言った理由で、全部の契約を移行するのが現実的に不可能ということが明らかになりつつあるからである。FCAの6/23のTough Legacy契約に対するアナウンスもあり、移行不可能な契約については何等かの対応が取られる見込みになってきた。

とは言え、LIBORが形を変えて存続するというよりは、一部の極度に限定された契約についてのみ認められるものであり、Synthetic LIBORとは言っても、結局はRFR+スプレッド調整という形になるのであれば、LIBOR存続とは程遠い。名前にLIBORとついているのが紛らわしい。

しかし、日本企業でドル債などを発行した会社はこれからこのような準備を全て時間内に行えるのだろうか。円建てであれば日本独自の対応がある程度できるのかもしれないが、海外投資家も保有する社債の場合は、グローバルスタンダードを意識せざるを得ない。日本だけLIBOR対応が遅れていると、今後の日本の社債発行にも影響が出てしまう。ISDAのような業界団体での対応が難しいので、何か当局主導の対応が必要なのかもしれない。

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